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製造業
高強度かつ軽量、さらに熱伝導性に優れる素材ということで、コーティング剤やリチウムイオン電池、半導体など幅広い分野で活用が進むカーボンナノチューブ(CNT)。本記事では、カーボンナノチューブの特徴や問題点、用途事例について解説したい。
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目次
カーボンナノチューブとは、炭素原子が六角形の格子構造を形成して円筒状になったナノ材料のことを指す。Carbon Nanotubes、CNTとも。カーボンナノチューブは、1991年に日本の物理学者である飯島澄男博士によって発見され、同年11月に科学ジャーナル「Nature」へ掲載され、世界的な注目を浴びた。
カーボンナノチューブに似た素材にグラフェンとフラーレンがある。
まずグラフェンは炭素原子が六角形に結合して平面状に広がる2次元構造のナノ材料だ。単一の炭素原子層から構成され、高い結晶性をもつ。このグラフェンを筒状に丸めるとカーボンナノチューブとなる。
フラーレンは、炭素原子が五角形と六角形で形成される球状または多面体状の単一分子を指す。元素記号はC60。
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カーボンナノチューブの構造は、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)と多層カーボンナノチューブ(MWCNT)の2種類に分けられる。
単層カーボンナノチューブは、名前のとおり単一のチューブで構成される。直径はおよそ1〜4ナノメートルで、長さは約10マイクロメートル程度。非常に微細な構造をもち、高い純度と優れた電気的・熱的特性を示す。
一方、多層カーボンナノチューブは、複数のグラフェンシートが同心円状に重なり合った構造をもつ。機械的強度に優れ、単層カーボンナノチューブよりも生産コストが比較的低いため実用化が進んでいる。
項目 | 単層カーボンナノチューブ (SWCNT) | 多層カーボンナノチューブ (MWCNT) |
構造 | 単一のチューブ構造 | 複数のグラフェンシートが同心円状に重なった構造 |
直径 | 約1〜4ナノメートル | 最小で約100ナノメートル |
長さ | 約10マイクロメートル | 多種多様 |
生産コスト | 高い | SWCNTよりも比較的低い |
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Mordor Intelligence(モルドールインテリジェンス)の調査によれば、カーボンナノチューブの市場規模は2024年に65億1,000万米ドルに達すると推定、さらに2029年には162億5,000万米ドルまで伸長すると予測している。
カーボンナノチューブの市場を牽引する大きな要因としては、太陽電池や水素貯蔵と行った再生可能エネルギーの用途における需要拡大が挙げられる。とりわけ、中国は原料となる石炭が豊富で生産コストが低いため、アジア太平洋において最大のカーボンナノチューブの生産国であり消費国だ。
また、中国は第14次五ヵ年計画で野心的な再生可能エネルギーに関する目標を掲げており、2022~2027年にかけて世界の再生可能エネルギー発電容量のおよそ半分を新たに導入する計画である。
また、中国に次ぐ成長市場と目されるEUは、2010年から2015年までの間で再生可能エネルギー容量の拡大が横ばい傾向にあったが、昨今のウクライナ情勢によって2022年から2027年における再生可能エネルギーの開発ペースは2倍以上になると予測されている。
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カーボンナノチューブは、軽量で高強度かつ熱伝導性にも優れるなど、さまざまな領域に用いることができる特性を有している。
カーボンナノチューブは非常に強い素材で、鋼鉄よりもはるかに高い引張強度をもつ。また、弾性率も非常に高く、単層カーボンナノチューブに限れば1TPaと金属材料よりも優れた数値を誇る。
高い熱伝導率をもち、銅を上回る性能を示すこともある。この特性により、放熱材料など高効率な熱管理での活用が期待されている。
カーボンナノチューブは、銅よりも電気伝導率が高い。この特性を活かし、次世代トランジスタなどの導電性材料としての応用が進められている。
カーボンナノチューブは高い強度を持ちながら、密度がアルミニウムの半分程度と非常に低く軽量であることが特徴だ。このため、航空宇宙や自動車、自転車など軽量化が求められる分野での応用が期待されている。
経年劣化を起こしにくく、長期間の使用が可能だ。そのため腐食に強い部材や耐久性の高い部材として過酷な環境下でも利用しやすい。
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非常に優れた特性をもつカーボンナノチューブだが、技術面や安全面において解決すべき課題が残っている。
カーボンナノチューブを製造するには高度な技術が求められるため、現在のプロセスではコストが高くついてしまう。また、高純度のカーボンナノチューブを量産化することが難しく、実用化の範囲が限定されているのが現状だ。
カーボンナノチューブの微粒子は、体の内部へと入り込みやすく肺やその他の臓器に有害な影響を与える恐れがあるとされている。また、大気や地中に放出された場合の長期的な影響についての研究が不足しており、安全性への懸念が払拭しきれていないのが現状だ。
水や有機溶媒などに溶けない性質をもっており、均一に分散させるのが困難だ。そのため、カーボンナノチューブを含む複合材料を製造する際には、最大限に性能を発揮するための分散技術が必要となる。
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カーボンナノチューブは、その優れた特性によって多岐にわたる領域で使用されている。ここでは、その用途事例の一部を紹介したい。
宇宙エレベーターは、地球から宇宙空間へ物資や人員などを輸送するシステムを指す。赤道上空にある約36,000kmの静止軌道に設置される衛星と地球をつなぐ「テザー」と呼ばれる、極めて強いケーブルを通じてクライマー(昇降機)が上下することで移動が可能となる。現在、テザーに使用される素材はカーボンナノチューブが有力候補とされている。
カーボンナノチューブの強度と耐熱性を活かし、高温環境や摩耗の激しい場所で使用される機械部品や自動車などのコーティングなどに利用されている。
また、カーボンナノチューブは独特な電気的特性を有するため、次世代のトランジスタとして期待されている。CNT電界効果型トランジスタ(CNTFET)は、従来のシリコンベースのトランジスタと比較して高い性能を示すとされており、非常に小さなスイッチング速度と低消費電力の実現が可能となる。
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カーボンナノチューブを製造する方法は、大きく以下の3つが挙げられる。
黒鉛(グラファイト)ターゲットに高出力のレーザーを照射し、その表面から蒸発した炭素原子やクラスターを冷却・凝縮させることで生成する方法だ。「レーザーファネス法」とも。高純度の単層カーボンナノチューブを得たい場合に最適な手法だが、大量生産には向かない。
2本のグラファイト電極間でアーク放電を発生させ、その高温により炭素を蒸発させて生成する方法だ。比較的シンプルな装置で合成が可能だが、生成中にアモルファスカーボンなどの不純物が混入することがあり、高純度のカーボンナノチューブを生成するためには追加の精製工程が必要となる。
CVD法とは、触媒金属のナノ粒子とメタンやアセチレンといった炭化水素ガスを熱分解して生成する方法だ。一度に大量のカーボンナノチューブを生成できる。
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カーボンナノチューブは、発展途上の新素材であり、本格的な実用化や量産化はまだ先といえる。現時点ではカーボンナノチューブの市場規模はさほど大きくないが、今後、研究開発でこれらの技術的課題が解決されれば、大小問わずさまざまな会社が新規参入してくることが予想される。常に、最新のトレンドを捉え、自らの会社に活かせるヒントがないか冷静に分析していくことが肝要といえるだろう。