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マテリアルズ・インフォマティクス(MI)とは?材料開発のレベルを飛躍的に向上させる次世代の手法

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)とは?材料開発のレベルを飛躍的に向上させる次世代の手法

生成AIの進化・普及によって、材料開発の分野も変革を遂げようとしている。

マテリアルズインフォマティクスをご存知だろうか。機械学習やデータサイエンスの技術などを用いて材料開発や素材開発を効率化・高度化するアプローチで、近年さまざまな企業や研究機関によって注目を集めている。本記事では、マテリアルズインフォマティクスの概要や起源、その活用事例について解説したい。

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 マテリアルズインフォマティクス(materials informatics)とは?

マテリアルズインフォマティクスとは、機械学習や生成AI、データマイニングといった情報科学を用いて、有機材料、無機材料、金属材料など、さまざまな材料開発の効率を向上させるアプローチのことを指す。MIと略されることも。今まで材料開発は研究者の経験則や勘によって導き出される極めて属人性の高い分野とされていた。しかし、生成AIやデータマイニングなどの技術の台頭によって、膨大なデータから最適なものを収集・分析・予測することができるになった。

効率的に求める材料の組み合わせを探索できるだけでなく、人力では導き出せなかった新たな仮説を立てることもさえも可能となる。

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 マテリアルズインフォマティクス(MI)とプロセスインフォマティクス(PI)の違い

プロセスインフォマティクスは、材料の製造プロセスの最適化により、コスト削減や品質の向上を目的としたアプローチのことを指す。それに対し、マテリアルズインフォマティクスは材料の探索や特性予測に焦点を当てた手法である。両者は相互に補完し合うことで材料開発の効率を高めることができる。

 マテリアルズインフォマティクス(MI)とケモインフォマティクス(CI)の違い

ケモインフォマティクスは、chemistryとinformaticsを合わせた造語で、1998年にF・K・ブラウン氏によって提唱された。マテリアルズインフォマティクスとケモインフォマティクスは、非常に似た意味をもつ概念であるが、ケモインフォマティクスは化合物の構造や性質の解析やモデルの構築などの分子や化合物に特化している。それに対し、マテリアルズインフォマティクスは物質や材料に焦点をあてており、両者は対象とするデータの種類や応用分野が異なる。

 マテリアルズインフォマティクス(MI)とマテリアルズインテグレーションの違い

マテリアルズインテグレーションとは、これまでの材料工学を中心に、データによる数理統計解析やマテリアルズインフォマティクスといった情報科学などの技術を統合して、材料の設計、開発、評価、実用化までのプロセスの効率化を支援する総合的なシステムのことをいう。マテリアルズインフォマティクスは材料開発を効率化するツールだが、マテリアルズインテグレーションは、材料開発だけでなく材料の実使用環境下でのパフォーマンスも含めて知識を集積(インテグレーション)し、材料の経年変化までも予測できる高度でより実用性の高い手法である。

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 マテリアルズインフォマティクス(MI)の起源や歴史

マテリアルズインフォマティクスの歴史はまだ日が浅い。一説によれば、2011年にオバマ元大統領が発表した「Materials Genome Initiative」が始まりとされている。マテリアルズインフォマティクスという記載はなくデータ駆動型材料開発と呼ばれていたが、材料開発の期間短縮化を目指す点において根本的な思想は極めて近い。2012〜2016年の5年間で5億ドルを投資した。

スイスでは、2014年にスイス連邦工科大学(EPFL)が中核となって「Materials’ Revolution: Computational Design and Discovery of Novel Materials(MARVEL)」プロジェクトが始動。2015年11月には、EUで「Novel Materials Discovery(NOMAD)」が発足されている。

日本では2014年に科学技術イノベーション実現のために創設した国家プロジェクト「SIP( 戦略的イノベーション創造プログラム)」が主導となって「マテリアルズ・インテグレーション」が開始。その翌年には国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)によるイノベーションハブ構築支援事業としての「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ」が発足。続く2016年には国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)主催の「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト」がスタートした。

国際競争力の持続的強化を目指すべく、2021年には統合イノベーション戦略推進会議において、マテリアル革新力強化戦略を決定している。

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 マテリアルズインフォマティクス(MI)のメリットや注目される理由

マテリアルズインフォマティクスのメリットは大きく以下の3つが挙げられる。

 研究開発の効率化とコスト削減

機械学習やAI技術で膨大な材料データを解析し、最適な材料特性を予測できるため、実験や試行錯誤の回数を減らすことが可能となる。今まで材料開発では熟達した研究者の経験則や勘に大きく依存していた。そのため、最適解に辿りつくまでには優秀な人材が必須だったが、機械学習やAI技術によって材料開発にかかる時間とコストが大幅に削減され、研究開発の効率が向上する。

 材料特性の最適化

マテリアルズインフォマティクスでは、特定の用途や条件に適した材料の特性を精密に予測し、材料設計を最適化することができる。これにより、軽量で高強度、耐熱性や耐腐食性など、要求される特性を最大限に引き出す材料のカスタマイズが可能となり、幅広い分野での応用が進むとされている。

 新材料の迅速な探索と開発

大規模なデータベースと予測モデルを活用することで、未知の特性をもつ新材料の発見が従来の方法よりも迅速かつ精度高く行えるようになる。特に、従来では見落とされていた有望な材料候補を発見することも可能となるだろう。

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 マテリアルズインフォマティクス(MI)の課題

マテリアルズインフォマティクスを導入することで、さまざまなメリットを享受できるが、反面いくつかの課題も存在している。

 データの質と量の確保

この課題はマテリアルズインフォマティクスに限った話ではないが、精度の高い予測モデルを構築するためには、データの質と量の確保が必要不可欠となる。まず大量のデータを収集する基盤の構築が欠かせないわけだが、収集したデータが断片的であったり、一貫性がなかったりすることもあり、信頼性の高いデータが集まらないことも多い。また、論文などを学習データとすると失敗した実験のデータが集まりにくいという課題もある。

 データの標準化が困難である

異なる研究機関や企業間では材料データの形式や取得方法が異なるため、データを統合して活用することが難しいのが現状だ。また、データの共有には知的財産権などによりデータが秘匿される懸念が伴うため、データ取り扱いにおける法整備やルールづくりなどが今後必要となるだろう。

 データ解析を担う人材の不足

マテリアルズインフォマティクスはビッグデータ解析を行う領域であるため、データサイエンティストやML(機械学習)エンジニアなどの存在が必要不可欠である。しかしながら、予測モデルを構築し、適切にデータを取り扱える人材は極めて少ない。

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 マテリアルズインフォマティクス(MI)の企業事例

最後にマテリアルズインフォマティクスを活用している企業事例について解説する。

 三菱ケミカル

三菱ケミカルでは、2018年6月にMIを推進する「マテリアルズ・インフォマティクス CoE(Center of Excellence)」を発足。データ科学による解析技術と計算化学による予測技術を融合し新規物質探索を行うマテリアルズインフォマティクスの基盤技術構築を目指すべく、2019年には大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 統計数理研究所の「ものづくりデータ科学研究センター」と、研究部門「ISM-MCCフロンティア材料設計研究拠点」を共同設立。現在は、データ活用アプリケーション「MCG Intelligence Bridge」を自社開発し、材料開発におけるソリューションを提供している。

 トヨタ自動車

トヨタ自動車は、黎明期だった2014年ごろからマテリアルズインフォマティクスに着目。2021年にはクラウドサービス「WAVEBASE(ウェーブベース)」をリリース。導入企業である住友ゴム工業はタイヤの材料開発において、人力と比べて解析時間が100分の1以下までに短縮されたという。

 旭化成

2019年に発表された中期経営計画では「デジタルトランスフォーメーション」の一環としてマテリアルズインフォマティクス人材を強化することを明言。研究・開発本部に「インフォマティクス推進センター」を設置し、2024年度には2,500名(2021年度比10倍)のデジタルプロフェッショナル人材の育成を目指している。

また、同社が開発した機械学習モデルのプラットフォーム「IFX-Hub」は、教育研修の観点からも利用されており、初級〜上級レベルのMI人材の育成にも活用され、現場でも多くのMI人材を輩出している。

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 マテリアルズインフォマティクス(MI)の将来性と展望

マテリアルズインフォマティクスは、材料開発を効率化する画期的な手法のひとつだが、下支えしている機械学習などのテクノロジーは日々進化を続けている。適切に扱えるプロフェッショナル人材が不足している現状があり、精度の高い予測モデルを構築するために必要十分なデータ量が確保できないという問題点もある。しかしながら、政府も含め注目している取り組みであり、今後更なる発展が期待できるだろう。

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