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製造業
バイオものづくりは微生物を利用したものづくりであり、主にスマートセルを活用して、有用物質を効率的に生産する技術だ。製造プロセスでの環境負荷を軽減し、材料生産やエネルギー供給の革新をもたらす可能性があり、サーキュラーエコノミーの実現において不可欠な技術であるといえるだろう。
政府方針においても「2030年に世界最先端のバイオエコノミー社会を実現すること」を目標としたバイオ戦略を推進しており、製造業を中心とした幅広い産業において「バイオ」は大きな影響を与えるとともに、大きなビジネスチャンスが存在する領域である。
今回のセミナーでは、出光興産株式会社と「出光バイオものづくり共同研究部門」を設立し、バイオ燃料やバイオ化学品、バイオ農薬などを製造するスマートセルの開発を進めるほか、「光合成微生物の力でサステナブルな細胞培養」の実現や「バイオフェノールの生産性を向上させる新技術」の開発をされている、神戸大学の蓮沼氏をお招きし、「バイオものづくり」の最新の技術動向と今後の課題について伺った。
※本記事は、ストックマーク株式会社が2024年11月21日に開催したオンラインセミナー、『神戸大学 蓮沼氏に学ぶ バイオものづくりの現在地 – 最新技術と今後の課題』の内容を中心にまとめたものです。
蓮沼 誠久 氏
神戸大学 先端バイオ工学研究センター
センター長
神戸大学先端バイオ工学研究センター 教授・センター長。神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科 教授を兼任。専門は代謝工学、バイオプロセス。微生物、微細藻類を利用した物質(汎用化学品、高付加価値機能品)生産に関連する研究で国際誌学術論文200報以上、総説・解説80報以上を発表するなど、バイオものづくり分野で世界をリードする成果を創出。JST戦略的研究推進事業さきがけ・代表、NEDOバイオマスエネルギー技術開発・研究開発責任者、JST未来社会創造事業・代表、NEDOスマートセルプロジェクト・研究開発責任者など、ナショナルプロジェクトの研究リーダーを歴任し、産官学連携にも力を入れている。2024年より神戸大学デジタルバイオ・ライフサイエンスリサーチパーク推進機構・バイオものづくり共創研究拠点長を務める。
「バイオリファイナリー」とは非可食や未利用のバイオマスを原料にして、バイオ燃料や高機能性素材などの生活に必要なものを作っていくという環境調和型のバイオプロセスのことだ。従来の方法だと、化学処理の過程で意図しない物質も多く発生するため、高温や触媒の活用が必要であったが、バイオリファイナリーであれば常温常圧で処理することができるというメリットがあるのだ。
『炭素排出量の削減』というカーボンニュートラルへの貢献、石油資源が乏しい日本での『脱石油・エネルギー転換』や『資源・エネルギーの安全保障』など、社会的に大きなインパクトが期待されており、200兆円規模の新市場の創出ができるというところも利点である。そして、このバイオプロセスの鍵を握っているのが「微生物」だ。
サーキュラーエコノミーやバイオリファイナリーの実現において、微生物がキープレイヤーとなっている。酵母やコリネ菌、麹菌、放線菌、大腸菌、乳酸菌などを利活用することで非常に重要な技術開発をすることが可能になるのだ。蓮沼氏は「バイオマスの利用能」と「有用物質の高生産能」という2つの観点から微生物を用いた研究を進めている。
微生物は遺伝子組み換えをすることによって、さまざまな能力を付与することが可能になる。微生物の細胞の表層にはタンパク質を集積することができる。たとえば、酵母であれば非常に優れたアルコール生産能をもつが、一方でセルロースのような高分子をエネルギーや有用な化学物質に変換することはできない。しかし、遺伝子組み換えを施すことによって、細胞の表層にセルロースの分解機能をもった酵素を集積することができるようになる。
そうすると、本来は利用できないセルロースを細胞の表面でグルコースに変えて、このグルコースを取り込んでさまざまな有用物質に変換することができるようになるのだ。これはセルロースに限った話ではなく、キシランや油などの多くの高分子を酵素によって利用することが可能になる。つまりバイオマスの利用能を向上させることができるのだ。そして、これが微生物がもつポテンシャルだ。
ひとつの例として、クラフトパルプを原料にして、キシリトールとセルロースナノファイバーを作るという技術がある。クラフトパルプというのは78%程度がセルロースで、残りの大部分がヘミセルロースという成分で構成されている。クラフトパルプの表面のヘミセルロースを分解することで、キシロースがキシリトールになる。このときに発生する非常に純度の高いセルロースナノファイバーを回収することができるのだ。