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アジャイル開発時代に求められる大企業のあり方とは

BCG Digital Venturesから学ぶ、アジャイル事業開発のススメ ~DXの先にある大企業のイノベーション創出を考える~

日本変革の重要な鍵の一つに「大企業の改革」がある。大きな影響力をもつ大企業だからこそ、市場にイノベーションを起こし、日本経済の牽引力となっていくことが期待されているのだ。しかし、そこには大企業ならではの問題点が立ちはだかっている。

今回は、大企業との事業創出のエキスパートであるBCG Digital Ventures(以下、BCGDV)にて、大企業の変革に取り組んでいる小野 直人氏をお招きし、大企業のイノベーションの現状や問題点、そして、いかにして改革を推進していくのかについて、そのヒントを伺った。

 BCG Digital Venturesの強みとは

BCGDVは、大企業との共創を通じて、新規事業の創出やコア事業の変革など、ゲームチェンジングなビジネスを創るエキスパート集団である。世界的な経営コンサルティングファーム、ボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)の中で、合弁会社の設立など出資機能も持つ組織だ。組織の特徴としては、事業アイディアの創出からプロダクト開発、ローンチ後の運用や投資、それらを支える組織作りまで一貫して行える点に強みがある。特に、プロダクト開発における「サービス設計」「アジャイル開発」「グロース」は、BCGDVの得意領域だと小野氏は言う。プロダクトやサービスを高速に開発・改善する能力は、大企業にしろ、スタートアップにしろ、企業変革やイノベーション創出にあたって重要な役割を担うと小野氏は考えている。

 「出島」から始めるイノベーティブな企業づくり

多くの大企業では、「いかにイノベーションを起こすか」「いかにインキュベーションを促進するか」といった事業ノウハウにまつわる悩みに加え、そもそもアジャイル開発をどう進めていくのか、あるいはイノベーションが起きやすい企業カルチャーへ変革するにはどうしたらいいのかという、組織のあり方に対する根本的な悩みを抱えている。

イノベーティブな組織を作る方法の一例として、小野氏は「出島」を作ることを挙げた。本社とはガバナンスやカルチャーが異なる、いわば治外法権的な組織を作り、本社とは全く違う方法で運用していくのである。BCGDV自体もBCGにとって「出島」のような役割を担っていると小野氏は話す。

 デジタル組織実現のための3つのアクション

イノベーションへの取り組み方は企業によって千差万別だが、その基盤として「デジタルに適応できる組織作り」は欠かせない。小野氏は、デジタル組織づくりに必要な3つのアクションを挙げ、それぞれの具体的な手法、実施にあたって想定される課題、また、その対処法を以下のように説明する。

 1「デジタルケイパビリティの獲得」

デジタル人材の獲得には、大企業ならではの難しさがある。既に確固たる企業ブランドが確立しているがゆえに、イノベーティブな発想や能力がある人材が入社をためらったり、大企業の中で活躍できるイメージを持ちにくいことがあるあるのだ。大企業は、報酬などの処遇面だけでなく、ソフト部分での魅力、例えば企業カルチャーや社会的意義などをより魅力的に示す必要があると小野氏は言う。また、報酬を市場感覚に合わせたものに設定することも重要だ。既存の賃金テーブルと相手の条件が折り合わない際は、例えば嘱託の1年契約で入社してもらうことで柔軟な報酬を実現している企業もある。

デジタルに強い人材を獲得するには、自社内ですべてをまかなおうとせず、中途採用、異業種人材の積極登用、あるいはアクハイヤー(企業買収を通じた人材の獲得)などを積極的に考えていく必要がある。また、リーダーシップを担うトップ層のデジタルリテラシーを高めることも重要だ。

 2 「獲得した人材が能力を発揮できる土壌を作る」

大企業では、せっかく採用できたイノベーション人材がすぐに辞めてしまうという話は、実は少なくない。小野氏は、獲得した人材が能力を発揮できる土壌を作るポイントとして、①長期に渡って活躍できる見通しを示すこと、②頻繁な人事異動を見直し、イノベーション実現まで腰を据えて取り組める環境を整えること、③若者をエンパワーし、任せていくことの重要性を挙げた。

特に3点目の若者のエンパワーメントに関しては、若手に限らずさまざまな属性の人材育成において「男女の違い、年齢の違い、主義主張や価値観の違いを持ったメンバーを、一つのグループに包含する」ダイバーシティ経営を進めることが非常に重要だと小野氏は述べた。ダイバーシティの視点を持つことで、若者への権限移譲や、日本国籍以外の才能を登用してイノベーション創出に活用するという道も考えられるようになるという。

 3「とにかくやってみる」

高速でプロトタイプを作り、市場からフィードバックを得ながら改善する。これはまさにアジャイル開発の真骨頂であり、ここを愚直に実施していくことがとても重要だ。しかし実際のところ、大企業では「やってみよう」、「いや、出来ない」、「もっと検討が必要だ」と、担当者が議論に終始してしまうケースは多い。3か月、6か月、1年と検討ばかりを繰り返しているうちに、ディスラプターが現れてその市場を食い尽くすということも起こりうる。

このようなとき、小野氏は「実際に動くプロダクトをまずは作って見せてしまう」ことを心掛けているという。動くプロダクトを関係者に見せながら、ユーザーペインを解消できるかを議論し、相手を説得していくことが一番の近道だろうと小野氏は述べる。これはスタートアップのアプローチに近いといえるが、大企業でも重要性は全く変わらず、むしろ大企業だからこそ、意識的に行動していくことがとても重要だと氏は説明する。企画フェーズに時間をかけ過ぎずに、まずは動いてみる。動いた上で先行きについて大まかな当たりをつけていくという姿勢が重要だと小野氏は説明する。

 担当者に求められる素養とは

DXや新規事業の担当者が、今すぐに個人レベルで実行できることとして、新しいプロダクトのUIや顧客体験に興味を持ち、素直に試してみるスタンスが重要だと小野氏はアドバイスした。
デジタルプロダクトは「とにかく触って使う」ことで、ユーザービリティや提供価値を理解できる。デジタル部門に携わる人であれば、普段からどれくらいデジタルプロダクトに触っているかを自問自答した方がよいだろう。デジタル部門の担当者が、普段使っているアプリがLINEやFacebookのみに留まっているケースが散見されると小野氏は言う。
例えば、少し前にClubhouseというアプリが世界的に流行したときは、多くのIT関係者がドッと押し寄せ、そして去っていった。これをただ単に「流行りモノに飛びついた」と斜に構えるのではなく、少しでも興味があるのであれば、まずはいろいろと体験してみることが大事だと小野氏は述べる。

 まとめ

イノベーション創出に立ちはだかる壁には大企業ならではの課題も多くある。イノベーションへのアプローチ方法は企業それぞれケースバイケースであるが、その基盤としてデジタルに適応できる組織作りは必須事項である。
イノベーションを生み出せる組織となるためには、デジタルに強い人材を確保し、能力を発揮できる環境を整え、どんどん試していくことが必要だと小野氏は説明する。一個人として組織を変えていくのは難しいことではあるが、上司の心を動かし巻き込んでいく視点、新しいデジタルプロダクトに積極的に触れるスタンスなど、さまざまな視点や感性を持ち、できることに少しずつ取り組むことが大切なのだろう。