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CDOの仕事はCDOを無くすこと~変革するパイオニアの挑戦~

パイオニアが目指す変化し続ける事業会社-デジタル起点で事業を創り変化を起こす

「パイオニア」。その名前を聞いたときに何を思い浮かべるかは世代によって様々ではないだろうか。パイオニア株式会社(以下、パイオニア)は、国内初のダイナミックスピーカーに代表される音の総合メーカーとして創業し、1990年代には、世界初の市販GPSカーナビゲーションを生み出しカーエレクトロニクスを拡大してきた。そしてさらに新しい価値の創造を目指す同社は、絶えず変革に挑戦し、時代に求められ続ける会社である。

そんなパイオニアの社内カンパニーである、モビリティサービスカンパニーでCDO(Chief Digital Officer: 最高デジタル責任者)を務め、SaaS事業を推進する石戸亮氏にパイオニアでの取り組みについてお話を伺った。

※当記事は2021年6月29日に開催したオンラインセミナーの内容をもとに作成しています。

 「MaaSのパイオニア」を目指す

車を中心として取得できるデータはさまざまある。走行履歴などのプローブデータをはじめ、オーディオ、ビデオなどの車内エンタテインメントや、ドライバーの運転傾向、ガソリン代などの諸経費、車両の整備やモニタリングシステム情報などだ。

現在パイオニアでは、モビリティサービスカンパニーがこれらのデータを活用する事業を担い、MaaS事業や、データを活用したBtoB向けのSaaS事業を展開している。同社はアセットとして膨大なプローブデータを保有しているのがひとつの強みだが、それらをフルに活用できればまだまだ伸びしろのある領域であると石戸氏は言う。

例えば、課題が多く残る物流業界はEコマースの伸びで大きく物流総数が増えているが物流総額に大きな変化がないことや、次世代交通情報、都市での犯罪や事故に関わるセキュリティ、土砂崩れや水害時の災害アラートなど、このような領域で、どのような価値を提供できるか模索していると言う。各課、部署を横断し議論を重ねながら、カンパニーは一丸となってパイオニアの新しい価値の創造を目指している。「モビリティのSaaSやMaaSといえばパイオニア。そう言われる存在を目標に、2025年、2030年に向けて新たな価値創造に取り組んでいます」と石戸氏は語る。

 有機的で柔軟に。組織内を横断する横串の取り組み

モビリティサービスカンパニーでの事業を成長させること、これはもちろん石戸氏の重要なミッションだが、一方でデジタル領域における部門を横断した全社的な取り組みも行なっていると言う。

ひとつは、サービスの業務システムの再構築である。これまでの業務システムは、どちらかというとハードウェア事業メインで構築されてきた。また、BtBサービスは成長過程で、業務に沿ったシステムを構築してきたが、End to endで繋がっているわけではなく、つぎはぎであったりサイロ化された状態であった。SaaS事業の立ち上げや成長に合わせて従来のシステムも変えていく必要がある。

また採用のフィールドにおいては、これまでの新卒採用だけでなく、ソフトウェアのエンジニアやデータ人材、デジタル人材の採用計画について人事と連携している。さらに、コーポレートコミュニケーションにおいて、データやデジタル、モビリティのテクノロジー領域での成長を目指すパイオニアの「新しい姿」を打ち出すために、ブランド戦略や広報の発信を部門と連携して行っている。

このように、石戸氏のポジションは非常に柔軟である。モビリティサービスカンパニーでは、ある意味プロダクトオーナーのように新しい収益を生み出すという任を背負いながら、一方で、部門を超えて横串で全社に展開していく役割も担っている。もともと「半分は役割が決まっているけれど、半分決まっていない状態」で入社したと言う。また、モビリティサービスカンパニー自体がさほど大所帯ではなく、身軽に動ける新しい組織であった。そのような背景があって、石戸氏は他部門との関係の中で有機的かつ柔軟に活動している。

特に入社直後の3カ月間は、経営陣や現場とかなり密にコミュニケーションを取り、現状と目指すべき姿を探り続けていた。100人くらいと1on1をして、全てその内容をノートにメモしている。その過程で、モビリティサービスを成長させるために何が不足しているかも見えたと言う。以来、人材の育成や配置、仕組みの構築、そしてオペレーションなどに地道に取り組み、その結果、当初はSaaSの話にぽかんとしていた社員たちも、外部から入ってきた人材との協働が刺激となったこともあり、質の高いコミュニケーションがスピーディーに取れるようになったという。

一方で、議論や戦略立案後の実行を推進していく進行に鈍化がみられたり、以前からいたメンバーが外部人材の話を鵜呑みにしてしまったりなどの課題を感じることもあると言う。石戸氏は「これまでのスタイルとか、今の仕組みやオペレーションの関係もある。新しい取り組みの始め方やタイミングは、やっぱりいろいろと試行錯誤しながらになる。バランスが大事」と説明した。その取り組みにより「総じて事業のスピードはとても早くなった」と長く在籍している社員から声を聞くようになったそうだ。

 デジタルマーケティングで高める、モビリティサービスの可能性

石戸氏はモビリティサービスカンパニーという縦軸とデジタル領域である横軸双方の取り組みを行なっているが、さらに今期からはIoT SaaS事業のマーケティング領域のデマンドジェネレーションと既存顧客向き合いのカスタマーサクセス領域を兼務されていると言う。そのB to Bビシネスのマーケティングでは、大きく3点の取り組みがある。

まず、パイオニアが提供するB to Bのサービスの認知拡大やリード獲得などだ。そのために、仕組み化や設計、手法などの全てを見直している。氏によれば、同社の今年度のデマンドジェネレーションの目標は昨年の3倍ぐらいとのことだが、過去5年でしっかりと取り組めていないかった部分にメスを入れれば、大幅な伸びが期待できるそうだ。

次に社内データの可視化である。膨大なプローブデータに関しては比較的ひとつにまとまっているが、その他のサービスや社内業務のデータはかなり散らばっているのが現状だ。このことが自社のサービスや営業活動、マーケティング活動などあらゆるフィールドでの自己チェックを難しくしていた。これについては、サービス開発、データサイエンスに関わるリソースを集約するSaaSテクノロジーセンターが8月に新設され、加速度的にデータの見える化、活用できる体制構築が進んでいる。

三点目は、セールスイネーブルメント(成果の達成を起点に、営業人材を育成すること)である。ハードウェアとサービスであれば、当然営業のやり方も変化が必要だ。そこで、営業人材に対して新たな仕組みを取り入れていると言う。イネーブルメントは多くの企業が取り入れている手法かもしれないが、ペースアップして進めれば生産性はかなり上昇すると石戸氏は見込んでいる。

そして現在、社内でよく話題に上っているのが、いかにして顧客の課題や悩みを把握するかという問題である。一見すると当たり前の問題意識ではあるが、そもそも新規事業の場合、今までの顧客とも違うし、顧客の課題も変わってくる。さらに見込み顧客や潜在顧客の声を集めるための手法やプロセスも確立されていなかったと言う。今の取り組みで言えば、地道に顧客の声を聞くということである。例えば物流の領域では、様々な都道府県の運送会社の元まで足を運び、ドライバーや経営者に会い、さらに実際にトラックや事務所を見ている。

「まずは現場。プロダクトマーケットフィットとかコンセプトマーケットフィットとか、耳障りのいい言葉はありますが、とにかく顧客の声を聞いて、彼らの本当のペインが何であるのかを皆で理解しようとしています」と石戸氏は力を込めて話す。

 「チェンジマネジメント」メンバーの意識を変え、大きな変化を生み出す方法

石戸氏は、これまでの自身の取り組みを「DXではなく『チェンジマネジメント』。一つずつ行動を変えていくことである」と述べる。外部から入ってきた人が、何か新しいことを始めるときに、頭ごなしに強引に進めていくとうまくいかない。まずは、少数人数で始めてみて、「やってみたらすごく便利だった」「やってよかった」という共感から自然と広がり、変化につながっていくのだそうだ。

具体的なエピソードとして氏が話してくれたのは、議事録の例である。これまで石戸氏がこれまで在籍していた会社では、ミーティング時には誰かが必ず議事録を取っていた。ミーティングの最後に次のアクションを決めたら、議事録をもとに、ミーティング終了後すぐにスタートを切ってプロジェクトをどんどん進めていた。石戸氏には当たり前のことであったと言う。この文化をパイオニアにも取り入れようと、氏はミーティングのたびに自ら議事録を取り、その後メンバーを促してすぐに動き出すと言う地道な作業を行なっていたそうだ。この繰り返しの中で、やがて、あるエンジニアが「ツールでタスクの管理をしてはどうか」と提案してくるほどに空気が変わっていった。

また、採用における例では、ダイレクトリクルーティングの重要性である。今後の組織像に必要な人材像が、石戸氏がいたドメインの外部人材であればイメージがつくため、どこの誰が必要か明確にリストアップして、氏自身がダイレクトリクルーティング採用活動を行う職域もある。入社初年度で数名リファラルを採用していると言う。これはパイオニアに入る前から、組織作りやリーダーには採用力は必須能力であるため、常日頃から息を吸うように行なってきたそうだ。また石戸氏だけが取り組むのではなく、ダイレクトリクルーティングやリファラル採用自体の組織や文化への浸透も重要である。そのため通常、採用は人事部の職域だが、石戸氏を含む事業部の幹部数名で、ダイレクトリクルーティングツールを通してスカウトメールを送付し、その結果たくさんのレジュメを見る機会ができたと言う。事業側の経営幹部が率先垂範でダイレクトリクルーティングを推進し、全社に成果を共有したところ「なぜこんなに優秀な人が集まったのか」と好評を得て、今後全社でツールを活用することになったそうだ。

このような小さなアクションが繋がって、会社全体の生産性もじわじわと向上していると石戸氏は実感している。ちょっとした成功への共感と共有。その小さな変化が「10人20人でやった方がいいのでは?」「部署でやった方がいいかもしれない」「全社でやったらどうだろう」という大きな変化を生み出す。「まずはちょっとやってみるということですね」。石戸氏は笑顔で締めくくった。

 未来の姿を実現するために

モビリティサービスカンパニーの様々なフィールドで活動される石戸氏であるが、今後「MaaSのパイオニア」という大きな目標の実現に向けた、アライアンスに対する考えや、ハードウェアからソフトウェアサービスへの転換についてお話を伺った。

 他社との連携

現在のビジネスを取り巻く状況下において、自社だけで一つの事業を完結させるのではなく、さまざまなパートナーと連携して何かを作っていく時代である。

石戸氏によれば、パイオニアのアライアンス検討の視点は、社の掲げる中長期計画に対して何が足りていなくて、どう補完するかだと言う。石戸氏の考えとしては、モビリティのデータのサイロ化を解決できる企業、例えば、データクレンジングやスキーマの統一化ができる企業に期待しているそうだ。モビリティデータは、各企業や社会の中でそれぞれが保有し、細分化され分断されている。例えば、人が移動するとき、電車に乗ったり、バスに乗ったり、レンタカーを借りたり、飛行機を使うこともある。それらは全て事業者が異なるため、データは存在するがそれぞれが繋がっていない状態であるからだ。世の中の多くのモビリティ事業者は、同様の悩みを抱えているはずだと氏は話す。

 ハードウェア製造からソフトウェアサービスへの転換

日本のものづくり文化は、良くも悪くもソフトに対する考え方が欧米と異なっている。ソフトウェアを基本的にハードウェアの延長と捉えている。どのようにすれば、ソフトウェアをビジネスの視点から見ることができるようになるかは、とても本質を突いた難しい問題だと石戸氏は言う。

AmazonやFacebookでも近年、kindleやOculusなどのハードウェア製品を開発・販売している。石戸氏いわく「関係者によれば、これらのハードは費用もクオリティも、顧客満足度を最低限満たす範囲で作られている」のだそうだ。ハードウェアの原価が低いため、サービスに価値を置くことができる。もし、ものづくり技術をいかんなく発揮して世界最高品質のハードウェアを作ったとしても、ハードウェアそのものの原価が高騰し、付加分であるサービスが購入されにくくなってしまう。もちろんロボット系製品のように、ハードウェアでもサービスでもマネタイズをしている企業もある。「会社それぞれの在り方が関わっているテーマですし、パイオニアとしても、どこに身を置くかは今後検討していかなればならない」と石戸氏は語る。

また、ハードウェアとソフトウェアを考えたとき、サブスクリプションビジネスももはや避けては通れないテーマである。パイオニアでは、B to B向けにビークルアシストというクラウド型運行管理支援サービスを月額利用制で提供している。しかし石戸氏は、パイオニアのサブスクリプション事業について「まだまだ」と評する。これまでのハードウェアビジネスにおいては、製品が売れて売り上げが入ればそこがゴールだったが、ソフトウェアのサービスはむしろそこからがスタートである。そのために、企画や開発の体制や組織構造も売り上げが立つまでのものになっている。サービス側は、製品をローンチしてからの顧客の声を集める方法や、集めた意見をサービスに反映させられる組織体系が必要だ。しかし石戸氏は「ソフトウェア単体ではなく、ハードウェアも持っているため、習慣やHow toなどを含めた、さまざまな要素のバランスが大切になってくる」と強調した。パイオニアでも昨年、B to Bのサービスでカスタマーサクセスが設置され、「地道にひとつずつ取り組む」と石戸氏の組織構造改革に対する姿勢がうかがえた。

 まとめ

今回は石戸氏にパイオニアでの取り組みのポイントとして、現場のメンバーや経営陣と密にコミュニケーションを取ること、新しい顧客の課題や悩みを把握すること、小さなアクションから変化を拡大させていくとこなどをお伺いした。

また地道な活動が実を結んでいくことや、勢い任せに一気に行うのではなく、バランスに重きを置くことが成功への鍵なのかもしれない。
事業創出と言うと、テーマが大きく途方にくれることもあるかと思うが、石戸氏のアドバイスの通り、まずは「ちょっとやってみること」から始めてみてはいかがだろうか。 CDOの仕事はCDOを無くすことだと石戸氏は語る。これまで在籍したサイバーエージェント、Google、SalesforceにはCDOは不要であったと言う。デジタルやデータが当たり前のような文化、システム、オペレーションになることや、原点である顧客起点でサービスを成長させていくことなど、あるべき姿を目指していきたい。