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なぜCATL(寧徳時代新能源科技)は世界最大のEV電池メーカーになれたのか?成長の背景と強さの秘密

なぜCATL(寧徳時代新能源科技)は世界最大のEV電池メーカーになれたのか?成長の背景と強さの秘密

自動車産業の重心がエンジンから電池へと移り変わるなか、急速に存在感を高め、今やEVバッテリー市場の頂点に立つ企業がある。それが中国発のEVバッテリーメーカー「CATL(寧徳時代新能源科技)」だ。設立からわずか十数年で、テスラやBMW、現代自動車など名だたる自動車メーカーの心臓部を支えるまでに成長している。本記事では、現在に至るまでの事業戦略や技術戦略、そしてCATLがもつ圧倒的な競争力の秘密に迫りたい。

 CATL(寧徳時代新能源科技)とは?

CATLは、2011年に中国福建省寧徳市で設立された世界有数のEVバッテリーメーカーだ。正式名称はContemporary Amperex Technologyで、略称はCATL。日本語では一般的に「シーエーティーエル」とアルファベット読みされ、稀に「キャトル」とも呼ばれる。

同社は、BMW、メルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲン、フォード、ホンダ、現代自動車、ボルボといった海外自動車メーカーと提携し、EV向けバッテリーの開発や製造を実施。また、エネルギー貯蔵システム(ESS)分野にも注力している。2021年には欧州最大のグリッドサイド・バッテリー蓄電プロジェクト「Minety Battery Energy Storage System(Minety BESS)」に参画。さらに、2022年にイギリスの投資運用会社Gresham Houseと最大10GWhのエネルギー貯蔵システムを供給する長期契約を締結した。

 ATLとCATLの関係性

両社とも曽毓群(ロビン・ゼン)氏によって作られた会社である。ATLは香港に本社をおくリチウムイオン電池の大手メーカーで1999年に設立された。同社は、スマートフォン、ノートパソコン、AR・VRデバイス、Bluetoothイヤホンといった電子機器向けに高性能な充電式リチウムイオン電池セルやパックを開発・製造している。その後、2005年に日本のTDKに買収され、AppleやSamsungなどの大手テクノロジー企業にバッテリーを供給する主要サプライヤーとなった。

 CATL(寧徳時代新能源科技)の創業の歴史・歩み

CATLは、創業者の曽毓群氏が設立したATLからEV用バッテリー事業をスピンオフする形で2011年に誕生した。また、中国政府は2009年以降から新エネルギー車(NEV)産業の育成を国家戦略として位置づけ、EVやその主要部品であるバッテリー産業に対して多額の補助金や税制優遇措置を導入。このような後押しもあり、CATLは急速にEVバッテリー市場での地位を確立する。2012年にはBMWとの戦略的パートナーシップを開始。2017年にはパナソニックを抜いてEV用車載電池の出荷量で世界トップに躍進。翌年には深セン証券取引所に上場し、世界的な注目を集めた。

また、2017年には日本に100%出資の子会社「日本時代新能源科技株式会社」を設立し、2018年には神奈川県横浜市に営業拠点を開設している。2019年7月には、トヨタ自動車と「新エネルギー車(NEV)用電池の安定供給と技術開発を目的とした包括的パートナーシップ」を締結。この協業は、単なる電池の供給にとどまらず、新技術の共同開発やセルの品質向上、さらには電池のリユースやリサイクルといった幅広い分野にまで及んでいる。

さらに、2024年12月にはスペイン・サラゴサでリン酸鉄リチウム電池工場を建設するため、ステランティスと最大41億ユーロ(約4,300億円)を投資する合弁事業を発表。同プロジェクトは、両社が50%ずつ出資する形で進められ、2026年末の稼働開始を目指す。生産能力は最大50GWhに達する可能性があり、欧州におけるEV市場の需要に応えることを目的としている。

CATLの事業成長・戦略年表

 CATLが成長した背景

CATLは創業からわずか十数年あまりで世界シェア首位の座に登り詰めた。ここまで成長したのには、どのような背景があるのだろうか。その要因として考えられるのは主に以下の3点だ。

 中国政府のバックアップ(政策面)

中国政府は2009年以降から新エネルギー車(NEV)産業の育成を国家戦略として位置づけ、EVやバッテリー産業に対して多額の補助金や税制優遇措置を導入。2009年から2022年の間で、中国政府はNEV産業に対して総額約1730億ドルの補助金を支出したとされる。

この背景には、2015年5月に発表された「メイド・イン・チャイナ2025」計画内で、EVが10大重点産業分野の一つに指定されていることも挙げられるだろう。

また、2016年に中国政府が導入した制度により、EV補助金を受けるには認められた中国企業のバッテリーを使用する必要があった。これらの後押しもあって、CATLは国内市場での優位性を確立し、外資系バッテリーメーカーとの競争を回避できた。

 急速なEV市場の拡大(市場面)

特に中国国内のEV市場の急成長は、CATLの事業拡大を強力に後押ししている。ちなみに、英調査会社ロー・モーションは、2025年の世界のEV販売台数は前年から17%増加し、2,000万台を超えると予測されている。このうち、中国市場は過半数を占めるとみられており、CATLの成長を後押しする重要な要因となっている。

また、欧州やアジアにおけるEV用バッテリーの製造・開発は、近年、中国市場への依存が顕著に進んでおり、特に、リン酸鉄リチウム(LFP)電池の活性材料においては、世界生産の98%以上を中国が占めているとされる。

 早期からの技術投資と独自性(技術面)

同社は、EV市場の黎明期から他社に先駆けて次世代電池技術の研究開発に注力してきた。CATLの前身ともいえるATLでもスマートフォンやノートパソコンなどの小型電子機器向けリチウムイオン電池の開発・製造を行っており、この経験がCATLの技術的基盤となっているといっても過言ではない。特に、リチウム鉄リン酸(LFP)電池の活性材料においては世界生産の98%以上を中国が占めており、CATLはこの分野での技術的優位性を確立している。

 CATL(寧徳時代新能源科技)の特徴・強み

CATLの特徴・強みは大きく以下の3つに集約される。

 垂直統合型のサプライチェーン

原材料調達から電池セルの製造、モジュールパックの組み立て、リサイクルに至るまで、バリューチェーン全体を自社内で完結させる垂直統合型のビジネスモデルを採用。このモデルによって、コスト競争力の強化や品質管理の徹底、供給の安定化が可能となり、特にリチウムやコバルトといった重要資源の確保においても優位性を発揮している。

 グローバルな生産拠点と強力なパートナーシップ

CATLは、中国国内に加え、ドイツやハンガリーなどにも生産拠点を設け、グローバルな供給体制を構築。また、トヨタ自動車やBMW、フォルクスワーゲン、テスラなど世界的な自動車メーカーとの戦略的パートナーシップを通じて国際市場でのプレゼンスを強化している。

 エネルギー貯蔵システム(ESS)への事業拡大

CATLは、EVバッテリー市場だけでなくエネルギー貯蔵システム(ESS)分野にも積極的に進出している。2024年4月には「TENER」と呼ばれる革新的なエネルギー貯蔵システムを発表。このシステムは、5年間にわたり容量と出力の劣化がないことが特徴で、6.25MWhの容量を20フィートのコンテナに収める高密度設計となっている。同社のESS事業は、産業用や商業用、住宅用の大規模な電力貯蔵から、無停電電源装置(UPS)、基地局、オフグリッドシステム、スマート充電ステーションなど、さまざまな分野で利用が可能だ。

 まとめ

CATLが世界最大のEVバッテリーメーカーに成長した背景には、卓越した技術開発力や量産体制に加え、EV市場の黎明期から次世代電池技術の開発に積極的な投資を行ってきたことが大きいといえるだろう。同社は単なるバッテリーメーカーにとどまらず、社会を支える次世代エネルギー企業としての地位を確立しつつある。

近年は、技術革新によってビジネス環境は目まぐるしく変化を遂げている。自社の業界にとらわれず、EVや次世代電池技術などにも視野を広げることで、そこから得られた知見を自社の新規事業開発や研究開発に活用できることが望ましい。