お役立ち資料一覧へ お問い合わせ
MENU CLOSE
  1. Stockmark
  2. coevo
  3. 社会トレンド
  4. 【2025年版ものづくり白書】製造業が競争力向上のために考慮すべき要素とは?

【2025年版ものづくり白書】製造業が競争力向上のために考慮すべき要素とは?

2025年版ものづくり白書

経済産業省が毎年発行する「ものづくり白書」は、製造業の実態や課題を整理し、国の産業政策の方向性を示す重要な資料だ。2025年版では、生成AI・ロボティクス、脱炭素に向けたGX(グリーントランスフォーメーション)、経済安全保障といった、製造業の今後を左右するテーマがより色濃く反映されている。

本記事では、製造業全体でみる直近の動向と、競争力強化のために考慮すべき要素に焦点を当てて要点をまとめた。

2025年版ものづくり白書(ものづくり基盤技術振興基本法第8条に基づく年次報告)
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2025/index.html

製造業を揺るがす経済安全保障に向けて取り組むべきこととは?
「2025年版ものづくり白書」の内容を分かりやすくまとめました!
資料(無料)を見てみる

 製造業の直近動向

製造業を揺るがす経済安全保障に向けて取り組むべきこととは?
「2025年版ものづくり白書」の内容を分かりやすくまとめました!
資料(無料)を見てみる

 日本の経済を支える「製造業」

日本の産業構造を見てみると、製造業は国内産業全体の中でも大きな割合を占めており、日本経済を支える中核的な存在である。自動車、電子部品、機械など、グローバル市場でも競争力を持つ分野が多く、日本の成長をけん引する主要産業といえる。

業種別GDP構成比(2023年12月時点)
経済産業省「2025年版ものづくり白書(全体版)」より
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2025/pdf/all.pdf

製造業を揺るがす経済安全保障に向けて取り組むべきこととは?
「2025年版ものづくり白書」の内容を分かりやすくまとめました!
資料(無料)を見てみる

 製造業を揺るがす社会情勢の変化──原材料・人材・コストの三重苦

近年、製造業を取り巻く社会情勢は大きく変化している。企業の景況感を示す指標である日本銀行の「全国企業短期経済観測調査(短観)」の2025年3月時点の調査では、大企業製造業の景況感が一転して悪化に転じた。最も影響が大きかった要因は「原材料価格(資源価格)の高騰」である。2024年度は、「賃上げ要請」や「物流コストの上昇・キャパシティの不足」、「労働力不足」も新たに企業の経営課題として浮上した。

事業に影響を及ぼす社会情勢の変化
経済産業省「2025年版ものづくり白書(全体版)」より
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2025/pdf/all.pdf

こうした状況下で、製造業の企業が直近3年間に取った対応策としては、以下のような傾向がある。

・約9割の企業が「価格転嫁(値上げ)」を実施
・約8割の企業が「賃上げ(従業員への還元)」に踏み切った
・「人材確保」「設備投資」を行った企業もそれぞれ過半数にのぼった

中でも、最も事業に影響を与えた施策として「価格転嫁」を挙げた企業が約50%と最多であった。このようにあらゆる企業が価格転嫁を進める一方で、収益性が高い企業群ほど、設備投資を行い、収益力の向上を目指しているという調査結果も出ている。
しかし、「賃上げ」や「人材確保」の施策は「マイナスの影響」と回答された割合が高く、人材不足と人件費の高騰が依然として大きな課題となっている。

このように、原材料の上昇、人手不足、コスト増という三重苦に直面しながらも、企業は値上げによる対応を進め、余力のある企業ほど設備投資を通じた競争力強化に動いている。 

製造業を揺るがす経済安全保障に向けて取り組むべきこととは?
「2025年版ものづくり白書」の内容を分かりやすくまとめました!
資料(無料)を見てみる

 設備投資の回復と進化──無形資産への投資が加速

近年、製造業をはじめとする民間企業の設備投資額は堅調に推移している。日本の名目民間企業設備投資額は、2022年4〜6月期にはコロナ前の水準を上回り、2023年1〜3月期にはついに設備投資額が100兆円を突破。以降も増加傾向が続いており、企業の設備投資マインドは強い状態にある。

名目民間企業設備投資額の推移
経済産業省「2025年版ものづくり白書(全体版)」より
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2025/pdf/all.pdf

注目すべきは、投資対象の変化である。これまで設備投資の中心であった有形固定資産に加えて、ソフトウェアなどの無形固定資産への投資が急増している点だ。

2024年時点で、無形固定資産への投資は2015年比で約7割増加しており、これは有形固定資産の増加率を上回る。製造業におけるデジタル化・知的資産への注力が加速していることを示しており、企業競争力の源泉が「モノ」から「知」へとシフトしている様子が明確に表れている。

製造業の設備投資額の推移と2015年比の増加率(有形固定資産・無形固定資産)
経済産業省「2025年版ものづくり白書(全体版)」より
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2025/pdf/all.pdf

製造業を揺るがす経済安全保障に向けて取り組むべきこととは?
「2025年版ものづくり白書」の内容を分かりやすくまとめました!
資料(無料)を見てみる

 製造業の人材動向

2024年時点で、製造業の就業者数は1,046万人となり、前年の1,055万人から約9万人減少した。全産業に占める製造業の就業者割合も2023年の15.6%から2024年には15.4%へと低下しており、製造業における人材確保の難しさが一層鮮明になっている。

 製造業におけるリスキリングと能力開発の現状

製造業では、能力開発や人材育成に関して何らかの課題があるとする事業所の割合が2023年度に85.3%に達しており、これは全産業平均よりも高い水準である。

能力開発や人材育成に関する問題がある事業所の割合の推移
経済産業省「2025年版ものづくり白書(全体版)」より
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2025/pdf/all.pdf

問題点の内訳を見ると、「指導する人材が不足している」が65.9%と最も多く、次いで「人材を育成しても辞めてしまう」、「人材育成を行う時間がない」、「鍛えがいのある人材が集まらない」といった回答が続いている。

また、事業所規模別に人材育成の課題を分析すると、規模の大きい事業所ほど「人材を育成しても辞めてしまう」との回答割合が高い傾向にある。これは、キャリア形成や職場環境への期待値が高まる中で、育成後の定着率が課題となっていることを示している。

一方、技能継承に取り組んでいる製造業の事業所の割合は、2023年度で92.1%に達しており、高い水準である。さらに、事業所規模別に見ると、規模の大きな事業所ほど「技能継承のための特別な教育訓練を通じて、若年・中堅層に技能やノウハウを伝承している」割合が高く、体系的な教育施策が講じられていることがうかがえる。

このように、製造業におけるリスキリングや能力開発は、指導人材の不足や人材流出といった構造的課題を抱える一方で、技能継承に関しては高い実施率を維持しており、今後はより実効性の高い育成フレームの構築が求められる。

製造業を揺るがす経済安全保障に向けて取り組むべきこととは?
「2025年版ものづくり白書」の内容を分かりやすくまとめました!
資料(無料)を見てみる

 デジタル人材の確保と育成の実態

デジタル技術の導入に際しては、約6割の企業が「社内人材の活用・育成」によりデジタル人材の確保を行っている。一方で、「人材は確保していない」と回答した企業の割合は26.1%にのぼっており、一定数の企業が人材不足に直面している状況である。

デジタル技術の導入に必要な人材の育成方法としては、「OJT(On the Job Training)」による育成が54.3%と最も高い割合を占めている。これに加え、「会社の指示による社外機関での研修・講習会への参加」(50.6%)や「社内での研修・セミナーの実施」(33.2%)も比較的高い割合を示している。

このように、多くの企業が現有の人材をベースに育成を進めているものの、社内外の教育機会を活用した複線的なアプローチが主流となっていることがうかがえる。

製造業を揺るがす経済安全保障に向けて取り組むべきこととは?
「2025年版ものづくり白書」の内容を分かりやすくまとめました!
資料(無料)を見てみる

 製造業が競争力強化のために考慮すべき要素

近年、各国において産業政策の展開が加速し、その目的も多様化している。国際通貨基金(IMF)の分析によれば、2023年には世界全体で2,500件を超える産業政策が確認された。同分析によると、2023年に確認された貿易歪曲的な産業政策(本来であればスムーズに実現されるはずの貿易が、関税、補助金、価格支持などの障壁によって阻害されている状態)の48%が中国、EU、米国によるものである。

また、世界の政策動機の内訳を見ると、37%が戦略的競争力の確保、28%が気候変動への懸念、15%がサプライチェーンの強靭性、20%が地政学的懸念や国家安全保障に関するものであった。これらを大別すれば、産業政策の主な目的は「自国産業や企業の競争力強化」「気候変動対応」「経済安全保障の確保」の3つに分類できる。

このように、各国が多様な産業政策を打ち出す中で、グローバルな事業環境の不確実性はますます高まっている。そのような状況下において、日本の製造業が競争力を強化し、製造事業者の稼ぐ力を高めていくためには、脱炭素や経済安全保障といった要素を複合的に考慮する必要がある。加えて、経済社会の変化に柔軟に対応しつつも、中長期的な視点で成長投資を推進する重要性が一層高まっている。

製造業を揺るがす経済安全保障に向けて取り組むべきこととは?
「2025年版ものづくり白書」の内容を分かりやすくまとめました!
資料(無料)を見てみる

 (1)産業競争力強化のためのDX

製造業において、個社単位でのデジタル化や業務効率化の取り組みは、一定の成果を上げている。しかしながら、ビジネスモデルの変革といった高度かつ広範な領域においては、成果の創出が限定的である。このような取り組みを成功に導くためには、経営層による明確なコミットメントが不可欠である。

また、産業全体として競争力を高めていくためには、サプライチェーン上の企業同士が連携・協力し、事業効率の向上と製品・サービスの付加価値向上を図る取り組みが求められている。

実際の事例として、素形材産業と自動車産業の事業者が連携する「自動車金型づくり効率化推進会議」では、3Dモデルを活用する際の製作図面等のルールを企業間で標準化することで、業務効率化を実現している。このような標準化の取り組みにより、各企業の生産性向上だけでなく、サプライチェーン全体における金型製造のスピードアップや設計・加工技術の精度向上が図られており、産業横断での競争力強化に寄与している。

加えて、OEMから提供される設計データや製作情報を、サプライヤー側がそのまま活用できる共通のデジタル環境(CAD・CAM等のデジタルプラットフォーム)を整備することで、設計・加工・検査といった工程間の情報の受け渡しがスムーズになり、人手による介在を減らすことが可能となる。こうした取り組みは、確認作業の削減やリードタイムの短縮にもつながり、産業全体の生産性向上と高付加価値化に大きく貢献するものである。

自動車金型の共通基盤化
経済産業省「2025年版ものづくり白書(全体版)」より
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2025/pdf/all.pdf

製造業を揺るがす経済安全保障に向けて取り組むべきこととは?
「2025年版ものづくり白書」の内容を分かりやすくまとめました!
資料(無料)を見てみる

 生成AI・ロボティクスの実装が本格化

製造業における「稼ぐ力」の向上においては、労働人口の減少への対応が重要な課題であり、ロボットや生成AIの開発・活用が有望なソリューションとして注目されている。一方で、ものづくりの現場では、多品種少量生産や顧客ニーズの高度化・多様化に対して、迅速かつ柔軟に対応することが求められている。

しかしながら、既存のロボットはハードウェアとソフトウェアが一体化している構造であるため、開発の柔軟性が低く、周囲の環境に応じて自律的に判断・動作することが難しいという課題がある。

少量多品種市場へのロボット開発・導入の課題
経済産業省「2025年版ものづくり白書(全体版)」より
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2025/pdf/all.pdf

また、生成AIの活用を推進する上では、技術開発だけでなく、AIを用いたサービスの提供者と利用者の間で締結される契約内容も重要である。とりわけ、提供データの利用範囲や責任分担などに関する利益とリスクを、適切に分配する仕組みを構築することが不可欠である。

製造業を揺るがす経済安全保障に向けて取り組むべきこととは?
「2025年版ものづくり白書」の内容を分かりやすくまとめました!
資料(無料)を見てみる

 (2)脱炭素に向けたデータ連携とGX推進の重要性

GX(グリーントランスフォーメーション)の推進においても、「稼ぐ力」の向上と同様に、事業者単位およびサプライチェーン全体を横断したデータ・デジタル技術の活用が重要である。また、企業間におけるデータ連携・利活用の取り組みは、「稼ぐ力」の向上やGXの推進のみならず、サプライチェーンの強靱化など、複数の観点から有益な取り組みとして注目を集めている。

経済産業省が情報処理推進機構(IPA)や業界団体等と連携して推進する、企業・業界・国境を超えたデータ連携の仕組みとして「ウラノス・エコシステム」がある。先行ユースケースとしては、官民が連携し、自動車・蓄電池のサプライチェーン上の企業間で、営業秘密の保護やアクセス権限の管理を実現しつつ、カーボンフットプリントを算出するためのデータ連携システムを構築した事例がある。

このように、サプライチェーン全体を可視化し、データ連携を通じて最適化を図る取り組みは、グローバルサプライチェーンの強靱化にも寄与するものである。今後、日本としても「ウラノス・エコシステム」を基盤に、サプライチェーン上の関係が深い国や地域との連携を検討・推進していくことが求められる。

製造業を揺るがす経済安全保障に向けて取り組むべきこととは?
「2025年版ものづくり白書」の内容を分かりやすくまとめました!
資料(無料)を見てみる

 (3)経済安全保障と国際調達リスクへの対応

現代の製造業を取り巻く環境は急速に変化しており、日本の製造事業者にとって、経済安全保障への対応はもちろんのこと、脱炭素やDX(デジタルトランスフォーメーション)などの環境変化への適応が急務となっている。

 経済安全保障に関する取り組みプロセスの実態

製造事業者が経済安全保障に対応するためのプロセスは、以下の6段階に分類できる。

  1. 国際情勢に関する情報収集
  2. 経済安全保障の観点からのリスク分析
  3. 経済安全保障に関する戦略・方針の策定
  4. 経済安全保障に基づいた具体的な対応策の検討
  5. 対応策の実施
  6. 実施結果を踏まえたリスク分析、戦略・方針、対応策へのフィードバック

この中で最も課題として挙げられているのは、「国際情勢に関する情報収集」である。他のプロセスを進める上でも基盤となる初期段階であるため、実際に多くの事業者が取り組んでいる一方で、最も難しさを感じているプロセスであることが明らかとなった。

 経済安全保障に関するリスク分析の実態

経済安全保障に関するプロセスの中でも、リスク分析は特に重要な位置を占めている。中でも「自社の事業に関わるサプライチェーン」の観点からリスク分析を実施している製造事業者が最も多く、全体の約7割を占めている。

一方で、経済安全保障の観点から技術や情報の分類を適切に行うことが今後の課題であり、「自社の保有する技術の特徴や優位性」の観点からリスク分析を行っている事業者は4割程度と依然として少数にとどまっている。

経済安全保障に関するリスク分析を行っている観点
経済産業省「2025年版ものづくり白書(全体版)」より
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2025/pdf/all.pdf

リスク分析を行う際の情報収集手段としては、「新聞やネットなどのメディア媒体」や「業界団体・取引先との情報交換」がいずれも8割を超えており、主要な情報源となっている。

経済安全保障に関するリスク分析における情報収集方法
経済産業省「2025年版ものづくり白書(全体版)」より
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2025/pdf/all.pdf

また、最も多くの事業者が実施していた「自社の事業に関わるサプライチェーン」のリスク分析において、把握しているサプライチェーンの範囲は、自社を起点として川上側・川下側ともに直接の取引先、または2〜3社先までにとどまっているケースがそれぞれ5割弱を占める。川上・川下ともに4社先までを把握・意識している事業者は1割未満にすぎず、サプライチェーン全体のリスク可視化が十分に進んでいない現状が浮き彫りとなっている。

リスク分析上意識しているサプライチェーンの範囲
経済産業省「2025年版ものづくり白書(全体版)」より
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2025/pdf/all.pdf

 経済安全保障と収益性の関係

経済安全保障の取り組みには一定の初期投資が必要であるが、その最終的な目的として「事業の継続(安定的な調達・生産・供給など)」を重視する製造事業者が8割以上を占めている。また、「自社の収益の拡大」を目的としている事業者も1割程度存在しており、一部の企業は企業経営の観点から収益性の向上を見据えて取り組みを行っていることが分かる。

経済安全保障の取組を実施する上での最終的な目的
経済産業省「2025年版ものづくり白書(全体版)」より
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2025/pdf/all.pdf

実際の取り組み内容を見ても、「部素材調達先の変更や多元化」「直接の取引先や最終的な需要先、提携先の精査」など、サプライチェーンの強靱化を目的とした施策が多く実施されており、多くの企業が収益拡大よりも事業継続を優先している傾向がある。

さらに、経済安全保障の取り組みを開始してから現在までに感じている効果についても、「事業の継続(安定的な調達・生産・供給など)」を挙げる製造事業者が最も多く、全体の約7割を占めている。目的のみならず、実際の効果としても事業継続を実感している企業が多いことから、不確実性が高まる現代において、経済安全保障の取り組みがリスク低減と安定的な事業運営に寄与していることが明らかである。

取り組み開始から現在、そして短期・中長期といった時間軸における収益変化の見通しを確認すると、収益増加を見込む事業者の割合は徐々に上昇しており、中長期では約8割に達している。一方、収益減少とする企業の割合は時間の経過とともに減少している。この傾向から、経済安全保障の取り組みが中長期的に企業の収益向上に資するという見方を多くの企業が持っていることがうかがえる。

製造事業者の収益と経済安全保障の取組の関係
経済産業省「2025年版ものづくり白書(全体版)」より
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2025/pdf/all.pdf

さらに、経済安全保障の取り組みにおいて、最終的な目標を「自社の収益の拡大」とする企業に限って、短期・中長期における収益変化の見通しを確認したところ、いずれの段階においても、前述の経済安全保障の取り組みを実施している事業者全体の結果よりも高い水準で推移している。特に中長期の見通しでは、約9割の企業が収益の増加を期待しているという結果が得られた。以上のことから、経済安全保障の取り組みの目的を「自社の収益の拡大」と位置づけている企業は、将来的な利益の向上を見据え、短期・中長期の双方において収益性を重視しながら、戦略的に取り組みを進めている姿が明らかとなった。

製造事業者の収益と経済安全保障の取組の関係_目的が「自社の収益の拡大」である事業者
経済産業省「2025年版ものづくり白書(全体版)」より
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2025/pdf/all.pdf

以上の結果から、我が国の製造事業者は、経済安全保障の取り組みを事業継続やリスク低減の手段として有効と認識しており、さらには中長期的な視点での収益性向上や損失回避にもつながると考えていることが明らかとなった。

ただし、国内全体の状況を俯瞰すると、経済安全保障に対する理解はまだ十分とは言えず、取り組みの普及は依然として道半ばであるという課題も存在する。

今後、事業環境の変化が激しさを増す中で、我が国の製造業が持続的な成長を実現していくためには、まず製造事業者自身が経済安全保障の意義を正しく理解し、自社にとっての必要性を明確に認識することが求められる。

その上で、より多くの企業が主体的に取り組みを開始し、自社に適した社内体制や実施プロセスを構築しながら、中長期の視点で継続的な投資を行っていくことが重要である。

製造業を揺るがす経済安全保障に向けて取り組むべきこととは?
「2025年版ものづくり白書」の内容を分かりやすくまとめました!
資料(無料)を見てみる

 製造業の競争力強化に向け、今なにを考えるべきか

製造業は日本経済の中核を担う存在でありながら、今まさに激変する社会・経済環境の中で、複数の構造的課題に直面している。原材料価格の高騰、人材不足、労務コストの上昇といった「三重苦」の下、各企業は価格転嫁や賃上げ、人材確保・設備投資といった打ち手を講じてきたが、打ち手の効果や影響は一様ではなく、余力のある企業ほど「投資による競争力強化」に動いている現状がある。

また、企業の設備投資は有形資産からソフトウェアなどの無形資産へとシフトしており、生成AIやロボティクスといった新技術を活用するための土台として、知的資産の蓄積が進んでいる。加えて、経済安全保障や脱炭素、産業政策の変化といったマクロ環境も、企業の判断軸に大きな影響を及ぼしている。

人材育成・確保の面でも、デジタル化への対応や技能継承といった領域で構造的な課題を抱える中、今後の製造業は「育成の仕組みをどう設計するか」といった、より根源的な問いに向き合っていく必要がある。

こうした中で、製造業の現場に携わるすべての人にとって重要なのは、「短期のコスト対応」に終始せず、「中長期での競争力強化」に向けた戦略を持つことだ。ものづくりの中核を担う皆様こそ、これからの日本の製造業の競争力をどう描くか、どこに価値の源泉を移していくのか、いまこそ戦略的な問い直しをされてみてはいかがだろうか。