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企業と組織を変革するパナソニックDX、”PX”に迫る

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日本の伝統企業が”変革”の時を迎えている。ビジネス環境はデジタル技術なしでは成り立たず、デジタルトランスフォーメーション(DX)の実現に迫られているのだ。一方、大企業ではこれまで構築されてきた巨大なレガシーシステムの再構築や新たな働き方を軸にした組織・カルチャー変革などの全社を跨いだ変革が必要となり、強いリーダーシップと推進力が必要だ。

日本を代表する大企業であるパナソニックは2021年5月、グループCIOとして玉置氏を迎え、同年10月よりパナソニックのDX、”PX”をスタートさせた。玉置氏はパナソニックでDXを推進する意味について、「パナソニックには日本企業が抱えている困難がすべて詰まっているようなもの。だからこそ、日本企業の競争力を復活させる気持ちで進めている」と語る。これまで外資系を中心に3社を渡り歩いてきた玉置氏ならではのDXにかける想いや考え、推進にあたっての試行錯誤について話を伺った。

※当記事は、2022年5月19日に開催したオンラインセミナーの内容をもとに作成しています。

 パナソニックの変革を加速させた就任後『100日計画』

玉置氏がパナソニックのCIOに就任した背景には日本経済への想いがあったそうだ。「外資系にいると日本の凋落ぶりがよく分かるんです。日本企業をこのまま息子たちの世代に渡していきたくはない。日本企業で最後の奉公をしたいと思いました」。

玉置氏は就任のプレスリリースが公表された直後からすぐに動き出した。正式な着任日である5月1日に向けてスタートダッシュを切るために、パナソニックの関係者や同社と関わりのあるベンダー企業やコンサル企業と会合を重ね、様々な情報を収集したのだという。そうして玉置氏が練り上げたのが『100日計画』だ。ここには着任の5月1日から100日間で実行したいことが盛り込まれていた。

入社してから1週間後の5月7日には、全世界のパナソニック社員に向けて計画を動画で配信し、同日にはDX準備チーム人選を終わらせたという。最初のスタートダッシュが大事なのだと玉置氏は力説する。以降、驚異的なスピードのプロジェクトにも関わらず、周囲は100日間を玉置氏とともに走り抜けたのだ。だからこそ、10月1日に大きなプロジェクトを立ち上げることができたのだという。

その過程の中で玉置氏は、パナソニック人材の底力を強く感じたという。「パナソニックという会社は本当に丁寧に人材を育てていると思います。だからこそ、外から来た人間が役員になるというのは皆さんにとってショックなことです」。玉置氏は社員に約束していることがある。それは、外部から人を呼んで人材を入れ替えることはしない、ということだ。社員のみなさんが痛みを感じている。だからこそ対話をしながら一緒に変革を進めていきたい、変革マインドに火をつけて一緒にやり遂げるのだと語る。

DXはデジタルの課題にあらず、経営の課題である

多くの日本企業はこれまで作り上げてきた”レガシー”の存在ゆえに、ビジネスモデル変革に着手することができていないと玉置氏は語る。パナソニックはまずこの”レガシー”にメスを入れるべく、”PX1.0”を掲げて4つのプログラムを進めているのだ。「レガシーのモダナイゼーション」「マスターデータの整理」「クラウド化」「サプライチェーンマネジメント」である。事業部横断でデータを利用可能にするように整理する、新たに構築するシステムはクラウドで構築するなど、足元を固める活動が現段階のフェーズだ。

玉置氏がDXを推進するにあたり念頭に置いているのが『三層のフレームワーク』だ。一番上の層は「ITランドスケープ」であり、先述の4つのプログラムによって構成されるITそのものの変革だ。2番目の層はITの変革に関連する「サプライチェーンの変革」である。最後はこれらの変革の土台となる組織文化やマインドセット、働き方の改革である。同社創業者である松下幸之助の言葉には『衆知を集める』というものがあり、『経営の上に全員の知恵がより多く生かされるほど、会社は発展するといえる』ということを表している。玉置氏もまた、組織の土台から変えていこうと、このフレームワークを常に意識して仕事をしている。

出典:パナソニックホールディングス様ご提供

玉置氏によれば、ITはあくまでもツールであり、それは3年も経てば陳腐化してしまうものである。それゆえに、DXをデジタルのプロジェクトと位置付けて力を注いでも失敗するのだという。事実、DXと銘打って“デジタルの変革”をうたうのは日本特有の現象であり、海外では単にトランスフォーメーション、すなわちビジネスモデルやビジネスプロセス、業務プロセスなどの変革をうたっているそうだ。DXは、デジタルを支える”プロセス”を変えるプロジェクトと位置付けなければいけない。それはつまるところ経営の課題なのだ。

今後は、PX1.0が2.0へ移行していく予定とのことだ。例えばAIを使ってサプライチェーンを変えていく、家電のサブスクリプションモデルをもっと進展させる、営業を変えていくなど、本当の意味での変革が始まろうとしている。

アジャイルな働き方が失敗を許容し社員を幸せにする

企業人であれば、誰もが失敗を怖れるものだ。顧客に100点のアウトプットを渡さなければならない。せめて80点、90点まで仕上げなければならない。このような強迫観念に囚われ、批判とやり直しに恐怖を抱いている。だが、玉置氏は「PXは1勝9敗でいい」と断言する。大事なことは「変え続けること」なのだ。たとえ1年間の成果が1勝9敗でも、5年間続ければ5勝できるのだ。

鍵となるのは「アジャイル」だ。現在、実に150近くのプロジェクトが走っているのだという。玉置氏曰く、パナソニックのDXが成功するかどうかはわからない、ご自身の経験を照らし合わせても正解はなく、だからこそパナソニック全社で作り上げていく必要があるのだ。だからこそ、小さく動いて早めに失敗し、その失敗を踏まえて次に進んでいくということが重要なのだ。

アプリケーションの開発プロセスは勿論のこと、経理・総務・人事それぞれの仕事の進め方にもアジャイルの考えを取り入れようとしている。アジャイルセンターという組織を作って、自分の仕事をうまく回すために、壁に仕事を可視化したボードを作りとアジャイル的に動く活動を進めているのだ。

玉置氏は、本当の意味でのアジャイルとは、究極的には社員を幸せにするサイクルだと考えている。アジャイル的に動いていくというのは、組織の階層を壊して、仲間として情報を共有し手早く動くということであり、「それがたとえ朝の15分であっても楽しいですよ。幸せなんです。そして失敗もするけれど成果が上がれば幸せ。失敗といっても、小さな失敗なので次につなげていけるから怖くない。失敗も幸せになります」と説明する。

失敗を許容し、オープンなカルチャー醸成に向けて

アジャイルに動いていくためには、失敗を許容するオープンなカルチャーや心理的安全性が確保されることが必要だ。玉置氏が重要視しているのは「自身の思っていることを自身で発信すること、それも平易な言葉を使うこと」と語る。

パナソニックでは役員陣が社内ブログで日々メッセージを発信しているとのことだ。CEOの楠見氏も熱心で玉置氏も3日に一度は投稿しているという。校正を入れずに自身の言葉で発信をしているとのことだ。このような発信を通じて、社員は役員の生の考えや姿に触れることができる。身近な存在に感じられれば物が言いやすくなると考えているとのことだ。

また、内と外で常に同じメッセージを発信することも大事にしているのだ。今回の登壇に関してもそうだが、パナソニック社員は日本国内に10万人おり、外に向けて発したメッセージは様々なメディアを通じてパナソニック社員に届く。その時の発言が、普段彼らが耳にしているものと同じであれば、変革マインドに更に火がついていくだろうと玉置氏は考えているのだ。

また、玉置氏は常日頃から「社員へのお願い」として4つのことを発信し続けている。1つは「ワンパナソニックIT」。パナソニックは複雑な組織ではあるが、皆でこの難局を乗り切るためにサイロを脱却して一つの御旗の元に進んでいく、ということである。2つめは「フラットでオープンな職場づくり」。またそのような職場を実現するため、3つめとして「ハラスメントへのゼロトレランス」、すなわち、どのような立場であろうとハラスメントを行ったものへは徹底した処罰を下すことを約束した。そして4つめは「内向きの仕事の廃止」である。

重要なのは言い続けることなのだという。今は全体の5%くらいの人にしか浸透していないと思うと率直に語る。しかし、この最初の0から5%に変わったということが大事な一歩なのだ。そこから徐々に輪が広がっていき、社員の間に心理的安全性が芽生え、「自分も発言していいんだ」という意識が生まれることが大切なのだ。

まとめ

多くの企業は変革の時を迎えている。一方で、そこには変化していくことへの恐れと変化しないことのリスクの両方が内在しているのだ。玉置氏はCIOとして2年目を迎えた現在の心境を「毎日ワクワクしている」と語った。アジャイルに失敗を恐れず、小さなことから挑戦していく。

この姿勢こそがDXを推進していくために必要なことであり、変革者であることなのではないだろうか。