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今こそ取り組むべきDX–SUZUKIの推進方法から学ぶ

SUZUKI様とのDXオンラインセミナーの画像

2020年に創業100周年を迎えたスズキ株式会社。自動織機から始まり、二輪、四輪、と事業を拡げ、かつ海外展開も果たしてきた。自動車業界は100年に一度の大変革期と言われるなか、スズキはいかにしてデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)に取り組み始めているのか、スズキ株式会社にてIT本部長を務める鵜飼氏に聞いた。

DXの定義

DXと言っても、さまざまな取り組みがあり、ひとによって理解もまちまちだ。ベンチャーキャピタルWiLのパートナー 小松原氏によると、Digitization(デジタイゼーション)とDigitalization(デジタライゼーション)のふたつに分けられるという。

Digitization (デジタイゼーション)は、アナログ信号をデジタルに変換するという意味で使われる。身近な例で言うと、時計だ。また、1990年代から始まっているシステム化、IT化と同義でもあり、業務効率化を行うことで、コスト削減し、利益を増やすためにCIOが主導して取り組む、守りのデジタル化を指す。

Digitalization(デジタライゼーション)は、お客様の顧客体験が劇的に変わるデジタル化だ。顧客体験が変わるため、お金の稼ぎ方が変わる、つまりビジネスモデルが変わるほどのインパクトをもたらすものだ。こちらはトップライン(売上)を増やす攻めのデジタル化で、最近では主に、CDO(Chief Digital Officer)が取り組むことが多い。

このふたつの違いを、テレビ、放送業界を例に説明する。

2003年12月からデジタル放送が開始されたことで、ブラウン管テレビから液晶テレビに変わり、テレビ自体は薄くなり、画質、音声は飛躍的に高まったが、顧客体験は何も変わらなかった。つまり、新聞などでテレビ欄を確認し、見たい番組を決められた時間にテレビの前で見るという行為だ。そのため放送業界のビジネスモデルも変わらず、企業からの広告スポンサー料による収入が大半を占めていた。

ところが、Netflixやhuluのような動画ストリーミングサービスが始まったことで、劇的に顧客体験が変わった。ユーザーが、見たい時間に、見たい番組を、見たい場所で、見たいデバイスで見られるようになった。結果として、ユーザーが主導権を握るようになった。ビジネスモデルも大きく様変わりし、ユーザーからの直接課金となっている。この影響により、USでは既存のレンタルビデオ会社が潰れるようなことも起きている。

DXを実現するためには、このどちらにも取り組む必要がある。Digitizationによる業務効率化が進んでいないと、Digitalizationの実現に参加すらできない。そのため、最新のITツールを導入し、圧倒的なスピードで業務効率化を図ることは当然ながら、そのうえで会社のカルチャーをも変える必要がある。

DXに向けたSUZUKIの取り組み

ではスズキではどのようにDXに取り組んでいるのか。 鵜飼氏がIT本部長に就任した直後の2019年2月の経営会議において、経営陣に発表した業務計画の一部がこちらだ。

SUZUKI様_2030年の働き方を変えるIT

このなかで、Digitizationとしては、テレワークのようにどこからでも仕事ができる環境を作ることをひとつの課題として取り上げていた。その対応策として、ペーパーレス、判子レスに取り組む必要性や、製造現場でのAR/VRなどを活用した遠隔サポートへの取り組みもあげている。

一方、Digitalizationとしては、ECやコネクテッドカーから生まれるデータを活用し、ITがマネタイズしていく役割を担うようになるという未来図を描いている。

また、「2025年の崖」について経営層も認識しており、既存システムをDigitalizationに対応させていくためにも、Digitizationをまったなしでできる限り早く進めていくことを求められているという。そのためのロードマップを作成し、全社的に取り組み始めている。

製造業におけるDigitalizationのポイント

「確かな品質のモノをつくるということは製造業として譲れない。また、日本の製造業は、現場の暗黙知が豊富で、これをどう活用し、デジタルとの融合を図り、新しいモノ、新しい価値をつくりだすかということが重要だと考えている。」と鵜飼氏は語る。

また、最近見られる、「ビッグデータx AI = イノベーション」といった文脈では、現場の納得感を得ることは難しいという。

現場のひとのこれまでの経験、カンやコツを仮説として取り込み、データや分析で補うことができるか。アナログとデジタルの二項対立ではなく、アナログもデジタルも、という二項両立で進める必要性を感じているとのことだ。

これを進めるうえで、現場に寄り添う人間関係が重要になるという。いまの時代、IT部門を通さなくても、クラウドやSaaSは購入できてしまう。そこで、何か必要になった時に相談に来てもらえる信頼関係をいかに築くか、普段から心がけ、実践しているそうだ。そういった取り組みを通して得られた現場の課題感から、外部委託依存からの脱却の必要性を感じ、内製化に舵を切り始めているという。

気づきをすぐに実行する

WiLの役員向けプログラムに、シリコンバレーブートキャンプがある。単にシリコンバレーのテック企業を訪問するのではなく、自分自身でさまざまなことを体験し、テック企業のカルチャーに触れることを目的としている。

WiL役員向けプログラム シリコンバレーブートキャンプ
・一回あたり約20名参加
・Uber、DoorDashなどを自らのスマホにダウンロードし、実際に体験
・デザイン思考ワークショップでは、社長であっても街に出て自らインタビューを実施
・アジャイル開発のスピード感、カルチャーをスタートアップから学ぶ

このプログラムを鵜飼氏も昨年経験したことで、気づいたことがあったら、まずやってみるということを心がけているという。いまの時代、やってみないとわからない、正解がわからない、正解があるのかもわからないような状況だからだ。DXについても、一度やって終わりではなく、変化し続けなければいけない。だからこそ、内製化、アジャイル化を進めているのだと。

こういったことを組織に浸透させるために、IT部門のオフィスのど真ん中にアジャイルスペースを作ったそうだ。メンバーが日々ディスカッションし、アジャイル開発を進めていることで、なにか変わろうとしている、変わり始めていることを肌で感じ、それぞれが何をすべきなのか考えてもらえればとの思いからとのことだ。

テレワークを想定したウェブ会議から見えたこと

まずやってみるのもう一つの事例を紹介いただいた。

新型コロナウィルスの影響がまだ大きくなる前の2月末、今後テレワークになることを想定して動く必要性を感じていた鵜飼氏は、自部門の定例会議を急遽ウェブ会議で開催することを思い立つ。これまでウェブ会議と言えば、離れた拠点とのやりとりのためという考えだったが、テレワークになると全員が自宅からの参加になり、位置付けが大きく変わるため、さまざまな課題が出るのではとの思いからだ。

当日の朝決め、実行したそうだが、夕方の会議までにそれぞれが自立的に準備を進めたそうだ。いざ会議を始めたところ、最初の15分は様々な問題が起こり、会議が一向に進まなかったそうだ。だが、進めていくことで徐々に改善され、さまざまな気づきが得られたそうだ。

会議後には、一番使い勝手の良かったヘッドセットを発注し、メンバーに配布するなどの対応策がすぐに行われたそうだ。会議に参加した社員が原体験をしたことで、課題を自分ごと化でき、対応策も実効性の高いものになったという。

MaaSに向けた取り組み

自動車業界でいま一番の関心ごとはMaaSだろう。サービス化されるということのインパクトはどういったものなのか。おもしろい例え話がWiL 小松原氏から提供された。

ある自動車業界のトップとの話のなかで、このような質問を受けたという。
Q「飛行機何に乗った?」
A「ANAです」
Q「電車は?」
A「東横線とJRですね」
Q「車は?」
A「日産です」

お気づきだろうか。自動車のみメーカーを答え、他の移動手段については、サービス提供者であり、機体や車体の供給元ではない。自動車業界でもMaaSが進むと、日本ではまだ存在しないサービサーが覇権を握る可能性がある。

このような状況下で、スズキではどのような取り組みを始めているのだろうか。

鵜飼氏は、そもそものスズキの存在意義を問い直しているとのことだ。社会に存在している意義、なんのために存在しているのか、どういったことに貢献できるのか、そのうえでMaaSのなかでの立ち位置は?というようなことを考えているそうだ。

ただ、正解はどれなのか、何がうまくいくかわからない。そのため、たくさんのタネを撒き、芽が出たものを育て大きくしていくしかない。まずやってみることに意味がある。

将来、自動車をWebで購入する世界がくるはずと仮定し、IT部門としていったいどういうノウハウが必要になるのかを検証するために、従業員向けの予約注文サイトの構築と運営を2年ほど前から始めたそうだ。

SUZUKI様_従業員向け予約注文サイトの構築・運用

この取り組みを始めたことで、社内のさまざまな人たちとの接点が生まれ、スズキでB2C向けの公式なECサイトを試してみたいという話がでてきた。というのもすでにいくつかの事業部で外部のECサイトを活用しているが、これでは従来のモノ売りから脱却できていない。

自社ECサイトを構築することで、サービス提供者となり、そこから生まれるデータを活用し、新たなビジネスモデルを考えていこうという動きが出てきている。この取り組み自体は、社内の志のある有志メンバーが集まって活動しているとのことだ。

SUZUKI様_B2CECサイトの構築・運用

IT部門が、従来のITインフラの安定運用からサービスを作るという発想に至った経緯を鵜飼氏は次のように語る。

「守りのITは当たり前に重要、その点はなにも変わっていない。そのうえで新しい取り組み(Digitalization)を始めなければいけない変化点にきている。それは自分たちだけではなく、お互いに情報を共有し協業しながら、育てていく必要があると考えている。」「IT部門も頼まれたことをやるだけではなく、2,3年後を見据えた取り組みを自ら行っておくことで、社内からの相談を受けられるよう準備しておくことが重要だ。」

まとめ

今回の新型コロナウィルスの影響によって、社員ひとりひとりが強烈な原体験を得たことで、新しい取り組みへのきっかけが醸成された。これはスズキに限らず、多くの企業の方にもあてはまるのではないだろうか。

この灯火を消さずに、大きく育てていくために必要なことのヒントをスズキの取り組みから得られたのではないだろうか。

・まずやってみる
・そのために内製化を進める
・関連部署との信頼関係の構築

どれも地道な取り組みだが、それを疎かにしてはDXは成し遂げられない。