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製造業
温室効果ガスの削減にも寄与する太陽光発電。しかしながら、太陽光発電は天候によって出力が大きく左右されることや、太陽光パネルの保守・運用に労力がかかるといった課題がある。事実、2022年における太陽光発電の割合は全体の10%近くと、化石燃料に代替するエネルギーとしては力不足なのが現状だ。
しかし、そんな現状を覆す技術が登場している。それがペロブスカイト太陽電池だ。ペロブスカイト太陽電池は塗布技術や印刷技術で作製が可能で、より安価に量産できるということで注目されている。本記事では、ペロブスカイト太陽電池のメリットや実用性、市場規模について解説していきたい。
「ペロブスカイト太陽電池」の特徴を分かりやすく解説!
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目次
ペロブスカイト太陽電池とは、光を吸収する材料にペロブスカイト結晶構造の材料を活用した太陽電池のことを指す。従来、ペロブスカイトは圧電体材料などで利用されてきたが、2009年桐蔭横浜大学の宮坂力教授のグループが、極薄フィルムにペロブスカイト結晶を塗布することで、太陽電池として動作することを発見した。
開発当初は変換効率が3%台だったため、さほど注目を集めなかったが、2012年に英国オックスフォード大学のヘンリー・スネイス教授や産総研太陽光発電工学研究センター村上 拓郎氏が共同開発を行った結果、変換効率は10%台にまで到達。この偉業は米科学誌「Nature」にも掲載され、世界的に研究が活発化した。
さらにその数年後、パナソニック先端研究本部の松井太佑主任技師ら共同研究グループがペロブスカイト太陽電池の耐久性を高める研究を実施し、変換効率21.6%と脅威的な数値を出した。
現時点では実用化には至っていないものの、シリコン系太陽電池の変換効率24%に迫る勢いであり、太陽光発電の主力電池として期待が高まっている。
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薄膜シリコン太陽電池の前にシリコン太陽電池について解説する。シリコン太陽電池とはケイ素を主な材料とした太陽電池だ。シリコン太陽電池にもいくつか種類があるが、世界の太陽光市場の95%以上を占めているのが結晶シリコン太陽電池である。ただ、結晶シリコン太陽電池は重量があり硬いため、設置場所が限られるのに加え、発電量が日照に左右されるため、電力供給が安定しにくい。
この課題を解決したのが薄膜シリコン太陽電池だ。厚みが1μm(マイクロメートル)以下の極薄のシリコン膜を用いる太陽電池と定義されている。家庭用発電設備や人工衛星などの分野で利用が進んでいるが、やはり天候や季節による日照量の変化に影響を受けてしまう。
一方、ペロブスカイト太陽電池は日照が少ない曇りの日や蛍光灯などの弱い光でも発電が可能だ。薄くて軽く曲面に設置できるため、大きな設置面積を必要としない。
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ペロブスカイト太陽電池には、どのような特徴やメリットがあるのだろうか。
最大の特徴は軽量であることだ。将来的には、シリコン太陽電池と比べて厚さは1/100、重さは1/10まで小型化することが期待されている。また、やわらかい性質で、折り曲げやゆがみにも強いため、さまざまな場所での設置が可能だ。
厚みが1μm以下の薄膜シリコン太陽電池と呼ばれるものが登場しているが、薄くするほど太陽光の吸収率が低下してしまう。一方で、ペロブスカイト太陽電池は薄くても高い光吸収率を維持することが可能である。また、シリコン太陽電池と違い、屋内の弱い光でも発電できるため、天候に左右されない。
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現在主流であるシリコン太陽電池や化合物系太陽電池と比べて、材料そのものが安価である。ペロブスカイト太陽電池では、比較的手に入りやすいヨウ化鉛やメチルアンモニウムが主な素材として用いられており、化合物系太陽電池のように高価なレアメタルなどを使う必要がない。
また、シリコン系太陽電池は製造プロセスが複雑だが、ペロブスカイト太陽電池は基盤への塗布や印刷で済むため製造工程が大幅に簡素化できる。そのため、シリコンを使う場合と比較して使用する材料は20分の1程度に抑えられる。結果として、製造コストはシリコン系太陽電池の1/5程度になるといわれている。
先に述べたように、シリコン系太陽電池は製造プロセスが複雑なうえに、製造時には莫大な電力が消費される。これに対しペロブスカイト太陽電池は、常温・低温でのプロセス技術で形成できるため、製造時の温室効果ガスの排出量が少ないうえに高コストな製造設備も不要だ。
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実用化に至れば革新的な技術であることは間違いないが、ペロブスカイト太陽電池にはいくつかの課題がある。
シリコン太陽電池の耐用年数が20年程度なのに対し、ペロブスカイト太陽電池は現状長くて5年程度とされている。主原料であるヨウ化鉛は酸素や水、紫外線など、さまざまな環境の影響を受けるからだ。しかし、兵庫県立大学らの研究グループが、ペロブスカイト太陽電池の耐用年数を20年相当まで改善した実証実験に成功していることから、耐久性の向上は近い将来には解消されるだろう。
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安定的に発電するには、均一にペロブスカイト結晶を配列させる必要がある。しかし、面積が大きくなるほど結晶のばらつきが生じ、変換効率が低下してしまう。大型運用を目指すのであれば、安定的な結晶の形成技術の開発が必要になると考えられる。
微量ではあるが、人体に有害な鉛が使用されている。経年劣化や破損、雨などによって鉛が溶け出し、人体や自然環境に悪影響を及ぼすことが懸念されているのだ。ただ、この点については、鉛が流出しない製造方法ではなく、鉛以外の材料を使って製造する研究が進められている。
2022年には、京都大学化学研究所の若宮淳志教授ら共同研究グループが、鉛の使用量をスズを用いることで抑えたスズ-鉛混合型のペロブスカイト太陽電池の光電変換効率が向上する手法を開発。ペロブスカイト太陽電池では23.6%と世界最高の変換効率を達成するなど鉛フリー素材として有望な研究結果を出している。
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2023年3月に富士経済が発表した調査によれば、現状では実証段階のものが多く、世界で300億円を超える程度だが、2035年には市場規模は1兆円にまで到達するとしている。
また、日本では2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、次世代型太陽電池の開発プロジェクトを発足。このプロジェクトでは、ペロブスカイト太陽電池についても言及されており、研究開発から製品化、生産体制の構築などの実用化・実証事業まで一気通貫で取り組み、2030年を目途に社会実装を目指すとしている。
世界に目を向けてみると、中国やヨーロッパを中心に量産化へ向けた動きが活発化しつつある。Value Market Researchの調査によれば、ペロブスカイト太陽電池市場の世界需要は、2023~2030年のCAGRが71.4%で、2022年の9,361万米ドルから、2030年には約69億7,265万米ドルの市場規模に達すると推定されている。
中国では、2015年頃からペロブスカイト太陽電池に関するスタートアップ企業が複数設立された。多数の企業や大学が特許取得を進めており、研究開発競争は激化の一途をたどっている。
ペロブスカイト太陽電池は、中国やヨーロッパを中心に技術開発競争が激化しているが、特に製品化のカギとなる大型化や耐久性の分野では日本がリードしている状況だ。
また、ペロブスカイト太陽電池の主要材料であるヨウ素の生産量は、全世界で年間約34,000トンで、うち日本の生産量は約9,400トンであり、世界の約26%にあたる。
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最後に、ペロブスカイト太陽電池の開発に取り組んでいる企業をいくつか紹介する。
積水化学工業は2030年までに量産化を目指している。その取り組みの一環として、フィルム型ペロブスカイト太陽電池を建物の外壁に設置する実証実験をNTTデータと共同で開始。2028年に完成予定の千代田区内幸町のサウスタワーに設置される予定だ。これが実現すれば、世界初「ペロブスカイト太陽電池によるソーラー発電機能を実装した高層ビル」の誕生となる。
サウレ・テクノロジーはポーランドのスタートアップ企業だ。2015年にはエイチ・アイ・エスの創設者である澤田氏も出資したことで知られている。2021年5月に工場を設立し、世界で初めてペロブスカイト太陽電池の商業生産を開始。また、ポーランドの太陽電池施工の最大手であるコロンブス・エナジーや、ヨーロッパの大手不動産管理会社MVGMと三者間の業務提携契約を締結しており、本格的に世界市場に打って出る姿勢だ。
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2010年に設立されたオックスフォード大学発のスタートアップだ。オックスフォードPVは、複数の材料を組み合わせた「タンデム型ペロブスカイト太陽電池」を注力分野とし、2020年には変換効率29.5%を達成。また、2024年末までには2GWの生産能力の実現・量産化を目指している。
自動車部品の開発と生産を行うアイシンは、近年、新規事業としてペロブスカイトを均一に塗布する技術開発に注力している。2025年から自社グループ工場を活用した実証実験を開始し、その後主に車載向けのペロブスカイト電池の事業化を見据えている。
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ペロブスカイト太陽電池が一般に普及すれば、軽量かつ変換効率が高い利点を活かし、工場の外壁や電気自動車の屋根に設置することが可能となり、温室効果ガスの削減が期待できる。
カーボンニュートラルの促進や、AIの利用加速による電力不足といったトレンドを鑑みるに、近い将来、キーテクノロジーになることは間違いないだろう。
ペロブスカイト太陽電池は、まだ実証段階で技術は日々更新されている状況だ。常に、太陽光発電のトレンドを捉え、自らの会社に活かせるヒントがないか冷静に分析していくことが肝要といえるだろう。