お役立ち資料一覧へ お問い合わせ
MENU CLOSE
  1. Stockmark
  2. coevo
  3. 製造業DX
  4. 【イベントレポート】TOTOの推進者に聞く!DXへの取り組み

【イベントレポート】TOTOの推進者に聞く!DXへの取り組み

TOTOの推進者に聞く!DXへの取り組み

TOTO株式会社(以下、TOTO)はトイレ、洗面器などの衛生陶器をはじめとする住宅設備機器の製造販売を行う日本のメーカーである。創立から100年以上経つ今でも、設立以来の伝統を尊重しており、社是として制定しているのは「奉仕の精神でお客様の生活文化の向上に貢献し、一致協力して社会の発展に貢献する」という意味の「愛業至誠」である。

十七代目社長である代表取締役 清田徳明氏は、TOTOのWebサイトのトップメッセージにて、この変化の激しい状況下で、TOTOの存在意義の答えは創立者の想いや企業理念の中にあるとしている。また変化に速やかに対応し、失敗を恐れずに果敢にチャレンジすることによって、世界中にTOTOファンを増やし、世の中になくてはならない企業を目指すと発信している。

では、その目標の実現のためにTOTOはDXにおいてどのような取り組みをしているのか。また、存在意義の答えがあるとされる企業理念とはどのようなものなのか。今回はデジタルイノベーション推進本部 本部長の中村良次氏をお招きし、実際の取り組みについて詳しいお話を伺った。

※当記事は2021年3月18日に開催したオンラインセミナーの内容をもとに作成しています。

ビジネスイノベーション推進部の成り立ち

中村氏は1995年にTOTOに入社以来、アメリカのTOTO U.S.A.での活動や、BtoB領域であるセラミックス事業の部長などの経歴を持つ。2017年にビジネスイノベーション推進部(現在ではデジタルイノベーション推進本部)が立ち上がり、その部長として中村氏が選ばれたが、BtoB事業で得た多くの経験やスキルセットが、自社以外のアイデアやリソースを取り入れていくイノベーション活動に生きそうだと活動を始めてすぐに感じたと中村氏は当時を振り返った。

ビジネスイノベーション推進部が立ち上がった当時、すでにモビリティ産業やファイナンシャル産業などでは、大きな変革が起こり始めていたという。また、様々なメーカーが「サービス化」していくという世の中の状況もあった。このような中、TOTOがイノベーション活動として進む道を探るためまずは小さなチームでイノベーションの研究から進めることになったそうだ。

また、イノベーションチームに定量的なKPIは敢えて設けられておらず、重要事項は適宜、社長に判断を仰ぎながら進めてきた。これにより思い切った活動をスピード感を持って進めることができていたのではないかと中村氏は語る。

魅力的で、お客様に本当に喜んでもらうために。TOTOが推進するイノベーション活動

ゼロから立ち上げたビジネスイノベーション推進部。最初に取り組んだのは、他社の事例に対する情報収集だ。2017年の時点ですでにイノベーション活動をスタートしていた企業が、どのような取り組みを行っているのかを学ぶために、先行している様々な企業のイノベーションチームと議論をした。

一般的なイノベーション創出の手法としては、オープンな手法だと、イノベーションセンターの創設や、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)、テックスカウティングなどがある。

また、よりクローズドな手法であれば、社内施策として行う15%ルール(勤務時間の15%を各々の好きな研究テーマやイノベーション活動に充てる)、社内メンバーで様々なアイデアを出し合う社内アイデアコンテスト、社内イノベーションコミュニティーなどだ。

「イノベーションというのは、異質の組み合わせによる新結合とよく言われますので、結局はいかに社外との接点を増やすか、刺激を増やすかという事に尽きると思います」と中村氏は言う。

これらの様々な手法について、TOTOのイノベーションチームの取り組みを伺った。

出会える仕掛けをつくる。オープンイノベーションへの取り組み

様々なオープンイノベーションの手法の中でTOTOが力を入れているのは、テックスカウティング、アクセラレータープログラムなどのスタートアップエコシステムの活用だと中村氏は言う。

テックスカウティングでは、TOTOの関心事に合うスタートアップ企業を、グローバルに探索してくれる企業とパートナーシップを組み、常に世界規模でスタートアップ企業と出会うきっかけを作っているそうだ。また、シリコンバレーのアクセラレーターとイノベーションプログラムを実施したり、アクセラレーターへの出資を行ったりしている。

さらにTOTOは2016年からCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)に出展する取り組みを行っている。CESは年に一度、アメリカのラスベガスで開催されている世界規模のイノベーティブなイベントであり、IT企業の出展が非常に多い。

その中で「なぜTOTOがCESなのか?」という質問も多いそうだ。TOTOが通常出展するイベントは住宅設備の展示会などだ。だが、あえてCESに出展する事で、TOTOが身を置く業界ではイノベーティブに活動しているということのPRに加え、多くのイノベーション先進企業から自らも刺激を受ける場になっている。

CES2021においてTOTOは、コロナ禍という状況で世の中が求めている領域である、クリーンの技術や非接触の技術を出展した。これは過去すでに発売している商品・技術だったのだが、これらを改めて再訴求したのだ。

また、コンセプトレベルで「ウェルネストイレ」を発表。これは、トイレを使うこと自体で健康指標のモニタリングをし、さらに健康状態に応じたリコメンドを実現するというものだそうだ。これらの出展は、WIREDなどのテクノロジー系のメディアにも取り上げられ、元々想定していなかった業態からもグローバルに声が掛かるようになったそうだ。

イノベーションの風土醸成。会社全体を繋ぐイノベーションコミュニティー

社内施策として、イノベーションコミュニティーにも取り組んでいる。これは、200名弱程度の社内のメンバーでコミュニティーを作り、SNS上でイノベーションチームが出会ったスタートアップ企業の情報をシェアしたり、そこでイノベーションの議論なども行っているという。

コミュニティーの人数は、多過ぎると逆に議論が活性化しないこともある。200名という人数は、TOTOの社員数(単体)が8,000名であることから、イノベーター理論にある「2.5%がイノベーター」にも当てはまる人数だ。

「このイノベーションコミュニティーではSNS上での議論だけでなく、定期的に対面での会議も設定しコミュニケーションを大切にしています。対面での会議では、実際にイノベーションマインドを感じてもらうため、スタートアップ企業の方にご講演いただいたり、メンバー同士でのアイディエーションを行ったりしています。少しでもイノベーションを感じ、各自業務へ取り込んでもらうことで、会社全体へのイノベーション風土醸成へつながると考えています」と中村氏は言う。

※イノベーター理論
新しい製品やサービスが市場へ普及する過程を5つの層に分類したもの。そのうち、イノベーター(革新者)の層は、情報感度が高く、新しいものを積極的に導入する好奇心を持った層であり、市場全体の割合にして約2.5%がこのイノベーター(革新者)であるとするもの。

スタートアップとの繋がりが未来を知ることに繋がる

スタートアップとの連携として取り組んでいるテックスカウティングだが、このグローバルに様々なスタートアップ企業と接触する活動の中で、世の中の兆しや新たな気付きを得られることもあり、それがメガトレンド研究にも繋がっているという。

さらに、メガトレンド研究ということであれば、企業間の秘密事項があまりないため、他企業のメガトレンド研究チームとの意見交換や情報のシェアもされているそうだ。

「やはり最近の世の中で起こっているイノベーションの動向を見ても、起点はスタートアップ企業というのが多いですよね。スタートアップ企業のある取り組みが、突然大きくなって世の中のトレンドになってくるというような流れだと思います。スタートアップ企業のチャレンジを注視するという事は、未来を知るという意味でも大事だと思っています」と中村氏は説明した。

DXの根本にある変わらず受け継がれてきた想い

一言にDXと言っても、その目的には業務効率化やコストダウンなど様々なものがある。その中でデジタルイノベーションチームが活動のメインとしているのは「お客様にお届けする商品サービスのDX」だと中村氏は言う。このデジタル時代にいかにお客様に満足を届けるかが、イノベーションチームの起源であり、その背景にはTOTOの企業理念が深く関係しているという。 初代社長である大倉和親氏が2代目社長に送った書簡にはこう書かれている。

良品の供給、需要家の満足が掴むべき実体です。
この実体を握り得れば利益・報酬として影が映ります。
利益という影を追う人が世の中には多いもので、一生実体を捕らえずして終わります。

つまり、利益を求めてもその実態はつかめない。事業者が求めるべきはお客様の満足であり、利益はその影のようなものだという意味だ。この考えを経営陣が節目ごとに説明し、社内にしっかりとリマインドしている。

また、社是、企業理念、企業行動憲章も、この先人の言葉をベースにしている。これをグループ共有理念として、将来に渡ってずっと変わらず引き継いでいくものだという。一方、事業活動ビジョン(ビジョン、ミッション、中・長期経営計画)は、時代に合わせて変えていく部分である。

これらTOTOとして変えない、ぶれない部分と、時代に合わせて変えていく部分を、トップや経営層が頻繁に説明し共有を徹底することで、会社全体に企業理念がきちんと浸透しているのではないかと中村氏はいう。

なぜTOTOはデジタルイノベーションに取り組むのか。それは企業理念にもある通り、お客様にどう満足を届けるかということに尽きる。DXはあくまでも、今まで取り組んできたお客様満足の実現手段のひとつでしかなく、デジタル技術の全てに取り組めばいいということではないと、中村氏は強調した。

まとめ

このセミナーでは中村氏に、
・オープンイノベーションで新結合を促す出会いの場を作る取り組み
・イノベーション風土を醸成するためのイノベーションコミュニティー
・スタートアップ企業などから新たな気づきを得られる機会を作るメガトレンド研究
など、TOTOでのイノベーション活動の取り組みについてお話を伺った。

またイノベーションチームの目指すことや、考え方の根本にある企業理念についてもお話しいただいた。企業理念を浸透させ会社全体で同じ目的へ向かう。そしてその企業理念をDXの骨子にすることで、「お客様の満足のため」という目標がブレることなく、やるべき活動に注力できるのであろう。

イノベーションやDXは、全ての会社に通ずる成功法はなく、まだ試行錯誤をするフェーズにあると言える。その中で様々な手段や方法に流されてしまわないように、達成すべき目標を明確に定めて軸とし、溢れる情報から本当に必要なものを取捨選択していく必要があるだろう──。

競争力を高める製造業DXとは