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【イベントレポート】BASE Qに学ぶ – イノベーション組織創造のリアル

BASE Qに学ぶ – イノベーション組織創造のリアル

三井不動産が運営するビジネス創造拠点、『BASE Q』をご存じだろうか。
同社は「街づくりを通じた価値づくり」という価値創造に挑戦しているが、それはビジネス面もまた例外ではない。
ベンチャー企業、NPO、官公庁、大企業のイントレプレナー、テクノロジスト、クリエイター…多様なバックグラウンドを持つ人々が日々交わりながら、新たな価値創造や社会課題の解決を目指す場所。それがBASE Qだ。

特に大企業の新規事業創出に注力しており、今回は、イノベーション創造現場の最前線にいるBASE Q運営責任者 光村圭一郎氏に、その実態と大企業が新規事業に取り組む上でのポイントを伺った。

※当記事は2021年2月24日に開催したオンラインセミナーの内容をもとに作成しています。

新規事業のきっかけは「やらされ」。やっていくうちに当事者意識が生まれる

今でこそBASE Qの運営責任者として大企業の新規事業創出の支援をしている光村氏だが、新規事業を担当するきっかけは会社からの「やらされ」だったそうだ。
光村氏がまだ同社の商品本部で働いていた頃、社内で実施された新規事業コンテストは「強制的に社員全員がアイデアを出す」というもの。そのような「やらされ」の中で当事者意識がないままに作った企画が予期せず採択された時から、光村氏の新規事業は始まった。

採択された以上は、プロジェクトとして動き出さなければならない。そしてプロジェクトはもちろん自分ひとりで完結できるものではなく、リーダーとして社内、社外のメンバーの協力を得る必要があった。
この時光村氏が感じていたのは「知らないことを自分でリードすることの難しさ」だ。自分にとって新規事業は未経験の領域。ゆえに、それを担う時は知見がある人、経験がある人と一緒に組みながら進めていく必要があると認識していた。
「この時採択された案は、オープンイノベーションを実践するためのコワーキングスペース『Clipニホンバシ』をつくるというもの。自分が新規事業やオープンイノベーションについて未経験だったから、自分自身を等身大のユーザー候補として考えることができました」と光村氏は言う。

プロジェクトを進めるうえで、光村氏が決めたことは「広告代理店や制作会社、コンサルなど外部の人に丸投げをするのだけはやめよう」ということ。どうせやるのだったらやはり面白くやりたい、手触りがあるものをやりたい、という思いがあったため、新規事業やコミュニティづくりの経験がある尖った個人に集まってもらった。

光村氏の新規事業の最初の壁は、プロジェクトメンバーとのビジョンの共感だった。プロジェクトのキックオフで社会にとっての意義、会社にとっての価値を伝えるが、メンバーからは「光村さん個人として何がやりたくて、どうしてこのプロジェクトに取り組むことにしたのか聞かせてくれ」と言われてしまう。
元々「やらされ」仕事なのでそこまで思い入れがあるわけでもなく、必死に頭を回転させ自分の言葉にして説明をするが、光村氏からの説明→メンバーからのダメ出し→説明の繰り返しだったと言う。
しかしそこから会話と議論が生まれ、だんだん本当に言っていることが自分の中でも腹落ちしてきて、これは本当に自分が作りたいことなのだなという解像度が上がっていく。それをチームのメンバーが、わかった、納得した、腹落ちしたよって言ってくれる頃には、自分の中でも腹落ちしている。それが楽しくなり、循環して行くようになったというところが新規事業の入り口だったそうだ。

「不確かで大変な仕事を手伝ってくれる人たちを口説き落として仲間になってもらおうという時に、やはり最後は自分の言葉で、なぜ自分にとってこのプロジェクトが重要なのかと言うところを説明できない限り誰もついてこない、ということを身をもって知りました」と光村氏は語る。

大企業の新規事業に必要なのは外向型と内政型、2種類のイントレプレナー

現在新規事業を担当して8年目、順風満帆に見える光村氏の取り組みだが、担当して4年目に「もう会社を辞めよう」と思った頃があった。
自分が外で出歩いて色々探して見つけて、これは面白い、これは未来を変える可能性があるというものを会社に持ち帰っても、誰も応援はおろか理解もしてくれなかった状況が数年続いたのだ。そのような環境で仕事をするのは時間の無駄だと感じたそうだ。

しかし外で見つけた異なる価値を社内のパワーと融合させるには、社内の人に認識や知識の前提部分から丁寧に説明し理解してもらう必要がある。その「丁寧さ」の重要性を認めつつ、どうしても「面倒」に感じてしまう光村氏だったが、それならばと発想を転換して、会社の中で説明が上手い人にバトンを渡せばいいのだと思うようになったそうだ。

「僕はそれをよくギアに例えている。社外のスタートアップというのはぐるぐる回ってるモーターみたいなもの。大企業の大きな車輪と繋げるためには、やはり歯車を噛み合わせて力を伝えていく必要がある。その時に、このギアも1枚だけではなく2枚組み合わせた方がいいのではないか」と光村氏は言う。

つまり一言でイントレプレナーと言っても、スタートアップなど社外の人たちと丁々発止のやりとりが出来る外交型、会社の中の人たちに丁寧に説明することが得意な内政型の2種類あるのではないかと思い至る。
役割分担をして組織の中に形を作ることができれば、みんなが無理なくイノベーション活動を推進できる。外向型、内政型の見分け方も、どちらの方が得意か、また本人がどちらのポジションにいたいかという志向性を確認することで意外に難なく振り分け可能なことが分かった。あとは、内政型の人にバトンを渡して確かめる作業を繰り返し、事例が増えることで、より出来ることも増えていく。まずはその流れを作り出すことが大事だと言う。

イノベーションに成功の法則はない。いかに失敗の法則を蓄積していくか

新型コロナウィルス感染症が急拡大する状況により、社会が大きく変わり、動き出すきっかけになった。これまで新規事業はその部門の担当が考えればいいとされてきた部分も、今や、本業である既存事業の存在の前提や基盤そのものが揺さぶられ、既存事業自体の変化やイノベーションが強く求められるようになったと言う。ある意味1億総イノベータの時代になってきていると言えるだろう。

新規事業はもとより、既存事業にも変革が求められるようになったことにより、新規事業が培ってきたイノベーションのノウハウの共有が求められる場合もあるかもしれないが、そもそも共有できるノウハウが溜まっていないということもある。
さらにイノベーションや新規事業に成功の法則はないと光村氏は言う。
どこか他の会社で成功したことを、自分の会社に持ち込んだからといってそれでうまくいくとは全く限らない。
逆に失敗の法則は存在していて、やってはいけないことがあるはず。
変革を行うことに不慣れな人たちが、会社の看板や評判に傷を付けてしまうなど、一番怖いことが起こってしまう。それを起こさないためにも失敗の法則を蓄積していかなければならないし、外部からもいかに早くその法則を獲得していくかというところが大事なのだそうだ。

未来像を持ち対話をすることで形成される独自のカルチャー。それがイノベーションの基礎体力となる

大企業特有の課題は、新規事業を決めるとき、最終的には決裁権を持つ人の価値観や好き嫌いに依ってしまう部分が少なからずあるというところだそうだ。新規事業のアイデアを通して既存事業の人たちに協力してもらうには、その会社それぞれのカルチャーを踏まえながら、大企業流の色んな手練手管を駆使して、どういった巻き込み方をしていくべきなのかを考えながらやらざるを得ない。アイデアが良いからといって会社で通るわけでもなければ、みんなが応援してくれるわけでもない。

「会社の持っている文化とか、何が好き、何が嫌いみたいな価値観って簡単に変えられないし、変わっちゃいけないことだと思うんですよ」と語る光村氏。

会社の文化や価値観をいかに読み解きながら事業案を作成するか、説明する中ですり合わせながら通していくか、というところは一つのテクニックとなる。また色々な球種を打ち、良し悪しの理由を深掘りして共有していくことで、会社独自の文化が見えてくるようになるとのこと。
まずは各々が描く未来像を持ち、持っている未来像をいろいろな議論でぶつけ合うことが大事なのだそうだ。それがまさに文化形成に繋がり、イノベーションを起こしたり、新規事業に取り組んだりするための基礎体力みたいなものに繋がるのではないかと光村氏は言う。

良質なインプットからのアウトプットへ。未来像を描くためのサイクル

光村氏によると、日本のビジネスパーソンにはインプットが不足しているそうだ。
良きインプットがなければ良き思想もなく、良きアウトプットもできない。つまり、良質なインプットをして、頭の中や人との対話を通して、洗練し高めることでアウトプットに繋げていく。このサイクルが非常に重要だとのこと。

FacebookなどのSNSを使ってキュレーションするにしても、感度の高い人たちと繋がりを持って、色んな物事を知ったり、考えたり、気付いたり、新しいものに触れたりということが大事で、もっとやっていくべきなのだと光村氏は言う。また発信する人のところに情報が集まってくるという法則があり、良質な情報を集めるには自分も何かを発信し続けることが必要なのだそうだ。
感度の高い人たちとの繋がりを増やし、後は自分で発信できる癖をつけて、そこから吸収できるようにすることが良いインプットになると、光村氏は言う。

会社対会社ではなく、個人対個人をベースに生まれるイノベーションのために必要な初期交流の質

イノベーションが起きるプロセスの中で、出会いとか初期の交流というものの質をもっと上げることが大きなテーマだと光村氏は考える。
イノベーションはまさに新たな出会いから動き出す。この出会いの形もどんどん変わっていく必要性を感じるそうだ。

今までのように、単にイベントに参加して、名刺交換をして、5分、10分話したところで一体何の成果に繋がったというのか。非常に乏しい成果しかなかったのではないか。
今後の出会い方が、リアルにしろオンラインにしろ、もっと高度化して、いい出会いを作っていけるような環境づくりをBASE Qとしてやっていきたいと光村氏は語る。

イノベーションのベースにあるのは、会社対会社ではなく、個人対個人にある。イノベーションを生むような出会いには、名刺にあるような表面的な情報ではなく、個人として何をやりたいのかという意思や興味関心、自分の考え、行動指針などのアウトプットが大事になってくる。初対面からその情報を交換できることが肝心なのだと言う。
また自分自身のことをアウトプットすることで、関連する情報が集まってくるようになるそうだ。

「先ほどお話した『良い情報を集めるためには自分がまず発信していく必要がある』というのは、まさにその観点だなと思っています。自分が興味のあることを発信していれば、何かその興味があることに関連する情報があれば色々教えてくれる人がいっぱいいるわけです。こんな有難いことはないですよ」と光村氏は語る。

まとめ

社会が大きく動き出し、多くの人がイノベーションに無関心でいられなくなった変革の時代。

イノベーション組織であるために必要なこと、

・外向型と内政型の2種類のイントレプレナーで役割分担を行う
・失敗の法則を蓄積していく
・企業文化をしっかり捉え、各々で未来像を持つ
・個人対個人をベースとしたイノベーションを促進する質の高い出会い

など、イノベーションに繋がるアウトプットには良質なインプットが必要という事も、実際の経験則を交えて光村氏に伺うことができた。

情報が溢れ大事なことが埋もれがちな現代で、本当にやりたいことや実現したいことは何なのか、今一度立ち止まって整理をし、インプットとアウトプットのサイクルを見直してみてはいかがだろうか──。