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【イベントレポート】企業変革最前線。DXを加速させるために越えるべき6つの組織の壁

企業変革最前線。DXを加速させるために越えるべき6つの組織の壁

ローランド・ベルガーは、1967年にドイツで設立されたヨーロッパを発祥とするグローバル・コンサルティング・ファームである。その日本法人である株式会社ローランド・ベルガー(以下、ローランド・ベルガー)は、1991年に発足。日本の市場・産業・企業情報の発信地として世界各国のオフィス と緊密な連携を取りながらコンサルティングサービスを行っている。

今回は、ローランド・ベルガーのシニアパートナー 田村 誠一氏をお招きし、「DXを加速するために越えるべき壁」について考えを伺った。

※当記事は2021年3月2日に開催したオンラインセミナーの内容をもとに作成しています。

DXの現状と様々な課題

デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)がバズワード化する中、多くの企業では経営課題として挙げられており、その言葉を聞かない日はない。DXを推進する中での課題について改めて、簡単に説明する。

経済産業省のDXレポート2による各企業のDX推進状況

2020年12月に経済産業省が公表した「DXレポート2(中間取りまとめ)」においては、日本企業の95%はDXに全く取り組んでいないか、取り組みを始めた段階であり、全社的な危機感の共有や意識改革の段階に至っていないとの提言がある。日本企業のDXは、現状では成果に繋がる本質的な取り組みには至っていないことがわかる。
(出典:経済産業省「DXレポート2(中間取りまとめ)」 )

更に、DXの推進には上記に挙げた以外でも多くの阻害要因があると考えられる。経営陣側の明確な方針の提示やコミットメントの不足、従業員のDXへの危機感の醸成が足りず、変化に対する理解や受容が進まない点や、部門を超えた連携ができずに局所的な改善に留まるなどが挙げられる。これらの課題の解決には、全社を巻き込んだ組織づくり・企業文化変革が重要なカギの一つであり、成果へ繋げるまでに時間を要するからこそ、今から時間を掛けて取り組んでいくことが非常に重要である。

企業変身を妨げる壁

前段で挙げた課題の解決には、組織づくり・企業文化変革が重要としたが、それらを成し遂げ、企業変身を実現する過程においても多くの壁が存在する。企業が変わらなければいけない時、どのような壁を乗り越えなければいけないのか。田村氏はこれまでの経験から6つの壁の克服が必要だと解説する。

企業変身を妨げる6つの壁
(出典:【視点165号】企業変身を妨げる6つの壁を超克する〜変化を味方に:”Change is the New Normal”

「思考」の壁

まずは思考の壁。これは物の考え方についての視点だ。その1つ目は「WHYへの過度な拘泥」である。例えばDXで言うと「なぜDXか?」を延々と議論をすること。「WHY」を問うことは重要だが、勘所を間違えると前に進まない。まずはやってみようよと。やるのは当たり前なんだと。そういった考え方ができるか、WHYへの過度な拘りを捨てられるかが1つ目の壁。

思考の壁の2つ目は「結晶化と抽象化の混同」。企業といってもそれぞれ異なる背景や文化、想いがあって今の事業が形作られている。そのため、企業毎に尖った部分と尖っていない部分があり、その背景を理解しないまま情報を集めてベンチマークすると、自社でどのように変革を進めようかとなった際に、なんとなく共通項で括ってしまう。こういった考え方をしてしまうと、それぞれの尖った部分がなくなった「ただの丸いボール」の部分だけがでてきて、これがDXの勘所ですとなる。

大事なのは抽象化と結晶化を使い分けること。尖った部分がなぜ尖っているのかを解釈し背景を捉えることで、自分なりの尖りを作ることが結晶化。この使い分けができずに、抽象化に陥ることが2つ目の壁になる。

「反芻」の壁

次は反芻の壁。これは実際にやってみた結果をどう反省すべきかの視点だ。その1つ目は「ポジティブ思考の罠」だ。これはよく聞く「新しいことだからどんどんチャレンジしよう」が生み出してしまう過度な多産多死の状態を指す。チャレンジすること自体は正しい。

だが、前提となるのは「捨てるところや諦めるところ」と「思い切って突っ込んでいくところ」を取捨選択するためのチャレンジであって、「ポジティブ思考の罠」はこれらを考えずに何でも試せばいいという思考に陥っている状態である。

反芻の壁の2つ目は「失敗礼賛主義の興隆」。これはポジティブ思考の罠にも関連するが、チャレンジの結果を振り返り、経験値・知見として積み上げた上で次の判断に繋げられているのかという視点だ。よく聞く悪い例として、「とりあえずPoCをやりました」だけで、その繰り返しのみ。そこから何に対して大きく投資を行い、本業としていくのかを決めなければ意味がない。PoCをすること自体を成果として認識してしまう状態を指す。

「風土」の壁

最後は風土の壁。その1つ目には「不安定に対する不安」。変化し続ける社会環境の中で、何の為に変革していくのかを考える際に大切なのは、スピーディーに柔軟にアダプティブな組織になれるかどうかだ。常に変わり続ける組織や文化を作っていく必要がある。一方で、変革を進めるための計画を作ったからといって、変革が終わるわけではない。


ゴールがない前提での「変化適応力」自体が求められているにも関わらず、ゴールを作ってそのための道筋を描いて順番にやっていきましょうという従来型の発想に拘っていないかと。常に変わり続けていく、終わりのない変革が求められているという感覚を持てていないというのが1つの壁となる。

風土の壁の2つ目は「リーダーシップへの誤解」だ。ゴールが明確な際のリーダーシップとゴールが明確ではない際のリーダーシップは異なる。リーダーには管理型、率先垂範型やビジョンを示すビジョン型などいくつかのタイプがある。日本の企業ではリーダーは率先垂範型のリーダーが好ましいと言う考えもあるが、ある調査では今の時代に最も合わないのは率先垂範型のリーダーシップであるとの結果もある。

イノベーションを生み出すという視点で考えると、「パーパス」や「ビジョン」を示したり、現場の行動を後押しする。そういった要素が新たなイノベーションを生む。こういったリーダーシップへの捉え方ができているのかが最後の壁である。

グローバルと日本企業の違いとは

ここまで説明してきたDXを加速させるために越えるべき6つの壁。これらは日本独特のものなのか、国際的なコンサルティングファームであるローランド・ベルガーの中ではどのように捉えているのかを田村氏に伺った。

田村氏によるとグローバルと日本企業と一番差があるのは5番目「不安定に対する不安」と6番目「リーダーシップへの誤解」とのこと。まさに風土の違い、リーダーシップの在り方の違いである。グローバルにおいては、「常に変わり続けている」というのがニューノーマル。「いつ終わるのか」という、終わりを見つけるために改革を行うのではなく、「変わり続ける」という状態を作る事こそが改革である。この考え方の違いが大きいと感じているとのことだ。

30年間デフレが継続してきた日本では、全体的に未来が見通せず、さらに今後30年の中で生産年齢人口が3分の2近くまで減少することでのGDP面での不安もある。こういった事実もあるが、不安定で不確実な社会環境の中で、先行きが見通せないというのは日本に限ったことではなく、欧州も米国も同様である。

それを企業経営で考えた際に、変化の時代に対応できないと先がないという考えを当たり前だと捉えるスタンスを経営者だけでなく、社員もどれほど持てているのか。その違いなのかもしれないと田村氏は考察する。

田村氏の経験から探る-変革を伝播させる取り組みとは

変化し続ける時代に適応するためには、前段では経営者だけでなく、社員の理解も重要だという指摘があったが、これらは企業内の階層間での理解の差が大きい事に問題がある。

企業の階層を経営層・中間層・若手層の3層に分けた場合、意外にもトップ層と若手層は危機感が強く中間層の危機感が薄いのではと田村氏は考えているという。若手層は現場を肌で知っている、しかし権限がないため行動に移せない状況であり、中間層にいかに刺激を与えるかが重要だという。

特に日本企業の中間層には優秀な方が多い。一方で、外部からの刺激を受ける機会がないため、危機感を持ち辛いという側面がある。これは能力がないということではなく、経験がないということ。そのため、外から危機感を持っている方を採用し、チームに組み込んでいく事によって、他の中間層へ刺激を与えるようにする。

そうすることで、一つの組織として新たな取り組みを推進していこうという雰囲気やムーブメントを起こすことができるのだ。一方で、外から新たな人材を入れる時に留意すべきポイントとしてアレルギー反応と外部人材と内部人材の融合という問題が挙げられる。どのように外からの風を融合させていくべきなのか。例えばDXを推進するとかM&Aを実施するといった新しいチャレンジをしようとする際、できないことは沢山ある。ノウハウもなければ、人もいない、知見もないということも多々ある。

ただ、新しいことに取り組む時に全ての材料が揃っていることはない。知恵を絞って必要なものを揃えることが経営者の仕事であり、それぞれの事業責任者や要職者の仕事であるという理解が重要だと田村氏は指摘する。そういった考え方をストーリーを持って現場に伝えていくこと、変わり続けていくことの重要性を発信し続けていることが外部人材と内部人材の歩調を合わせ、アレルギー反応を起こさないという結果に繋がるだろうと提言する。

DXを加速させるために乗り越えるべき6つの壁とは

DXを加速させるために乗り越えるべき6つの壁とはなにか。そこから考えられるグローバル企業との比較やどのように取り組むべきかを解説していただいた。

思考の壁で挙げられていた「WHYへの過度な拘りを戒める」。一方で田村氏は会社であれ、部門であれ、個人であれ、自分たちは何のために存在しているのか、果たすべき役割を考えることは重要な問いだという。それは存在意義であり、これがないと組織は一つの方向に向くことができない。不安定な時代だからこそ、「WHY US」の重要性は大きくなっている。

反面、「WHY DX」といった「Howのなぜ」は重要ではない。そもそも自分たちはなぜ存在していて、この部門はなぜ存在するのか。この会社は、自分はなぜこの役割を果たさなければならないのかと考えた時に湧き上がってくるもの。それこそが重要なのだという。

誰もが「危機感」を持つことの必要性、重要性については感じていただけただろう。そしてその危機感は「WHY US」から生み出される存在意義の中にヒントがあるのかもしれない。DXに取り組む際、今回挙げられた6つの壁を意識し、そしてまずは危機感を持つという意識から取り組んでみてはいかがだろうか──。