お役立ち資料一覧へ お問い合わせ
MENU CLOSE
  1. Stockmark
  2. coevo
  3. イノベーション
  4. ムーンショット型研究開発事業とは?メリットや策定の狙いを解説!

ムーンショット型研究開発事業とは?メリットや策定の狙いを解説!

moonshot-01

「ムーンショット」とは、前代未聞の大偉業であるアポロ計画から来た言葉であり、壮大かつ困難を伴う、しかし同時に大きな可能性を持つ挑戦のことを指す言葉である。日本でもより大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発を目的に、内閣府主導で「ムーンショット型研究開発事業」の取り組みが始まっている。今回は、ムーンショット型研究開発事業について、概要と設置の背景、取り組むメリットや狙い、事例について解説する。

画期的な新規事業のアイデアをどう作る?
▶解説資料のダウンロードはこちらから

目次

 ムーンショットとは

「ムーンショット(Moon Shot)」とは、月へロケットを打ち上げる計画を意味する。アポロ計画という前代未聞の挑戦と偉業に倣って、壮大かつ困難が大きいが、前人未到であってさまざまな可能性に満ちたチャレンジのことをそのように呼ぶようになった。Appleの元CEOであるジョン・スカリー氏が著作中で紹介したこともあり、現在はビジネス用語としても使用されている。

 ムーンショット型研究開発制度とは

「ムーンショット型研究開発制度(ムーンショット目標)」は、2018年に日本国内での破壊的イノベーション創出を促進するために発足した内閣府主導の制度である。前身の制度として、2013年スタートの革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)があり、ハイリスク・ハイインパクトな研究開発を推奨していた。内容としては、挑戦的な構想・アイデアを全国の研究者等から広く募集し、応募者の中からチャレンジ精神に富んだ優秀な人材をプログラム・マネージャーに抜擢し研究開発のマネジメントを委ねるというものだ。

ムーンショット型研究開発制度はImPACTを踏襲しつつ、より破壊的イノベーションの創出を目指したものである。この制度では、研究全体を俯瞰したポートフォリオをまず構築し、日本の基礎研究力を最大限に引き出すことができるような挑戦的研究開発について積極的に推進することとなっている。失敗を許容する点に特徴があるといえるだろう。

研究開発の進め方としては、ステージゲートを設けてポートフォリオを逐一見直し、柔軟な対応を取っていくこと、同時に、将来的な社会実装を想定し、派生的な研究成果のスピンアウトが奨励されている。

破壊的イノベーションとは?詳しくはこちらの記事で!

 ムーンショット型研究開発制度が立てられた背景

ムーンショット型研究開発制度は、IT分野が国際的に発達、成長を遂げている現代においてアメリカの大企業が牽引しているという事実を背景に、日本の研究開発がこれまで以上に遅れをとらないようにと設けられたものである。また、高齢化社会、化石燃料問題は世界的な社会問題といえ、科学技術を活かした破壊的イノベーションによって未来社会の展望を切り拓く必要性も大きな背景のひとつだ。アメリカや中国といった海外の技術の革新に対抗すること、現代のライフスタイルの多様化といった生活様式への変化に対応することといったさまざまな課題を解決するためにも、イノベーションは必要だと考えられている。このような前提条件のもと、ムーンショット型研究開発事業は設けられたのだ。

 内閣府が掲げるムーンショット型研究開発事業について

内閣府が掲げるムーンショット型研究開発事業においては、具体的な目標が9つ掲げられているが、すべての目標の帰結するところは「人々の幸福(Human Well-being)」の実現である。社会、環境、経済の分野に分けると、以下のように目標が立てられている。

社会:急進的イノベーションで少子高齢化時代を切り拓く。
環境:地球環境を回復させながら都市文明を発展させる。
経済:サイエンスとテクノロジーでフロンティアを開拓する。

このように、ムーンショット型研究開発制度は破壊的イノベーションの創出のためのより大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発、つまりムーンショットを推進する国の大型研究プログラムとして位置づけられている。

画期的な新規事業のアイデアをどう作る?
▶解説資料のダウンロードはこちらから

 9つのムーンショット目標

ムーンショット目標として、具体的に設定されている9つの目標について紹介する。それぞれの目標は以下の通りだ。

 目標1:人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現

2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現することが設定されている。

サイボーグやアバターといった一連の技術を高度に活用し、人の持つ身体的能力や認知能力・知覚能力をICTやロボットの技術で拡張することで、誰もが多様な社会活動に参画できるサイバネティック・アバター基盤の構築を目指す。少子高齢化の進展を背景に、生産年齢人口の減少を解決し、あらゆる年齢の人々が多様なライフスタイルを追求できる持続可能な社会の実現を目指して設定された目標だ。

 目標2:超早期に疾患の予測・予防をすることができる社会を実現

2050年までに、臓器間の包括的ネットワークの総合的解析を通じて疾患予測・未病評価システムを確立して、疾患の発症そのものの抑制と予防を目指す目標だ。

高齢化等に起因する慢性疾患は(糖尿病、高血圧など)大きな社会問題になっているが、この目標では「100歳まで健康不安なく、人生を楽しめる社会の実現」を掲げている。疾患発症後に治療するという従来の考え方からの脱却を図り、健康寿命を妨げる病気の発症を予測することで、疾患の抑制・予防を目指す。

 目標3:AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現

人と同等以上の身体能力を持って人生に寄り添い成長することが出来るAIロボットの開発や、特定の問題に対して自動的に科学的原理・解法の発見を目指すAIの開発などを推奨している目標だ。

AIとロボットの共進化を通じて人類のフロンティア開発や生活のサポートを行うことなどの活用が期待されている。社会のあらゆる場面においてロボットを最大限活用しようという内容だ。

画期的な新規事業のアイデアをどう作る?
▶解説資料のダウンロードはこちらから

 目標4:地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現

地球温暖化問題の解決(Cool Earth)と環境汚染問題の解決(Clean Earth)の二つをテーマに掲げ、温室効果ガスに対する循環技術の開発や、環境汚染物質を無害化する技術などの実現を目指す。人間の生産や消費活動を継続しつつ、現在進行している地球温暖化問題と環境汚染問題を解決し、地球環境を再生するための取り組みである。

 目標5:未利用の生物機能等のフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出

食料の増産と地球環境保全の両立を目的に、微生物や昆虫等をフル活用し、完全資源循環型の食糧生産システムの開発を目指した目標である。今後、食料生産においては、生産力の向上だけでなく、環境負荷や食品ロス問題にも同時に取り組む必要があるといえるだろう。完全資源循環型の食料生産システムの開発や、ムダをなくし、健康や環境に配慮した合理的食料消費の解決法を開発することが目指されている。

 目標6:経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現

大規模な集積化を実現しつつ、様々な用途に応用する上で十分な精度を保証できる量子コンピュータである「誤り耐性型汎用量子コンピュータ」の実現を目指す目標だ。

Society 5.0の実現に向けて、コンピュータ、ディープラーニング及び組み合わせ最適化手法の需要が爆発的に増加することが予測されている。誤り耐性型汎用量子コンピュータの実現により日本の産業競争力の強化、革新的な医療と健康管理などが期待される。

 目標7:主要な疾患を予防・克服し100歳まで健康不安なく人生を楽しむためのサスティナブルな医療・介護システムを実現

健康寿命を延伸し、誰もが何歳になっても健康不安なく人生を楽しみ社会で活躍できる環境が求められていることを背景に、疾患の発症や重症化を予防するための技術やメディカルネットワークの構築、健康格差の是正を通したQOLの劇的な改善を目指す取り組みだ。

 目標8:激甚化しつつある台風や豪雨を制御し極端風水害の脅威から解放された安全安心な社会を実現

激甚化しつつある台風や豪雨の高精度予測、また強度・タイミング・発生範囲などを変化させる能動的な制御によって自然災害による被害を大幅に軽減することを目指した取り組みだ。全世界での気象災害等は過去50年間で5倍に増加し、1970-2019年の経済損失額は3兆6,400億ドル、死者は200万人超と推定(※1)されていることなどから、災害リスクを減らすことが喫緊の課題となっている。これらの挑戦が成功すれば、風水害による直接的な被害の回避、もしくは被害規模を格段に軽減することが可能になるだろう。

 目標9:こころの安らぎや活力を増大することで、精神的に豊かで躍動的な社会を実現

直近の社会背景として、新型コロナウイルス感染症の発生は、自殺やうつといった精神的要素に起因する社会問題をさらに顕在化・深刻化させた。自殺・うつによる社会損失は年間2兆7,000億円(※2)ともいわれており、早急に対応が必要な問題であるといえる。

こころの安らぎや活力を増大し、こころ豊かな状態を叶えるために、「個々のこころの状態理解と状態遷移」、また、「個人間や集団のコミュニケーションなどにおけるこころのサポート」に着眼した技術などの開発や創出が目指されている目標である。

 ムーンショット型研究開発事業のメリット

ムーンショット型研究開発事業では実現できるかどうか分からない革新的な目標が設定されている。企業がこれらの目標に沿った研究開発に取り組むメリットについて紹介しよう。

 常識にとらわれない思考ができる

ムーンショット型研究開発事業において設定されている目標はどれもチャレンジングなものばかりである。意識的に難しい目標に取り組むことで、常識や固定概念から脱却した柔軟な思考や、より新規性が高く、特別な発想に繋がっていくことだろう。

設定された目標は、従来の研究開発のスタイルや行動では到底達成することができない。そのため、現在ある技術をいかに活かすか、または問題解決のためにどのような新技術を創り出すか、最大限の思考が必要だ。この思考活動の中で、これまでにない新しいアイデアが生まれる可能性は高い。また、生まれたアイデアが課題解決に直結しない場合でも、新製品やサービス開発への活用が期待できる。

画期的な新規事業のアイデアをどう作る?
▶解説資料のダウンロードはこちらから

 組織に一体感が生まれる

組織全体で取り組まなければ実現できないような大きな目標を掲げることで、組織の一体感の増強が期待できる。大きく、そして困難な目標に立ち向かっていくことはやりがいが増し、また、達成への行動や思考を重ねるなかでコミュニケーションは欠かせないため、チームワークが向上するだろう。これらのことから組織の一体感は増し、より強いものとなる。組織に一体感があれば、人材流出の予防にも繋がり、人材確保が難しい現代においてメリットが大きいといえる。

 労働効率の向上

ムーンショット型研究開発事業に取り組むそもそものメリットとして、労働効率の向上が挙げられる。ムーンショット型研究開発事業において掲げられた目標に向けて技術開発が進めば、直面している高齢化社会という社会問題について有効な一手となるだろう。AIやロボット開発が進めば、単純作業を任せることでミスや人件費の削減が期待できる。また、現場に直接赴くことなく、仕事や教育、医療、そのほか日常に関する行動ができるようになれば、ますます社会はさまざまなものにアクセスしやすく、便利になるだろう。職業選択の自由が拡大することにも繋がる。

 ムーンショット研究開発の取り組み事例

ムーンショット型研究開発事業について、企業の取り組みの事例を紹介する。実際に進められているムーンショットの具体例を知り、参考にしてほしい。

 トヨタ自動車

トヨタ自動車では、静岡県裾野市において、ムーンショット型研究開発の一環として、コネクティッドシティである「Woven City」の建設を開始している。先端技術をいち早く実用化するための街であり、実際に人に住んでもらって自動運転技術やロボット、AI技術の実証実験を行っていく。スマートシティプラットフォームを構築し、運営して、国内外の暮らしの向上に役立てようとしている。

 日立製作所

日立製作所では、大規模集積シリコン量子コンピュータの研究開発が進められている。これまでに蓄積した半導体の回路集積化技術を活かして、シリコン量子ビットの大規模化、高集積化の実現を目指すプロジェクトが発足しているのだ。また、研究開発テーマについて、自社だけでなく、大学などの別の組織とも連携して、より効率的に、大規模に研究を行っている。

 まとめ

ムーンショット型研究開発事業への取り組みは、新規性の高いアイデアの発想の可能性や、社会の利便性の向上に期待が持てるだろう。また、今回は内閣府の取り組みとしてのムーンショット型研究開発事業について紹介したが、大きな目標に向けた破壊的イノベーションの実現と言う考え方自体は本事業に参画していない企業、機関にとっても今後必要なものとなってくる。ぜひ今後の新規事業や新製品の取り組みの参考として頂きたい。

おすすめ記事

バックキャスティング
バックキャスティングとは?研究開発型の事業開発に不可欠な未来思考を徹底解説
研究開発テーマ
研究開発のテーマとは?テーマ創出のポイントや課題を解説

参照
※1
科学技術政策担当大臣等政務三役と総合科学技術・イノベーション会議有識者議員との会合(2021年9月16日)資料
※2
金子能宏, 佐藤格(2010). 「自殺・うつ対策の経済的便益 (自殺・うつによる社会的損失)の推計の概要」(国立社会保障・人口問題研究所社会保障基礎理論研究部)