日本や世界の半導体メーカー・会社・企業【分野別で紹介】
製造業
気候変動対策の有力な手段として実用化が期待されているBEVやHEVなどの電動車(xEV)。なかでも、多くの自動車メーカーが注目しているのが全固体電池だ。リチウムイオン電池の温度変化に弱い、発火リスクといった弱点を克服できることもあり、各国の自動車メーカーや電子部品メーカーがEV搭載バッテリーの実用化に向け、熾烈な開発競争を繰り広げている。
なかでも本格的な動きを見せるのが、我が国最大規模の自動車メーカーであるトヨタ自動車(以下、トヨタ)だ。今回は、トヨタが見据える全固体電池の開発戦略や展望などに焦点を当てて解説していきたい。
「全固体電池」の特徴を図と表でわかりやすく解説!
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目次
全固体電池とは、従来の電池とは異なり、電流を発生させるための電解質を固体に置き換えた電池のことを指す。リチウムイオン電池では、充電時間が長い、温度変化に弱く酷暑期や厳寒期には容量が大きく減少してしまうことなどの欠点により航続距離が短くなる課題を抱えていた。その点、全固体電池は安全性、寿命、出力などの点でリチウムイオン電池を大きく上回る性能をもつものとして期待されている。
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トヨタは、2006年とかなり早いタイミングから全固体電池における要素技術の研究開発に着手している。2023年10月には、全固体電池の量産化に向けて出光興産と業務提携を発表したことは記憶に新しいだろう。
また、昨年2月から1年間Web上に掲載された記事数をみると、全固体電池に関連する記事としてトヨタが圧倒的な数となっていることから、トヨタの本気度が伺える。
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2022年6月、国立研究開発法人物質・材料研究機構 (NIMS)が設立した「全固体電池マテリアルズ・オープンプラットフォーム(以下MOP)」にトヨタが参画することが発表された。MOPは、界面解析技術や新しい固体電解質の材料探索技術など、各社で協調可能な領域における共同研究を促進することを目的として2022年度より本格的な活動を開始。ほかにも、JX金属、JFEスチール、住友化学、太陽誘電、デンソー、日本特殊陶業、三井金属工業、三菱ケミカル、村田製作所の計10社が参画している。
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2023年10月、トヨタは全固体電池の量産化、サプライチェーン構築において出光興産との協業を発表した。実は全固体電池での協業は今に始まったことではなく、2013年から共同研究を進めてきた。全固体電池の研究開発においては、両社とも歴史が長い。出光興産は硫化物系の固体電解質の研究を2001年から開始しており、トヨタも2006年から要素技術研究・開発に取り組んでいる。
なお、全固体電池に関する特許出願件数はトヨタ・出光興産ともに世界トップクラスで、両社の特許を合わせると195件にのぼる。
今回の提携は、硫化物系の固体電解質が対象で、電池の加工や組み立てなどの量産技術をもつトヨタと、その材料の製造技術の特許をもつ出光興産がタッグを組むことで、材料開発から製造、量産化まで一気通貫で担うことが可能となる。
硫化物系固体電解質は全固体電池の素材のひとつで、主に硫化リチウムや五硫化リンなどを原料とする固体電解質だ。大容量かつ高出力であることが特徴で、EVなど車載用電池での活用が期待されている。ただし、主原料が硫黄であるため、発火の危険性や有毒ガスである硫化水素が発生するといった課題がある。
トヨタと出光は、2028年までに全固体電池を実用化するにあたり、両者でタスクフォースを結成。硫化物固体電解質と全固体電池の量産化技術の確立を目指しており、いずれ安全性や耐久性といった課題はクリアするものとされる。
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トヨタは、2024年3月にパナソニックの子会社である「プライムアースEVエナジー株式会社(以下、PEVE※旧名:パナソニックEVエナジー)」を完全子会社化した。もともと、PEVEはEVやハイブリッド車用の蓄電池の開発を目的に設立された会社であるが、設立当初からトヨタが40%出資をしていた。2005年にはトヨタの出資比率が60%まで増加し、2010年にはトヨタがさらに80.5%に増資し、社名もプライムアースEVエナジー株式会社へ変更した。このことにより、EVバッテリーの需要拡大に対し、さらなる国際的競争力を高めることが可能となる。
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2027年度には国内に固体電解質のパイロットプラントを稼働させ、2027〜2028年に発売するEVに搭載して商品化する予定だ。また、2030年には電気自動車の販売台数を2026年の目標値である150万台の2倍以上となる350万台で、そのうち次世代のバッテリーEVは170万台としている。その中に、数年以内に全世界への投入を目指す全固体電池も含まれてくるだろう。
なお、全固体電池を搭載した電気自動車(EV)は、10分以下の急速充電で約1200kmを走れることを目標に開発を進めていると説明。航続距離は現行EVである「bZ4X」の2.4倍にものぼる。
全固体電池の開発に力を注ぐのはトヨタだけではない。日産やホンダ、また材料メーカーである三井金属鉱業やAGC、さらにはCATLやBYDなどの中国企業も実用化に向けた戦略を発表しており、まさに群雄割拠の様相を呈している。
日産は2010年に同社初の電気自動車「リーフ」を発売し、2023年7月に世界で100万台の電気自動車(EV)の販売を達成。また、全固体電池の開発も進んでおり、2021年11月に発表した長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」で、2028年度までに自社で開発した全固体電池を搭載した電気自動車(EV)を市場投入すると明言。
また、ホンダは2021年4月に現社長である三部敏宏氏が社長就任会見において、先進国全体でのEV・FCEVの販売比率を2030年に40%、2040年にはグローバルで100%にまで引き上げることを宣言した。くわえて、全固体電池を独自に進めており、実証ラインでの生産技術の検証に着手し、2020年代後半のモデルに採用できるよう研究を加速するとも発表している。
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さらに、自動車メーカーだけでなく、三井金属鉱業やAGCなど材料メーカーも開発を本格化させている。三井金属鉱業は、2024年1月に全固体電池向け固体電解質「A-SOLiD」量産試験用設備の生産能力を現状の3倍程度にすると発表。
また、AGCは2023年にガラスと化学の技術を融合させた独自の溶融法によって、硫化物系固体電解質の生産に成功。製造時間が従来の方法よりも1/10になる新技術で、2028年頃までの事業化を視野に入れている。
中国でも2024年に大きな動きがみられた。同年1月には、全固体電池の開発を目的として電池メーカーのFinDreams BatteryやCATL、Gotion High-tech、Svolt Energy Technology、CALB、EVE Energyと、自動車メーカーの「BYD」「Nio」などが参画するコンソーシアム「中国全固体電池協同創新(CASIP)」が発足。なお、この取り組みは産学官を巻き込んだもので、2030年までのサプライチェーン構築を目指す。
また、中国国家知識産権局によれば、全固体電池に関連する特許出願件数は7640件と全体の36.7%を占めており、特許出願件数はここ5年で年平均20.8%も増加し、伸び率は世界第1位となっている。
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全固体電池の実用化や市場投入は当面先であり、現在ではリチウムイオン電池や半固体電池が主流だ。しかし、カーボンニュートラルを含む気候変動対策などのトレンドもあり、全固体電池の需要は伸びると予測される。近年は、技術革新によってビジネス環境は著しく変化を遂げている。自社がおかれている業界にとらわれず、各国の動向や各社の取り組み、新しい技術の活用状況など広く情報を収集し、自社の研究開発や事業戦略に生かしていくことが肝要といえるだろう。
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