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変わる研究開発。求められる事業貢献とその課題とは?

研究開発_事業貢献

これまで日本経済を牽引してきた「ものづくり産業」。その中でも研究開発は製品や事業における価値の基盤であり、他社との差異化を行う上での重要な役割を担ってきた。一方で期待されているミッションが変わりつつあることは周知の事実でもある。

基礎研究を中心とした中央研究所の廃止、自前主義の脱却とオープンイノベーションの加速化などの応用研究並びに開発研究へのシフトが起きつつあり、製品化・事業化へ繋がる事業貢献ができる研究開発部門への変貌への期待が高まっている。今回は改めて、このような変化が起きている背景とその中で取り組むべき課題を解説する。

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 変化する研究開発部門のミッションと捉えるべき背景

近年、SDGsや脱炭素社会の実現、デジタル化の進展など様々な社会環境の変化がビジネス環境においても大きな影響を与えている。その中でも研究開発部門の役割における変化の起点になっているのは、「製品ライフサイクルの短期化」と「マテリアルズ・インフォマティクスの導入」だ。

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 製品ライフサイクルの短期化

所有という概念の希薄化や新型コロナウイルスの影響によるソーシャルディスタンスなど、最終消費者の価値観や行動そのものが変容・多様化し続けている。作れば売れるという時代から体験価値の創出へ、「モノ」から「コト」への変化に対する意識は高まっていることだろう。

一方、技術的な側面では加速度的にテクノロジーの発達とグローバル化が進み、技術のコモディティ化が進みつつある。このような背景から製品ライフサイクルの短期化が進んでいる。経済産業省が公表しているものづくり白書でもこの変化に触れられている。10年前の製品ライフサイクルとの比較では、ほとんどの製造業種において、短くなっていると感じている方が一定数おり、長くなっているという回答は少ない。

製品ライフサイクル短期化
参照:経済産業省製造、基盤白書(ものづくり白書)第3節 市場の変化に応じて経営革新を進めた製造企業より(https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2016/honbun_pdf/pdf/honbun01_03_01.pdf)

川上や川中と呼ばれるような完成品に至る過程で活動を行なっている企業の方々も例外ではない。多様化し続ける消費行動の中で、提供される価値やそれを実現する技術の幅や深さが広がり続けており、完成品が多様化する中で、顧客ニーズに合わせた差異化要素の発見が必要になる。

差異化ができない技術領域に関しては、より低単価で量産ができる海外製品との競争が強まり、企業によっては高付加価値の製品への注力を掲げることも多い。

 マテリアルズ・インフォマティクスの導入の加速

上述した変化を更に後押ししているのが「マテリアルズ・インフォマティクス」の導入だ。素材開発のプロセスが高速化されることが予期されており、今後は高速化する材料開発に適応した、多量の用途開発と一歩先を見据えた技術開発、それに適応した企画人材の育成が重要となってくるだろう。

このような背景において、尖った技術を生み出すことから事業貢献へ、製品化・事業化へ繋がる研究開発部門への変貌が期待されている。日本能率協会が発表しているCTO Survey2020によると、CTOの45.5%が「研究・開発成果の製品化・事業化率の向上」を研究・開発部門の重要課題として挙げており、経営層も関心が高い一大テーマとなっている。

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 変化へ適応するために取り組むべき課題は?

「事業貢献ができる研究開発部門へ」と掲げても前に進まないことが多い。そこには3つの課題が内在している。

 (1)顧客ニーズを意識した研究が困難

これまで特定技術の研究を業務の中心に置いてきた反面、新たな価値や製品を生み出していくには技術シーズと顧客ニーズを繋ぎ、マーケットを意識した研究開発を行う必要がある。市場を見る目にはセンスが問われ、なおかつ研究開発は少なくとも3年から5年といった期間があり、IT分野などとは異なり、すぐにサービスをリリースして顧客の声を聞きながら開発を行うことは困難だ。

また、直接顧客の声を聞く機会が少ないのも実情だろう。研究所は顧客から遠い位置にあることも多く、研究に専念できる環境である一方、顧客の生の声から想いやニーズを想像することは容易ではない。営業側で要望を集め、研究開発に活かすことも可能ではあるが、その情報が研究者にとって網羅的かつ的確なものであるかに懸念もある。

 (2)刻一刻と変わる状況の中で市場環境の把握が困難

顧客行動の多様化については前段でも触れているが、更にVUCA時代という言葉に代表されるように、変化の激しい将来の予測が困難な時代が到来している。新型コロナウイルスや脱炭素社会の実現など、これまでには想定されなかったような社会の変化をこの1、2年で実感されている方も多いだろう。

また、領域の複雑性が増しているのも事実としてある。脱炭素社会の実現という一つのトレンドをとっても、これまでは自動車業界のような1つの業界に留まる動きに終始されていたが、今後は複数の業界や業種を跨いだトレンドになりつつある。

ある技術の転用先も自社に近しい業界から遠い業界など多岐に渡るのだ。例えば、出光興産株式会社の「ルミナップ」。これは牛のゲップから発せられるメタンガスの発生を抑制させる機能性飼料である。脱炭素社会の実現というテーマから注目を浴びている。

これまで自社内に存在していたコア技術も環境の変化によって、新たな事業や製品への道筋になることもあり、常に変化する市場環境に目を向けながら、整理を行なっていくことで機会を見いだすことができる一方、刻一刻と変わる環境をタイムリーに把握していくことは非常に難しいのだ。

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 (3)他部門の理解や協力を得る

事業を生み出すという点では他の部門の理解や協力をどのように得るのかという点は誰もが抱える課題だろう。特に、研究開発起点の事業創出は長期的な取り組みになりやすく、技術の差異化要素を発見できたとしても、製造プロセスや量産体制の構築などもあり、ステージゲート方式に他部門へと工程を繋いでいくこともある。

企画を社内で通す際や他の部門へ工程を渡す際に周囲の協力を得ることは絶対的に必要だ。しかし、何故この事業を進めていくべきなのかという点においては、推進者のこれまでの思考過程や持っている情報の全てを伝えることは不可能だ。社内の協力体制を築いていくには、端的に事業の意義を納得感を持って伝えることができないと難しいのだ。

このような課題を乗り越えながら、これまでとは異なるミッションを遂行していく。現在の研究開発という分野においては、非常に大きな壁となっているだろう。

 これからの研究開発のあるべき姿

研究開発において、変わりつつあるミッションと課題を乗り越えるにはどのような打ち手が有効なのだろうか?研究開発部門の事業創出においては、2つの視点があるだろう。1つ目はバックキャスト型の思考だ。10年後や20年後の社会環境を想像し、未来に残る技術と市場性を鑑みて事業を形作る方法だ。2つ目は今あるコア技術の用途開発だ。

これらの2つの視点に共通するのは出口の探索が重要だということである。従来、研究者は論文や特許を活用しながら、技術情報を中心に研究開発を進めてきただろう。その中でも社会トレンドや市場性には触れられているが、その先にある製品や事業の出口を想像することはできるのだろうか。そして、最新の情報を常に知見として溜め、最新の状態を整理し、網羅的・構造的に捉えることはできているだろうか。

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 製品・事業に繋がる出口探索とは?

発想の起点は異なるが、「バックキャスト型」の事業創出も「コア技術起点」の事業創出においても、前者は現在の社会動向から将来を予期することが必要であり、後者は技術シーズと顧客ニーズを接合する何らかの変数、ファクターXの発見が必要になる。つまり、技術を活用するための出口を探索する活動であり、このプロセスをいかに高速化することで、新たな価値創出の実現が可能になる。

そして、出口探索を進めるために、技術情報に加えてオープンデータに着目するべきだ。インターネット上に存在しているオープンデータをうまく活用しながら、社会環境や市場を捉えることで、新たな事業のタネになるアイディアを発見することができる。

また、実際にユーザーインタビューなどを実施する際にも、事前に情報を整理できていれば、その情報を基により深い情報を引き出すことができることにもなる。これはオープンイノベーションや大学などとの共同研究、そして社内の営業や他部門とのコミュニケーションにおいても重要なことである。

オープンデータと技術情報をうまく組み合わせながら、出口を設定し、推進する過程で必要な情報をオンライン・オフライン問わず集めながら、価値を模索できる企画人材の育成、ひいては環境を整えていくことがこれからの研究開発部門にとって意義のあることではないだろうか。

 まとめ

新たなる局面を迎える研究開発部門。日本を代表する企業の多くは製造業であり、その価値の起点になってきた研究開発部門の価値は揺るぎないだろう。技術に強みがあることは厳然たる事実であり、その強みを更に加速させていくために、出口探索を強化することで、事業創出を実現することを考えてみてはいかがだろうか。

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