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製造業
ブルーカーボンは、海洋生態系によって吸収・固定される炭素の総称であり、気候変動対策のひとつとして注目されている。海草藻場、マングローブ林、塩性湿地などが主要な吸収源となり、陸上の森林と比べても高い炭素固定能力をもつ。この特性を活かし、各国はカーボンクレジットの創出や生態系保全の観点からブルーカーボンの活用を進めている。市場規模は拡大傾向にあり、経済的なメリットも期待される。本記事では、ブルーカーボンの基本概念や市場動向、具体的な取り組み事例について解説したい。
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目次
ブルーカーボンとは、海洋生態系によって吸収・貯留された炭素のことを指す。具体的には、海藻や海草の藻場、マングローブ林、湿地・干潟などが該当し、これらは「ブルーカーボン生態系」と呼ばれる。特に、沿岸域は海洋全体のCO2貯留ポテンシャルの約80%を占めており、面積あたりのCO2吸収速度は森林生態系の5~10倍とされる。
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ブルーカーボンとグリーンカーボンは、いずれも生態系が大気中のCO2を吸収・貯留する炭素のことを指しているが、その吸収源や貯留期間に違いがある。ブルーカーボンが海洋生態系によって吸収・貯留された炭素を指すのに対し、グリーンカーボンは陸上の森林や草原などの生態系によって吸収・貯留された炭素を指す。これらの生態系も光合成を通じてCO2を吸収するが、貯留期間は数十年程度とされている。
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ブルーカーボンクレジットとは、海洋生態系が吸収・貯留したCO2を定量化し、クレジットとして取引可能にする制度だ。具体的には、ブルーカーボン生態系が吸収したCO2を数値化し、その削減量をクレジットとして認証・発行する。
日本では、2020年度にジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)が「Jブルークレジット制度」を創設し、ブルーカーボン生態系の保護・育成プロジェクトを対象としたクレジットの発行を開始した。発行されたクレジットは、CO2排出量のオフセットやカーボンニュートラルの達成手段として企業や自治体が活用できる。
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ここでは、ブルーカーボンを吸収・貯留する生態系の種類について解説する。
沿岸域の岩礁地帯の海藻が密集して繁茂する生態系を指す。日本では、ガラモ、コンブ、カジメなどが主要な種として挙げられる。
種子植物である海草が群生する場所を指す。日本ではアマモが代表的で、波の静かな内海の平坦な砂泥底に棲息している。海草藻場は水生生物の産卵や幼稚仔魚の成育、波浪の抑制や底質の安定化を通じて海岸線の保全に重要な存在であるものの、沿岸開発や水質悪化などによって減少傾向にある。
熱帯や亜熱帯の河口域や沿岸の潮間帯に生育するマングローブ植物が形成する森林のことをいう。マングローブ林は、海水と淡水が混じることで独特の生態系を形成し、多くの生物が棲息している。また、海岸線の浸食防止や高潮・津波の緩衝帯として重要な役割を果たしている。ただ、近年は海草藻場と同じく過剰な伐採や開発によって面積が減少している。
干潟・湿地とは、潮の満ち引きによって周期的に水没と干出を繰り返す地域のことを指す。これらの環境では、ヨシやハママツナ、シバナといった塩生植物が生育し、光合成を通じて大量のブルーカーボンが長期間貯留・蓄積される。
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2009年10月に食料農業機関(FAQ)、教育科学文化機関(UNESCO)、国連環境計画(UNEP)などが共同で公表した「Blue Carbon:The Role of Healthy Oceans in Binding Carbon」という報告書のなかで、海洋生態系に取り込まれた炭素を「ブルーカーボン」と命名したことを契機に注目度が高まった。
世界銀行が発行した「The Global Seaweed New and Emerging Markets Report 2023」によると、これまで主要であった食品用途だけでなく、新たな10の市場で利用が広がると言及。さらに、2030年までには最大で118億ドルにまで市場が成長することを予測している。短期的には海藻を原料とするペットフードや動物用飼料添加物市場などが伸長するとされており、中期的には栄養補助食品、バイオプラスチック、代替タンパク質などへの活用に期待されている。
一方、ヨーロッパでは2018年から毎年「THE BLUE ECONOMY REPORT」を発表しており、2021年には「ブルーエコノミーはEU内で約450万人の雇用を生み出し、売上高は6,500億ユーロ、付加価値額は1,760億ユーロに達している」という記載がみられる。
日本においても、官民連携によって積極的にブルーカーボンに関する取り組みが行われている。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が策定した温室効果ガスの排出・吸収量を算定・報告する際の指針「IPCCガイドライン」では、マングローブ、潮汐湿地、海草藻場の3つが示されているが、2024年4月に日本はマングローブに加えて、海草・海藻藻場によるブルーカーボンを世界で初めて報告した。
2050年カーボンニュートラルの達成に向けて、経済産業省やNEDOなどが主体となって研究開発・実証から社会実装までを10年間継続支援するグリーンイノベーション基金(GI基金)の支援対象のひとつとなっている。
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陸上の森林と同様に、海草藻場・海藻藻場やマングローブ林といったブルーカーボン生態系が提供するメリットは、海岸線の保護や地球温暖化の緩和、生物多様性の保全など多岐にわたる。
海洋生態系が大気中のCO2を吸収・固定することで、地球温暖化の緩和に寄与する。また、陸上の森林と比較しても炭素吸収能力に優れており、気候変動対策として注目されている。
特にマングローブ林や塩性湿地は、その複雑な根系構造によって津波や高潮、嵐などの自然災害から沿岸域を守る役割を果たす。これらの生態系は、波のエネルギーを吸収・減衰させ、海岸浸食を防止し、後背地の被害を軽減する効果がある。
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海草藻場やマングローブ林、塩性湿地などは、多様な海洋生物の産卵場や稚魚の育成場の役割をもっており、「海のゆりかご」とも。また、マングローブ林は魚類や甲殻類の繁殖地となっており、海草藻場は海洋生物の食物供給源として必要不可欠な存在といえる。
ブルーカーボンを普及させるには、干潟や藻場といったブルーカーボン生態系の保全が最重要課題となる。これらの生態系は、二酸化炭素の吸収源として注目される一方で、近年の沿岸開発や水質悪化、さらには食害生物の駆除活動を行う漁業者などの高齢化・後継者不足により、維持が困難になっている。そのため、国や港湾管理者だけでなく港湾協力団体、自然再生に取り組むNPOや市民団体、教育機関、漁業関係者、企業など、多様な組織と連携し協働するための枠組づくりが必要不可欠になるだろう。
さらに、これら生態系の維持管理にはモニタリングや適切な管理手法の導入が必須であり、技術的な課題も存在している。
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日本においても、企業や自治体が主体となってブルーカーボンを活用した環境保全のプロジェクトや事業が進められている。ここでは、代表的な取り組み事例をいくつか紹介したい。
環境省は、2022年に「令和の里海づくり」モデル事業を開始した。全国の沿岸域における生物多様性や生物生産性を確保するための豊かな里海づくりの活動の促進を目的としており、藻場・干潟などの保全・再生と、地域資源の利活用による好循環の形成などの支援を行う。
日本製鉄は、2004年から海で実証実験を重ね、鉄鋼スラグを腐植物質と混合した鉄分供給ユニットが藻場の再生や維持に効果があることを確認。2022年度には、北海道増毛町の増毛漁業協同組合と連携して2018年から2022年の5年間に吸収・固定化されたCO2量として49.5t-CO2のJブルークレジットを、さらに2023年度には北海道増毛町、北海道泊村、千葉県君津市の3地域で共同申請を行い、2023年に吸収・固定化されたCO2量として合計33.3t-CO2のクレジットを発行している。
ウミトロンは、2016年4月に設立された、持続可能な水産養殖の実現を目指すスタートアップ企業だ。衛星データとAI技術を活用してブルーカーボンのポテンシャル評価サービスを提供している。このサービスでは、自治体沿岸の藻場や海草の生育エリアを推定し、ブルーカーボンの蓄積量を算定することが可能だ。具体的には、現地調査と衛星画像を組み合わせ、AIによる条件学習を通じて生育場所と蓄積量を推定し、さらに衛星や水深データを活用して、生育ポテンシャルの高いエリアをマッピングすることができる。
2022年2月にはENEOSホールディングス株式会社と資本業務提携を結び、ブルーカーボン事業の共同研究を開始。これまで水産養殖向けに提供してきたAI、IoT、衛星リモートセンシングといったテクノロジーやデータを応用し、ブルーカーボン生態系の研究開発に取り組んでいる。
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ブルーカーボンは、海洋環境を活用して温室効果ガスを削減する革新的なアプローチであり、地球温暖化対策において大きな期待がされている。海草、藻場、干潟といった海洋エコシステムの保護と再生が進むことで、気候変動への対応が加速し、またそれと同時に生物多様性の保全や災害時の海岸線保護といった多面的な利益も得られる。日本においても、積極的に政府や企業がブルーカーボン関連のプロジェクトに取り組んでおり、持続可能な未来に向けた動きが着実に進んでいるといえるだろう。