mail
MENU CLOSE
  1. Stockmark
  2. coevo
  3. 新価値創造
  4. 顧客価値は顧客の中で生まれる―いかにして顧客に寄り添うビジネスを生み出すか

顧客価値は顧客の中で生まれる―いかにして顧客に寄り添うビジネスを生み出すか

生活習慣を創造する – ライオンが目指す顧客価値の転換に迫る

ライオン株式会社(以下、ライオン)では現在、全社で顧客価値の転換を推進している。これまでの事業領域から新たに4つの提供価値領域を制定し、人々の生活習慣に長く寄り添う会社を目指しているのだ。多くのプロジェクトを支えているのは、「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する」というパーパスであるという。

ビジネス開発センターは、そんな同社の新規事業育成や既存事業変革において重要な役割を担っている。今回のセミナーでは、同センターから藤村 昌平氏、および久樂 英範氏をお招きし、顧客価値や、顧客価値創出の土壌となるライオンのパーパスについて伺った。

※当記事は2021年9月16日に開催したオンラインセミナーの内容をもとに作成しています。

 パーパスを定める―自社の「存在意義」を明確に

ライオンでは、新規事業の創出や既存事業の改革に関するさまざまなプロジェクトが実行フェーズに移っている。このように多くのプロジェクトを同時展開しながら新たな顧客価値の創出を進められているのは、明確な”パーパス”があるから、と藤村氏は述べる。

ライオンでは、新たな経営ビジョンとして「Vision2030」を発表。その中で「次世代ヘルスケアのリーディングカンパニーを目指す」という経営ビジョンを掲げた。だが、それはあくまで企業経営における目標地点である。生産、営業、企画、研究などの現場のメンバーからしてみれば「その目標に対して自分たちは何をするのか」「その目標を達成したとき、その先に何がつながっているのか」ということが明確にされておらず、ビジョンに対する議論も経営層に比べて活発ではなかった。そこで何を通じてビジョンを達成していくのかという目安として「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する」というパーパスが定められた。

藤村氏によれば、パーパスとは「企業の存在意義」であると言う。つまり、ライオンのあり方がどうあるべきかを示すものだ。パーパスは、新たなアイデアを出す上での土壌となり、判断や評価する”ものさし”となる。「新しい事業は人々のよい習慣作りに貢献できるのかどうか」、「この事業は人々の毎日にどれくらい貢献できているのか」という明確な指標となるのだ。

 「顧客がどう使ってくれるか」から発想する―企業が定めるのは顧客価値にあらず

改めて、ライオンが考える顧客価値とはどのようなものか。ライオンの役員からは「顧客価値は最初からプロダクトやサービスに存在しているものではない」という意識を共有されていると言う。「顧客価値はお客様がそれらに接したときに初めてお客様の中に生まれるものであって、提供側からこれが価値であるとは言えないはず」と藤村氏は説明する。ある程度の価値の仮説は立てられるものの、実際に使う人のフィードバックがなければ、本当の価値はわからないということだ。

また久樂氏は「顧客の生活のどの部分で使ってもらえるのか、使い続けてもらえるのかを想像しながら提供することが大事。そうやって生まれた製品やサービスが、顧客にとって切っても切り離せない存在になったとき、初めて顧客に高い体験価値を提供していることになる」と説明した。つまり、企業側における「顧客価値」の出発点は、あくまで「顧客が何をどう体験し、どう感じるか」ということである。だからこそ、のちに紹介する『ご近所シェフトモ』の事例のように、企業が予期していなかった、思わぬ「顧客価値」が生まれることもあるのだ。

 顧客の困りごとの「ストーリー」に着目する―『ご近所シェフトモ』の事例から

近ごろでは多くの人が、どこかの建物や店に入ると真っ先に消毒液を探すようになっており、いつの間にか外でも手を消毒することが人々の習慣になっている。この例と同様に、顧客の行動をごく自然に自社の提供するものに引き寄せることができれば、その製品やサービスは長く習慣的に使ってもらえる可能性が高まる。では、どのようにしたら自社の製品やサービスを顧客の生活に取り入れてもらえるのだろうか。

 困りごとの裏側にあるページをどれだけ見つけられるか

藤村氏が事例として挙げたのが『ご近所シェフトモ』だ。簡単に言えば夕食のテイクアウトサービスだが、その大きな特徴は、近所の飲食店が晴れの日に食べるような豪華な料理ではなく、栄養バランスが考慮された家庭で普段食べるような料理を提供してくれる点である。利用者は料理を店で受け取るだけで、家庭の食卓を準備するためのあらゆる手間から解放されるのだ。

一口に「あらゆる手間」と言っても、実は、それは家事とも呼べないささいな「もやもや」も含まれる。メニューを決めても子どもに「やだ」と言われる。だからと言って何が食べたいか家族に聞いてもはっきりとした答えが返ってこない。冷蔵庫の中身とも相談しなければいけない。もちろん家族の健康は守りたい。このような「夕飯を作る」と言う家事の中に含まれる悩みや「もやもや」が毎日のように続けば、料理の準備をする側には確実に大きな負担となる。ここでライオンは、家族の食事作りをする者であれば誰もが共感できる悩みを、「料理を作る」という一点ではなく、食卓作りの「ストーリー」として捉えた。

藤村氏は次のように話す。「一つの困りごとに対して、その裏側にあるページをどれだけめくっていけるか。それが、0→1や1→10のフェーズで、価値を想定しデザインしていくときに勝負の分かれ目となる」。この事業のもともとの始まりも、ある女性社員の困りごとだった。料理が苦手であるために、日々の夕飯作りをやめたい、けれど家族の健康的な食生活は守りたいと悩んでいた彼女が、近所の親しい料理店に「うちの夕飯を作ってくれませんか」とお願いしたことがきっかけになった。周囲にその話をすると意外にも羨ましがられたことがきっかけだと言う。

 アジャイル的に価値をつないでいく

このサービスは、初めから全ての価値がわかっていて、設計段階で綺麗な線が描けていたわけではないと藤村氏は言う。当初のグランドデザインで想定していた顧客価値は「家庭の食卓づくりの効率化」、すなわち、利用者が健康的なメニューを考える「手間」や、おいしい食事を作る「手間」を減らすことに貢献したいという思いから始まった。だが実際に始めてみると、「可処分時間を創出する」と言う思わぬ価値が生まれていた。

夕食作りの行程にはいくつもの作業がある。メニューを考える、メニューを決めるため家族とやり取りする、買い物にいく、料理をするなど、一連の行程に費やす時間はそれなりに長い。『ご近所シェフトモ』を利用することで、利用者はこの行程に費やしていた時間を全く別の好きなことに使うことができるようになったのだ。これは実際に利用された顧客の声からの気づきだと言う。

また、サービスの開発段階で、企業の強みを提供しようとしっかり設計しても、使い方がうまくいかないことや、最高の顧客価値を提供できるはずなのに、手前でロスしてしまうことはよくあることだ。結局、リリースの前であろうと後であろうと、改善ポイントをどのタイミングで解決するかの違いでしかない。ちょっとしたずれで価値が繋がっていなかったり、どこかで止まってしまっていたり、離脱してしまうような部分を、運用しながら試行錯誤していく必要がある。

シェフトモの例で言えば、テイクアウトする料理のパッケージにこだわる店もあったが、顧客は持ち帰り安さや温めやすさからフリーザーバックに入っている方が良いという声があったそうだ。こういった顧客の細かい要望を拾っていくことがポイントである。「改善点にちゃんと向き合って気が付くことができるかどうか。これが大事なことだ」と久樂氏は説明した。

 日ごろから外部と意識的に接触する―自分の引き出しにひらめきのタネをためておく

新型コロナ感染症の流行やSDGs達成が求められる現在にあって、企業は”顧客価値”の転換に迫られている。だが、いざ始めるとなっても何から始めたらいいのか、ビジネスのタネをどのように生み出せばいいのか、悩みを抱える企業は多い。

藤村氏も久樂氏も、外部との積極的なコンタクトがビジネスのタネの気付きへつながることを強調している。久樂氏は「自分自身の成功体験はもちろん大事だが、自分では起こせない他人の成功体験に触れることが大事。また、何事もとにかく体験してみること、一度は試すということを非常に大事にしている」と言う。

また藤村氏は「社内のメンバーだけではなく、出来る限り日常的に社外の人たちと業務上でも業務外でも触れ合うこと。社外へ出てみればいろいろな考えを持っている人がいて、彼らと言葉を交わすことが大きな刺激となる」と話す。自分の引き出しの中にさまざまな刺激をたくさん詰めておけば、何かのきっかけの時に、「この事例を転用すればおもしろい」「この事例とあの事例をつなげたら良いのでは」というひらめきが生まれる、と藤村氏は続けた。

 まとめ

今回のセミナーでは、藤村氏と久樂氏に新規事業の創出のポイントとして、
・顧客の困りごとから裏に隠れているような細かいストーリーを拾い、価値を想定しデザインすること
・顧客に寄り添って、きちんと改善ポイントに向き合い、試行錯誤しながら価値を繋げていくこと
・ひらめきのタネを集めるため、さまざまな人と交流し、成功体験に触れ、新しいものを試すこと
などをお話いただいた。

また新規事業の創出や既存事業の改革の目的として、企業の目指す姿であるパーパスが”ものさし”として社員全員にわかりやすい形で定めることが大切だとした。何を目指すべきかを把握し、さまざまな人と交流し、事例などの情報を集めることから始めると良いだろう。

参考サイト:
ライオンの新価値創造プログラム「NOIL」から生まれた新サービス『ご近所シェフトモ』