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【イベントレポート】ビジネスモデルを変革せよ-味の素がデジタルで創る新たな価値

ビジネスモデルを変革せよ-味の素がデジタルで創る新たな価値

テクノロジーは急速に発展し、この10年を振り返るだけでも人々の生活を変えるようなテクノロジーが多く生まれている。もはや技術が人々の暮らしを変える流れは止めることができない。さらに新型コロナウイルスの感染拡大による影響で、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)が加速したことは間違いない事実である。

今後求められるDXとは、業務効率化だけを目指すものではない。よりデジタルやITを駆使し、これからの社会や生活を変え、顧客満足を最大化し、収益を上げられるビジネスモデルを築いていくこと。つまりデジタル・ビジネスの時代となっているのだ。

人もモノもビジネスも、すべてがインターネットで繋がっていく。技術、市場、顧客ニーズなどのあらゆるものが、今までとは比較にならない速さで変化していく。今、日本の企業が置かれている状況はどのようになっているのか。この世の中で、生き残り、成長を続けていくために起こすべき変革とは何か。今回はローソンのデジタル改革やウォルマートジャパン/西友CIOを経て、現在、味の素株式会社CEO補佐としてデジタルを活用したビジネスモデルの変革に取り組んでいる白石卓也氏をお招きしお話を伺った。

※当記事は2021年4月7日に開催したオンラインセミナーの内容をもとに作成しています。

 テクノロジーが既存のビジネスモデルを揺るがす

白石氏が大学を卒業した96年当時は、ちょうどOSのWindows95が社会に出回り始めていた頃であった。白石氏もかなりの衝撃を受け「これからの社会はテクノロジーが変えていく」と確信したと言う。
以来、ITコンサルの道に進み、外資はIBM、プルデンシャル生命、ウォルマート、国内はベイカレント・コンサルティング、フューチャーアーキテクト、ローソンと、様々な企業においてデジタル化の促進を担い、一貫してテクノロジーを活用してのビジネス改革に従事して来た人物だ。ローソンでは、イノベーション・センターという部門を立ち上げ、ビジネスの変革に務めていた。

「テクノロジーを利用していかにビジネスを変えていくのか。いかにポートフォリオを時代に合わせていくのかが一番の関心事」だと言う。

そんな白石氏によれば「テクノロジーの進化は、ここ5~6年で一段と加速している」とのことだ。

「今までのテクノロジー活用と言えば、業務改善や生産性の向上、効率化などがメインだったが、これからはビジネスモデルそのものを揺るがすような活用の必要性が出て来ている。例えばこれまでは小売業界に関係のなかったAmazon、Uber、Airbnbのようなテクノロジー・カンパニーが進出してきた現在、既存の“小売業は単に商品を仕入れて売る“というビジネス形態だけでは、競争優位性をまったく出せなくなる」

 IT化の波に反応し、今後の日本経済をけん引していく可能性を持つ意外な業界

ところで、味の素といえばデジタルとは一見遠いイメージに思える企業だが、白石氏によれば「ここ数年は、むしろデジタル活用が進んでいないかった業界の方がデジタルに対する感度や現状に対する危機感が強い。そのため、改革のポテンシャルも高い」と言う。

自動車業界や小売業界に押し寄せていたデジタルディスラプション(デジタルテクノロジーによる破壊的創造・破壊的イノベーション)のデジタル変革の波は、遂に食品業界にもやって来たと言えよう。

最近、味の素のコーポレート・ミッションは「おいしい食を提供する」から「食と健康の課題解決」へと変化している。
日本ならではのノウハウを、いかにして“見える化“し、アセットとして新たな事業へとつなげ、グローバルで展開していくか。そこに「とても魅力を感じている。食は日本が世界に誇ることができるブランドであり強みだ」と白石氏。

その中での白石氏の使命とは、新規事業によって味の素の新たな成長を促していくことだと言う。グローバル・カンパニーとしての成長を目指す味の素の中で、白石氏はどのような新規事業を進めているのだろうか。

 味の素のグローバル・カンパニー化戦略

デジタルディスラプションは小売業界で考えるとわかりやすい。
ローソンの競合他社と言えば、今まではファミリーマートやセブン-イレブンであった。しかし、業界に新規に参入してきたAmazonのビジネスモデルは、既存のものとは全く違う。
彼らの場合は、“小売業の利益=仕入れと売上の差額“という、いままでは当然とされてきた概念を全く持っていない。
極端な事を言えば、仕入れた額をそのまま売値にしてもいいのだ。要するにタダで顧客に渡しても事業として成り立つやり方なのである。
彼らが目的としている“利益“は、顧客のデータであったり、動向的な情報であったり、それをもとにコミュニケーションを通じて得ることのため、発想自体が根底から全く異なっている。

「仮にAmazonのような大企業が日本に進出し、国内の小売業に比べて圧倒的な低価格で商品を売るようになったらどうなるのか…。既存のプレーヤーたちは総じて潰れて行ってしまうことになるだろう。ここ最近見られる、デジタル・テクノロジープレーヤーたちが様々な業種・業界へ一気に参入してきている現状は、既存企業にとって実に恐ろしい流れだ。それらに対抗するためにも、ビジネスモデルは幾つかのオプションが必要だ」と白石氏は述べる。

それは食品業界も決して例外ではない。
今、白石氏が着目しているのは“食のサスティナビリティ”だと言う。
環境問題、食糧不足等がささやかれる昨今、食品に限らずサスティナビリティは各企業において最重要のミッションとなってきている。
そんな中、ビヨンド・ミートやインポッシブルバーガーなど、本来は食品メーカーではない企業が“環境への配慮”を謳いながら新種の食品を生み出しており、さらには世間からも一定の支持をも獲得し始めている。一定とはいえ、それでも数兆円から数十兆円レベルのボリュームを生み出す分野にも成長している。

「欧米企業はスピード感があり、かつテクノロジーに対する柔軟性も高い。これからは、単に“おいしいもの“を作っているだけでは勝ち残れない。グローバル化を推し進めるためには、常にアンテナを張り、情報に対するスピーディな感度が求められる」

それが味の素という企業、そして白石氏の考え方だ。

味の素CEOの西井氏は昨年のインタビューにおいて「アメリカではコロナ禍における“巣ごもり需要“に反応して、シリアルのスタートアップ企業が一気に50~60社も立ち上がった。しかし日本国内では1社もない。こんなことでは負けてしまう」と述べていた。

多種多様なプレーヤーが参入して来る中で、それらの競合が来てしまってから対処するのでは遅い。危機感を持って高い感度で様々な方面にアンテナを張り、今から色々な可能性を模索していく必要があると言う。

 変革のためには、縦横の壁なき社風が必須

ミドルマネジメントの勢力が強く柔軟性に欠ける日本企業と比べて、アメリカの場合はどれだけ大企業でも上の指示に対して下が追随して一気に変化を起こすのだそうだ。ある意味、日本よりもトップダウン性が強いのだ。
まさに、うかうかしていれば海外のプレーヤーたちが津波のように押し寄せてきてしまう状況と言えよう。

変革を生み出す手法には特に目新しいやり方はなく「やるべきことをひたすら愚直にやること」が重要だと白石氏は言う。
では新規事業に取り組む場合、まずどのような事から始めて行くべきなのか。
様々なやるべきことがある中で、白石氏によれば「プロセス整備が必要だ」とのこと。
味の素では今後、サービス事業も展開していく予定なのだが、今まで販売してきた”商品”と”サービス”には売り方の違いがある。つまり未体験の分野のため、試行錯誤を重ねながらアジャイルでどんどん進めていく必要がある。そのためにも、まず取り組んだのが、「新規事業のプロセスをメンバーの共通理解の元で作っていくこと」だと言う。

その上で「組織体制としての部署の形態に正解はない。肝心なのは縦と横の理解と連携」とアドバイスした。
そして「デジタル変革やイノベーションは単独で達成できるものではない。時代遅れな自前主義は終わり、自社で補えない部分は外部のリソースも率先して頼っていく。そして、この流れも一気に加速していくだろう」と付け加えた。

トップの危機意識が強く組織変革をトップダウンによってスタートした味の素だが、一方でボトム側でも「新しい事を始めたい、色々変えていきたいという意識」があり、丁度トップとボトムの意識が合致し、若手を含め会社全体の変革の気運が色々な面で高まっているそうだ。

イノベーションの盛り上がりを感じる中で、次は課題を出して対応していく必要があると言う。
その課題の中で、もっとも取り組みの重要性を感じているのが「人材育成」と白石氏。
今後は新規事業やイノベーションを継続的に起こして行かなければならない時代。社員のマインド、経験、スキルを常に磨いていくのがキーポイントだ。「短期的に達成できるものではないので、時間をかけて一人でも多く育てていく。そのためにも外部との交流にも力を入れつつ、時流に後れを取らないように心がけていきたい」

その上で「味の素は扱うものが“食と健康”なので、ジャンルの幅がかなり広い。様々な外部企業からのアプローチも大歓迎。皆さんからの斬新なアイデアを待っている」とのメッセージを添えた。

 まとめ

今回は白石氏に、デジタル変革の必要性やその背景、様々な可能性を模索することの重要性や人材育成と企業文化の変革などの課題についてお話を伺った。
新しいことを生み出せる組織を作っていくには、社員一人ひとりが外に目を向ける必要があり、社内でのコミュニケーションを活発化させる必要がある。

まずは、小さなコミュニティーからでも構わないので、情報を共有して考えを語り合える場を作ってみることから試されてみてはいかがだろうか──。