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製造業
かつてはSFの産物とされていた「量子コンピュータ」が、今や現実の技術として着実に進化を遂げつつある。従来のコンピュータとは根本的に異なる原理に基づき、特定の複雑な計算処理において圧倒的な性能を発揮する可能性があることから、医療、金融、物流、AIなど多くの分野で革新をもたらすと期待されている。しかし、量子コンピュータとは一体どのような仕組みで動作し、どのような種類があるのか。また、私たちの社会やビジネスにどのようなメリットをもたらすのか。
本記事では、量子コンピュータの基本的な仕組みやメリットなどについて解説したい。
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目次
量子コンピュータとは、量子力学の原理を応用して情報を処理するコンピュータのことを指す。従来のコンピュータが「0」か「1」のビットで情報を扱うのに対し、量子コンピュータは0と1の両方の状態を同時に保持できる「量子重ね合わせ」や、複数の量子ビットが互いに影響し合う「量子もつれ」といった特性をもつ。これらの特性により、素因数分解や大規模データの最適化、量子化学のシミュレーションといった特定の問題において、従来のコンピュータでは困難とされる処理を効率的に行える可能性がある。
量子コンピュータの歴史は比較的浅い。1981年に行われた基調講演「物理学と計算」で物理学者のリチャード・ファインマン氏が提唱した仮説がきっかけとされ、その後、1985年にはデイヴィッド・ドイッチュ氏が量子チューリングマシンの概念を発表し、計算理論としての基礎が築かれた。その後、1994年にピーター・ショア氏が素因数分解を効率的に行う量子アルゴリズムを発表したことで、量子コンピュータの開発が世界的に加速した。
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量子コンピュータが動く仕組みや原理は極めて複雑かつ難解だ。仕組みや原理、構造について細かく解説しよう。
動く仕組みは大きく3つに分けられる。まず1つが0と1の両方の状態を同時に保持できる特性だ。「重ね合わせ」と呼ばれ、量子ビットは「0」と「1」の状態を同時に持つような確率的な重ね合わせ状態にある。これは量子力学の基本的な原理の1つだ。
もう1つが「量子もつれ」だ。量子もつれとは、2つ以上の量子が互いに強く相関し、1つの量子の状態を測定すると、もう一方の量子の状態も瞬時に決定される現象のことをいう。
最後が「量子干渉」だ。量子状態が互いに影響を及ぼし合い、特定の結果を強調し、他の結果を打ち消す現象のこと。量子アルゴリズムにおいて、複数の計算経路が存在する場合、これらの経路が干渉し合い、正しい解に対応する経路が強調され、誤った解に対応する経路が打ち消されるように設計される。これら3つの特性によって、特定の種類の計算問題において、従来のコンピュータでは実現が難しい複雑な計算を効率的に行うことが可能となる。
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量子コンピュータは、量子ビットを構成し、量子ゲートを用いて計算を行う量子プロセッサ、冷却装置、制御電子回路、測定装置などの主要部品から構成される。量子ビットは非常に繊細で、外部からの熱や電磁的なノイズによって状態が乱れやすい。そのため、冷却装置を用いて極低温環境を維持することが重要となる。
量子コンピュータの構築には、量子ビットを実現するための方式によってアルミニウム、ニオブ、タンタル、シリコン、ダイヤモンドなど、多様な素材や材料が用いられている。
近年では、従来の金属材料に加え、窒化ニオブ(NbN)や窒化アルミニウム(AlN)などを用いた新しい超伝導量子ビットの開発が進められている。これらの材料は、酸化物層の形成を抑えられる可能性があり、ノイズを減少させ、量子ビットの性能向上が期待されているのだ。
量子コンピュータは実現方式によってさまざまなものが存在する。ここでは、代表的な3つの方式について解説していく。
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量子アニーリング方式は、量子力学の原理を利用して複雑な組合せ最適化問題を効率的に解くための計算手法のことを指す。1998年に東京工業大学の西森教授らが提案した。カナダのD-Wave社が2011年に世界初の商用量子コンピュータとして商品化したことで注目された。この方式は、特に「巡回セールスマン問題」や「ナップサック問題」など、膨大な選択肢の中から最適な解を見つける際に適するとされている。
量子コンピュータの主要な計算モデルの一つであり、古典コンピュータの論理回路に相当する量子ゲートを用いて量子ビットを操作して計算する方式。量子ビットに何を用いるかによって、さまざまな実現方式が提案されている。
超伝電導方式
代表的なものとして、超伝導体の特性を活用して人工的な原子を作り出し、その基底状態と励起状態を量子ビットとして利用する。
イオントラップ方式
荷電粒子であるイオンを電磁場で捕捉し、レーザー光を用いて量子状態を制御する。
光量子方式
光子を量子ビットとして利用する。
シリコン量子ドット方式
半導体の集積化技術を応用する。
トポロジカル方式
トポロジー的に保護された状態で量子ビットを実装することで従来の量子コンピュータよりも高い耐障害性と安定性を実現する。
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極低温に冷却された中性原子を量子ビットとして利用する実験研究が進められている有望な方式の1つ。この方式は、高いコヒーレンス時間と拡張性を兼ね備えており、将来的な大規模量子コンピュータの実現に向けて注目されている。
量子コンピュータが社会実装された場合、我々はどのような恩恵を得られるのだろうか。現在考えられるメリットは大きく以下の2つが挙げられる。
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量子コンピュータは、従来のコンピュータでは膨大な時間がかかる特定の問題に対して、飛躍的な計算速度を実現する可能性がある。従来では何年もかかるような計算をわずか数秒で解く可能性があるなど、圧倒的な処理速度が注目されている。
量子コンピュータは、従来のコンピュータと比較して、特定の計算において少ない電力で処理を行う可能性がある。量子コンピュータの消費電力はキロワット級であり、将来的に消費電力を1/1000以下に減らす能力を秘めている。たとえば、D-Wave Systems社が開発したアニーリング方式の量子コンピュータの消費電力は、冷却装置を含めて25キロワット以下の消費電力で稼働するとされている。
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量子コンピュータの実現は、産業に大きなイノベーションをもたらす夢の技術だが、従来のコンピュータの計算能力を凌駕するには、幾多もの技術的課題を解消しなければならない。
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量子コンピュータは、量子力学的な重ね合わせ状態を維持しながら計算を行わなければその力は十二分に発揮されない。外部環境からのノイズや干渉により、この状態が崩れる現象をデコヒーレンスと呼び、計算精度の低下を招く要因となる。デコヒーレンスを最小限にとどめるには「量子エラー訂正技術」が欠かせない。しかし、この技術を実装するには、1つの論理量子ビットを表現するために多数の物理量子ビットが必要となり、現行の量子ハードウェアでは実効的な量子ビット数が制限されるという課題がある。
量子コンピュータでは、量子ビットの安定性と精度を確保するため、絶対零度に近い極低温環境が不可欠だ。しかしながら、システムが大規模になるとケーブルや配線、機械的な振動や電磁的なノイズなどによって熱流入が増加し、希釈冷凍機の冷却能力が限界に達する可能性があるため、熱設計と高密度実装が重要な課題となっている。
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量子コンピュータが実現したら、具体的にどのような社会課題を解決できるのだろうか。ここでは、代表的な3つの事例を紹介したい。
量子コンピュータの実用化により、現在のの暗号技術の安全性が脅かされる危険性がある。たとえば、現在、仮想通貨に採用されているRSAやECDSAなどの暗号方式は、量子コンピュータの登場によって解読・不正利用されてしまう懸念が示されている。
一方で、この特性を利用して「量子暗号」の構築の研究も進められている。量子暗号とは、量子力学の基本原理を利用して通信の安全性を確保する技術だ。従来の暗号は数学的に解読が難しいことを前提に安全性を保っているが、量子暗号は量子力学の性質を活かし、「盗聴されるとすぐに分かる」仕組みを持つため、理論上、第三者に気付かれずに盗聴することは不可能とされている。
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AIのアルゴリズム構築にも革新がもたらされると期待されている。量子ビットの重ね合わせや量子もつれといった性質を利用することで、従来の機械学習では困難だった並列計算や情報の相関関係の解析が可能となる。
量子コンピュータの進展により、新薬開発プロセスの革新が期待されている。新薬開発では、薬剤候補分子と標的タンパク質との相互作用をシミュレーションすることが重要だ。従来のコンピュータでは、分子の複雑な挙動を正確に再現するには膨大な計算時間が必要となる。量子コンピュータは、量子力学の原理を活用して、これらのシミュレーションを高速かつ高精度で行うことが可能だ。また、創薬プロセスでは膨大な化合物から有望な候補を選び出さなければいけない。量子コンピュータは、組み合わせ最適化問題の解決に優れているため、最適な化合物を効率的に探索することが期待されている。
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量子コンピュータは、従来のコンピュータでは処理が困難であった複雑な問題に対して、新たな計算アプローチを提供する革新的な技術だ。その仕組みや種類は多岐にわたり、現在も世界中で活発な研究と開発が日々続けられている。まだ多くの技術的な課題があるものの、実用化が進めば、暗号解析、AI、材料設計、新薬開発など多様な分野において飛躍的な進展が期待される。量子コンピュータは、私たちの社会や産業の構造を根本から変える可能性を秘めた技術であり、今後の動向から目が離せない。