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製造業におけるコアコンピタンスを解説!ケイパビリティとの関係性とは?

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今や製造業の企業を取り巻く状況は、製品のライフサイクルの短命化、グローバル化の進展による市場競争の激化、そして技術力向上による製品のコモディティ化が進み、売れる製品開発を行うため独自の強みを持つことの重要性が増している。大きく変化し続ける市場環境の中、今後の事業の方向性を改めて見直し戦略を立てるために、古典的とされている「コアコンピタンス」に再度注目が集まりつつあるのだ。

この記事では、コアコンピタンスとは何か、コアコンピタンスを活かした経営のためのポイント、そしてコアコンピタンスと同時に語られることの多いケイパビリティについて解説する。開発や事業を見直す際の新たな視点を得る一助としていただきたい。

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 コアコンピタンスとは

コアコンピタンス(Core Competence)とは、企業が保有する強みの中でも、競合する相手にはない独自の「中核的な力」のことを指す。いわゆるバリューチェーンにおける特定の機能の強みのことをいう。

1990年に、ゲイリー・ハメルとC.K.プラハラードの発表した論文『企業のコアコンピタンス(The  Core Competence of the Corporation)』において、「顧客に対して、他社にはまねのできない自社ならではの価値を提供する、企業の中核的な力」と定義された。昨今ますます激戦となる市場の中で、経営業績が良好な企業とそうではない企業の差は、企業自身の持つ内部資源の蓄積から生まれているのではないかということから注目が集まりつつあるのだ。

このコアコンピタンスに焦点を当てた経営戦略は、特に差別化や差異化が重要な意味を持つものづくり産業と親和性が高い。顧客ニーズとシーズをつなぎ新たな価値や事業を創出すること、自社の得意領域の技術を発展させることが製造業企業の成長のカギとなっているためだ。

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 ケイパビリティとは

「自社の強み」という意味ではケイパビリティという言葉もよく使われるが、コアコンピタンスとは異なった意味を持つ。ケイパビリティ(capability)とは、1992年ジョージ・ストークス、フィリップ・エバンス、ローレンス E.シュルマンらによって提唱された「事業全体のプロセスについての強み、バリューチェーン全体を通しての組織の遂行能力」を意味する言葉である。

コアコンピタンスはバリューチェーンにおける特定の機能の強みを指すが、ケイパビリティはバリューチェーンを横断的にまたぐ組織的な強みを指す。ビジネスプロセスにフォーカスした考え方だといえる。

また、コアコンピタンスやケイパビリティなどの企業の持つ強みというのは一元的な独立したものとして存在するのではなく、複数の要素が有機的に繋がることで優位性となっている場合がほとんどであるということは忘れてはならないポイントだ。

 コアコンピタンスとケイパビリティの関係性

コアコンピタンスとケイパビリティは、両者とも企業の持つ「強み」として使われるが、その関係性は相互に補完し合うものだといえる。

例えば、オリンピックに出場するほどの能力を持ったスポーツ選手で考えてみるとする。スポーツ選手が大きな成果を残すためには、優れた肉体や才能だけでなく、その能力を伸ばす環境や、試合状況で能力を発揮できることが必要だ。オリンピック選手のコアコンピタンスとは、選手が持つ能力、例えば強靭な肉体や精神のことであり、ケイパビリティとはコーチの指導能力やチームの管理体制などである。

ただ、近年はコアコンピタンスとケイパビリティの両者をはっきりと区別させない考えが広まりつつあり、明確に切り分けて語句を用いる意味は薄れてきている。

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 市場変化に伴う陳腐化の可能性

今日のVUCA時代において、見出したコアコンピタンスがいつまで強みとしてその立場を維持できるかは不透明である。日本国内でもイノベーション型の開発が重要視される傾向にあり、破壊的イノベーションが起こって状況がひっくり返ることもあり得るだろう。また、市場変化に伴って次第に陳腐化してしまう可能性も否めない。

時代の潮流に乗るには、変化に適応し新たなコアコンピタンスを獲得・構築していく必要がある。そのためにはコアコンピタンス創出への継続的な投資が不可欠だろう。ただし、漫然と資金を投入するのではなく、市場分析など根拠ある未来戦略を立てた上で、可能性の模索としての投資が求められている。

 コアコンピタンス経営の誤解が招く大惨事

コアコンピタンスに注力し貴重なリソースを投入する際に誤解してはいけないのが、その時点でコアコンピタンスと認識していないものを切り捨てれば良いということではないということだ。短期で収益を上げる目先の利益に囚われ、コアコンピタンスを見誤ったり、アウトソーシング化や事業売却、大量リストラなどで極端な「選択と集中」を行うことで、リスクが高まる場合があることを念頭におく必要があるのだ。引き起こされるリスクは次のようなものが考えられる。

 ①競合企業を育ててしまう可能性がある

コアコンピタンスや将来のニーズを見誤ることで、結果的に将来の競合企業を育ててしまう可能性がある。

例えばIBMは、PC事業での自社のコアコンピタンスをビジネス向けの大型コンピューターの製造・販売だと位置づけ、個人向けのコンピューター開発は事業として選択しなかった。そのため、CPUはインテル、OSはマイクロソフトから購入していたが、時代の流れとともに個人向けコンピューター市場は盛り上がり、結果としてインテルもマイクロソフトもIBMにとって強大な競合となった。また、PCメーカーのデルは自社のコアコンピタンスを商品企画力及び早い納品・配送であるとして、回路基盤などの製造の大部分をASUSに委託していた。その結果、現在ASUSはデルの競合に育ち、市場のシェアを競い合うことになってしまった。

このように、コアコンピタンス経営は自社の強みの維持とコアコンピタンス事業外の部分における外注の有効活用が特徴であるが、注力する箇所を見誤ると後々の事業経営に大きな影響を与えてしまう可能性があるため注意が必要である。

 ②社内にスキルが蓄積されない

コアコンピタンス事業外の外部委託したものについて、社内にスキルが蓄積されないことも欠点として挙げられるだろう。また、外注管理は社内で一元管理するよりも作業コストがかかるという点も指摘できる。

 ③優秀な人材の流出

コアコンピタンス事業に絞ることにより撤退した事業などで抱えていた技術者、社員をリストラする場合、優秀な人材が流出する結果となる。

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 コアコンピタンス見極めのポイント

前述のとおりコアコンピタンスを見誤ると多大なリスクが発生する可能性がある。コアコンピタンスを見誤らないために、見極めのための5つの視点をご紹介する。


・模倣可能性(Imitability)
競合他社に簡単に真似されてしまうことはないか。

・移転可能性(Transferability)
他の製品やサービスに応用できそうか。

・代替可能性(Substitutability)
他のものでは代えがたい強みであるか。

・希少性(Scarcity)
製品やサービスとしてほとんど出回っていないものであるか。

・耐久性(Durability)
長期に渡って市場において優位性を維持できるかどうか。

これら5つの観点から内部資源を検討する。模倣可能性・代替可能性が小さければ小さいほど、企業独自の価値として強いコアコンピタンスたり得る可能性が高まり、移転可能性や希少性、耐久性があればあるほど、競合企業・製品に対して市場で優位となる可能性があると判断できる。

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 コアコンピタンスを考える上で重要な視点

自社のコアコンピタンスとは何かを検討する際に「ライバル企業に対してどのくらい強いのか」という視点はとても重要である。コアコンピタンスは自社の内部資源に着眼する視点であるが、独自の強みの優位性を測るには自社外に目を向ける必要があるためだ。単純に得意や大切ということだけで決めるのではなく、競合との差がどれくらいあるのかを把握することが重要なのだ。つまり、競争相手との絶対的な位置関係や製品などの差異について、確かな情報を多方面から収集し比較できなければならない。

 コアコンピタンスを軸とした経営に必要な視点

激化する市場の中で生き残り、成長を続けていくためには、自らが勝てる市場を創出するという意識が必要である。将来の顧客や市場、求められる製品や技術がどのようなものなのかを描き、新たな市場を創っていかなければトップに君臨することは難しいのだ。

コアコンピタンスを起点とした、新しい市場の創造やイノベーションの創出には次のような視点が大切である。

①自社が追求すべき顧客価値は何か(明確なビジョンの確率)
②顧客価値を提供するために強化し高めていくべき自社技術やスキルは何か(コア技術などの深化と探索)
③長期的な関係性を築くための顧客との関わり方はどうあるべきか(売り切りで終わらない長く続く関係性の構築)

つまり、顧客に真摯に向き合い、新たな価値を提供できるように、自社の持つ技術や能力を磨くことが必要である。前述したような、自社の利益を最優先させたアウトソーシング化や、人材の大量リストラなどは、コンピタンス経営の実践とは到底言えないのだ。

 コアコンピタンス実践の実例

コアコンピタンスの実践の実例として、ユニ・チャームを挙げる。

ユニ・チャームは元々建材の製造企業として起業し、現在は生理用品・紙おむつが事業の柱となっている。多角化を進めていたこともありレジャー産業なども行っていたが、コアコンピタンスを「不織布と吸収体の加工・成形技術」と定め、関連のない事業は全て撤退している。つまり、コアコンピタンスを軸とした経営にシフトしたのだ。

その結果、紙おむつ・生理用品の製造・販売は国内トップシェアとなっており、世界においても高いシェア率を維持している。例えばタイにおける紙おむつ市場は、幅広い消費者ニーズに応えた商品展開で、約90%という圧倒的な市場シェアを獲得している。また、高齢出産が増えることに伴う低体重児の増加を予測した低体重児用紙おむつの開発など、将来の顧客ニーズを見越した商品開発に積極的な姿勢を見せている。変化に適応することだけでなく、新たに創り出していくことを重要としているのだ。

参照記事:
ユニ・チャーム「統合レポート2021」
https://www.unicharm.co.jp/ja/ir/report/download.html
Forbes JAPAN「売上高4倍を実現した「ユニ・チャーム」2代目社長の勝ちパターン」
​​https://forbesjapan.com/articles/detail/18397/1/1/1

ユニ・チャームの実例からも分かるように、自社の強みであるコア技術を軸とした経営と、将来の顧客ニーズを見越した戦略に基づく開発が企業成長の礎となっている。

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 まとめ

製造業を取り巻く環境は、これまでにない速さで変化を続けている。激化する市場の中で生き残るためには、自社のコアコンピタンスを把握し新たな製品や事業につなげられるかどうかが重要なカギとなることは間違いない。

もはや勝ち残るためには環境の変化に適応するだけでは足らず、顧客価値と向き合いコアコンピタンスと将来のニーズを繋げ、新しい市場を自ら創造していくことが必要である。まずは、自社のコアコンピタンスを見つめ直すことから始めてみてはいかがだろうか──。