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【イベントレポート】日本ガイシが取り組むDX 組織でデジタル技術とデータを活用するポイントとは

日本ガイシが取り組むDX 組織でデジタル技術とデータを活用するポイントとは

今や日本企業において、その成否が事業成長の命運を分ける存在となっているDX。

一方、DXと言えば「デジタル化による既存業務の効率化」のみに注目されてしまうことも多い。DXのその先のゴールとして目指す新価値創造に向け、企業はどのようにデジタル技術とデータ活用に取り組み、変革に活用していくべきか。

今回は、新価値創造に向けたDXを統括されている日本ガイシ株式会社代表取締役副社長を務める丹羽智明氏(以下、丹羽氏)に、同社のデジタル技術、データ活用に関する取り組みや、その中で得た知見について話を伺った。

※当記事はストックマーク主催にて、2023年3月28日に開催されたオンラインセミナーの内容をもとに作成しています。

 日本ガイシのこれまで ー 独自のセラミック技術で成長し続けてきた

日本ガイシ株式会社(以下日本ガイシ)は、セラミックスをコア技術として幅広く製品を展開するBtoBメーカーだ。

セラミックスは、プラスチックなどの有機材料や金属材料を除く全ての固体材料のことで、さまざまな原料を混ぜ合わせて練り上げ、形を整えて高温で焼き固めることにより作られる。

厳しい工程管理をくぐり抜けて製造される日本ガイシのセラミックスは、堅く耐久性があることに加え、電気や流体、光、熱などのコントロールを可能とする非常に多くの機能を持っており、自動車の排ガス浄化製品や、蓄電池、半導体製造装置の部品などとして、世界中のあらゆるシーンを間接的に支えている。(下図参照)

日本ガイシが取り組むDX ご提供資料 色んな所にNGKのセラミックス
出典:日本ガイシ様ご提供

日本ガイシは、創立以来100年以上にわたって磨き続けてきた独自のセラミック技術を軸に、時代のニーズを捉えた新しい製品を次々と生み出すことで、常に成長し続けてきた。

現在副社長を務める丹羽氏が、同社に入社したのは1984年。入社以来、下水・ゴミ・廃棄物処理プラントの導入を行うエンジニアリング事業から、産業装置・機器を販売する産業プロセス事業、自社工場建設や保守と行う製造技術に携わり、日本ガイシのモノづくりにとことん精通した人物である。副社長に就任した近年では、後述する2050年のビジョン実現に向けた大変革の担い手としてDX推進含む事業全体の変革を牽引している。

 「NGKグループビジョン Road to 2050」に向けて

日本ガイシは2019年に創立100周年という節目を迎え、創業以来の企業理念をグループ理念として継承し、「社会に新しい価値を そして、幸せを」というミッションを掲げた。さらに2021年には、「NGKグループビジョン」を策定し、「独自のセラミック技術でカーボンニュートラルとデジタル社会に貢献する」ことを2050年のありたい姿とし、新たなスタートを切った。

順調に成長してきた日本ガイシがこのグループビジョンを掲げた背景を、丹羽氏は次のように語る。

「現在の日本ガイシの事業構造は、自動車の排ガス浄化用製品など、ガソリン車やディーゼル車などの内燃機関向けの製品が大きな比重を占めています。ただ今後、電気自動車が拡大していくことは明白で、これまでの内燃機関を中心としたビジネスはどうしても縮小していく。こうした中で今、当社としてどのように次の事業を立ち上げて事業構造を転換していくべきかを最大の課題と捉えています。」

電気自動車の台頭により、自動車関連業界全体に変化が求められている昨今。日本ガイシも例外なくこの危機に向き合うこととなったのである。

しかし、この危機を真摯に受け止めてすぐに対応をスタート。
経営陣で議論の上、2050年の未来社会をイメージし、「カーボンニュートラル」と「デジタル社会」への貢献をビジョンとして掲げた。(下図)

バックキャスティング思考でこれらの社会を実現するための事業変革に向け、歩き出したのである。

日本ガイシが取り組むDX ご提供資料 社会課題と日本ガイシ
出典:日本ガイシ様ご提供

このNGKグループビジョンは、経営陣が中心となって「どの拠点に行っても必ずビジョンを自分の言葉として話す」ことを徹底していることもあり、社員からビジョンを起点とした声が上がるなど着実に浸透してきているという。

さらに、このビジョンを現実的なものとするための、2030年までの中期目標「New Value 1000」(NV1000)を社内外に発信している。
このNV1000は2030年までに新事業化品売上高1,000億円以上を目指すというものである。

NV1000を実現するために大きく組織改編も行った。市場や顧客のニーズを素早く取り込む機能を担う「NV推進本部」が新設され、研究開発本部や製造技術本部と連携することで開発リードタイムの大幅な削減をしながら、“マーケットイン”の姿勢で新しい事業を創出する準備を進めている。

丹羽氏はNV1000について次のように話した。

「新しい事業で1,000億を目指すというのは、かなりハードルが高いと感じています。ただ、とにかく数値目標と期限を決めないと物事は前に進まない。このように目標を区切ることは、具体感を持って取り組む環境作りのために不可欠な要素です。」

 日本ガイシのデータ活用 ー モノづくりプロセスに起きた変化

ビジョン達成に向け、数多くの取り組みを推進している日本ガイシだが、特に本記事のテーマであるDXに関しては、全社としてデジタル技術とデータ活用に力をいれており、結果として同社のモノづくりプロセスは劇的に変化してきている。

データ活用で起きたわかりやすい変化として、製造工程における全体最適に向けた動きについて事例として下記に紹介したい。

日本ガイシの技術の源であるセラミックスの製造工程は、パンづくりや陶芸に似ており、その調合や成形には職人的なノウハウが存在する。現場の経験を持つ匠による「この形状で本当にいいのか」「焼いた後にちゃんと形になるか、割れないか」などの多数のチェックが必須であり、その作業は属人化していた。

また、製造工程が複数に分かれている中で、それぞれの工程の担当者が最善を尽くして製造に関わってはいたものの、その結果として個別最適に陥ってしまうということが起きていたのである。

そこで、日本ガイシは製造ラインへのロボット導入による自動化の推進や、製品に関わる全工程のデータ取得に取り組んだ。結果として、世界中のお客様からの受注情報に始まり、製造の入り口となる原料工程から、出口となる最終検査から製品出荷までのデータ取得を実現したのである。

これにより、製造工程の匠による経験や勘をデータとして把握・管理するだけでなく、新製品の創出や改善などの新しい気づきにも繋がるデータを獲得できるようになった。

このようにデジタル技術とデータ活用を進めてきた中で起きた一番の変化として、丹羽氏は次のように語る。

「それまでそれぞれKPIを持って個別最適であった各製造工程が繋がり始めたのです、データで。製造工程の入り口のところから最後の部分まで、全て一連のデータが取れることで、各工程にて全体最適を図れるようになってきました。データによってモノづくりが大きく変化していることを日々実感しています。」

これらのデータ取得と活用の知見は今、世界中の日本ガイシの工場にも活用されはじめている。日本を超えて世界でも、さらなる全体最適を目指し日本ガイシのデジタル技術とデータ活用の取り組みは進んでいくだろう。

 組織でデータを活用するための4つのポイント

前述のように、デジタル技術とデータ活用に全社として力をいれて変革を進める日本ガイシ。未だビジョンに向けた変革の最中ではあるが、丹羽氏にこれまでの経験から、組織でデータを上手く活用していくために意識しているポイントを大きく4つの段階に分けて伺った。

 1. まず、そもそもの業務の本質を見直す

デジタル技術やデータ活用の推進を進めるとなれば、多くの場合その手法が注目されがちになる。だが、大前提としての話ではあるが、それらを実行する前に今一度正してほしいことがある。

それは現状の業務の本質を見極めることだ。既存の業務のデジタル化を検討したり、データ取得のためのツール導入をする以前に、そもそも「本質的にその仕事をする必要があるのか」を原点回帰して考えていただきたい。

丹羽氏いわく、業務の本質を見直そうという動きは前社長の号令から始まったという。

「何か施策を実施する前に、まず”その業務をやる必要があるのか”を問いかけることを始めました。当社は100年以上の歴史があり、だからこそ、もう今の時代には重要ではない慣習の蓄積があります。それに対して「なぜこのルールでやっているの?」「この業務は今後も必要か?」と問いかけ、メスを入れることでより本質的なデジタル化が進みます。実際に、このような動きで今までに無くした仕事は沢山あります。DX、データ活用の前に、まず業務の本質を疑う。何か大きなシステムを導入する前段階にも、やれることはいっぱいあるのではないかと私は思います。」

 2. どんなデータを取得すべきかを見極める

次に、データ活用の基礎にはなるが、モノづくりにおけるデータ活用効果を最大化するため、どういうデータを取るかが結局のところ一番重要であると丹羽氏は話す。

「データを繋げ、解析することは簡単です。ただ、組織の製造工程の中でキーとなる部分に注目して丁寧にデータ取得できているかどうかは、確認しておきたいポイントです。
他社には真似できないような部分を、いかに進化させていくか。ここにこだわってデータを取得していくことが強い製品を作ることや社会への価値提供に繋がります。」

 3. 共通のデータプラットフォームを活用する

社内の各工程をつなげる方法として、組織が部門を超えた共通のプラットフォームを用意し、そこにデータを集約していく仕組みづくりも欠かせないと言う。

使用しているデジタルツールが各部門によって異なるというのは、大きな企業であればあるほどよくある話だが、組織で連携してデータ活用していく上ではマイナス作用となる。
丹羽氏は、共通のデータプラットフォームを用意した上で、何をKPIとして見て、何を解析していくかさえ合意できれば、組織にとってのベストアンサーが導き出せると話した。

もしまだデータプラットフォームやその見方を組織で共通化できていない場合は、改めて見直してみることがオススメだ。

 4. データを活用できる社員を育てる

組織におけるデータ活用のベストシナリオは、取得したデータを実際に社員が自ら分析し、データを元に議論する習慣がつくことで、より良い製品サービスづくりと新価値創造を実現することである。

現在、日本ガイシでは、各部のデータが繋がったことにより、全体最適を目指すための議論が出来るようになった。ボトムアップで「こんなふうにデジタルを使いたい」という声が上がるまでの状態になっている。

丹羽氏はデータ活用推進の道筋を振り返りながらこう語った。

「社内からデータを使った話が上がるようになるまで、DX推進に関わるメンバーは相当苦労して、でも粘り強く進めてくれました。ツールを入れて終わりではなく、データ活用を継続的な文化にする。そのためには実際に使ってもらう側の社員の納得感や、データを使って出来るようになった成果の共有、そしてデータ活用に繋がる行動をしっかり会社が認めることが大事なように思います。

これによく似た話で例えを挙げますと、事故防止のために安全第一と言っているだけではダメなのです。具体的に何をするのか、どう変えるのか?そして何より作業する人達が「やっぱりこれは危ない。こういう風に変えていこう」と思って実際に変えてくれないと、安全にはならないのです。これを”腹落ち感”というふうに社内でよく言っています。結局、一人一人が腹落ち感を持ってやってくれるまでやり続けることが非常に大事で、簡単な近道はないというのが、この10年ぐらいの実感です。」

以上、4つに分けて、組織でデータを活用するポイントを紹介した。

 日本ガイシのこれから ー 大変革の真髄は人にある

最後に、これまで様々な取り組みを進めてきた中で、変革を成し遂げるための重要点はやはり人であると丹羽氏は話した。能力ある人選が重要なのではなく、「自分がこの仕事をやり遂げる」という意志で能動的に取り組む人物に、粘り強く成果が出るまで任せるということである。

「何でもそうなのですが、プロジェクトを成し遂げるためには、”こうしたい”という思いを抱き、ありたい姿を描けている人に任せることが重要だと考えます。とにかくやろうと思ったら、”最後まで答えがでるまでやろう”と思わないと成果はでませんので。環境やこれまでの仕組みを言い訳にせず、取り組む人にも、任せる人にも、粘り強さが大事です。」

「一番良い状態は、実際にデジタル技術やデータを使ってみた社員たちが”こういう風に変えていきたい”と自ら言い始めること。そこがブレークポイントで、そうなるともう自走状態になります。その状態まで持っていくのが、いわゆるDX推進の仕事だと思っています。」

今後日本ガイシは社内を超えて、社外に存在するアセットとの連携や数字データだけではなく、テキストデータの活用にも取り組むことで、長期的にセラミックスを軸とした新価値創造を目指していくという。

デジタル技術やデータの活用に対して、粘り強く向き合い、”どうやって自分たちなりに使いこなしていくか”を考え動く社員が大多数を占めれば、組織は自走状態となり、事業はさらなる展開を生む。これこそが、組織に新価値創造の文化を醸成するための真髄なのである。

 まとめ

2050年に向け、事業構造の転換を図っている日本ガイシ。この大きな局面を乗り越えるべく、カーボンニュートラルとデジタル社会への貢献というビジョンを掲げ、全社一丸となってデジタル技術とデータの活用を推進し続けている。

現在さらなるDXを推し進めている日本ガイシが、今後大きくビジョン達成に近づいていくことは間違いないだろう。

本記事でご紹介した日本ガイシの取り組みやその中での知見の数々を、ぜひこの先へ踏み出す一助としていただきたい。


現在、日本ガイシ様のデータ活用の一端として、当社のサービスである、AIの力で外部テキスト情報の収集と活用を促すツール「Anews」をご導入いただいています。

日本ガイシさまのAnews活用事例は下記リンクよりアクセスできます。
本記事と合わせてご参考としていただけますと幸いです。