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近年、海洋ごみ問題や地球温暖化への懸念が高まるなか、環境負荷の少ない素材として注目を集めているのが生分解性プラスチックだ。従来のプラスチックは自然環境中でほとんど分解されず、廃棄物として長期間残留することが多い。一方、生分解性プラスチックは微生物の働きによって最終的に水と二酸化炭素などに分解する性質を有しており、持続可能な社会を実現する手段の1つとして期待されている。本記事では、生分解性プラスチックの定義や使用される原料、メリットとデメリットについて解説したい。
新素材を“どこにどう使うか”がカギになる
生分解性プラスチックのような素材も、活かし方次第
用途開発の視点から、技術の可能性を事業に変える方法とは?
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目次
生分解性プラスチックとは、細菌やカビによって水と二酸化炭素などの自然成分に分解されるプラスチックを指す。石油由来のプラスチックは自然環境中で分解されにくく、長期間にわたって海洋や土壌に残留するという深刻な問題を引き起こしてきた。これに対して、生分解性プラスチックは適切な環境下で分解されることから、自然界に無害な形で還元されるとされている。
1958年年代後半にポリβ-ヒドロキシ酪酸を大量に発酵合成する方法が発見され、生分解性プラスチックの研究が大きく進展。1970年代ごろには、世界的なオイルショックを契機として石油に依存しない新たな材料の開発が急務とされた。1980年には、イギリスのインペリアル・ケミカル・インダストリーズ社がP(3HB/3HV)の大量生産に成功したものの、物性の課題や製造コストの高さから商業的な成功に至らなかった。その後、1990年代に入って環境問題への関心が高まりをみせ、再びポリ乳酸の開発が世界的に進められるようになった。
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バイオマスプラスチックとの大きな違いは、生分解性の有無だ。まず、生分解性プラスチックは、自然由来の物質に分解されるプラスチックのことだ。石油由来の原料を使用していても、微生物に分解可能であれば生分解性プラスチックに分類される。一方で、バイオマスプラスチックとは、トウモロコシ、サトウキビ、ジャガイモ、木材といった植物由来の資源を原料とするプラスチックの総称だ。
しかし、バイオマスプラスチックが必ずしも生分解性であるとは限らない。たとえば、バイオポリエチレンやバイオポリエチレンテレフタレートは植物由来でありながらも、通常のプラスチックと同様に分解されにくい性質をもつ。
生分解性プラスチックに用いられる原料は、大きく「化石資源由来」「バイオ素材由来」「混合系」の3種類に分けられる。
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石油や天然ガスなど化石燃料を原料とする生分解性プラスチックのこと。具体的には、ポリブチレンサクシネート、ポリビニルアルコール、ポリブチレンアジペートテレフタレートなどが挙げられる。これらは従来の石油系プラスチックと似た加工性や強度、柔軟性をもち、食品容器やごみ袋、農業用フィルムなどの用途に利用されている。
トウモロコシやサトウキビなどの生物資源を原料として製造される生分解性プラスチックのこと。具体的には、ポリ乳酸やポリヒドロキシアルカノエート、セルロース誘導体などが挙げられる。特にポリ乳酸は生産コストの低下と加工性の高さから、食品容器や包装材、3Dプリンタ用フィラメントなど幅広い分野での活用が進んでいる。
バイオマス由来の原料と化石資源由来の原料を組み合わせて製造される生分解性プラスチックのこと。両者の特性を活かしつつ、性能やコスト、環境負荷のバランスを取ることを目的としている。具体的には、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリ乳酸/ポリカプロラクトン共重合体などが挙げられる。
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生分解性プラスチックの作り方は、主に以下の2つに分類できる。それぞれ詳しく解説していく。
石油由来の化学物質を原料として化学的に合成する方法をいう。たとえば、ポリブチレンアジペートテレフタレートは、テレフタル酸、アジピン酸、ブタンジオールなどを縮合重合するして製造する。この方法では、原料の選択や反応条件の調整によって目的のプラスチックを効率的に合成することが可能となる。
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微生物の代謝機能を利用してプラスチックを生成する方法のことだ。この製法によって作られるものには、ポリヒドロキシアルカノエートなどが挙げられる。再生可能なバイオマス資源を原料とし、環境への負荷を低減する利点がある。
脱プラの取り組みに欠かせない存在として注目されている生分解性プラスチックだが、導入をした場合、どのようなメリットがあるのだろうか。ここでは、代表的なメリットを3つのポイントに絞って解説する。
生分解性プラスチックは適切な条件下で微生物の働きにより水と二酸化炭素などに分解されるため、従来プラスチックに比べてプラスチックごみの削減に寄与する可能性がある。ただし、分解には堆肥化施設などの適切な環境が必要であり、全ての自然環境で速やかに分解するわけではない。従来のプラスチック製品は、使用後に回収されずに自然環境に放置されることも多い。これらは直径5mm以下のマイクロプラスチックになって、大気や海洋を汚染して生態系への悪影響を引き起こす原因となりうるため、生分解性プラスチックの導入は環境負荷低減の一助となると期待されている。
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生分解性プラスチックのように「社会課題×技術」でインパクトを出すには、マーケティング的な発想が不可欠です。
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たとえば、農業用マルチフィルムに生分解性プラスチックを導入することで、使用後に畑にすき込むだけで処理が完了し、回収や廃棄の手間が大幅に軽減される。また、従来のプラスチック製品では廃棄後に分別や回収が必要になるため、そのためのインフラ整備や運用コストも同時に発生していた。生分解性プラスチックを使えば、これらの手間やコストを削減できる。特に回収体制が整備されていない地域では、廃棄物処理の効率化が期待できる。
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トウモロコシやサトウキビなどの植物から得られる原料を使用することで、化石燃料の使用を低減できる。これにより、製造段階で二酸化炭素の排出量の削減が期待される。
また、生分解性プラスチックの使用の過程で排出される二酸化炭素は、植物が成長過程で大気中から吸収した二酸化炭素とほぼ同量であり、カーボンニュートラルとみなされる。製造から廃棄までの全体のライフサイクルで評価することが重要である。さらに、生分解性プラスチックの導入により焼却や埋立てによる二酸化炭素の排出を抑制する効果も期待されている。
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プラスチックごみの削減や二酸化炭素の排出抑制といった効果が期待できるものの、開発技術が成熟していないことから、製造やリサイクルのコストが高くなる、用途が限定されるといった課題も存在する。
従来の石油由来プラスチックと比較して、バイオマス由来の原料はコストが高くなる傾向にある。製造プロセスをみても、原料の前処理や発酵、化学合成に特殊な設備や技術が必要となるため、結果としてコストが上昇しやすい。たとえば、特定の温度や湿度、微生物の存在など分解性確保のための条件が厳密になるため、その管理も課題となっている。
生分解性プラスチックの特性は、自然環境中での分解を促進する一方で、従来のリサイクルシステムとの互換性が低い。たとえば、リサイクル施設では従来のプラスチックと生分解性プラスチックが混在していると、リサイクル品質が低下する恐れがある。さらに生分解性プラスチックの種類や成分が多岐にわたるため、リサイクル方法の統一が難しくインフラの整備が急務といえる。
生分解性プラスチックは耐久性、強度において従来のプラスチックに劣ることが多く、用途が制限されてしまう。たとえば、ポリ乳酸は比較的硬質で透明性に優れているものの、耐熱温度が低く約60~65℃で軟化が始まる。また、ポリブチレンサクシネートはポリエチレンやポリプロピレンと同等の柔軟性をもつが、耐熱性や耐久性においては用途や使用条件により適応性が限られる。そのため、長期間の使用や高温環境下での利用に適していない。
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生分解性プラスチックは、海洋プラスチック問題を解消するための釣り糸や漁網などの漁業用具はもちろん、非常に幅広い分野で活用が進んでいる。
・釣り糸や漁網
・ファストフードの容器
・ストロー
・カトラリー類(スプーン、フォークなど)
・農業用マルチフィルム
・植木鉢
・レジ袋・ゴミ袋
・医療用の縫合糸
特筆すべきなのが、農業分野や医療分野だ。農業分野では、土中で自然に分解される性質を活かし、マルチフィルムや植木鉢などで使用されている。収穫後に回収せず土壌にそのまま還元できるため、農作業の負担を軽減することが可能だ。
また、医療分野では縫合糸やカプセルなどに生分解性ポリマーを使用するケースが増えてきている。これらは体内で自然分解されるため、再手術の必要がなくなるほか患者への負担を減らすことができる。
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最後に、生分解性プラスチックを開発する企業やメーカーについて紹介する。
三菱ケミカルは、環境負荷の低減と持続可能な社会の実現を目指し、植物由来の生分解性プラスチック「BioPBS™」の開発と普及に注力している。同社とタイのPTTグローバル・ケミカル社が合弁で設立したPTT MCC Biochem Company Limitedにおいて、2017年より商業生産を開始。BioPBS™は、コハク酸と1,4-ブタンジオールからなるポリブチレンサクシネートを基盤とする。特に、コハク酸を植物由来に転換することで再生可能資源の活用を推進。さらに、三菱ケミカルはBioPBS™をベースとした生分解性樹脂コンパウンド「FORZEAS™」の開発にも取り組んでいる。
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カネカは、1990年代初頭より生分解性バイオポリマー「PHBH」※を研究・開発している会社だ。約30年にわたる研究開発の結果、2011年には兵庫県の高砂工業所において年産5,000トンの生産体制を確立。
※PHBHは微生物によって生分解され、海洋環境での分解性も期待されるため環境配慮型素材として注目されている。
同製品は従来のプラスチックにも劣らないほどの加工性をもち、射出成形や押出成形など一般的なプラスチック加工機械での成形が可能だ。現在は、「Green Planet®」のブランド名でストローやカトラリー、食品包装材、ショッピングバッグなど、さまざまな製品への応用が進められている。また、セブンイレブンやファミリーマート、スターバックスといった大手企業が導入しているほか、京都府亀岡市と「かめおか未来づくり環境パートナーシップ協定」を締結するなど、地域資源を活用した持続可能なまちづくりにも取り組んでいる。
環境負荷の低減と持続可能な社会の実現を目指し、海洋生分解性プラスチックの開発に積極的に取り組んでおり、社会実装に向けた技術開発を進めている。同社は、NEDOの「海洋生分解性プラスチックの社会実装に向けた技術開発事業」に参画。プラスチック素材の分子構造にイオン結合を導入することで、海水中のナトリウムイオンとの置換反応を利用して低分子化を促進し、生分解性を高める技術を開発。
この新素材は、安定した生分解性が報告されており、幅広い環境での利用が可能とされている。また、同社は2021年に海洋汚染の原因の1つであるプラスチックビーズの代替素材として「フラビカファイン®SILKYタイプ」を開発。化粧品や皮膚洗浄剤などのパーソナルケア製品への応用を進めている。
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生分解性プラスチックは、従来のプラスチックが引き起こしてきた環境問題の解決に貢献する力を秘めている。しかし、代替素材として普及させるには製造コストや物性の課題、リサイクル体制の整備など、多くの壁を突破しなければならない。今後、バイオ由来の原料開発や処理技術の進展、制度整備が進むことで、生分解性プラスチックの可能性はさらに広がることが期待される。