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核融合エネルギーはなぜ注目されているのか?発電の仕組みやメリットについて

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核融合エネルギーは、太陽で起きているエネルギー生成の仕組みを地球上に再現し、無限に近い燃料資源と環境負荷の低さを実現することから次世代のクリーンエネルギーとして注目を集めている。膨大なエネルギーを安全かつ効率的に取り出す技術の確立は、人類のエネルギー問題を根本解決する可能性を秘めている。この挑戦には、科学技術の最前線が集約されており、世界中の研究機関や企業がこぞって開発競争を繰り広げている。本記事では、核融合エネルギーの仕組みやメリット、課題などについて触れたい。

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 核融合エネルギーとは?

核融合とは原子核同士が合体する反応のことだ。たとえば、水素の同位体である重水素と三重水素(トリチウム)の原子核が融合を起こすと、ヘリウムと中性子を生成する際にエネルギーが発生する。重水素と三重水素がもっとも核融合反応を起こしやすい。

核融合の仕組み

なお、この反応は太陽内部で自然に起こっているものである。燃料源となる重水素などが地球上に豊富に存在するほか、温室効果ガスが発生しないため、地球上で再現できればクリーンエネルギーとしての活用が期待されている。

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 核融合エネルギー発展の歴史

核融合エネルギーに関する研究は1900年代初頭から始まった。アルベルト・アインシュタイン氏が現代物理学の基本的な理論である特殊相対性理論を1905年に発表。これはのちに、世界一有名な式である「E=mc²」をアインシュタイン氏が導き出すきっかけとなった論文である。1911年にはイギリスの物理学者、アーネスト・ラザフォード氏が原子核の存在を証明したのち、1915年にはアインシュタイン氏は、特殊相対性理論を発展させた一般相対性理論を発表し、物理学に大きな革命をもたらした。

1930年代後半には、ジョージ・ガモフ氏やロバート・デスコート・アトキンソン氏らによって、恒星内部での核融合反応の仕組みが明らかになり、地球上での再現が目指される。特に第二次世界大戦中から冷戦期にかけて、各国が軍事・エネルギー技術としての応用を検討し、大規模な投資が行われた。1960年代にはソ連が最初の「トカマク型」核融合装置を開発し、この設計が核融合研究の主流に。

また、1970年代の石油危機(オイルショック)を契機に、核融合は持続可能でクリーンなエネルギー源として注目を集め、1985年にはEU、アメリカ、日本、ロシア、中国、韓国、インドが参加する国際協力体制「国際熱核融合実験炉プロジェクト(以下、ITER)」が発足している。

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 核融合エネルギーと核融合発電の違い

核融合エネルギーと核融合発電は密接に関連している用語だが、指す対象が異なる。まず、核融合エネルギーは、水素など軽い原子核同士が高温・高圧下で融合し、より重い原子核を形成する際に放出される莫大なエネルギーを指す。その一方、核融合発電は地上で人工的に核融合反応を再現し、発生するエネルギーを電力として利用する技術のことをいう。

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 核融合エネルギーと核分裂(原子力)エネルギーの違い

核融合エネルギーと核分裂エネルギーは、いずれも原子核の変化に伴い大量のエネルギーを放出する点で同じだが、そのメカニズムや特性に違いがある。核融合エネルギーは、軽い原子核同士が高温・高圧下で融合し、より重い原子核を形成する際に放出されるエネルギーで、原子力発電と比較するとエネルギー効率が非常に高い。

核分裂エネルギーは、重い原子核が中性子の衝突などによって分裂し、複数の軽い原子核に分かれる際に放出されるエネルギーだ。ウラン235などの原子核が中性子を吸収して分裂し、その過程でエネルギーを放出する仕組みで、現在の原子力発電所などで利用されている。

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 核融合でなぜエネルギーが発生する?その仕組みについて

核融合は、軽い原子核同士が融合してより重い原子核を形成し、その過程で大量のエネルギーを放出する反応である。この現象は、太陽などの恒星内部で自然に起こっているものだ。しかしながら、地球上で核融合を実現するためには、太陽内部と同様の高温・高圧環境を人工的に作り出し、数億度を超えるプラズマ状態での原子核の制御が必要となるため、実用化に向けた研究が進められている。

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 核融合エネルギーの実用化の時期と市場規模

核融合型の原型炉実現は2030年代と予測されており、2040年代には実証実験が進み、30~100万kWの電気を安定的に生み出せるといわれている。

また、Nuclear Fusion Global Market Report 2024によれば、核融合エネルギーの市場規模は2028年に4,356億5,000万米ドルに成長すると予想されている。世界全体における核融合市場への投資額をみてみると、2023年第2四半期時点でそれまでの過去1年に14億ドル、累計60億ドル以上が集まっていることからこの市場の活況さが窺える。

しかしながら、投資先の内訳は金融・投資機関が大半を占め、エネルギー業界は約5%、製造業は約2%とわずかであることから、核融合市場は未だアーリーステージと考えても良いかもしれない。

また、ITERの実験開始時期は当初2025年を予定していたが、資金不足や技術的な観点から9年後の2034年に延期された。このことをみても、まだ核融合エネルギーは実証段階の域を出ていないことがみてとれる。

一方、日本では核融合科学研究所(NIFS)が長年、技術開発を牽引してきた。大きな動きとしては、2024年3月に核融合エネルギーの実用化を目的として設立された産学官連携組織「フュージョンエネルギー産業協議会(J-Fusion)」だろう。同組織には、IHI、東芝エネルギーシステムズ、NTT、三菱重工業、日立製作所、三井住友海上火災保険など錚々たる企業が理事に名を連ねる。今後は、ITER計画やJT-60SA計画などと足並みを揃えながらも、日本国内における安全性や信頼性の標準化や技術連携などを図る予定だ。

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 核融合エネルギーのメリット

核融合エネルギーを活用するメリットとしては、大きく以下の3つの要素が挙げられる。

 温室効果ガスの排出量が少ない

核融合発電は、発電過程で二酸化炭素などの温室効果ガスがほとんど排出されないため、地球温暖化対策として有効とされている。さらに、核融合発電は放射性廃棄物の発生量が極めて少ないことも特筆すべき点のひとつだろう。従来の原子力発電では、放射性廃棄物が生成され、その長期的な管理と処分が大きな課題となっている。一方、核融合反応で生じる放射性廃棄物は放射能の減衰が比較的早く、管理や処分の負担は低いとされる。

 安定的なエネルギー供給

主要な燃料である重水素は海水中に大量に存在し、三重水素もリチウムから生成可能だ。これにより、長期的かつ安定的な燃料供給が期待できるとされている。また、太陽光発電や風力発電と異なり、天候や季節の影響を受けることがないため、24時間365日の連続運転が可能だ。さらに、単位質量あたりのエネルギー生成量が非常に高く、少量の燃料で大量のエネルギーを生み出すことができる。

 安全性が高い

核融合反応は、核分裂とは違って連鎖的に進行しない。反応条件が維持されない場合、反応は自然に停止するため、暴走的な反応のリスクが低減される。また、核分裂のような臨界質量の概念が存在しないため、理論上、臨界事故の可能性も極めて低い。

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 核融合エネルギーのデメリット・問題

安定的なクリーンエネルギーとして期待が高まる一方で、コストや技術面など解決すべき課題が残っている。

 技術的な課題

持続的な核融合反応を行うには、数億度の高温プラズマを安定的に制御し、長時間維持しなければならない。これらの技術的課題を解消するために、強力な磁場を利用したトカマク型高温核融合炉などが開発されているものの、実用化における技術的なハードルは高い。

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 開発・運用コストがかかる

先に述べたITERで建設予定の核融合実験炉にかかるコストはおよそ2.5兆円であり、従来の発電方法と比べると極めて高い。しかしながら、現状では実験段階で風力発電や太陽光発電における開発・運用コストが技術の進化とともに大幅に低下していることをみれば、核融合発電も技術の成熟に伴い、コストが低減する可能性は十分に考えられる。

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 核融合エネルギーの開発を行う企業・会社

核融合エネルギーの実用化に向けて、少しずつではあるが国内外でさまざまな企業が技術開発を始めている。ここでは、代表的な5つの企業事例について解説したい。

 三菱重工

同社は、ITER計画においてTFコイル(トロイダル磁場コイル)やダイバータなど核融合反応の維持に欠かせない主要機器の製造・開発を担当している。2020年には世界最大規模のTFコイルを世界で初めて完成させた。これらの機器はITERの核心部分を担う重要な役割を果たしている。ダイバータは、核融合炉内で発生する高熱負荷を受ける部位であるため、開発や製造には高度な技術が求められる。

 京都フュージョニアリング

京都大学発のスタートアップとして2019年10月に設立された会社だ。同社は、核融合炉から効率的に熱エネルギーを取り出し、発電に至るまでの一連のプロセスを実証するため、2022年には世界初の核融合発電試験プラント「UNITY-1」を建設。さらに、同社は核融合エネルギー産業全体の発展を視野に入れ、2024年に発起人としてフュージョンエネルギー産業協議会(J-Fusion)を設立。また同年7月にはシリーズCにおいて累計131.3億円の資金調達を実施。累計調達額は148.1億円に達しており、融合炉周辺装置やプラントの研究開発を加速させている。

 EX-Fusion

2021年7月に設立された大阪大学発のスタートアップで、2035年までに日本史上初のレーザー核融合商用炉の実現を目指す。同社はレーザー核融合炉とその各コンポーネントの開発に取り組んでおり、2024年4月には静岡県浜松市に最先端のレーザーフュージョン基盤技術の実証研究施設を開設している。

 ファースト・ライト・フュージョン(FLF)

2011年にオックスフォード大学からスピンアウトして設立されたスタートアップ企業だ。同社は、慣性閉じ込め方式の核融合技術を開発しており、燃料ペレットに発射体を衝突させて核融合反応を引き起こす独自の手法を採用。また、英国原子力公社(UKAEA)とのパートナーシップの一環として、UKAEAのカルハム・キャンパスに新たな実証施設「マシン4」の建設を計画中で、2027年の運用開始を目指す。

 コモンウェルス・フュージョン・システムズ

2018年にマサチューセッツ工科大学(MIT)からスピンオフした核融合スタートアップ企業で、コンパクトなトカマク型核融合炉による核融合発電の実現を目指す。同社は、2027年までに核融合実証炉「SPARC」の稼働に向けて建設を進めている。さらに、バージニア州に世界初の商業用核融合発電所「ARC」を建設する計画を発表。同社はこれまでに20億米ドル以上の資金を調達し、米国エネルギー省(DOE)からも1,650万米ドルの助成を受けている。

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 まとめ

核融合エネルギーの開発は、次世代のエネルギー革命への扉を開く偉大なる挑戦だ。多くの企業がそれぞれの技術力と創造力を結集し、競争と共創が交錯するなかでその歩みは着実に未来へとつながっている。核融合の成功は単なる技術革新にとどまらず、地球規模の持続可能な社会を実現する礎となるであろう。