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「第2のコア事業」を創る。事業創出への4つのステージ

ベイン・アンド・カンパニーから学ぶ-スケールする新規事業の創り方

ベイン・アンド・カンパニー(以下、ベイン)は1973年にボストンで設立された、世界38カ国に63拠点をもつ経営戦略コンサルティングファームである。大企業の経営幹部に直接コンサルティングを行っていることが同社の特徴の一つだ。『フォーチュン・グローバル500』に名を連ねる企業の2/3以上がクライアント企業である。ベインのクライアントの株価は市場平均に対し約4倍のパフォーマンスを達成しているという。

2021年9月24日に行われたセミナーでは、当時東京オフィスの代表を務めていた奥野慎太郎氏から、「スケールする新規事業創出」のテーマのもと、第2のコア事業や事業構築のポイントなどについてお話を伺った。

※当記事は2021年9月24日に開催したオンラインセミナーの内容をもとに作成しています。

 いざ新規事業―そこに企業価値へつながる戦略はあるか?

ベインが提供するコンサルティングサービスの最大の特徴は、「企業価値向上につながる支援をする」という点にある。つまり、経営戦略や事業戦略の再構築とそれによるフルポテンシャルの実現が最優先課題であり、プロセスの整備や新しいツールの導入などはあくまで手段であると同社は考えている。

たとえば、新しいアイデアの事業化を支援する場合、基盤となる戦略を確認するところから始めるという。新規事業がなかなかスケールしない根本原因として、戦略的意図が不明確な場合が多いためだ。「社内で企画が上がったし、やってみるか」と、なし崩し的に始まるケースだと、資源投入の段階で英断できず、どうしてもスケールしにくくなってしまう。

同社がクライアント企業のトップ層に直接コンサルティングを行っているのも、事業化の上流地点で戦略構築から支援することこそが事業成長の要諦であると考えているからである。

 新規事業とは第2のコア事業である

どれほど大きな成果をあげていようと、事業にはライフサイクルがある。もし企業が”一本足打法”でビジネスをしていると、いずれ事業も会社の成長も頭打ちになってしまう。ベインの調査によると、日本における時価総額上位100社のうち、10年間でコア事業のシフトに成功した企業はわずか20%程度だという。ただし、稼ぎ頭の事業転換に成功した企業は利益成長率の伸びが大きく、継続的に成長している。

その際のポイントは、新規事業として新しいものをいろいろと始めてみるということではなく、「既存のリソースと自社の強みを生かして第2のコアとなる事業を創る」という目線である。まずは5年、10年のスパンを見据えて、「第2のコア事業」と位置付けるにふさわしい規模の事業を想定する。その前提のもとで、半年あるいは四半期の指標や数値を置き、そこに向けて検証していくことが大事だと奥野氏は説明する。

新規事業の目的として、社内の活性化など、経済的ではないところに目的を置くこともあるだろう。その価値は否定されるものではないが、事業が増えたときに経営の複雑性が増すリスクは認識するべきである。もし細かい事業が10件20件と並立すると企業の経営効率は下がり、本業そのものも疎かになるリスクがある。

第2のコア事業を創出するためには、本業の経営がある程度安定していることが重要である。仮に本業が堅調でまだ伸び続けているのであれば全力で本業に打ち込むべきだ。ただし、なぜ事業が成長を続けているのかは常に注意する必要があると奥野氏は指摘する。

マーケット全体が本質的に伸びているからかもしれないし、あるいは逆にそのマーケットの競合が倒産することで”残存者利益”が生じているからかもしれない。もし後者であれば、停滞の影響がいよいよ自社に及ぶ前に次の新規事業を考え始めるべきだ。企業体力がなくなってからでは、新しいコア事業を作ることは難しくなってしまう。

 事業創出の4つのステージ

ベインでは、事業創出の過程を「探索」、「検証」、「事業化」、「拡大」の4つのステージに分けている。それぞれに関する日本企業に共通する課題やポイントについて、議論の中で奥野氏は触れていった。

 探索

すでに既存の事業で成果を出している大きな企業の場合、探索の基準を自社の技術としているところが多い。だが、このようなケースでは企業側の理論を優先させるプロダクトアウトになりやすいうえに、自己評価が甘くなりがちである。奥野氏は、アプローチの起点はあくまで顧客であるべきだと強調する。既存顧客のニーズが今はどこにあるのか、という目線を持つことが重要なのだ。

また、技術開発の部分がボトルネックになるケースは意外に少ないという。特に日本企業の場合は技術力が高いため、顧客が付いてマネタイズの方法が見つかれば技術面の課題は解決できることの方が多いのだそうだ。どちらかというと、むしろニーズが不明確で顧客やマネタイズの方法が見つからず失敗するパターンが多いという。

さらに、新規事業のアイデアを絞る段階で重要なのは、既存事業の軸をどれくらいずらしていくかということだ。顧客、技術、サプライチェーン、競合、人材などの軸のうち、何をどれくらいずらしていくかで成功の確率が変動する。同社の調査によると事業の成功確率は、ひとつの軸をずらすと約30%から40%、2個ずらすと15%から20%、3個以上ずらすと5%以下まで下がるという。

また、顧客軸をずらした場合に最も確率が下がってしまうことから、まずは既存の顧客に新製品や新サービスを使ってもらえるかどうかを考えることが、成功確率を上げる大きな要素である。BtoBの場合は、柱となる顧客が最初の段階で2、3社でも想定できるかどうか。BtoCの場合でも顧客セグメントが明確に見えるかどうかが基準となる。

 検証

探索フェーズと同様に、アイデアを検証していく段階でも顧客に焦点を当てることが重要である。必要なのは、社内のレビューではなく、あくまでも顧客のレビューだ。ユーザーでもなく、サプライヤーでもない社内のレビューばかり集めても上手くいかない。社内でいろいろなことをやるよりも、ユーザーテストなどの形で迅速にMVPを社外に打ち出すことがカギとなるのだ。

また、奥野氏は、最初の段階でトップを巻き込んでおく重要性も指摘している。早い段階からトップ層を巻き込むことで、社内でのレビューが比較的少ない労力で済み、その分のリソースを顧客からのレビューに費やすことができるためだ。

 事業化

「大事なことは、顧客のフィードバックをもとに事業のあり方についてPDCAを回し、検証し続けることだ」と奥野氏は強調した。実際には、「とにかく収益化するまで続ける」「ユーザーが何人になるまでやってみる」などの形でやみくもに続けている事例は少なくないのだという。検証で上手くいったとしても事業化で思うように伸びないことも多々ある。

事業が成長しなかった場合に事業を継続するかどうかの判断基準として奥野氏は2つのポイントを挙げた。ひとつめは、今後の追加リソースがどのくらい必要になるかだ。これまで投入したリソースで、今後の2、3年を回していけるのであれば続ける意味があるが、追加のリソースがさらに数十億必要だという状況が繰り返され続けると損失ばかりが大きくなってしまう。そのため必要となる追加資源投入の妥当性がひとつの目安となる。

ふたつめは経営の複雑性という点である。新規事業のスケールの要諦の一つとして、経営者が関心度高く、腰を据えて取り組めるかどうかがある。仮に複数の新規事業を同時に推進してしまうと、個々の事業が“多数の事業の中の一つ”という位置づけになってしまい、進捗がなくとも経営の関心が向きづらくなる。新規事業の数が増え過ぎ、経営の複雑性が増しているときは、撤退を検討するべきだという。

 拡大

拡大のステージで検討することは、これ以降どれだけ事業にリソースを投入できるかということである。社内外の人材、資材、費用、顧客基盤などが投入されなければ、事業はそれ以上大きくなりようがないため、この論点は非常に重要である。

中でも特に多くの企業で課題として聞くことが多いのが、いかにして社内で人材を見つけるかだが、奥野氏によれば特に大企業の場合は社内にある程度人材がそろっているという。30代から40代は有り余るエネルギーを持っている場合もあり、そこから抜擢する方法や、既存事業のエースを投入するなどで人材面の課題は解決できる可能性が高い。また、そもそもエース人材を投入せずに成功できるほど新規事業は甘くはない。

ただし、人材不足の課題の中でも大きな問題となるのが、海外のマーケットに関する知見や、日本国外のメンバーと協働できるスキルを持つグローバル人材である。グローバル人材がいないという場合、M&Aによって外部から獲得することも選択肢となる。

日本のマーケットは、内製化に対する思い入れやM&Aに対する苦手意識が強い傾向があるが、M&Aを選択肢から排除することはあまり適切ではないという。M&Aで獲得したリソースと社内のリソースをうまく組み合わせ、新しい事業を育てていくという発想が必要なのではないかと奥野氏は述べる。

 企業戦略への問いはパーパス経営にもつながる

現在、企業の経営活動にはSDGs達成など、社会貢献への積極的な姿勢が求められるようになっており、従来の利益優先の経営からパーパス経営へと変わりつつある。奥野氏は、パーパスと経済的価値は対立したり矛盾したりするものではないと考える。目下の1、2年の経済価値を考えるのか、より持続的な企業価値を考えるのかという差であり、最終的には一致してくるのだという。

大事なことは、「何のためにこの会社を経営しているのか」ということだ。新規事業はコア事業を決めるという作業に近く、定義の仕方によって方向性が変わってしまう。腰を据えて新規事業に向き合うためには、企業としての存在意義をはっきりさせることが重要な前作業だと奥野氏は言い添えた。

 まとめ

新規事業とは思いつきの単発の事業ではなく、第2のコア事業となるべきものである。その目線のもとで、企業を支える製品やサービスを生み出すためには、経営層が企業のパーパスに真剣に向き合って注力することが重要である。奥野氏はたびたび、事業創出の各ステージで顧客に焦点を当てることの大切さを強調した。

今はまさにプロダクト主体ではなく、いかに顧客ニーズを捉えられるかがカギを握る時代といえる。適切なタイミングで正確な情報を取得し、M&Aも含めた大胆な施策を行動に移していくことが事業拡大につながるのだ。