2024年以降の半導体市場の見通しは?需要や各国の動向について
製造業
半導体は、我々が日頃用いる家電やスマートフォン、パソコンなどの電子機器に多数使用され、もはや欠かせないものとなっている。世界的に電子機器が普及するとともに半導体の需要も増加し、半導体市場は拡大を続け、特に2015年以降は世界の半導体の出荷額は増加傾向が顕著だ。
今回は、そもそも半導体とはどのようなものなのかという基礎知識から、半導体の現在の市場の推移や動向、今後の予測について解説する。
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目次
半導体は我々が日常使用する電気機器のほとんどに使用されている。具体的には、エアコン、炊飯器、洗濯機などの衣食住に関わるものから、スマートフォン、パソコンやテレビといった現代の生活の必需品、デジタルカメラやLED電球など、生活をより豊かにしてくれるものにも使われている。半導体は、人々の生活に近いデジタル家電に多く利用されているのだ。つまり、半導体が存在しない世界は考えられないほど、世界のテクノロジーの発展に半導体は密接している。
ここでは、半導体とはどのようなものなのか、どのように使用されているのかなどの半導体の基礎について振り返りたい。
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半導体は電気を通す導体と絶縁体の中間の性質を持っており、その特徴によって電気のオンオフなどといった電流の制御が可能な物質だ。
半導体はさまざまな材料によって製造することができるが、シリコンやゲルマニウムがよく使われる。現代の多くの産業は半導体無くしては成り立つことができないため、半導体の製造や技術については国際的にさまざまな特許があり、各国が経済安全保障の観点から重要な生産基盤を囲い込む産業政策を展開するなど、国際関係や経済面においても重要な物質である。
たとえば米国では、最先端の半導体の国内生産を増やすため、2022年8月に総額527億ドルに及ぶ半導体補助金が法案に盛り込まれた。また、EUでも1345億ユーロ(約20兆円)を拠出する計画が立てられており、各国で半導体の技術を国内に誘致するための施策が練られている。
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半導体は有する機能の集積度によっていくつかの種類に分類することができる。ここでは代表的なものとして、ディスクリート半導体、IC(集積回路)、LSI(大規模集積回路)の3種類をご紹介する
・ディスクリート半導体
ディスクリート(discrete)とは「完全に別々の」「個別の」という意味で、ディスクリート半導体は個別半導体とも訳される。単一の機能の半導体のことで、集積度がもっとも低い種類だ。電流を一方向のみに流すダイオードや、電流を増幅させる働きのあるトランジスタなどが例として挙げられる。単一機能のため、決まった仕様が標準化されており、生産しやすく安価である。基本的にのちに解説するICやLSIもディスクリート半導体を寄せ集めたもので、1つの電子機器に数十個から数百個ものディスクリート半導体が使われている。
・IC(集積回路)
複数のトランジスタを組み合わせるなど、単一の半導体を集積してひとつに構成することで、複雑な機能を持たせたものをいう。ICとは、「Integrated Circuit」(集積回路)の略である。サイズの小型化と高集積化が進み、ICの中でも集積度によって呼び分けられるようになっている。
・LSI(大規模集積回路)
ICのうちの1つで、より集積度が高まったものをLSIと呼ぶ。集積度が数万トランジスタを超えるもので、LSIとは「Large Scale Integration(大規模集積回路)」の略である。近年では、ICの同義語として用いられている。複雑な機能を持たせることができ、多くのコンピュータや電子機器の中枢部品となっている。
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半導体の担う役割にはどのようなものがあるだろうか。
・電気の流れを制御する
半導体の持つ導体と絶縁体の中間という特徴により、電気の流れを止めたり流したりするオンオフの機能や、電気の流れを一方向のみにするなどの制御を行うことが可能だ。高速でのオンオフの切り替えや、半永久的に動作させることができるため、この半導体の存在によってデジタル化を可能としている。
・電気のエネルギーを光に変換する
半導体は、電気のエネルギーを光に変換することができる。LEDや有機EL、レーザーなどが例として挙げられる。放出される光は電子が持つエネルギーの大きさなどによって変わる。
・光エネルギーを電気に変換する
電気が持つエネルギーを光に変換する役割と反対に、光エネルギーを電気に変換することも可能で、太陽電池などが代表的な例である。
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半導体市場は国際的なデジタル化に伴い需要が拡大した市場だ。また、新型コロナウイルス感染症の影響によるテレワーク拡大といった特需の影響もあり、近年ますます需要が増した経緯がある。この項目では近年における半導体の動向について解説する。
総務省発表の情報通信白書によると、世界の半導体出荷額は、2015年以降増加傾向となっている。また、2021年には9兆4,999億円規模となり、これは前年比26.7%増だった。日本の半導体出荷額は、2018年から減少していたが、2021年は7,412億円で、前年比29.6%増と大幅な増加に転じた。内訳をみると、世界においても日本においてもディスクリート半導体が最も多い傾向にある。
ただし、半導体メーカーで組織する世界半導体市場統計団体(WSTS)と米国半導体工業会(SIA)が共同発表したデータによると、2021年の世界の地域別半導体市場(需要額または販売額)では、日本の成長率は19.8%と、そのほかの地域よりやや低い。もっとも伸び率が高いのは米州で成長率は27.4%とかなり高い。地域別の金額で比較すると、中国市場が最大であり、金額にして1,925億ドル、世界全体の34.6%もの規模である。
半導体市場は業界団体によって市場予測が公表されるが、2021年は上方修正を繰り返すほどの好況だった。
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過去最高の出荷額となった2021年と比べ、2022年の市場成長率は大きく鈍り、市場の売上高はほぼ横ばいといえる前年比1.1%増であった。額では、2021年は約5,950億ドルで、2022年は約6,017億ドル(速報値)である。
2022年半ばより需給バランスが供給過剰へと転じた。SIAによる半導体販売金額の発表を参照すると、米国、欧州、日本ではほぼ横ばいであったのに対して、中国とアジア太平洋地域での売上の減少が顕著であった。成長率でも、2022年5月以降、中国・アジア太平洋地域は11月まで連続6か月間、前月比のマイナスを記録している。中国市場は、2022年5月段階では販売額約170億ドルであり、地域別で最大の売上であったにも関わらず、11月には約134億ドルと規模が縮小している。
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2023年はこれまでの動向を受け、マイナス成長となることが予測されている。半導体需要の減速の背景には、世界的なインフレの加速、中国のゼロコロナ政策による経済活動の縮小、ロシアのウクライナ侵攻の継続などがある。
成長率予測は、2022年4月〜6月ごろは各社とも2.5%〜5%の増加を見込んでいたが、段階的な下方修正を重ねた結果、2022年11月末には前年比より微減との予測となった。米国の市場調査会社Gartnerの世界半導体市場予測(2022年11月28日発表)によると、2023年の世界半導体売上高は、前年比3.6%減の5,960億ドルと予測されている。Gartner社の調査担当のバイスプレジデントであるRichard Gordon氏によると、世界経済の急速な悪化と消費者需要の減退は2023年の半導体市場に対して悪影響を及ぼすとの見解を述べている。
また、WSTSも2022年11月29日に市場規模予測を前年比4.1%減、5,565億ドルと発表している。WSTSの製品分野別予測では、特にメモリ※1が減速し、WSTSによると17.0%減と予測されている。このメモリーの減速予測は、これまでのパンデミックの影響に伴う在宅特需の影響で積み増した在庫を、通常在庫へ戻す動きによる影響が出るとみられる。一方で、アナログ※2は1.6%増と、僅かながら伸びが期待されている分野もある。
※1)メモリ
スマートフォンやデータセンターなどの記憶装置デバイスとして、データ駆動社会を支えている。より高度な計算が求められるなか、メモリ性能の大容量、高速、省電力化を低コストで実現することが必要。
※2)アナログ
アナログ信号を取り扱う半導体であり、IoTやスマートファクトリーなどに必須であるため、中長期的に市場が拡大することが見込まれている。市場ニーズに応えるために数多くの派生品が生み出されており、多品種少量生産となる特徴がある。
半導体市場は、一般消費者であるコンシューマー向けと規模の大きい法人などを相手とするエンタープライズ向けで市場の二極化が進行している。
コンシューマー向け市場は現在低迷中だ。2021年は新型コロナウイルス感染症の影響によるテレワークの浸透などでノートパソコンなどの通信機器の需要が拡大して市場は一時盛り返したが、現在はその特需も終わって落ち着いているといえるだろう。背景には、世界的インフレや金利の上昇による可処分所得の減少と、さらに、経済活動の制限緩和に伴い巣ごもり需要から脱却しつつあり、旅行や娯楽といった別の分野にシフトしていることも要因として大きい。
しかし、エンタープライズ向け市場については、マクロ経済の減速や、ウクライナ情勢やアジア情勢などの地政学的懸念の高まりがあったにも関わらず、自動車分野などは需要が継続しており、現状としては比較的堅調に推移しているといえる。電気自動車や再生エネルギー関連の開発における需要は今後も続くことが予測されている。
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半導体は2020年頃から不足が問題化している。背景には複雑な国際的問題が絡み合っており、即座に解決されることは難しいだろう。
半導体不足の理由の一つとして、世界的な半導体の需要の高まりが指摘されるだろう。次世代の無線技術である5G、電気自動車の開発の広がり、AIの普及などのIT技術の進歩が昨今の需要を押し上げているといえる。
一方、米中の貿易摩擦や、寒波による米国の工場の停止や火災による日本国内の製造工場の停止などが製造数の減少やサプライチェーンの目詰まりにつながり半導体の供給のひっ迫も要因となっている。また、工場施設の老朽化もあり、増加した需要に生産能力が追いついていないことも原因の1つである。
半導体市場について、IntelのCEOであるパット・ゲルシンガー氏や米商務長官らは、今後2024年ごろまで半導体不足が継続すると予測している。しかし、日本国内においても半導体安定供給のための製造施設への投資など、半導体確保に向けて国家主導の取り組みがなされている。また、経済産業省においても、半導体の国内生産強化を掲げて半導体戦略が練られている。日本の世界半導体シェア率は1990年頃の約5割と比べると近年1割程度と奮わないが、今後も半導体市場は大きく拡大することが見込まれること、以前として国内市場で必要になる供給量を輸入に頼っている状況から、国内での安定供給の基盤づくりのための施策が進められている。
2024年ごろまで半導体不足の問題は続くと予測されているが、一方で、不足解消とともに供給過剰になるとの見解もある。新型コロナウイルス感染症の影響でコンシューマー向け市場で積み増していた在庫が放出され、通常在庫に調整される過程で供給過多となる恐れがあること、また、中国市場での売上の減少の影響が挙げられている。
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半導体市場は2023年の予測ではマイナス成長が予測されているが、長期的視野で見れば今後も伸びていく可能性が高い市場である。現代における世界の半導体市場は50兆円規模に上り、2030年には100兆円規模まで増加すると予測されており、マイナス成長は半導体不足と在庫調整の側面があるここ数年だけに限られることだろう。
さらに、先端半導体の生産は現在アジアに偏重しているが、先進国など各国が半導体の国産化を狙い、国家主導での投資を行って生産シェア増加の取り組みを進めている。投資規模の拡大は調達の安定化を目指すものであるが、半導体市場に対する各国の期待値の高さを伺わせる。先に述べた通り、日本においても国内の半導体製造基盤の確保、強化に力を入れ始めている。
膨大なデータ量を管理する必要性が増えた昨今の状況からデータセンターでの需要増加や電気自動車開発における半導体の需要が堅調であること、世界的にカーボンニュートラルへの取り組みを進めている現況であるため、グリーン社会を支える重要な基盤としてのデジタル化や電化による需要増大の傾向はこれからも変わらないだろう。加えて、今後、発展がますます目覚ましいだろうITサービス、中でも5G関連や人工知能、IoTの分野において、半導体は欠かすことができないために、デジタル化が進めば進むほど、半導体市場も加速的に成長していくことは間違いないだろう。
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半導体市場はデジタル・IT化の進展と共に需要が大きく拡大した。現時点では2023年内は市場成長ペースの落ち込みが見込まれるものの、半導体の活用がなくなることは考えられず、長期的な視野でみれば市場拡大が続くことが予測される。日常生活や社会活動に密接に関わっている半導体の動向は今後も注視が必要である。