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研究開発型の事業開発に不可欠なバックキャスティングを徹底解説

未来を指し示すコンパス

近年、めざましいスピードで技術革新が進み、企業間での競争は激化している。コモディティ化した製品群では差別化が困難であり、価格競争へ陥ってしまいがちだ。日本の製造業においてもその影響は色濃く、高付加価値商品への転換と新たな新規事業創出に焦点が当てられている。

特に日本の研究開発は開発投資が利益に結びついてないという指摘も多く、変革への焦燥と期待は高まるばかりである。一方、技術を軸にした製品化は3年から5年以上の歳月を要する場合も多々あり、すぐに製品のプロトタイプを製作し、市場に投下してユーザーに試してもらうということは難しい。

今回はそのような状況下の中でどのように技術を事業へと繋げていくべきなのか。バックキャスティングでの思考法について解説する。

 未来志向=バックキャスティング型の思考の重要性

バックキャスティングとは目標とする「未来のあるべき姿」を描き、次にその未来像から現在へと遡って思考する考え方だ。現在の延長から未来を想像するフォアキャスティングとの対比で提示される。フォアキャスティング型の思考だと、過去のデータや経験から課題解決を考えるため、現在地から手の届く範囲での改善に留まりがちだ。

研究開発においては、製品ライフサイクルが短期化しつつあるとはいえ、新たな事業創出を伴う技術開発には少なくとも3年から5年以上の期間を要することが多く、短期間での改善が主たる業務にはならない。中長期的な視点であるべき姿を想像することで、新しい価値を生み出すための思考が可能になる、必要不可欠な視点である。

また、研究開発部門の事業開発は他部門を巻き込むことが常であり、ステージゲート方式での事業開発を採用していることも多々ある。コア技術から事業化に向けたアイデアの創出、差異化要素の発見と量産に向けた製品レベルのプロセス開発・技術開発、量産に向けた製造プロセスや営業体制の構築など、それぞれのフェーズで異なる部門が担当することになる。共通の未来像を描くことで、スムーズな意思決定と合意形成の実現が可能になるのだ。

一方、VUCA時代:将来の予測が困難な不確実性の高い時代の到来も提唱されており、アジャイル型の開発への変革を推進している企業も多いだろう。とにかく試してみるということができる事業体にはマッチするが、研究開発はそうはいかない場合も多い。また、アジャイル型の開発においても、あるべき姿の認識を合わせておくことで、何か課題が生じた際も軌道修正がしやすく、あらゆる手段の検討を進め、想像している未来像をアップデートしながら進めることができる。

あるべき姿を描きながら、アジャイル型で進める部分とステージゲート型で進める部分を切り分ける、未来志向を軸にしたハイブリッド型の事業開発が求められているのだ。ではどのように未来像を描き、バックキャスティングするべきなのだろうか。

 事業開発を実現する、バックキャスティングのための3つの切り口

唐突に未来像を描くべきだ、と言われてもどのように考えれば良いのか迷子になることも多い。未来を描き、事業アイデアを生み出すためには、現在地を深く理解することが重要だ。

フォアキャスティング型の思考なのでは?と考えられる方も多いだろうが、未来像を描くには膨大な情報から多様な組み合わせを検討すること、つまり現在の環境把握とアイデア創出の掛け合わせによって、飛躍した新しい発想を生み出し、そこに向かって取り組みを進めるところに勘所がある。

特に、技術を事業に繋げていくバックキャスティングを考える上では、3つの切り口から考えを始めるのが良いだろう。

 1.技術の未来を掴む

1つ目は技術だ。日々、研究開発を推進される中で、自身の技術領域がどのようにこれから進歩していくのかを考えることは多いだろう。まずは自分が最も詳しい領域から、考える時間軸を伸ばし、10年後や20年後の技術がどのようになっているのか、どのように進歩させたいのかを検討することから考えることだ。

 2.社会のトレンドを掴む

2つ目は社会の未来像だ。これからの社会がどのように変わっていくのか。SDGsや6G、メタバースなど様々なビッグトレンドがあるはずだ。そのようなトレンドからどういう変化が起きそうなのかを考えることが重要だ。

 3.企業として目指す方向性を掴む

3つ目は企業としての方向性だ。中期経営計画や統合報告書に「2030年のあるべき姿」や「今後の注力領域」などが公表されているのを目にするだろう。近年、パーパス経営に注目が集まっている中、各企業がこれからどのような存在であるべきかを発信する機会は増えていくだろう。

新しい事業創出が求められるとはいえ、企業としての方向性に沿わないものは進めづらいという側面もあるはずだ。自社がどこに強みを持ち、どのような方針で企業・事業を運営しようとしているのか。ここに未来を描くヒントがあるはずだ。

この3つの交点になるところが一番取り組みが進めやすい領域になるだろう。重要なことは3つの視点をそれぞれ考えながら、その交点、すなわち勝ち筋のある事業テーマを絞ることにある。その上で自身が興味や熱意を持って取り組める事業アイデアを見つけることなのだ。事業開発とは異なるが、バックキャスティング型の思考で変革を推進しているSUZUKIの事例も参考にして欲しい。

 事業アイデアを強固にする、「発散」と「収束」

3つの切り口で膨大な情報に触れ、情報を整理・構造化していくが、なかなか強い仮説までたどり着かないという壁に直面することもある。また、事業テーマは決まったが、事業アイデアが思い付かないという悩みもあるはずだ。その際に意識すべきは「発散」と「収束」だ。

 事業アイデアを探索する「発散」

事業アイデアを探索するためには情報連想をどれだけ多く試行できるかが鍵になる。得られた技術情報や社会トレンド、想像しているあるべき姿などを少しずつ抽象化した上で、普段考えないようなものと組み合わせていくことで発想を広げていくことができる。

また、発散フェーズでは実現可能性は考慮しないこともポイントの一つである。バックキャスティング型の思考を鍛え、あるべき姿を想像しても、そこから逆算を行ってしまっては意味がない。設定した未来像を良い意味で空想の世界として捉えて考えるのだ。

 事業アイデアを固める「収束」

事業テーマやアイデアを絞り込んでいくことも最後には必要だ。絞り込んでいくには、市場性や一定の実現可能性という面も考慮に入れる必要があり、経験やセンスが問われる側面もあり、属人化しやすい領域だ。技術開発という面を鑑みれば研究計画書や企画書という形で根拠を補強したり、ストーリーを付加することもあるだろう。

社内の知見者の力を借り、壁打ちを行うことことで解消することができる。事業テーマやアイデアを判断できる人がいないという声もよくお伺いするが、多くの企業は祖業以外の事業が中核事業となっていることの方が多いのではないだろうか。社内には必ず知見者が存在しており、社外の方へインタビューを行うことも可能だ。あらゆる手段を使って、フィードバックを受け取り、アイデアをブラッシュアップするのだ。

そして最後は自身が熱意を持って取り組めることができるのかも重大指針となるだろう。新しい事業は根拠なき自信と熱意に支えられているのだ。

 未来像を描いた先にある定点観測とアップデート

現在の社会環境がVUCA時代と呼ばれているのは先に述べた通りである。また、研究開発からの事業開発には時間が掛かるということも前述した通りだ。あるべき姿=未来像を描いたとしても、その未来は1年後には陳腐化してしまうかもしれない。これは技術も同様である。

そのため、描いた未来像をアップデートすることが重要だ。これだと決めた事業テーマの概観を常に把握し、定点観測を行う。その上であるべき姿を少しずつアップデートをしていく必要がある。

・研究機関が新たな技術を開発した
・新しい社会トレンドが生まれている
・競合企業が新たな製品や協業の発表をした
・これまでにないスタートアップが誕生した

これらの情報を素早く、タイムリーに収集し、常に未来像をアップデートすることで、研究開発から事業創出へ、ステージゲート型とアジャイル型の事業開発のハイブリッドを実現することが可能になるのだ。そのためには、あるべき姿の中でも重要なテーマを把握し、その周辺情報を追い続けることが重要だ。

例えば、5Gの先にある「6G」の実装に向けてはテラヘルツ波の制御に適した材料の開発が求められている。3月10日に東北大学が安価に大量生産可能な三次元バルクメタマテリアルを発表している。6Gのトレンドを追うことは当然だが、「メタマテリアル」や今回注目された「屈折率特性」、そして「テラヘルツ波」のような特定領域に関わる周辺領域にも気を配ることが必要となる。

※参考記事:東北大学「6G通信向け電波制御材料 安価に大量生産 – 世界初 部材として供給可能な三次元バルクメタマテリアルを開発」

https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2022/03/press20220310-01-6g.html

また、以下のように企業活動と重大テーマを組み合わせて市場全体の動向を把握していくことも一つの定点観測の方法だ。こういった整理・構造化を常に行っておくことで、変化に気付きやすくなり、あるべき姿のアップデートや事業開発をスムーズに進めていくことが可能になるのだ。

「Astrategy」分析画面

 まとめ

新たな事業を技術起点で創出する。これまでの日本経済を牽引してきた製造業企業は壁を乗り越え実現してきているはずだ。

例えば、ブラザー工業株式会社では1990年に「21世紀ビジョン」を掲げ、家電やカラーコピー機の市場から撤退を決め、ファックス事業への注力を行なった。競合企業は企業をターゲットに製品開発をしていたが、一般消費者をターゲットとし、多機能な複合機の開発を実現し、市場競争に打ち勝ったのだ。

その他にもソニー株式会社がトランジスターを使って、「ポケッタブル・ラジオ」の製品化を実現した例や、今トヨタ自動車株式会社が掲げている「トヨタ環境チャレンジ2050」で、2050年に新車の平均走行時に排出する二酸化炭素の総量を、2010年比で90%削減するという取り組みも正しく、バックキャスティング型の取り組みにあたる。

このように、多くの企業は祖業から中核事業の転換をバックキャスティング型の思考で実現し、そして今変えようとしているのだ。皆様も、今回ご紹介したバックキャスティング型の思考や社内の知見を駆使して、研究開発型の新規事業へ取り組んでみてはいかがだろうか──。