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コア技術を顧客価値に転換する-顧客価値を意識した製品開発へ

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デジタル化・モジュール化・コモディティ化が進み、低コストを売りにした新興国との競争激化が加速する製造業。技術力を軸にした高付加価値製品や新たな顧客価値を伴う製品開発による競争優位の確保が重要な経営課題となっている。日本の研究開発費は国際的にも上位に位置する一方、WIPO(世界知的所有権機構)が発表した「イノベーションランキング」では13位と振るわず、技術を活かした新たな顧客価値創出と製品開発・新規事業開発に苦戦している状況である。顧客価値を意識した製品や事業を生み出すにはどのような視点が必要なのか。製造業に焦点を当てご紹介する。

 顧客価値とは。技術シーズと顧客ニーズを繋ぐ接合点

顧客価値とは、「顧客が製品やサービスに対して適正だと感じる価値」のことだ。顧客価値は様々な分類があるが特に製造業においては、「機能価値」と「情緒価値」を意識することが重要である。「機能価値」とは製品やサービスの機能・スペックや品質において顧客に提供できる価値のことだ。

一方、「情緒価値」とは製品やサービスを利用する際に、顧客が体感できる精神的な側面での価値のことだ。コア技術を軸にした「差異化要素」によって製品や事業を形成することの多い製造メーカーにおいては、技術シーズと顧客ニーズが重なる部分において、機能的価値と情緒的価値を生み出すことが必要である。

 製品化・事業化において、高まる顧客価値の重要性

モノづくりからコトづくりへ、製造業における価値づくりへの転換は言わずもがなだ。なぜ、顧客価値を意識した製品化や事業化が必要なのか。背景には2つの要因がある。

 機能と品質の向上が顧客価値に転換しない

日本の製造メーカーが得意としてきた「機能と品質の向上」が顧客価値に転換しなくなったことである。定量化された機能・スペックの向上が一定の顧客満足を得られる水準を超えているため、これ以上改善しても更なる顧客価値の上積みや差別化に繋がらない状況に陥っている。

 モジュール化による競合企業の台頭

昨今、技術の加速度的な発展とグローバル化の波の中、製品や事業の差異化要素にならない領域に関しては、モジュール化が顕著になっている。一度、市場に投入された製品であれば、製品を分解してそこまで技術力が高くない新興企業でも同程度の製品の製造が可能になっている。

そのため独自性が生み出せず、低コストで生産が可能な新興国の企業との価格競争に陥ったり、自社で工場を保有しないファブレス企業などが成長をしており、独自性のある製品やサービスを生み出すことに力点を置く企業も現れている。

このような背景の中、純粋な「ものづくり」では顧客価値の創出ができず、新たな顧客価値の創出、つまり「価値づくり」が重要になっている。デジタル化の波が押し寄せる中、ソリューション提供型の製品や事業に注目が集まっていることからもわかる。

 顧客価値を考えるために知っておくべき考え方

顧客価値創出の重要性の高まりとともに、製造業における価値の在り方も変化しつつある。ここでは、コア技術を製品や新規事業に繋げるために知っておくべき考え方をご紹介する。

 顧客を中心とした体験価値-サービス・ドミナント・ロジック

従来は、「品質や機能の良いものは売れる」という製品中心主義の考え方が基本的であったが、現在は製品・サービスは価値を実現するための手段であり,「製品・サービスの使用を通じて得られる価値」が重要だとするサービス・ドミナント・ロジックと呼ばれる考え方にシフトしている。

この考え方における特筆すべき点は、価値が一方的に提供されるのではなく、顧客がその製品を使用した際の体験価値を重要視している点である。例えば自動車であれば、自動車という製品をデザインするのではなく、「移動体験」や「運転体験」などの体験を軸にして考えるというところに大きな違いがある。

そして、その価値そのものは顧客自身の知識を駆使して使用した結果、顧客自体が価値を主体的に判断し、生み出される価値自体もそれぞれの顧客によって異なる、価値を企業と顧客が共創するものとされている。

製品開発において、この視点は非常に重要だ。製造メーカーは製品=その製品で実現できることを軸に検討を行うことが多いが、その製品を通じて行われる体験やその先にある消費者が実現したいことを踏まえた検討を行うことで、新たな価値創出に繋げることができるようになるのだ。

 コア技術から顧客価値を生み出すためにやるべき3つの検討

一方、製造業においては、製品や事業の差別化の基盤になるのはコア技術だ。コア技術を踏まえて、どのように顧客価値創出を実現するべきなのか。以下のようなステップで検討を進めることが必要である。

 技術の棚卸

まずは社内にある「技術の棚卸」だ。技術の棚卸は目的の明確化を行い、推進することが大切である。「技術戦略の策定」や「次世代のコア技術の発見」などの目的を整理した上で実施し、部門を超えて社内に保有する技術を可視化すること、そして技術を整理する際には顧客価値を意識して行うことが求められる。また、差異化要素になり得る技術には「希少性」や「模倣困難性」が必要だ。他社が真似できない、唯一無二の技術だからこそ新しい価値になり得るのだ。

 事業ドメインの選定

次に行うべきは「事業ドメインの選定」だ。どのような事業領域で検討を進めるのか。今後の企業としての方向性は勿論のこと、その事業領域においてコア技術を活用することで、イノベーションを起こせそうかという検討である。PEST分析などの環境分析を行い、社会動向を把握した上で、勝てる市場を見つける必要がある。

 研究開発テーマの設定

3つ目は「研究開発テーマ」の設定だ。現在保有しているコア技術で十分なケースもあるが、そこから更なる研究開発が必要なことの方が多いだろう。コア技術をより強くしていくための要素技術や設計技術の開発、製造過程において必要となる生産技術など多岐に渡る。特に研究開発起点の新規事業開発においては、5年から10年という期間を要する場合もあり、事業ドメインの変化を上手く捉えながら、中長期的な視点で研究開発テーマを設定し、製品や事業に繋げることが重要だ。

これらの取り組みは企業が主体となり、技術戦略を検討する部門、基礎研究を行う部門、製品設計を行う部門など、部門をまたいだ活動となるため、自分事化しづらいという側面もあるだろう。一方でボトムアップの提案から製品化や事業化に進むこともあり、研究開発テーマにおいても、技術の棚卸や事業ドメインの選定を踏まえた研究テーマを設定することが一般的ではないだろうか。今後、事業へ直結した研究開発が求められる中、意識をしておくことが必要である。

 顧客価値を意識した製品開発や新規事業の好事例

最後に、顧客価値を意識した製品開発や新規事業の国内外の企業における取り組みの身近な例をご紹介する。

 株式会社ブリヂストン:リトレッドタイヤ

ブリヂストンではトラックやバスなどのタイヤを販売するのではなく、メンテナンス業務を中心としたタイヤに関する業務を行う、「トータル・パッケージ・プラン」を提供している。タイヤを遠隔モニタリングすることで状態を把握し、必要であれば新品タイヤやリトレッドタイヤの提案を行う。

リトレッドタイヤは、使用により寿命を迎えたタイヤのトレッドゴムと呼ばれる部分の表面を削り、新しいゴムを貼り付けて再利用したタイヤのことだ。顧客にとっては新製品を購入するよりも費用を抑えられ、ブリヂストンにとっては縮小傾向にある市場において他社との差別化と顧客との継続的な関係性を維持することができる。

また、良質なリトレッドタイヤの製造にはタイヤの土台となる台タイヤと呼ばれる部分に耐久性が必要であり、ブリヂストンのタイヤにはこの耐久性に定評があった。自社の強みになるコア技術と顧客価値の接合点から販売だけでなく、ソリューション提供型の事業に転換している。

 ライオン株式会社:ご近所シェフとも

ライオンでは、「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する」というパーパスを掲げている。新たな事業を検討する際、パーパスに貢献できているのかが、事業アイデアを評価するものさしになっている。

その中で新しく生まれてきたのは「ご近所シェフとも」という夕食のテイクアウトサービスだ。大きな特徴は、近所の飲食店が栄養バランスが考慮された家庭で普段食べるような料理を提供してくれる点である。利用者は料理を店で受け取るだけで、家庭の食卓を準備するためのあらゆる手間から解放されるのだ。

一見、これまでのライオンという企業からは想像できない新たな事業ではあるが、パーパスを再定義したことで、このような事業を生み出すことができたという。これも事業ドメインの設定の仕方として参考になる一例である。

 まとめ

製造業の製品開発や新規事業開発においては、コア技術が差別化の重要な起点となる。一方で、これまで日本企業が得意としていた「ものづくり」だけでは新たな顧客価値の創出が困難になりつつあることも事実である。

強みである「ものづくり」を活かしつつ、顧客に目を向けた「価値づくり」に繋がる研究開発を実現していくため、顧客の体験価値に目を向けながら、どのようにコア技術を顧客価値に転換できるのか。これまでと視点を変え、製品の機能・スペックだけでなく、その製品の利用を通じて、顧客がどうなりたいと考えているのか。より深く顧客に関して思考し、仮説を立ててみてはいかがだろうか──。

参考文献:
ソリューション提供型ビジネスを目指す事業構想
価値づくり経営の論理
技術マーケティング戦略
技術の事業化: 新商品・新事業のための技術活用テクニック
サービスドミナントロジックとは?グッズドミナントロジックとの違いや身近な事例
顧客価値の変化が製造業の「価値を生み出すプロセス」に与える影響の考察―商品企画のあり方についてー