2024年以降の半導体市場の見通しは?需要や各国の動向について
製造業
近年、めざましいスピードで技術革新が進み、企業間での競争は激化している。コモディティ化した製品群では差別化が困難であり、価格競争へ陥ってしまいがちだ。日本の製造業においてもその影響は色濃く、高付加価値商品への転換と新たな事業創出に焦点が当てられている。
特に日本の研究開発は開発投資が利益に結びついてないケースも多く、変革への焦燥と期待は高まるばかりである。一方、技術を軸にした製品化は3年から5年以上の歳月を要する場合も多々あり、すぐにプロトタイプを製作し、市場に投下してユーザーに試してもらうということは難しい。そのような状況下でどのように技術を事業へと繋げていくべきなのか。今回はバックキャスティングの意味や手法などについて解説する。
バックキャスティングを新規事業のアイデア創出に取り入れてみる!
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目次
バックキャスティングとは、「未来のあるべき姿」を思い描き、その未来像から現在へと遡って何をすべきかを思考する方法だ。対義語としてフォアキャスティングという言葉があるが、こちらは未来を現在の延長と捉える思考法である。
バックキャスティングは、1970年代からエネルギー政策や環境政策といった未来のあるべき姿を考える領域で、複数の環境変化などの状況設定を想定してシナリオを予測し、その後の影響を考える手法であるシナリオ分析において発展してきた。2015年の国連サミットで採択されたSDGsでの目標を達成するためのアプローチ法の1つとして、バックキャスティングが推奨されたことで認知度が高まった。
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バックキャスティングの対義であるフォアキャスティングとは、未来を現在の延長線上に起き、課題解決へのアプローチを行う思考法である。フォアキャスティングは、これまでの経験や情報を根拠に思考するため確実性が高く、現状あるリソースを活かすことができるため、短期的な課題解決に強みがある。
一方、これまでのデータや経験など蓄積から課題解決を検討するため、斬新なアイデアは生まれにくく、現状改善や短期的な課題解決に留まる可能性が高い。つまり、根本的な課題解決につながらない可能性がある。また、目先の課題の解決が優先されることから、最終的な目標に対する方向性のズレに気づきにくく、偏った選択を行ってしまう恐れがある。そのため、フォアキャスティングは現在の技術やビジネスモデル、マネジメントなどを改善する手法として活用することが望ましい。
また、バックキャスティング、フォアキャスティングのどちらかを使うのではなく、フォアキャスティングで進めつつ、ときにはバックキャスティングで目標とした最終的なゴールを目指すなど、場面に応じた使い分けが肝要である。
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研究開発においては、製品ライフサイクルが短期化しつつあるとはいえ、新たな事業創出を伴う技術開発には少なくとも3年から5年以上の期間を要することが多く、短期間での改善が主たる業務にはならない。中長期的な視点であるべき姿を想像することで、新しい価値を生み出すための思考が可能になる、必要不可欠な視点である。
また、研究開発部門は他部門を巻き込むことが常であり、ステージゲート方式での事業開発を採用していることも多々ある。コア技術から事業化に向けたアイデアの創出、差異化要素の発見と量産に向けた製品レベルのプロセス開発・技術開発、量産に向けた製造プロセスや営業体制の構築など、それぞれのフェーズで異なる部門が担当することになる。共通の未来像を描くことで、スムーズな意思決定と合意形成の実現が可能になるのだ。
一方、将来の予測が困難な不確実性の高い時代の到来も提唱されており、アジャイル型の開発への変革を推進している企業も多いだろう。とにかく試してみる事業体にはマッチするが、研究開発はそうもいかないケースも多い。また、アジャイル型の開発においても、あるべき姿の認識を揃えておくことで、何か課題が生じた際も軌道修正がしやすく、あらゆる手段の検討を進め、想像している未来像をアップデートしながら進めることができる。
あるべき姿を描きながら、アジャイル型で進める部分とステージゲート型で進める部分を切り分ける、未来志向を軸にしたハイブリッド型の事業開発が求められているのだ。
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バックキャスティングのメリットは、大きく下記の3つが挙げられる。
バックキャスティングでは、実現したい未来の姿から現状へと逆算を行うため、大きな変化や著しい変革が必要な課題解決が期待できる。
具体的な解決策が見つけづらく、正解が存在しないような課題解決にも向いている。目標達成のための手段を検討するため、選択肢を広げやすく、新しい発想も生まれやすいのが特徴だ。最終的な目標達成のために、目先の利害関係を超えた協業など、未来を見据えているからこそ、その選択ができるのだ。
目指すべき未来の姿(ゴール)が明確になるため、関係者間で認識のズレや道筋のブレが起こるリスクが減り、目標達成スピードを早くすることが可能となる。
バックキャスティングのメリットを新規事業のアイデア創出に活かすには?
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短期的な問題解決を目標とした場合、未来から逆算するバックキャスティングの手法では、かえって効率が悪くなってしまう。また、自由な発想でアイデアが出せるものの、現状と乖離したアイデアとならないように慎重に施策を検討する必要がある。
未来の姿を共有するだけでなく、現実とつなげた達成までのプロセスもしっかりと描けていかないと、何をすべきかが不明確で成果も分かりづらくなり、関係者やチームのモチベーションの低下、プロジェクトの停滞など、失敗につながる恐れがあるため注意が必要だ。
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どのように未来像を描き、バックキャスティングを行うべきなのだろうか。ここでは、バックキャスティングのやり方・手法について解説する。
未来を起点にして思考するバックキャスティングにおいて最も重要なステップである。現状のリソースや目の前の課題、これまでの状況などを一切考慮せず、純粋に「理想とする未来」を言語化してみよう。いつ、どのような状況を達成したいかについて、具体的に書き出してビジョンを固める。
ただし、理想の未来といっても、現在の事業から乖離した分野での成功など、現実離れしすぎたものであると計画の実行性が下がり、荒唐無稽なものとなってしまう恐れがある。これから市場がどうなっていくか、社会はどのように動くかといった情勢の変化を前提条件として、理想の未来のビジョンを検討してみよう。
理想とする未来の姿を描けたら、次は現状でクリアすべき課題について確認を行う。ビジョンと現在が乖離している要因が何であるかを洗い出す工程だ。未来とのギャップを埋めるためには何がボトルネックになっているのか、まずは根本的な問題を抽出し、その後1つずつ課題に細分化していく。ギャップを埋めるために、他企業との協業などプラスとなりうる、または可能性を高められそうな要素も合わせて抜き出してみると良い。
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クリアすべき課題を洗い出せたら、次に目標達成のために取るべきアクションについて考えていく。アクションの洗い出しにおいては、期間やタイミング、実現可能性などを一旦考慮せず、多く挙げることが肝心だ。
そのためには、さまざまな視点で不足なく抜き出す必要がある。たとえば、ビジネスモデルや社会制度などの仕組みに関するもの、マインドセットなどの価値観に関するもの、ソフトウェアや事業に必要な機器に関するものなど、カテゴリー別に分類して考えると不足している要素が見えやすくなる。
次に実行すべきアクションに優先順位を付けてスケジュールを立てていく。因果関係の流れを組み立てつつ、どのアクションをいつまでに実行するか、順番はどうするのかについて決めておくことが必要だ。
出来上がったスケジュールをもとにアクションを実行し、途中で新たな課題が見つかったり、問題が発生したりしたら、その都度新たな課題に対するアクションを加え、スケジュールの修正を行っていく。
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バックキャスティングマップを描き、改善に向けて動いたとしても、技術革新や社会環境、顧客の購買行動は短期間で大きく変わる可能性が大いにある。一度決めた事業企画も市場環境に合わせて適宜アップデートしていくことが肝心だ。
・研究機関が新たな技術を開発した
・新しい社会トレンドが生まれている
・競合企業が新たな製品や協業の発表をした
・これまでにないスタートアップが誕生した
これらの情報を、素早くタイムリーに収集して、常に未来像をアップデートすることで、研究開発から事業創出へ、ステージゲート型とアジャイル型の事業開発のハイブリッドを実現することが可能になるのだ。そのためには、あるべき姿の中でも重要なテーマを把握し、その周辺情報を追い続け、適宜企画の修正を行っていく必要がある。
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唐突に未来像を描くべきだ、と言われてもどのように考えれば良いのか迷子になることも多いだろう。未来を描き、事業アイデアを生み出すためには、現在地を深く理解することが重要だ。
フォアキャスティング型の思考なのでは?と考える方も多いだろうが、未来像を描くには膨大な情報から多様な組み合わせを検討すること、つまり現在地の把握とアイデア創出の掛け合わせによって、新しい発想を生み出し、そこに向かって取り組みを進めるところに勘所がある。
特に、技術を事業に繋げていくバックキャスティングを考える上では、以下の3つの切り口で進めてみるのが良いだろう。
1つ目は技術だ。日々、研究開発を推進する中で、自身の技術領域がどのように進歩していくのかを考えることは多いだろう。まずは自分が最も詳しい領域から、考える時間軸を伸ばし、10年後や20年後の技術がどのようになっているか、どのように進歩させたいのかを検討することから考えることが重要だ。
2つ目は社会の未来像だ。これからの社会がどのように変わっていくのか。SDGsや6G、メタバースなど、今では様々なビッグトレンドが存在する。そのようなトレンドからどういう変化が起きそうかを想像することが重要だ。
3つ目は企業が目指す方向性だ。中期経営計画や統合報告書に「2030年のあるべき姿」や「今後の注力領域」などが公表されているのを目にするだろう。近年、パーパス経営に注目が集まっている中、各企業がこれからどのような存在であるべきかを発信する機会は増えていくだろう。
新しい事業創出が求められるとはいえ、企業としての方向性に沿わないものは進めづらい側面もあるはずだ。自社がどこに強みを持ち、どのような方針で企業・事業を運営しようとしているのか。ここに未来を描くヒントがあるはずだ。
この3つが交わる点になるところが一番取り組みが進めやすい領域になるだろう。重要なことはそれぞれ3つの視点を考えながら、その交点、すなわち勝ち筋のある事業テーマを絞ることにある。その上で自身が興味や熱意を持って取り組める事業アイデアを見つけることなのだ。
事業開発とは異なるが、バックキャスティング型の思考で変革を推進しているSUZUKIの事例も参考にして欲しい。
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最後に、バックキャスティングによって、大幅な改革や事業推進に成功した企業事例について紹介する。ぜひ参考にしてみて欲しい。
トヨタ自動車では、2015年に「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表。ライフサイクル全体でCO2排出ゼロを目指すこと、また、クルマの持つ環境負荷を限りなくゼロに近づけることを目標に策定している。背景には、将来的にガソリン車はほとんど残らないという未来予測があり、多くの環境要因なども考慮した上で、会社の発展や存続を目指すために持続可能な開発を目指すといった視点で定められた。この目標設定はまさしくバックキャスティングのアプローチといえるだろう。
ブラザー工業株式会社では、1990年に「21世紀ビジョン」を掲げ、家電やカラーコピー機の市場から撤退を決め、ファックス事業への注力を図った。当時、競合は法人をターゲットにした製品を開発をしていたが、ブラザーは一般消費者をターゲットとした多機能な複合機の開発に成功。結果として、市場競争に打ち勝つことができた。
ソニーがトランジスタを使い、「ポケッタブル・ラジオ」の製品化を実現させた例も、まさしくバックキャスティング型の取り組みにあたるといえるだろう。1946年当時、日本におけるラジオの世帯普及率は74%にまで達していた。しかし、ソニーは市場は潜在的な成長余地があると見抜いていたという。結果として、当時世界最小のラジオ「ポケッタブル・ラジオ TR-63」の開発に成功した。見事、世界へ名を轟かせたのである。
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新たな事業を技術起点で創出する。これまでの日本経済を牽引してきた名だたる製造業企業は壁を乗り越えて実現してきているはずだ。
多くの企業は祖業から中核事業の転換をバックキャスティング型の思考で実現してきている。皆様も、今回ご紹介したバックキャスティング型の思考や社内の知見を駆使して、研究開発型の新規事業へ取り組んでみてはいかがだろうか──。