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オープンイノベーションで新しい技術革新を目指すポイントと課題

オープンイノベーションで新しい技術革新を目指すポイントと課題

製品のライフサイクルが短命化するなか、自社アセットのみでの研究開発は手詰まりとなることも多い。また、日本のイノベーション環境については国際的な国別イノベーションランキングでもトップ10に入らないような現状だ。急速に取り巻く環境が変化するなかで新規事業開拓や新製品の開発にはオープンイノベーションを活用することが有効な手立てとなる。

この記事では、激動の市場で生き残るための新しい価値創造に役立つオープンイノベーションについて解説する。

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 オープンイノベーションとは

オープンイノベーション(Open innovation)とは、企業などの組織のイノベーションを促進する際に、自社や他社といった内外関係なく、専門知識を持つ人材やあらゆる知見、技術といったものを駆使して、新しい価値創造を実現する一連のモデルのことをいう。従来の研究開発のスタイルである自社内のリソースのみを使うクローズドイノベーションと異なり、外部との連携を通してイノベーションを起こすことを目指す。例として、大企業とスタートアップなど企業間での事業推進や共同開発、産官学連携の技術開発、または自由参加型の共同プロジェクトなどが挙げられる。

 目的

オープンイノベーションの目的は、企業の枠にとらわれることなく、自社以外の企業や大学などの研究開発機関などをパートナーとし、連携をして新しい事業を興したり、研究開発の発想の促進や創出を行ったりすることである。異文化、異分野、異業種の見地を取り入れ、それぞれの専門分野同士を掛け合わせることにより、新しい技術革新を起こすことが最大の狙いだ。

 背景や必要性

オープンイノベーションの必要性の高まりには、以下のようなことが要因となっている。

①顧客ニーズの多様化、複雑化
インターネットの普及に伴いあらゆる情報に触れることができるようになり、ライフサイクルの変化と相まって顧客ニーズは多様化・複雑化している。大衆的に同じものを求めるというよりは、自らに合っているものや気に入ったものを求める傾向が強くなっているのだ。

②製品ライフサイクルの短命化
顧客ニーズの多様化だけでなく、技術革新のスピードが早まっていることから、技術の陳腐化が進み製品のライフサイクルが短期化する傾向にある。これまで以上に製品を適切なタイミングで投入することの重要性が高まっている。

③グローバル化による影響
グローバルに市場が広がり、新興国企業を含めての競争が激化している。新興国企業の低コストの強みに加え、技術力の高まりもあり大きな脅威となりつつあるのだ。
これらの要因により、短期間で市場ニーズを満たす製品や技術を開発する必要があり、「自前主義」であるクローズドイノベーションだけでは、持続的な収益の実現が困難になっているのだ。

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 クローズドイノベーションの違い

オープンイノベーションはイノベーションを効率的に生み出すためのアプローチである。組織内部のイノベーションを促進するために、意図的かつ積極的に内部と外部の技術、アイデアなどのリソースの流出入を行うことで、組織内のイノベーションが組織外に展開する機会を増やすことができるものだとされている。つまり、自社アセットと外部の企業などのアイデアや技術などと掛け合わせ、新しい価値を生み出すことができる手法である。反対に、クローズドイノベーションは研究開発を得意とした企業が自社アセットのみで新規価値を創出していくという点に特徴がある。

オープンイノベーション白書 第二版
https://www.nedo.go.jp/content/100918469.pdf

イノベーションは人材、アイデア、マインド、知的財産権、研究開発など、さまざまな要素が組み合わさって達成されるものである。オープンイノベーションとクローズドイノベーションとではそれぞれの要素についての考え方に違いがある。

クローズドイノベーションは自社内のみで研究を行うため、イノベーション促進には優秀な人材の確保が必要だ。また、その上でテーマ設定から基礎的な研究、イノベーションの芽の発見、そこから製品化までも自力で行う必要があり、市場における最初の発表者となって、いかに早く市場投入できるかが重要だ。知的財産権については、コントロールして社外には出さないという姿勢が一般的である。

一方、オープンイノベーションは社外と協働するため、社内に突出して優秀な人材が必ずしも必要というわけではない。またアイデアも、共同研究する上で知の掛け合わせが成功するかどうかであり、さらに言えば、新しく優れたビジネスモデルを構築できるかどうかに重点がある。知的財産権も、他社に自社の知的財産権を使用してもらうことでライセンス料による利益を上げることができ、また反対に他社のライセンスを買って自社内の研究をもう一歩先に進めるということも選択肢のひとつとなる。また、以上のことからオープンイノベーションは、外部資源を広く活用するため事業推進や開発スピードを大幅に向上させることができる。そのため不確実性が高まる昨今の状況下で、オープンイノベーションは有効な手段となり得るのだ。

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 日本の現状

「Global Innovation Index:GII※1」で発表される国別イノベーション創出力ランキングでは、10年前の2011年から遡っても日本の最高順位は13位と奮っていない。また、「オープンイノベーション白書 第三版」によると、日本と欧米企業のオープンイノベーション活動の実施率は日本企業47%、欧米企業78%と大きく差が開いてしまっている。イノベーション活動全般の予算に占めるオープンイノベーションに費やした予算の割合についても、日本企業は欧米企業と比べて、予算の割合が低い傾向が見られる。

オープンイノベーション白書 第三版
https://www.nedo.go.jp/content/100918471.pdf

 オープンイノベーションによる効果

欧米企業に比べてオープンイノベーションの実施が少ないことは前述の通りであるが、実施の効果が出ている日本企業も出始めている。オープンイノベーションの実施によって得られた効果として、「新規事業の創出」「既存事業の収益向上」「研究開発のスピードアップ」「研究開発費のダウン」「新規研究開発の開始」が挙げられている。「特段得られた効果はない」が299件中35件であるのに比べて、「新規事業の創出」が98件と、明るい結果が得られている企業が多い。

オープンイノベーション白書 第三版
https://www.nedo.go.jp/content/100918471.pdf

また、同調査でオープンイノベーション実施によって得られたリソースとして、「新事業アイデアの獲得」103件、「技術提携先の獲得」81件、「新規研究テーマの獲得」68件、「販路の獲得」65件と、こちらも「特段得られたリソースはない」33件と比べて良い結果が得られた企業が多い。

オープンイノベーション白書 第三版
https://www.nedo.go.jp/content/100918471.pdf

 日本企業の取り組み

ここでは2社の取り組みをご紹介する。

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 日立製作所

日立製作所は、社会・産業システム、電子機器、情報通信システムなど幅広い事業領域を持つ大企業である。しかし2009年に国内製造業最大の赤字を計上し、その後数年間営業利益率2〜3%と苦しい時期が続いた。そこで、従来のプロダクトを起点とした事業形態から、サービスを起点としたビジネスモデルへの変容を模索し、「顧客との協創を通じた社会への付加価値提供」に重点を置いたビジネスにシフトした。

オープンイノベーションについては、日立製作所の持つ中央研究所において、大学や研究機関などアカデミアとの連携を主軸とし、自社で賄えない領域の知見やリソースの補完目的で行なっている。また、2016年に産学連携をより推進する共同研究開発部門を設け、東京大学など国内外の大学院に同社の研究施設を設置し、人材交流やビジョンの共有による協創の取り組みのほか、スタートアップに対するアプローチも積極的に行なっている。

 三井化学

三井化学は日本を代表する化学メーカーであり、石炭化学事業、石油化学事業への事業転換を経て、川中事業への展開、グローバル化を推進している。同社は生み出された技術に関して、顧客が求めるものを商品化することを軸としたマーケットイン型の製品開発に取り組んでおり、既存技術を活用しつつ、不足している要素を外部から調達するオープンイノベーションがひとつの手段になると考えている。ターゲット領域である「モビリティ」、「ヘルスケア」、「フード&パッケージング」、「次世代」と、各事業を横断する「基盤素材」の5事業部に編成され、このターゲット領域から派生した新規事業専門の開発室を設置。既存事業部門の制約を受けない環境において、オープンイノベーションを活用した新規事業開発を推進している。

近年では、自社技術の活用の可能性を広げるため、スタートアップなどの外部企業に自社技術やリソースを提供し、イノベーション創出の可能性を探るインサイドアウト型を主流としている。その事例には、Z-WORKSとの協業による「好感度センサーによる介護施設の支援システム開発」が挙げられる。三井化学も、こうしたスタートアップとの協業を一層強化し、新たな価値創出の実現を目指している。

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 日本におけるオープンイノベーションに対する課題

アンケート調査によると、オープンイノベーションを実施していない理由について、「ヒト・モノ・カネといったリソースの不足」が23%、「実施したいが手間・時間が必要」が21%、「実施したいが社内の理解が得られない」が18%となっている。

オープンイノベーション白書 第三版
https://www.nedo.go.jp/content/100918471.pdf

先に見たとおり、日本でもオープンイノベーションによる良い成果の認識が増え、積極的に取り組む企業が出始めているなか、多くの企業がオープンイノベーションへリソースを回すことができていないことが伺える。その背景には、リスクの少ない既存事業や短期的な成果を出せる研究開発にリソースを割いてしまうことや、成功率が未知数である事業や研究開発は避けたいというようなオープンイノベーションに対する消極的な傾向が読み取れる。世の中にインパクトを与えるような新しい製品やサービスや技術開発について、日本での取り組みはまだまだ不十分であると言わざるを得ないだろう。

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 オープンイノベーションのポイント

オープンイノベーションのポイントを4つご紹介する。

 オープンイノベーションのメリット・デメリットを理解する

オープンイノベーションには、研究開発のスピード向上やコスト削減だけでなく、連携先の技術や知識を獲得できるメリットがある。一方で、自社技術の流出や自社研究による開発力低下、連携先と利益配分することによる利益率の低下などの懸念もある。こういったオープンイノベーションによる、メリットとデメリットを正しく理解し、うまく利点を伸ばし活用することと、リスクをできるだけ回避する術を検討することが重要である。

 目的を明確にする

オープンイノベーションを活用する際には、連携先の選び方として、流行や面白そうな技術といった理由で選ぶことは避けた方がいい。なぜなら、目的を明確にして、ある程度の未来絵図を描いた上で協業をスタートさせなければ、研究開発のゴールが見えずに製品開発への遠回りになってしまうからである。

 自前と協業の見極め

製品化を前提として、自社の技術(コア技術)はどこまで使えるのかということと、どのような面で連携先の技術を用いるのかなどの線引きを明確に行うこともポイントとして挙げられる。内製と協業の範囲をきちんと把握し、決めておくことが重要だ。

 技術の事例を集める

常に最新の技術やその使われ方、つまり用途開発の事例を学び、知識をアップデートさせておくことも非常に大切なことである。更新を繰り返し常に最新の情報をインプットしておくことで、どのような相手と協力すべきか、支援してもらいたい技術は何かが明確になり、研究開発は洗練されていくだろう。

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 まとめ

オープンイノベーションとは、外部の企業や研究所などと連携し、知識や技術などを意図的に流出入させることによって新たなイノベーションを生み、市場機会を増やす試みだ。複雑化する市場に新しい価値を提供するためには、これまでのような閉じられたイノベーションだけでなく、広く開かれたオープンイノベーションの取り組みの重要性が増している。

このオープンイノベーションをより効果的に実施するためには、業界内外の企業の用途開発事例や取り組みなど広範囲に渡る情報を集めることが重要である。質の高い情報収集を欠かすことなく続けることが、競合の動向を把握すること以外にも、協業先の検討や技術や知識の掛け合わせのアイデア創出の引き出しを増やすことにつながるのだ。

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参考記事

・「オープンイノベーション白書」
https://www.nedo.go.jp/library/open_innovation_hakusyo.html
※1「グローバル・イノベーション・インデックス2021 年:新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) のパンデミックにもかかわらずイノベーションへの投資は堅調。日本は世界13位に上昇するも起業やICT、海外直接投資に課題。」
https://www.wipo.int/pressroom/ja/articles/2021/article_0008.html