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Cases artience株式会社

Anews

社内の技術と知見を最大限に活かす。「偶然のひらめきを必然に変える」 SATの可能性

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【取材にご協力いただいた方】
artience株式会社
常務執行役員 CTO 技術・研究・開発、知的財産担当 兼グループR&D本部長 町田 敏則様
カンパニーオフィサー・グループ情報システム部長 兼東洋マネジメントサービス株式会社 社長 中野 仁貴様
グループ情報システム部DX推進グループ AIイノベーションチーム チームリーダー 蓮見 哲李様


本事例はRAG導入企業様向けのプラットフォーム「Stockmark A Technology(SAT)」の採用インタビューとなります。

※RAGについての解説記事はこちらをご参照ください。
RAG(Retrieval Augmented Generation)とは?仕組みや活用事例について

人の心に働きかける新たな価値創造を目指して

まず、貴社の事業内容と目指すビジョンについてお聞かせください。

町田様:artienceは、色材・機能材関連、ポリマー・塗加工関連、パッケージ関連、そして印刷・情報関連といった多岐にわたる事業を展開しています。色材設計技術や分散技術を活用し、ディスプレイやセンサー用の機能性材料から、リチウムイオン電池用のカーボンナノチューブ分散体まで、幅広い分野で革新的な製品を提供しています。

私たちが目指すのは、「感性に響く価値を創りだし、心豊かな未来に挑む」というブランドプロミスに象徴される通り、科学的な革新と人々の感性を融合させ、新たな価値を創出することです。ただ求められた製品を作るのではなく、プラスアルファの「感性に響く価値」 を上乗せすることで差別化を図っています。

社名変更を機に勢いづいたチャレンジングな風土

生成AIの活用に目を向けたきっかけや背景をお聞かせください。

中野様:当社では、2021年からDX推進を本格化し、デジタル活用基盤の整備やデータ活用施策を進めてきました。その中で、次なる変革の一環として生成AIの活用が浮上しました。特に、OpenAI社のChatGPTが注目され始めた時期と、当社の「artience」への社名変更が重なったことが、大きな転機となりました。

社名変更を機に策定した「中期経営計画 artience2027」では、「経営基盤の変革」を掲げ、従来の業務プロセスをゼロベースで見直す方針を打ち出しました。これにより、生成AIを含む新技術の積極的な活用が経営戦略の一環となり、経営トップの強い後押しを受けて、全社的な取り組みが加速しました。

具体的には、2024年から全社プロジェクト体制でPoC(概念実証)を進め、生成AIシステム基盤の構築、利用者教育、運用ルールの整備の3つを中心に取り組んでいます。2025年1月からは、生成AI活用による業務効率化と新たな価値創造に向け、活用領域を 業種共通領域(情報の検索・整理など) と業種特有領域(技術・研究・知財分野) の2つに分けて推進しています。 今回のStockmark A Technology(以下、SAT)の導入は、技術・研究・知財分野の知識共有と新たな視点展開 を強化するための取り組みの一環です。

蓮見様

蓮見様:社名変更を契機に、新しいことにチャレンジできる風土が醸成されてきたと感じています。以前はやや保守的な雰囲気もありましたが、この1〜2年で挑戦を歓迎する文化が広がり、そこに生成AIの活用が加わったことで、「現場をより良くしていこう」という機運が高まってきていますね。

回答精度・データ構造化の課題を解消すべく、SATを採用

RAGを実装することになった背景や、実現したかったことをお聞かせください。

中野様:当社では、長年の研究開発や事業活動を通じて蓄積された膨大な技術文書や報告書を、より効果的に活用したいという強い思いがありました。貴重な知識が埋もれてしまうことなく、必要なときに必要な人が迅速かつ的確に参照でき、イノベーションを促進させる仕組みが求められていたのです。

蓮見様:実際、研究・技術者が関連する過去の資料を探すのに多くの時間を費やしており、本来の開発や研究に充てるべき時間が圧迫されていました。

町田様:社内には膨大な技術データが蓄積されていますが、十分に活用できていない現状に危機感を感じていました。例えば、過去に行われた実験結果を活用できていれば、類似の実験を繰り返さずに済んだのではないか、さらに、過去の実験結果を参考に、もっと創造的な発想が生まれたのではないか、と考えさせられる場面もあります。こうした非効率な状況を解消し、研究開発の生産性を向上させるためには、技術情報を整理し、必要な知見に素早くアクセスできる環境の整備が不可欠です。

その手段の一つとして、RAGの導入を決定しました。生成AIを活用して技術情報の検索性を高めることで、研究開発のスピードを格段に向上させ、競合他社との差別化にもつながると考えたのです。

蓮見様:しかし、 生成AIやRAGの活用を推進するにあたってはいくつかの課題も浮かび上がりました。

まず、生成AIの精度です。 社内で半年間、生成AIを活用したPoCを実施しましたが、技術分野においては十分な精度が得られませんでした。一般的な生成AIツールでは、専門的な技術情報を正しく解釈することが難しく、技術者が信頼できる回答を出力できなかったのです。

次に、RAGをする上でのデータの構造化の問題です。手元にある膨大な技術文書や実験データは図や画像、社内独自の専門用語が含まれている他、事業や部門ごとに形式が異なり、古いものでは1980年代以前の紙の文献も残っています。これらの多種多様な文書から必要な情報を正確に抽出し、構造化するのは非常に困難です。この課題を解決するために、高度なデータ構造化ロジックと、当社の技術体系を理解したうえでのナレッジグラフの構築が不可欠でした。

そのような課題を抱える中で、SATを採用した理由をお聞かせください。

蓮見様:いくつかのプロダクトを比較・検証した結果、SATのデータ構造化のロジックが最も優れていると判断し、採用を決めました。すでにストックマーク社のAnewsを使用していたこともあり、SATには特に期待を寄せていました。特に、弊社の技術・研究・知財領域において、技術文書や研究報告書、特許情報といった形式が異なるデータを効率的に整理・構造化し、活用できる点に大きな期待を寄せています。また、SATが生成するナレッジグラフを活用することで、異なる技術領域間の意外な関連性を発見でき、新たな技術応用の可能性を広がることで、新材料開発を加速できるのではないかと考えています。

SATを活用した技術・研究・知財領域における知識共有の基盤構築に向けて

中野様

SATの導入に向けた進捗と、期待している効果についてお聞かせください。

中野様:技術・研究・知財領域における知識共有の基盤として、現在SATの導入を進めています。具体的には、2025年上期でSATの検証を行い、2026年度にかけて回答精度の向上とナレッジグラフの積み上げを実施。最終的に2027年度には技術者向けプラットフォームとしての本格運用を目指しています。

現段階ではまだ導入段階ではありますが、研究開発の効率化については直に効果が現れると期待しています。過去の研究報告書や技術文書から必要な情報を迅速に抽出できるようになれば、研究者が情報収集にかける時間を大幅に削減でき、その分、実験や分析に集中できるようになりますから。

町田様:部門間のナレッジシェアも促進されると良いですよね。事業会社や各事業部門が異なると、NDA(秘密保持契約)の制約もあり、技術情報の共有が十分に進んでいないのが現状です。しかし、それぞれの知見を組み合わせれば、革新的な新素材を開発できるかもしれません。

素材化学業界では、過去のデータが経年劣化しないという特徴があります。特に処方に関する情報は時間が経っても有用なケースが多いため、古い文献であっても適切にデジタル化・構造化することで、貴重な知的資産として活用できると考えています。

偶然を必然に。SATが生むニーズとシーズのマッチングに期待

町田様

今後の展望についてお聞かせください。

町田様: アサヒビール様との共同開発で誕生した「アサヒスーパードライ生ジョッキ缶(※)」は、技術者同士の会話の中で、「家で生ビールを飲めるようにしたい」というニーズと、私たちが少し前に行った実験の失敗事例が偶然にも結びついたことで生まれました。しかし、もしその失敗事例が1年前のものだったら、おそらく誰も思い出せなかったでしょう。

※「ビール泡立ち缶用塗料の開発秘話(artience株式会社)」https://www.artiencegroup.com/ja/products/metal-coatings/foam-generating-beer-can-coating.html

ただ、SATがあれば、このような偶然のひらめきに頼らず、研究開発をより体系的かつ効率的に進められると考えています。①横のアイデア(垣根を超えた部門や事業部間の技術やナレッジ)、②過去のアイデア(社内に蓄積されたデータ)、そして③外のアイデア(海外を含めた最新の市場や技術情報)をSATによって融合し、必然的に新たなアイデアを創出できれば、研究開発のスピードと質は格段に向上するはずです。

中野様:SATを通じて社内外の知見を効果的に共有・活用し、新製品や新サービスの開発につなげていきたいですね。

ストックマークさんは、急速に進化する生成AI分野の最前線に立ち、新たに生まれる課題に対するアプローチも速いと感じています。今回のストックマークさんとの協業を通じて、当社の経営理念である「感性に響く価値を創りだし、心豊かな未来に挑む」の実現をより加速させたいです。今後も頼れる存在として、引き続きご一緒できればと思っています。

導入を検討されている企業へのメッセージをお願いします。

中野様:技術情報をいかに有効活用するかは、すべての製造業にとって避けて通れない課題です。私たちも、社内に眠る膨大なデータを活かしきれていない現状に課題を感じ、その解決策としてSATの採用を決めました。

もちろん、データガバナンスの整備やルールの策定など、乗り越えるべきハードルはあります。しかし、得られる価値はそれ以上に大きいと確信しています。社内のナレッジを最大限に活かし、新たな価値を生み出す生成AI基盤として、ぜひSATの活用を検討してみてはいかがでしょうか。

※記事内容および、ご所属等は取材当時のものです。

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