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DX先進企業のCDOに聞く、DXの勝ち筋-東芝・三菱ケミカルホールディングス特別対談

DX先進企業のCDOに聞く、DXの勝ち筋-東芝・三菱ケミカルホールディングス特別対談

2020年末に経産省が発表した『DXレポート2』は、企業のDXが遅々として進んでいないこと、また、取り組みが見られる企業でもDXの本質を踏まえた取り組みになっていないことを指摘している。一方で、『DX先進企業』と評価される企業も現れ始めている。成功の明暗を分けるものは、どのような思考と取り組みなのだろうか。

今回お招きした株式会社東芝(以下、東芝)の島田太郎氏、株式会社三菱ケミカルホールディングス(以下、三菱ケミカルホールディングス)の浦本直彦氏は、それぞれの社の最高デジタル責任者(Chief Digital Officer、以下CDO)としてDXを指揮している。ものづくりやITの最前線でキャリアを積み、世界の変化や日本の出遅れを肌で感じてきたDXのトップランナーは、我が国のDXの現状に何を思い、どのような取り組みをしているのか。両者が語るのは、いわゆる大企業のフィールドだけではなく、中小企業やベンチャーなどにも通じる、「明日からできる」DXの勝ち筋である。

※当記事は2021年6月1日に開催したオンラインセミナーの内容をもとに作成しています。

 最前線を駆け抜け現場に理解を示せるCDOへ

島田氏は、新明和工業株式会社にて飛行機のボーイングの設計や、海面にも着水できる飛行艇US2の空力形状の設計などに携ったのち、アメリカの設計をするためのソフトウェアの会社へ移り、日本法人の社長とアメリカの副社長を兼務。その会社がドイツのものづくり革新プロジェクト「インダストリー4.0」の中心企業であるシーメンスに買収され、同社にて専務執行役員を務めた。ものづくり改革の重要性を感じ、2018年に東芝へ入社。現在は東芝の最高デジタル責任者(CDO)としてCPS(サイバーフィジカルシステムズ)を軸としたインフラサービスカンパニーを推進している。その取り組みの1部としてDXの導入を進めている。

一方浦本氏は、現在の三菱ケミカルホールディングスに入って4年。入社時からDXグループ(2021年7月よりDX室に改組)に所属されデジタル改革に取り組んでいる。2020年4月にCDOに就任。三菱ケミカルホールディングスに入る前は、IBMで大学から専攻していた自然言語処理や情報統合、メタデータなどのAI技術、そしてXMLやWebサービスなどのWeb技術、またWebやクラウドに伴う情報セキュリティなど、企業の研究員として従事した。

お二人にCDOという役職についての考えを伺った。

CDOとは、技術的なバックグラウンドだけでなく、経営者としての素養も求められる、と島田氏は言う。実際、島田氏は東芝デジタルソリューションズ株式会社の取締役社長も務めている。「可能な限り技術の知識を持っていた方がいい。例えば、東芝には優れた技術者が山のようにいる。現場で彼らの話すことが理解できるほうが、DX推進役としてより深い取り組みができるのではないか」と考える。

浦本氏もまた、CDOのバックグラウンドが技術系である必要はないと述べつつ、経営とテクノロジーやイノベーションの距離がどんどん近くなっていることを、肌感覚で理解できていることが重要だと説明した。

 「ここがおかしい、日本のDX」

島田氏いわく、日本企業は、すぐソフトウェアに頼りがちな傾向にあると言う。本来のDXの到達点とは、「トランスフォーメーション」の言葉が示す通り、デジタル化によってビジネスモデルが従来のものから革新、刷新されることである。みなさんの企業はこの点をどれだけ理解できているだろうか。

浦本氏もまた、解決方法は技術のデジタル化だけではないと言う。デジタル技術の適用を検討した課題が、最終的にデジタルではない手法で解決した、ということも現場ではよくある話だそうだ。三菱ケミカルホールディングスの場合は、化学製品のレシピや製造ノウハウ、また技術者の経験などが社のアセットであり、DXによって、このような資産からいかなるビジネス価値を生み出すのか、その視点を忘れてはいけないと強調した。

 スケールフリーネットワークが導く、可能性豊かなプラットフォーム

 スケールフリーネットワークとは

DX推進に思い悩む企業にぜひ知ってもらいたい発想として、島田氏は「スケールフリーネットワーク」を紹介している。スケールフリーネットワークでは、膨大なリンクを持つ、ごく少数の結合点と、限られたリンクしか持たない無数の結合点が存在している。つまり、一部にリンクが集中しているという、ある意味で不平等な分布なのである。だが、インターネットのネットワークに限らず、人間の友人数の分布もスケールフリーネットワークと同様になっていると言う。「スケールフリーネットワークとは、人間がそもそも持っている特徴なのだ。そして、このようなネットワーク上では『パーコレーション』という現象が加速しやすい。パーコレーションとは、臨界点を超えると一気に変化するという現象である。スケールフリーネットワークにおいて、極度的にリンクが集中したとき、そこから急速に広まっていく。つまり、これがフェイスブックやインスタグラムで起こった現象だ」と島田氏は説明した。

多くの日本企業は、この「スケールフリーネットワーク」の性質を活かせていない、と島田氏は説く。例えば、インスタグラムを創ろうとしたとき、従来的な「モノ」から「コト」の発想であると、「きれいな画像」を集めるものだと、先に使い方の完成形を提示してしまう。しかし、あらかじめ画像を共有するものと定義してしまっては、パーコレーションを起こすようにはならないと言う。大切なのは「コト」が起きる場を提供し、ネットワークを自然発生的に増やすことである。つまり「ソリューションを提供してはいけない。誰もが参画できる場を提供することが大事だ」と言う。

 プラットフォームのあり方

GAFAなどがDXの一時代を築き上げ「プラットフォーム戦略」と言われるように、プラットフォームの重要性が高まっている。その一方で、どの企業もプラットフォーマーになれるわけではないのもまた現実だ。プラットフォームをつくる側に回ることもできるし、ユーザーとして使う側に回るという方策もある。IT企業であれば、プラットフォームを作る側に立てるかもしれないが、非IT系のユーザー企業はどのように向き合うべきなのか。自社にとって最適なエコシステムを構築するために、ユーザー企業側はどのように考えたらいいのだろうか。

島田氏は「プラットフォームは、ソフトウェア領域に限られた話ではない。ハードウェアもプラットフォームにすることができるし、言ってみれば、どのような領域でも共通の土台として利用されれば、それがプラットフォームとなる」と説明する。「GAFAが創り上げたようなソフトウェアの土台としてのプラットフォームをイメージしてしまうから、“非IT系企業のユーザー側がどうしたらいいのか”という発想になってしまう」と言う。全企業がプラットフォームを目指して行く世の中で、プラットフォーマーになれないのであれば、そのエコシステムの中での立ち位置の見極めと判断が必要だ。浦本氏も、「どのようにしてエコシステムを組むのかという視点が必要で、それがないと価値に繋がらない。早く価値を生み出す方法を考える上で、コストや必要な資源や資材など、様々なファクターの掛け算のもと検討されているはずだが、本来重要なのは競合他社も含めてどのようにエコシステムを組んでいくかなのだ。しかし、なかなかこの発想に至らないことが多い」と懸念する。

さらに島田氏が言い添える。「一番大切なのは、今あるビジネスについて現状の事業分担は一度忘れ、どうすれば使う人にとって最も有効であるか、これを考え直すこと」。顧客提供価値の向上・変革や顧客にとってのより良い生活といった、DXの上位のゴールに対してどのようなサービス展開を行なっていくかを常に考える必要があると言う。自社の直接の顧客のことだけでなく、直接の顧客にとっての顧客が何を求めているかまで視野に入れてサービスを再構成することが大切である。「自分の直接の接点に対するサービスだけを考えると発想が狭くなってしまう」と島田氏は進言する。

 プラットフォームの妙――東芝の例

ネットワークを自然発生させる例として、島田氏から東芝の取り組みが紹介された。

ひとつは「スマートレシート®」。東芝テックがPOSレジで世界トップクラスのマーケットシェアを持っているという強みを活かしたサービスだ。これまで紙で受け取っていたレシートが、電子情報としてスマートフォンなどで活用できるようになるアプリである。「スマートレシート®」のプラットフォームには連携している世の中の購買データが自動的に集まっていくことを目指している。そして、例えばAmazonが購入者たちの購買情報を分析するのと同じように、商店街でも顧客たちの情報が分析できるようになる。すなわち、街の商店街がAmazonのようなECに対抗することができるのだ。

もうひとつは、東芝デジタルソリューションズが手がけているIoTプラットフォーム「ifLink®」。アプリ上でルールを簡単に設定することで、プログラムの知識がなくてもIoTサービスを作ることができる。前述したようにソリューションを提示していない、かつ知識がなくてもプログラムを組めることから、今まで接点がなかったユーザーが加わることで、これまでと違った視点や発想のソリューションが桁外れに生み出されるようになる。このプラットフォームを活性化させるために、オープン化され、企業や団体の垣根を越えて開発や共創を行っている。

「一つ一つのアイディアは『しょーもない』ことかもしれない。でも、スケールフリーネットワークの力によっておもしろいことが起きる。そこにプラットフォームの妙がある。生かせる強みの一部分でも開放してみたなら、現在より100倍も拡大するようなとんでもないことが起こるだろう」と島田氏は説明する。

島田氏は、ユーザーがコンテンツ形成に関わるビジネス手法は、ここ20年の間でとてつもない勢いで拡大していると話す。それに伴い、エコシステムが示す範囲は多様化している。ビジネスの外にいる人たちにビジネスに関わってもらえるよう、どんなプラットフォームを用意していくのか。われわれはもっと真剣に考えるべきだと島田氏は語る。

島田氏はエコシステムの定義を再度強調した。「単に数社が集まって共創する場、という発想は大きな間違い。このシステムが内包している何千という企業それぞれがwin-winの関係を築けるような機能を果たす仕組みとして、エコシステムを構築しなければならない。そのような仕組みがひとたび動き出すと、エコシステム、すなわち『生態系』の名が示す通り、良い仕組みがさらに自然に増殖していくのである」。

浦本氏は、「島田氏はうまくプラットフォームに人を引き寄せている。参加のための敷居を低くして、潜在的な参加者がDXを『自分事』と捉えられるように仕組まれている」と述べている。

 つながりを築きたい――三菱ケミカルホールディングスの取り組み

三菱ケミカルホールディングスでは、浦本氏の前任者である岩野氏の時代から、DX促進のための羅針盤となる土台作りに力を入れてきたという。DXの土台とは、ツールだけでなく、方法論や研修の仕組み、コミュニティなどだ。彼らがまず考えたことは、限られたメンバーでいかに現場社員を変えていくかということであった。製造業は失敗に慣れていない傾向がある。そこで「失敗してもいい、失敗したら路線変更をすればいい」という意識を現場に根付かせ、まずはとにかく動いてもらうことを考えた。

とはいえ、伝統ある大企業で全く新しいビジネスモデルを作り出すことも、大きな変革を起こすことも、なかなか難しい仕事であると言う。「PoCを山ほどやってきても、なかなか拡大しない。秘策があるわけでもない。日夜、泥臭く苦労しています」。浦本氏もまた、DXに苦戦する企業や担当者と同じ悩みを抱えてきたというわけだ。

着任から4年が過ぎ、変化は着実に積み重なっている。浦本氏は成功事例として「デジタルプレイブック」と「機械学習プロジェクトキャンバス」を紹介した。

浦本氏らがDXをスタートさせた当初、外部から突然現れたCDOの言葉は、現場にはなかなか届かなかったという。さらに、社員同士でも部署が違えば話が通じないことも多かった。そこで、一つの大きな提案を上から下へ示すだけではほとんど効果がないと考え、デジタルを活用したビジネスにおける手法をデジタルプレイと名付けたパターンとして分類した。このパターンにもとづいて、事業部ごとにどの型を組み合わせるのがいいのか、DX推進チームと現場の組織がともに話し合った。やがて、それぞれの部署の事情に合わせたDXのパターンができあがり、また、CDOと社員が同じ土俵の上で話せるようにもなっていったと言う。浦本氏にはうまくいったという手応えがあった。このとき生み出した「パターン」をまとめたものがデジタルプレイブックであり、現在も改訂を重ねた上で使用されている。

機械学習プロジェクトキャンバスは、ビジネスモデルを可視化するためのフレームワークであるビジネスモデルキャンバスになぞらえて導入した、機械学習のビジネス目的を明確化するためのフレームワークである。浦本氏は経験から、デジタルのプロジェクトのスタートは意外と簡単だが、いざ始めると行き詰まることが多いと感じていた。その背景には、本来であれば着手時点で当たり前に共有しているはずのことが明確になってない、ということがよくあるのだという。「そもそも目標はなんなのか」「最終的にはどんな形にしたいのか」「何をもって成功と呼ぶのか」「どういうデータがそろっているのか」――機械学習プロジェクトキャンバスでは、そういった「穴」を関係者たちで埋めていく。プロジェクトの全体像を可視化するのだ。現在、「機械学習プロジェクトキャンバス」は、三菱ケミカルホールディングスによって、クリエイティブ・コモンズのライセンスで無償公開されている。「会社や業界を超えて繋がっていくために、トランスフォーメーションの波が大きくなってほしい」と浦本氏は言う。

また、企業活動を行う上で今後考えていかなければならないSDGsの取り組みは、実際のところ一社で完結できる活動ではない。例えば、ある化学製品のカーボンフットプリントを消費者に示そうとすると、最終商品に至るまでのあらゆる過程に携わった企業と連携しなければ不可能である。そのため自社のことだけを考えるのではなく、他社との共創を見据える必要がある。「いろいろな企業と連携して活動するためにも、データプラットフォームや、そのトレーサビリティ、透明性を担保するための技術などがますます重要になってくるのだろう」と浦本氏は述べた。

 まとめ

今回のセミナーは島田氏と浦本氏に、DXトップランナーとしてDXの本質や具体的な取り組みについてお話を伺った。

・DXとはビジネスモデルを従来のものから革新することであり、デジタル化がメインではないこと
・スケールフリーネットワークを理解しプラットフォームをうまく利用することで、爆発的な広がりを生み出すことができること
・DX事例を集め事業部それぞれにあった手法をうまく組み合わせること
・志半ばで終わってしまわないように、着手する前に目的や目標を明確にしておくこと

など、DX推進のための多くのヒントをいただいた。

これらのヒントやDX事例を参考にして、自社の状況や事業部に合わせた施策を検討することから始めてみてはいかがだろうか──。