2024年以降の半導体市場の見通しは?需要や各国の動向について
製造業
従来、CO2の排出を抑制する取り組みがフォーカスされてきた。しかしながら、CO2の排出量を完全にゼロにするまでには長い歳月がかかる。そこで注目されているのがダイレクトエアキャプチャー(Direct Air Capture)だ。大気中に存在するCO2を分離・回収する技術で、脱炭素化に向けた新たなアプローチとして期待が高まっている。本記事では、ダイレクトエアキャプチャーの技術や市場動向、課題などについて解説していく。
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目次
ダイレクトエアキャプチャーとは、大気中に存在するCO2を分離・回収する技術を指す。直接空気回収技術とも呼ぶ。
政府が掲げる2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、再生可能エネルギー技術や省エネルギー技術の研究開発が進んでいるが、それだけでは達成できないと予測されている。そのため、CO2の削減や抑制だけでなく排出したCO2を分離・回収して固定化するダイレクトエアキャプチャーなどを筆頭としたネガティブエミッション技術が不可欠だ。
ダイレクトエアキャプチャーが大気中に存在するCO2を分離・回収する技術であるのに対し、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)はCO2を回収・貯留する技術を指す。CCSは大気中ではなく火力発電所などから排出された高濃度のCO2を回収する。なお、ダイレクトエアキャプチャーとCCSを一気通貫で行うケースが増えていることから、近年はまとめてDACCSと呼ばれることが多い。
DACCSがCO2の分離・回収・貯留技術であるのに対し、BECCSはバイオマス発電技術とCO2の回収・貯留技術であるCCSを組み合わせた技術のことを指す。なお、DACCSは回収率に対してコストが高いが、それに比べるとBECCSはコストを安く抑えられることから、ネガティブエミッション技術の一翼を担うとされている。
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MarketsandMarketsの市場調査によれば、ダイレクトエアキャプチャーやCCSなどを含む炭素回収・利用・貯留の市場規模は2022年の24億米ドルから年平均成長率15.1%で成長し、2027年には49億米ドルに達すると見込まれている。特に、2021年から北米が炭素回収・利用・貯留市場を牽引しており、2022年から2027年の間で年平均成長率が14.1%成長するとされている。
QYResearchによるダイレクトエアキャプチャーに絞った市場予測をみてみると、2021年に1万4,370Mt(メガトン)※、2050年には9億4,000万Mtに達すると予測している。
※Mt(メガトン):温室効果ガス削減量の取引単位。CO2の排出量を炭素換算して単位として表したもの。
世界各国で、ダイレクトエアキャプチャーへの積極投資が進んでいる。国際エネルギー機関(IEA)が2020年に発表した報告書によれば、ヨーロッパ、カナダ、アメリカなどで合計15のDACプラントが稼働しており、年間で9,000トン以上のCO2を回収したとされている。
2020年1月にはマイクロソフト社が、CO2削減・回収・貯留技術の開発を支援する「気候イノベーション・ファンド」を設立すると発表した。規模は10億ドル。2023年には、溶融酸化物電解をコア技術とするアメリカのスタートアップ「Boston Metal」に投資を行っている。
また、Xプライズ財団は2021年に「XPRIZE Carbon Removal」を開催することを明らかにした。大気中や海中などからCO2を回収する技術をテーマにしたコンペティションで開催期間は4年。テスラのCEOであるイーロン・マスク氏が賞金1億米ドルの出資を表明している。
一方、日本では民間による技術投資はあまり行われていない。しかし、2020年から始まった政府主導の「ムーンショット型研究開発制度」で、「2050年までに地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現」という目標が掲げられており、現在ダイレクトエアキャプチャーに関する7つの研究プロジェクトが進められている。
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ダイレクトエアキャプチャーの技術には大きく4つの種類がある。それぞれ解説していく。
化学吸収法とは、空気をアルカリ水溶液などに透過させることで、大気中のCO2を吸収・分離し加熱することでCO2を回収する技術。
アルカリ金属塩や樹脂などを吸着材とすることで大気中のCO2を分離し、加熱・減圧・加湿操作によってCO2を回収する技術だ。他の技術と比べると安定稼働が可能とされており、大規模なDACプラントに適した方法といえる。
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空気を高分子膜などの膜に透過させることで、大気中のCO2を分離・回収する技術だ。加熱プロセスが不要なため連続的な分離が可能となる。そのため、DACプラントの構造を簡素化でき、熱エネルギーの消費を最小限にすることができる。
CO2の凝固点である-56.6°Cまで空気を冷却し、ドライアイスにして分離する技術だ。高純度なCO2の精製が可能だが設計が複雑で、プラント建設のコストが高くつくことが難点として挙げられている。
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ダイレクトエアキャプチャーのメリットとしては、まず限られた場所や資源のなかでCO2を回収できることだ。植樹は人手と場所の確保が必要なうえに、植物が育つのに歳月がかかる。しかし、ダイレクトエアキャプチャーであれば、より効率的でスピーディーにCO2を吸収できるほか、回収されたCO2は資源として産業利用が可能となる。
また、CCSのように工場や発電所など場所の制約が発生しないため、貯留・利用する場所の付近にプラントを設置すれば、輸送にかかるコストも削減できるのだ。
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ゼロエミッション技術の1つとして実用化が期待されているダイレクトエアキャプチャーだが、まだ課題が多く残されている。吸収液や吸着剤などを加熱するプロセスでは、ファンを稼働させる必要があるため、電気エネルギーの消費が大きい。
また、低濃度のCO2を大量に回収するためには大きな施設が必要となり、維持管理コストがかかってしまう。さらに、回収や貯留のプロセスで使用される吸収液や吸着剤が周囲の環境に悪影響を及ぼすリスクは未知数であり、慎重に検討を進める必要がある。
最後に、ダイレクトエアキャプチャーの技術開発・実用化を行っている企業事例について紹介する。
川崎重工業は、およそ40年前から宇宙船や潜水艦といった閉鎖空間におけるCO2除去技術を研究開発してきた。2019年からは、環境省の事業として固体吸収材を用いたDACの小型化の実証実験を、自社の明石工場内で行っている。
また、2025年度からDAC事業を開始し、年間で2万トンのCO2を回収するプラントを稼働させる予定だ。2030年には50万トン〜100万トン/年の大型DACプラントの建設を行い、事業規模を約500億円までに成長させる戦略を発表している。
日揮は、2020年8月に国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「ムーンショット型研究開発事業」に採択され、2021年11月から名古屋大学と共同技術開発に取り組んでいる。
液化天然ガス(LNG)の冷熱を活用したダイレクトエアキャプチャーの技術確立を目指しており、2024年後半には名古屋大学内に模擬プラントの建設・稼働、2027年ごろには年間50トンを回収する実証プラントを稼働し、2029年にはDACプラントの設計を完了する見通しだ。
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ダイレクトエアキャプチャーは、運用コストの高さや電気エネルギー消費が大きいといった課題もあり、まだ実証段階である。しかしながら、本格的に実用化すればゼロエミッションの中核を担う技術になることは間違いないといえるだろう。
ダイレクトエアキャプチャーは国内外問わず多くの企業が注視している技術の1つだ。業界問わずさまざまな取り組みの情報を収集し、新たなビジネスモデルや事業を生み出すヒントとしてみてはいかがだろうか。