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【イベントレポート】BCG Digital Venturesから学ぶ、大企業を変革する新規事業の作り方

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2014年にボストン コンサルティング グループが米国ロサンゼルスに設立したBCG Digital Ventures(以下、BCGDV)は、大企業と共にデジタル領域のイノベーションを創出することに特化した組織である。AIを活用したオンラインパーソナルスタイリングサービス「DROBE」など、グローバル全体で120以上のサービスやプロダクトを立ち上げている。

BCGDVが他の戦略コンサルティングファームやデザインファームと一線を画すのは、戦略から投資まで、事業創造に必要な機能を一気通貫で手がけていることだ。

BCGDVでは、事業創造のフェーズを「イノベーション(アイデア発見から創出)」「インキュベーション(アイデアをプロダクトに落とし込む)」「コマーシャリゼーション(プロダクトのローンチからマネタイズ)」の三つに分けており、事業創造の始めから成長までを一貫して支援する。事業の立ち上げ後は、BCGDVのメンバーがCEOやCxOとして完全に転籍し、事業の運営を継続することもしばしばあるという。このようなアプローチを通じて、事業成長への強いコミットメントを実現している。

今回は、2016年4月にBCG Digital Ventures東京センターの創設をリードし、開設後は同センターのジャパンヘッドを務めている平井陽一朗氏をお招きし、『大企業を変革する新規事業の作り方』について考えを伺った。

※当記事は2020年10月14日に開催したオンラインセミナーの内容をもとに作成しています。

事業開発の醍醐味はプロデュースである

平井氏は三菱商事株式会社を経て、2000年にBCGに入社。その後、ウォルト・ディズニー・ジャパン、オリコンCOO(最高執行責任者)、ザッパラス社長兼CEO(最高経営責任者)を経て、2012年にBCGに再入社した。キャリアを通じて、ほぼ一貫して新規事業、事業開発/プロデュースを手掛けている。

はじめに、平井氏の考える事業開発の醍醐味や、新規事業の原体験について伺った。

平井氏によると、元々エンターテインメント業界に興味があり、総合商社で新しいビジネスを手掛けたいという期待感を持って入社したが、希望とは異なる部署へ配属され、ペルーやボリビアへの自動車の輸出業務に関わる船積み書類の作成に携わったそうだ。書類作成業務に没頭する中で、自分はこの業務を何年続けるのだろうかと不安に感じる場面もあったという。

新規事業に関わるチャンスを増やすために、平井氏は輸出業務のプロセスを詳細なマニュアルにまとめ、誰にでも引継ぎできるよう仕組み化した。その上で、当時の先輩社員から「新規事業の企画を通すには、“初モノ”を切り拓くことが重要」との助言を受け、担当していたペルー・ボリビアに近いコロンビアにて、当時まだなかったメンテナンスリース事業に着目し事業化。自身にとって初の新規事業の創出にこぎつけたという。

実は、映画プロデューサーになることが夢だったという平井氏。自ら進んで手を挙げ、周囲の人を巻き込みながら事業を立ち上げていく経験を通じて、たとえエンタメ業界に身を置かなくとも、映画プロデューサーのような醍醐味を感じることができたという。その時の原体験から、一貫して新規事業や事業開発に携わっているとのことだ。

大企業の新規事業を阻む「減点思考」と「自前主義」

このような原体験を持ち、現在も数多くの大企業の新規事業を支援している平井氏に、大企企業が新規事業を創出することの難しさ、特にデジタルビジネスが生まれにくい背景について伺った。

平井氏は、日本の大企業においては「減点思考」や「自前主義」が新規事業の成功を阻んでいるケースが多いと指摘した。

・減点思考:日本企業は商品のクオリティを重視するあまり、「100%完璧な商品を世の中に出さなければならない」という思考に陥りがちである。一方、米国企業は、特にデジタルビジネスの創出において「6割から7割程度の完成度であっても、とにかく世に出してみよう」という発想が強く、ユーザーのフィードバックを受けながら改善を進めていく傾向がある。このような思考の違いから、日本企業は実際にプロダクトを世に出すまでのハードルが高く、新規事業の生まれにくさに繋がっている可能性があるという。

・自前主義:日本企業は「自社内で事業を創出すべき」という思考に陥りがちだという。米国や中国の企業は、M&Aを通じて新たな事業やケイパビリティを自社に取り込み、速やかに事業化につなげる事例が多くあるが、日本ではM&Aの実施数も少なく、意思決定に時間がかかる傾向があるという。

いま、注目が高まるコア事業のデジタル化と価値創出

では、日本企業はどのように新規事業へ取り組むべきなのだろうか。平井氏によると、新規事業は大きく2つに分けられるという。1つは既存資産を活用した事業開発、例えばコア事業のデジタライゼーション等を通じて新たな価値創出を目指す方向性であり、もう1つはこれまでの自社内にはない成長ドライバーを「0→1」で創出する方向性だ。

最近大企業からの注目が高まっているのは、既存事業のデジタライゼーションによる新規事業の創出だと平井氏は指摘する。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて顧客行動が変化する中、顧客の獲得・維持・育成のプロセスを抜本的に見直すことが重要だと多くの企業が考えはじめているという。そのため、例えば既存のアプリやウェブサイトのUI/UX改善を起点に、コア事業とのシナジーを生かした新規事業の創出を目指すケースが増えてきているとのことだ。

大企業を変革する新規事業の作り方とは

平井氏は、新規事業の成功に欠かせない例として、トップの迅速な意思決定やヒト・モノ・カネの確保の重要性を挙げた。

BCGDVでは大企業と新規事業の創出を進める際に、要所で役員陣に向けたピッチを実施する。その際、参席した役員にはその場で意思決定を求めるという。回答を後日に延ばしてしまえば、企画倒れになるリスクが高まるためだ。

大胆な予算確保もスピーディーな事業化のために欠かせない。あらかじめ大きな予算を確保しておかなければ、都度の稟議交渉に多大な時間がかかり、企画が頓挫(とんざ)するリスクが高まるという。

また、新規事業は多くの場合、既存部門との幅広い連携が必要となる。トップが社内調整や巻き込みを率先し、必要なリソースを提供し続けることで、新規事業を企画倒れで終わらせず、スピーディーに実現できる可能性が高まるとのことだ。

平井氏は最後に、担当者の熱意・パッションの重要性についても言及した。先述の役員向けピッチの際、担当者には「会社を辞めてでもこのアイディアをやりますか?」と問いかけることがあるという。事業計画をどんなに精緻に検討しても、新規事業が成功するかどうかは分からない。だからこそ、担当者が熱意を持ち、本当にやり切る覚悟を持っているのかを問うべきだという。担当者が強いパッションを持ち、勇み足気味にプロジェクトを進め、後付けで稟議を通すようなケースが、結果的に成功に結び付くことも多いとのことだ。

今回の対談の要所で言及された「予算の確保」や「社内調整」の重要性については、新規事業に携わる方々であれば、誰もが感じていることだろう。この高いハードルを超えていくには『熱意』や『コミットメント』の強さが重要になってくる。

「会社を辞めてまでこのアイディアを実現したいか?」。そのくらい強い『熱意』を持って取り組める事業なのかを自問自答しながら、改めて新規事業をアイディアを検討してみてはいかがだろうか──。

BCG Digital Venturesのサービスにご興味の方は以下へご連絡をお願いいたします。

●お問い合わせ

DVInfoTOK@bcgdv.com