2024年以降の半導体市場の見通しは?需要や各国の動向について
製造業
世界的な新型コロナウイルスの感染拡大によってサプライチェーンが混乱し、一時期は半導体不足に陥った。その後、コロナウイルスの感染が収束して経済活動が正常化した段階で、2023年頃には過剰供給・在庫超過の事態に陥り、市場は減速した。
しかしながら、2023年下旬から需給のバランスが好転。AIや電気自動車、宇宙産業など、幅広い分野で半導体が求められていることから、2024年は復活の年ともいわれている。この記事では、改めて2023年の半導体市場を振り返り、2024年以降の見通しや展望について解説していく。
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目次
2023年は、半導体不足から一転してサプライチェーンの正常化や景気後退などの要因によって市場が冷え込んだ。
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2023年11月、世界半導体市場統計(WSTS)は、同年9月までの実績値を基に、2023年における世界の半導体市場の見込みを発表。それによると、世界の半導体市場は前年比から9.4%減少の5201億2600万米ドルと、2019年から4年ぶりのマイナス成長になると予測した。
2020年、新型コロナウイルスの流行が世界的なサプライチェーンの混乱とオンラインサービスの急速な普及を引き起こし、これにより需給バランスが大きく崩れた。その結果、世界規模での半導体不足が生じたことは記憶に新しいだろう。
2022年頃から半導体の供給体制は平常時に近づいてきたものの、2022年2月から始まったウクライナ紛争などを契機にエネルギーや原材料価格の高騰が起こり、今度は一転して需要が減少し在庫がだぶつく結果となった。
2023年前半はほとんどの製品において前年比マイナス成長だったが、2023年後半になると生成AIの急速な技術革新や生成AIを活用する企業や製品の拡大によって、ロジックやメモリ、マイクロプロセッサなどの半導体部品の需要も回復傾向にある。
なお、地域・国別における半導体市場シェアは、日本を除くアジア・太平洋地域が54.5%、次いでアメリカが25.5%、欧州その他が11.0%、日本が9.1%となっている。
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2023年は、世界の半導体市場の売上トップ常連企業も大きく様変わりした。米国の市場調査会社Gartnerが2024年1月に発表した「2023年の世界半導体売上高(速報値)ランキング」では、2年連続トップを維持していたサムスン電子を上回り、3年ぶりにIntelがトップに返り咲いた。また、前年5位だったマイクロン・テクノロジーはトップ10圏外に。一方ここ数年で急成長をみせるNVIDIA(エヌビディア)が初のトップ5入りを果たした。なお、トップ10のうち、前年比で成長をしたのはわずか3社となっている。
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日本は、1990年に半導体市場で世界の約半分を超えるシェア率でトップに君臨していた。しかし、バブル崩壊を起点に、台湾や韓国、アメリカなどにその座を奪われ、今やシェアは1桁台にまで落ち込んでしまっている。ただ、2023年の日本の半導体市場は前年比から4.2%増加し、市場規模は約6兆5,937億円になるものと予測されており、そこまで悪い見通しではない。
日本政府は国内の半導体生産体制の強化を目的に、2023年度の補正予算案に約1兆9,800億円充てることを決定。前年度の1兆3,000億円から大幅に増加した。これは政府が臨時国会に提出した13.1兆円のうち10%以上を占める。
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では、2024年以降、果たして半導体市場の見通しは明るいのだろうか。世界各国の現況とともに解説していく。
年明け早々に、半導体業界を大きく揺るがすニュースが報じられた。急成長企業のNVIDIAが2024年1月期通期決算を発表。売上高は609億2,200万米ドルで初の世界首位となった。AI向けの半導体で需要が急増したことが背景として考えられる。
WSTSが2024年6月4日に発表した「2024年春季半導体市場予測」では、AI関連投資が世界的に旺盛であり、メモリーや一部ロジック製品の需要が急拡大しているため、2024年は2023年と比べ16.0%上昇するとの予測を出している。
一方で、AI関連を除くと依然として半導体需要は低調に推移しており、2024年後半での急回復は難しいとされている。そのため、2024年の一年間で見ると多くの製品で前年比マイナス成長が予測されている。
2025年にはAI関連の需要に加え、環境対応や自動化といった成長領域も注目されており、半導体市場の継続的な成長が期待できるため、前年比+12.5%と更なる市場拡大が見込まれている。
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2023年上旬に底打ちした半導体市場。2023年下旬から回復の兆しが見えてきたこともあり、2024年はさまざまな国が半導体市場に積極投資をしていくものと考えられる。
2024年は半導体工場の建設ラッシュの年とされている。キオクシアが岩手と三重、加賀東芝エレクトロニクスが石川・山梨(再稼働)、ラピスセミコンダクタが宮崎にそれぞれ工場新設・稼働を予定している。
特筆すべきは先でも述べたTSMCの子会社であるJASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)がソニーなどと共同で建設した第一工場だ。総工費約1兆円で、このうち最大4760億円を政府が補助している。
WSTSによる日本の半導体市場動向では、2024年は前年比で4.6%のプラス成長を見込んでおり、市場規模は約6兆8,670億円になると予測している。2025年はさらに前年比9.3%と成長が加速すると踏んでいる。
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アメリカにとって半導体は、経済的にも安全保障的にも重要な役割を担う。
現在、アメリカと中国の関係は良好とはいえない。事実、中国や中国と密接な関係にある約45ヵ国と中国関連企業を対象とした「対中半導体規制」を行っている。
地政学的リスクなども鑑みて、2022年には自国における半導体の生産体制強化に向けた「CHIPS and Science Act(CHIPS法)」を発令。2024年3月時点で、バイデン政権が、その一環としてIntelやTSMCなど半導体メーカーに数十億米ドル規模の新たな補助金を交付する見通しが立てられている。
台湾で外せないのが世界最大手の半導体ファウンドリ「TSMC」だ。アメリカのIntelやNVIDIA、Appleなど、およそ500社以上の会社と取引している。
世界各地に新工場を設立しており、日本では2021年11月にソニーグループなどと共同で熊本県に新工場を建設が発表され、2024年2月に開所式が執り行われた。さらに、第二工場の建設も発表され、2027年末までの稼働を目指すとのことだ。
アメリカではアリゾナ州フェニックス市北部に第一工場を建設。2024年に生産を開始する予定だったが、諸問題によって2025年に後ろ倒しとなった。また、ドイツではヨーロッパで初となる工場を建設。2027年の稼働を目指している。
中国は、対中摩擦や台湾有事などの背景から、半導体自給率の向上を目指している。2015年7月に政府が発表した「中国製造2025」では、2030年までに75%まで引き上げる目標を定めているものの、アメリカによる対中半導体規制によって達成は困難になるのではないかと推測されている。
しかしながら、中国のSMICは半導体ファウンドリのなかでも世界シェア5位を誇る企業で、大きな影響力をもつ。
SMICの2024年の設備投資額は、過去最高だった2023年の74億7000万米ドルと同水準を保つとしている。現在、同社は上海、北京、深セン、天津で新しい工場の建設を予定中だ。
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今後、半導体はどのような分野で需要が伸びるのだろうか。大きく「通信」「生成AI」「自動車」の3分野が考えられる。
6G時代やNTTグループが取り組んでいるIOWN構想など、通信技術は年々進化している。タイムラグのない高速データ通信を実現するには半導体の技術が欠かせない。電波を送受信する半導体を「通信用半導体」といい、スマートフォンだけでなく、IoT、産業機器などにも用いられている。
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生成AIときくと「万能なツール」というイメージがあるが、深層学習モデルの処理が可能な高精度な半導体が不可欠だ。生成AI向けに業績を伸ばしたのが、NVIDIAである。現時点でAI向け半導体においては他社の追随を許さない独走状態であり、今後の動向に目が離せない。
自動車は他の産業製品と比べるとパーツ点数が多く、半導体の存在が欠かせない。カーナビや車載カメラなどの情報を制御する半導体、モーターやエンジン、ハンドルを制御する半導体、エアコンやエアバッグを制御する半導体など、その種類は多岐にわたる。
さらに、近い将来、完全自動運転の電気自動車の実用化に向けた開発が進められており、今まで以上に半導体の需要が高まるだろう。
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まだ完全に半導体の需給バランスが正常化したとはいえないが、自動車、家電、スマートフォンやパソコン、AIなど生活に欠かせないモノに使用されているキーテクノロジーであることは間違いない。自社の事業に活用できないか、目まぐるしく変化するトレンドを捉えることが肝要である。