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製造業
製造業において研究開発起点あるいは技術起点でいかに新規事業を起こしていくか、多くの製造業が抱えている課題である。
沖電気工業株式会社(以下OKI)は、新規事業創発というミッションにおいて、組織全員でアイデアを生み出す取り組みを実施している。
この記事では、沖電気工業株式会社 技術本部 技術企画部 戦略企画室 シニアプロフェッショナルの竹内晃一氏に話を伺い、OKIがどのようにして多様な視点を組織内で取り入れ、新たなアイデアを引き出すプロセスを実践しているのか、その詳細を掘り下げていく。
※この記事は、ストックマーク株式会社が2023年5月30日に主催したWEBセミナー『OKIに学ぶ「新規事業の実践術」〜製造業で新規事業が生まれるプロセスを徹底解説〜』の内容を中心にまとめたものです。
【登壇者】
竹内 晃一氏
沖電気工業株式会社
技術本部 技術企画部 戦略企画室 シニアプロフェッショナル
1993年慶應義塾大学理工学研究科修了。博士(工学)。同年に沖電気工業入社。研究開発部門にて人工知能、Human Computer Interaction、遠隔コミュニケーションシステム、データアナリティクス、AI自動交渉などの研究開発及びプロジェクトリードに従事。1998年~2000年スタンフォード大学客員研究員。2020年4月より中央大学AI・データサイエンス社会実装ラボを創設し、機構教授を兼任。2020年3月より技術戦略及びイノベーション推進に関わる企画業務に従事。2023年4月より現職。
目次
OKIの製品は、道路・航空・鉄道といった社会インフラ、官公庁・自治体のシステム、そしてオフィスや店舗のシステムなど、クリティカルなシステムのバックエンド部分に広く導入されている。これまで大手の優良顧客に恵まれてきたがゆえに、従来の企業体質は受注型ビジネスが得意であった。
今後の事業成長のためには社員一人ひとりがイノベーターとなり、提案型ビジネスで新規事業を生み出す力が求められる。その実現のため、OKIが推進しているのが“Yume Pro” と名付けられた全員参加型イノベーション推進活動である。この取り組みは、一人の天才的イノベーターのみがイノベーションを起こすのではなく、全員が日々の活動の中で自分ゴトとして継続的にイノベーションを起こしていくことを目指している。
OKIのイノベーションについて詳しく知りたい方はこちら
【リンク】OKIのイノベーションとは
http://www.oki.com/jp/yume_pro/about/innovation.html
提案型ビジネスで新規事業を生む文化へ改革するためにどのような取り組みを行なっているのだろうか。OKIの“Yume Pro” のプログラムでは、社内風土の改革、社員一人ひとりが自分ゴト化して試行錯誤を重ねること、そして社外の多様な知見や実践への視野を広げることを目指している。
以下、その取り組みを大きく3つに分けて簡単に紹介する。
社員全体にイノベーション文化を浸透させるため、”Yume Pro” では、経営層が積極的にリーダーシップをとって推進している。社長をはじめとする経営層が参加者と直接対話をするイノベーション・ダイアログには過去4年間で約1000名が参加、さらに経営層がイノベーションの取り組みについて話す大規模なフォーラムも開催している。
実践支援の場が設けられ、イノベーションに取り組む社員を積極的に支援している。具体的な取り組みとしては、社内ビジネスコンテストの開催や、イノベーションを推進する各部門のメンバーネットワーク構築、支援コミュニティなどがある。
OKIではISO56002(組織としてイノベーションを創出するためのマネジメントシステムの国際規格)に基づき、イノベーション推進のための社内規定やガイドラインを策定している。これにより試行錯誤を経ながらイノベーションを推進する仕組みを整備している。
ここからはより具体的手法について紹介する。
竹内氏らが中心となり推進する「技術動向議論」は、アイデアを生み出すための場として設けられた。専門性の高い研究員が陥りがちなタコツボ化・サイロ化を防ぎ、視野を広げ、視座を高めることが目的だ。社内の各部署から代表者を選出し、世の中のトレンドや最新技術などについて自由闊達に議論し、アイデアが生まれやすい風土を作ることを目指している。しかし、開催当初は推進者からの発信が中心となり「情報が一方通行になりがち」、「議論にまで発展しない」、「集めてくる情報に幅や深みが不足している」……などの課題があった。
この課題を解決するために取られた新たなアプローチが、「定点観測による日常の発見」と、それらの「情報の発酵」、そして、「抽象化⇔具体化の往復による議論活性化」の3つのプロセスである。これらのプロセスにより、情報収集が促進され、新しいアイデアを生み出す組織風土が醸成されている。以下で、3つのプロセスの内容と実践のポイントを紹介する。
世の中での動向やトピックの中で「ちょっと気になる」というもの、直観的におもしろいと思ったものをどんどんインプット、蓄積していく。さらに、特定のトピックやテーマに継続的に注目を向けることで、急速に注目を集めているワードや新たに参入したプレイヤーを発見する。(ツールを使用した情報収集の効率化については後述する)
蓄積した情報は一定の期間(例えば四半期)寝かせておき、ある程度たまったところで、情報の取捨選択や関連付け、考察をグループワークで行う。拙速・安易に結論を出すのではなく、あえてアイデアが「発酵」する時間を設けるのがこのステップの特徴だ。参加者に気づきを与え、視野を広げ、視座を高めていく。
蓄積した情報を寝かせておくことで、ひょんなところから「あれ、こんな話もあったな」と発展していくことが、イノベーションにおいて重要である。初めはグループの雑談に思えるものも、時間の経過とともに意外な接続点や洞察が見つかることもある。一方で、活発な議論が行われたとしても、後から見返してみると具体的な示唆が得られない事例もあるため、アイデアの発散と収束のバランスを保つことが求められる。
また、一定期間発酵させることで、一時的に話題になったものの本質的に発展の余地がないトピックは自然に淘汰される。
結論や成果もないまま放っておくのは気持ち悪いかもしれないが、ここでいかに耐えるかも重要なポイントである。「しばらく放っておくのもプロセスの一つ」と理解すべきだ。
半年に1回、「OKIスキャンミーティング」と呼ばれる会議が開かれる。発酵させた情報をさらに再構成し、未来を洞察する会合である。300件ほど貯めた情報を再構成したものを、「未来クラスター」と呼びまとめている。その後、これらのクラスターを基に社会や企業活動に与える影響について議論が行われる。
斬新なアイデアを発見するためには、情報のまとめ方にコツがある。一般的なまとめ方をしないことだ。例えば「これはAI関連」と単純に分類するのではなく、いわゆる大喜利のように、「この4つは一見関連性がないが、どう繋げることができるだろう?」と問いかけながら、新しい視点を生み出していく。
アイデアや発想のもととなる未来を洞察するスキャンミーティングでは、発酵段階のグループワークからメンバー枠を広げ、若手社員を含む多様な参加者を集めている。
前述の情報収集と議論のプロセスにおいて、「定点観測」の情報源として活用されるのが社外のレポートやウェブサイトだ。その情報収集の際に使用されているのがAnewsである。情報収集にAnewsを使用することで、その効率は飛躍的に向上する。
Anewsについて詳しく知りたい方はこちら
AIを活用した情報収集で、製品化・新規事業が加速するAnews
キーワードをあらかじめ設定しておけば、関連した情報が続々と集まってくる。調査テーマの周辺領域に関する情報も含まれることが、Anews活用の大きなメリットである。イノベーションが周辺領域や他のテーマとの接続点から生じることは、よく言われている通りだ。
社内の誰かが提示したテーマ(論文や提案など)は、提案者への配慮から自由に意見を述べにくい場合もあるだろう。しかし、外部からのニュースは無色透明で中立的であり、提案者の職位や立場を気にせず、あくまでファクトベースでそれぞれの考えを述べることができる。
新規事業創出やイノベーション推進のための社内風土作りや仕組み作りの重要性がお分かりいただけただろうか。具体的なOKIの事例を見てみると、以下のポイントが重要と言える。
1. 気になった情報を積極的に収集し、一定期間置いた上で議論の材料とする
2. 収集する情報の多様性を確保する
3. 収集した情報を様々な視点を持ったメンバーで整理・分析・解釈し、幅広く深い洞察を得る
4. マネジメントを通じて、誰でも良質なアイデアを提案・推進できる風土を作る
5. 会社全体で、全員が参加可能な仕組み(ビジネスアイデアコンテントなど)を作る
これらのポイントを念頭に置きつつ、アイデアを磨き上げるだけではなく、「自社が解決すべき問題なのか」という視点を常に持つことも、具体的な議論をするための重要な要素と言えよう。
今回紹介したOKIのアプローチは、提案型ビジネスへの変革が求められる製造業におけるイノベーション推進において一つの有効な手段である。ぜひ、参考にしていただきたい。
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