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製造業
「リーン」とは、経営において最小限の経営資源で最大限の利益を上げることを目指す考え方であり、「リーンスタートアップ」は無駄を省いて事業創出を迅速化させる手法である。近頃リーンスタートアップは時代遅れと耳にすることもあるが、本当にそうなのだろうか。また、昨今よく耳にする言葉である「アジャイル」とはどのように違うのだろうか。
今回の記事では、リーンスタートアップについて、アジャイルなどの関連する語句の説明や、リーンスタートアップを行う際のポイントを含めて解説する。
新規事業創出にはアイデアが必要不可欠!
筋の良いアイデアを生み出すための3ステップをご紹介
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目次
リーンスタートアップの「リーン」とは、痩せていること、無駄のないことを意味する「lean」が由来であり、無駄なものがないという意味合いで使われている。ビジネスにおけるリーンな考え方とは、経営資源の根本要素であるヒト・モノ・カネの投入を最適化し、バランスの取れた経営を目指すことだ。勘違いしてはいけないが、リーンはコストカットが目的なのではなく、最小限の経営資源で効果を最大化させることを目的としている。また、自社を取り巻く環境の変化に対応するために業務の見直しや事業の方針変更を通じ、自社経営の最良を求め続けることがリーンな考え方である。
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世界に広く知られる生産管理手法のひとつに「リーン生産方式」がある。これは米国の研究者によって「トヨタ生産方式」や5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)・改善などを体系化し一般化したものだ。「トヨタ生産方式」はトヨタ自動車が生み出したもので、異常が発生したら機械を直ちに停止させ、不良品を造らず、問題を改善してから機械を再稼働するということ(ニンベンのついた自働化)、そして、各工程においては必要なものだけを流れるように停滞なく生産すること(ジャスト・イン・タイム)を2つの柱としている。つまり、トヨタ生産方式は「生産性の向上」と「問題の顕在化」によって、無駄を徹底的に排除した生産方式であるといえる。
このトヨタ生産方式の考え方を新規事業や製品開発に応用したものが、リーンスタートアップである。
リーンスタートアップは2008年にシリコンバレーの起業家であるエリック・リース氏によって提唱されたマネジメントの手法である。新しいビジネス創出のために考案されたものであり、新事業は小さく始めて、成功するかどうかを早期に見極めることが主眼で、無駄なく事業を生み出すモデルである。顧客の反応、ニーズをつぶさに感じ取りながら、迅速に細やかな改良を加えていくのが特徴だ。
アジャイル開発はリーンスタートアップとともに語られることが多い。これは、小さな作業単位で実装とテストを実施することによって全体のシステム開発にかかる時間を大幅に短縮しようとする開発方式である。従来の主流であった最初にプロジェクトの計画や設計を事細かに決め、すべての要件を解決できてからリリースするウォーターフォール開発とは対照的である。製品提供を迅速に行い、ブラッシュアップを行うことを前提としているため臨機応変な対応が可能で、顧客のニーズに応え価値を最大化させることを得意としている。
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リーンスタートアップは「顧客開発※」をコンセプトとしており、顧客のフィードバックをもとにプロダクトのグロースを目指し何度も再構築を繰り返し行う。一方、アジャイル開発は「製品開発」において開発工程の迅速化と効率化を図ることを目標としており、短期間で小さな機能を作りサイクルの反復の中で追加していく方式だ。
どちらとも「不確実性」を背景にして生まれた手法で、変わりゆく状況に対応しやすいように考えられた方法だ。そのため共通点として、サイクルを小さく早く回すことが挙げられ、目的の早期達成、リスク回避を得意としている。その親和性から、リーンスタートアップではシステム開発においてアジャイル開発の手法を採用することが多い。
※顧客開発モデル
リーンスタートアップにおいて取り入れられている顧客開発のコンセプトに「顧客開発モデル」がある。顧客開発モデルには、「顧客発見」「顧客実証」「顧客開拓」「組織構築」の4ステップがあり、このプロセスのなかで顧客を相手とした仮説検証を繰り返し行い、利益を生み出すビジネスモデルを探索するやり方である。
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リーンスタートアップでは以下のプロセスの実行がポイントとなる。
顧客のニーズについて仮説を立てる。開発したものが今後売れるかどうかの価値仮説と、事業が発展していくかの成長仮説の2つの軸で検討する。選定したターゲットのニーズを深掘りし信憑性の高い仮説立案を行うため、幅広い情報収集が必要となる。
仮説検証のため、必要最小限の機能を備えた、もしくは加えた製品やサービスを実際に作る。ここで開発した製品をMVP(Minimum Viable product)という。
リリースしたMVPの計測、実験を行い、想定する顧客層からフィードバックを得てデータを集める。
計測結果と構築した仮説を照らし合わせ、リリース後の反応を想定する。課題を洗い出し原因を突き詰め、改善方法を模索することも重要だ。
学習の結果を踏まえて今後の方針を決める。満足のいく成果が得られなかったとしても、必ず意思決定まで行うことが重要だ。製品・サービスの改良や、そもそもの方針について検討し、必要であれば方針転換や軌道修正(ピボット)を行い、また新しいサイクルに入る。
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リーンスタートアップには、以下のようなメリット、デメリットが挙げられる。
・コストや時間を抑えることができる
・リスクを小さく抑える
・顧客ニーズに沿った製品やサービスの開発
無駄なく事業を立ち上げるためのプロセスが組まれているため、コストや時間を抑え、リリースまでの期間も短縮しやすくなっている。また、小さく積み重ねていくことで失敗や問題が発生した際の損失を抑えられるメリットもある。顧客フィードバックの取得を前提とした手法のため、より顧客ニーズに沿った製品やサービスとなりやすい。
・製品やサービスの開発コストが高いものは不向き
・何度もピボットを行う場合はコストがかさむ恐れがある
先述したとおり、リーンスタートアップは何度かプロセスを繰り返す手法だ。そのため、もともと開発コストが高い製品やサービスの場合は、その開発に耐えられる企業体力が求められる。またいくら開発コストが低めでも、何度もピボットを繰り返せばそれだけコストがかかり、メリットがデメリットに転じてしまうことも念頭におく必要がある。
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リーンスタートアップは全ての場合に適用できる万能な手法というわけではない。それが「リーンスタートアップは時代遅れだ」という意見に現れているのではないだろうか。この数年世界的に業界を問わずあらゆる事業を取り巻く環境が大きく変動し、リーンスタートアップの手法が合わない市場が出てきている。
リーンスタートアップが提唱された2008年から、インターネットなど情報通信分野の発達は目覚ましく、ネットを利用しない人はほぼいないといっても過言ではない。また、近年ではSNSで情報収集を行う人も増加傾向にある。こうしたSNSを含めたネット上の情報拡散のスピードは、これまでと比較にならないほど早く、初期段階の製品やサービスに顧客による低評価がつけられ拡散してしまうと、巻き返すのが難しくなる場合が出てきたのである。
とはいえ、それだけの理由でリーンスタートアップを切り捨ててしまうのはもったいない。次にリーンスタートアップで起きやすい誤解をご覧いただきたい。
リーンスタートアップはアジャイル開発のブラッシュアップを伴ってプロセスを繰り返すのだが、決して初回が仮説の甘い手を抜いたもので良いわけではない。最初に生み出すMVPが仮説のない思いつきで的外れのものであっては、その後のサイクルを回す工程も増え無駄が増すばかりだ。MVPの「筋の良さ」があってこその手法であることを念頭に置く必要がある。先述したように、最初の製品評価が瞬く間に拡散するという時代背景も加味する必要がある。評価拡散の対策として、検証するユーザーを限定する、ベータ版である前置きをするなどの対策も合わせて検討すると良いだろう。また言うまでもないことかもしれないが、あくまでも開発を進めるためのマネジメント手法であって、アイデアを生み出すための手法でない。リーンスタートアップのサイクルを回していれば良いアイデアが生まれてくると勘違いしてはいけない。
よく考えられた手法でも使いどころを間違えればうまくいかないのは当たり前である。どのような手法であっても本質を理解し、リスクに対する対策を講じることが重要なのだ。
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ここではリーンスタートアップを有効活用するためのポイントを解説する。
リーンスタートアップの効果を発揮できる市場であるかどうかの見極めはとても重要だ。先に説明した通り、顧客の声が広がりやすい対消費者向けの事業ではより慎重になる必要があるだろう。一方で、市場トレンドや顧客ニーズが複雑で読みきれていない分野や、サービスを最適化し顧客体験を向上させる必要がある分野、製品やサービスを作り込んでいく段階など、臨機応変な対応が必要な場合にリーンスタートアップは効果を発揮するだろう。
ブラッシュアップを繰り返す手法であるため、当初の目的やゴールが曖昧になったり、方針が逸れてしまったり、顧客フィードバックに応えることばかりに偏りただの御用聞きになってしまう恐れもある。そのようなリスクを回避するために、リーンスタートアップは「無駄を省いて少ない経営資源で最大限の利益を出すこと」であることを忘れてはならないし、事業の最終ゴールを見失ってもいけない。
製品やサービスは顧客あってのものだ。顧客を無視した憶測だけの仮説によって製品化しても出戻りになるか、市場に出しても痛い目にあうだけだ。既存顧客へのヒアリングはもちろん有効なのだが、特に新製品や新事業の場合は、想定する顧客層や市場のニーズがどのように変動しているかなどの情報収集が欠かせない。筋の良い仮説を立てるためには自社業界や領域に囚われない広い視野を持つ必要があるのだ。
また、立てた仮説に納得感を持って次のプロセスに進めていくためには、自分自身だけでなく他のメンバーの「腹落ち」も必要だ。仮説を裏付けるような分類・整理された情報が提示できるよう準備するだけでなく、仮説立案にいたるまでの経緯や情報を社内メンバーと共有できていれば背景をスムーズに理解することができる。
つまり、網羅的な情報収集や得られた情報の共有と蓄積による情報の利活用は、顧客ニーズを捉えた製品・サービスの開発には不可欠で、さらに社内合意や意思決定がスムーズになりスピード感のある事業・製品開発の推進を可能とする。
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リーンスタートアップが提唱されてからたった十数年で「時代遅れ」という言説が出るほどに時代は急速に変化している。環境や市場の驚異的なスピードの変化に伴って、最適な開発、マネジメント手法も変わっていくことは言わずもがなだろう。何が正解か不正解かではなく、必ず成功する手法はないものとして、さまざまな方法を「ひとつのやり方」として参考にすることが重要だ。多くの手法や事例を集め、自社の事業環境やターゲット市場に合わせた良い手法が選択できるようになるのがベストである。