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【イベントレポート】PFAS技術の最前線。規制を乗り越えるためのPFAS分解技術とは?

PFAS技術の最前線。規制を乗り越えるためのPFAS分解技術とは?

フッ素は、その優れた性能から身の回りのあらゆるところで使用されている。近年、PFAS(Per- and Polyfluoroalkyl Substances)と総称される、一部のフッ素化合物の有害性が問題視され、世界各地で規制が強化されている。

製造業をはじめとした多くの産業では対応が求められ、PFASの代替素材や分解技術への関心が急速に高まっている。こうした取り組みは単なる規制への対応にとどまらず、新しい技術や製品のイノベーションを生む可能性を秘めているといえるだろう。

今回のセミナーでは、PFASを「光触媒」で分解する技術の研究を進める、立命館大学の小林教授をお招きし、PFASをめぐる現状やPFAS分解に関する研究動向、そして今後の展望について解説いただいた。

※本記事は、ストックマーク株式会社が2025年2月20日に開催したオンラインセミナー『PFASに挑む最前線 〜立命館大学 小林教授に学ぶ、PFAS素材分解の最新技術』の内容を中心にまとめたものです。


小林 洋一氏

立命館大学 生命科学部 応用化学科

教授

関西学院大学大学院理工学研究科にて博士(理学)を取得。日本学術振興会特別研究員(関西学院大学)、海外特別研究員(トロント大学)、青山学院大学理工学部 助教を経て、2017年に立命館大学生命科学部に着任。2023年より現職。2022年度より、JSTさきがけ研究者「サステイナブル材料」兼任。


PFASが抱える技術課題の解決に向けて期待される「分解技術」

半導体などの電子部品の材料、エアコンや冷蔵庫の冷媒、セメントや鉄鋼の鉱化剤など、フッ素は非常に優れた『耐熱性』、『耐薬品性』、『絶縁性』、『界面特性』を理由にあらゆる産業プロセスで幅広く利用されており、私たちの豊かな暮らしを支える基盤材料にもなっている。

一方で、その化学的な「安定性」ゆえに問題視されているのが、有機フッ素化合物の一部である「PFAS」である。フッ素材料の安定性をもたらしているのは炭素とフッ素の強力な結合であるが、強力な結合を持つということはなかなか分解されないのである。

そのため、PFASは環境や人体内に蓄積され、将来にわたってさまざまな影響を及ぼすと考えられており、特に人体に蓄積されることでさまざまな疾患の原因となり得ることは既に研究で示されているそうだ。

小林氏は「フッ素を含む材料のすべてが有害ということではない」と補足する。POPs条約とも呼ばれる「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」で規制された物質に関しては使用の禁止や根絶が進められているが、それ以外のフッ素樹脂などに関しては、体内に蓄積しにくいことが分かっているものもあれば、まだまだ調査が必要なものもあるという。

フッ素化合物のリサイクルは現在の技術では課題が多く、回収をすることが難しいことに加え、回収ができても効率的に「分解」する技術が極めて乏しい。そのため今でも8%~9%程度のフッ素樹脂は埋め立てに依存しているのが実情だ。こうした背景のなか、フッ素化合物の分解技術には大きな注目が集まっているのだ。

持続可能な循環型社会に向けての課題

小林氏は「フッ素化合物を分解してフッ化物イオンにまで戻すことができれば、これは金属イオンと簡単に結合します。カルシウムイオンと結合させることでフッ素化合物の原料が再び戻ってくることになります。これは、フッ素のリサイクルスキームとしてよく知られているもので、フッ素リサイクルやフッ素の分解の研究では、まずはここまでできることが大きなステップであると言えるでしょう」と解説する。

PFASの代替技術や除去手法を検討するにはどのように情報収集すべき?
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PFASを分解する主要な技術と最新の技術動向

フッ素化合物の分解技術が注目されていることは上述した通りだ。小林氏から主要な技術や最先端の技術動向を5つ紹介いただいた。

UVC光を使った分解

フッ素化合物を分解する1つの方法は、UVC光と呼ばれる極めて短波長の紫外線を照射するというものである。この方法は現在のスタンダードな手法となっているとのことだ。光というのは波長が短くなればなるほどエネルギーが高くなり、深紫外線(280ナノメートルより短い光)であれば炭素とフッ素の結合も分解することができる。

深紫外線は基本的には地球上に届く光ではないが、低圧水銀灯を使うと比較的簡単に地表で発生させることは可能だ。しかし、低圧水銀灯の使用に関しては、工業的規制から使用制限があり、電力消費が大きく、容器に石英を用いる必要があるため課題が大きいのだ。

また、この手法では光を長時間照射しているうちに、分解能が頭打ちになることが分かっている。分解されなかった物質はより小さな分子になるか気化するのだが、気化したPFASの影響も徐々に問題になりつつあるという。さらに、PFASの種類によっては同じエネルギーの光を照射してもほとんど分解されないものもあるそうだ。

UVC光を使った分解

低圧水銀灯に並ぶ装置として小林氏から紹介されたのが「エキシマランプ」である。PFASの一種であるPFOSおよびPFOAは、この装置によって99%が分解されるとのことだ。一方でエキシマランプも基本的には高電圧が必要な装置である。

また、1つの分子に17個の炭素とフッ素の結合があったとして、このうち1つでも結合が切れれば、それは「分解された」とみなされるため、果たしてそれで有害性がなくなったといえるのかどうかは難しいところだ。そのため、脱フッ素化率に着目することが重要であるといえるとのことだ。

高圧、高熱、強酸化剤による分解