2024年以降の半導体市場の見通しは?需要や各国の動向について
製造業
化石燃料への依存脱却やカーボンニュートラルの実現などで、現在注目されている技術の1つが「バイオものづくり」だ。バイオものづくりとは、バイオマスなどの有機物やCO2などの無機物を原料に、物質生産を行う概念または手法を指す。酒や納豆、醤油など日本を代表する発酵食品が例として挙げられるように、決して真新しい技術ではない。本記事では、バイオものづくりの概念や現況、可能性などについて解説していく。
「バイオテクノロジー」とはどのような技術?
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目次
一般的にはバイオマスなどの有機物やCO2などの無機物を原料に、ゲノム編集などのバイオテクノロジーを活用することによって、目的物質を生成する能力の効率化・最大化を行い、ものづくりを行う手法をいう。もう少し噛み砕いていうと、生物由来の素材を用いてものづくりを行うこと、さらには微生物など生物の能力を活かして有用化合物などを作り出すことを指す。なお、冒頭でも述べたようにバイオものづくりは何も新しい技術ではない。微生物の力を使って製造されているチーズ、漬物、パン、味噌などの発酵食品もその一種だ。
石油、石炭、天然ガスなど化石燃料を原料とせずに、物質の生産を行うことが可能になることから、自律的で持続的な資源活用やカーボンニュートラルの実現へと導く技術として期待されている。
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バイオものづくりには、大きく「バイオマス由来」による生産と「微生物由来」による生産の2つの種類がある。
バイオマスとは、主に木のくずやわら、動物のふん、食品の生ゴミなど、動植物から生成された有機性の資源のことを指す。木材などのセルロースを主成分とする植物繊維をナノサイズにまで微細化した素材「セルロースナノファイバー」などが良い例だ。具体的には、タイヤやシャンプー、医薬品など幅広い分野で活用されている。
もう1つが、トウモロコシやサトウキビに含まれる糖を発酵させ、蒸留して作られるアルコール「バイオエタノール」だ。具体的には、車や航空機などの燃料として用いられており、ガソリンに代替するものとして注目を集めている。
もう1つが微生物や動物の力を利用し、ものづくりを行う方法だ。代表例としては、チーズ、漬物、パン、味噌などの発酵食品が挙げられるだろう。そのほか、大腸菌や酵母を使った抗体医薬品の生産や、自然環境に存在する細菌を活用して排水処理を行う事例などもここに含まれる。
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ここからは、バイオものづくりの市場動向や世界を巡る情勢・トレンドについて解説する。バイオものづくりの歴史や起源は新しい。バイオものづくりが開拓する新たな産業「バイオエコノミー」という概念は、2009年にOECD(経済協力開発機構)が発行したレポート「The Bioeconomyto 2030」で初めて提唱されたといわれている。
ちなみに、バイオエコノミーとは、生物資源とデータサイエンスやバイオテクノロジーを活用し、地球環境の保全や、持続可能な経済社会の実現を目指す概念を指す。
同レポートでは、2030年に世界におけるバイオエコノミー市場は約200兆円まで成長すると試算しており、潜在的な可能性を秘めた市場であることが伺える。
また、SkyQuestの市場調査レポートによれば、世界のバイオテクノロジー(バイオエコノミー)の市場規模は、2022年の約127兆円から2030年までには約576兆円に達し、CAGR(年平均成長率)は13.9%と予測されている。
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それでは、日本のバイオエコノミーの市場はどのくらいの規模を有しているのだろうか。
2019年に、経済産業省 産業構造審議会が行った調査によると、発酵・醸造技術などを含めて広義的に分析した場合、日本国内には約57兆円にのぼるバイオエコノミーの市場規模があり、遺伝子組換え技術、生体分子解析技術などの先端技術を活用した製品やサービスに限定した狭義の市場でも、2018年で約3.6兆円の市場規模があるとされている。
なお、狭義に定義づけられる国内のバイオエコノミーの市場規模は、リーマンショック時のマイナス成長を除けば、GDP成長率を上回る高い成長率を維持している。
このように市場は活況を呈していることもあり、2019年には統合イノベーション戦略推進会議が策定した「バイオ戦略※」で、2030年に世界最先端のバイオエコノミー社会を実現することが目標として掲げられた。
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バイオものづくり、そしてそれを下支えするバイオエコノミーは、具体的にどのようなメリットを我々にもたらすのだろうか。
従来のものづくりでは、高温高圧での反応が必要だったが、バイオものづくりは常温・常圧(自然条件下)で行われるため、エネルギーをあまり必要としない。そのため、CO2排出量の削減が期待できるのだ。
スマートセルとは、遺伝子改変技術を活用し、高度に機能がデザインされた細胞のことを指す。具体的な事例や実用化例は乏しいが、合成生物学(ゲノム編集・ゲノム合成)の発展により、スマートセル開発に必要な要素技術が飛躍的に進化すると言われており、医療技術の発展や持続可能な製造プロセスを実現しうる手段として注目を集めている。
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バイオものづくりは、非常に画期的かつ先進医療の発展を牽引する技術として、にわかに存在感が高まりつつあるが、課題も多く山積する。
まず課題のうちの1つがコストだ。従来の化学的な製造プロセスと比べると、生物由来の素材を用いたものづくりは長い時間を要する。さらには、製造の成功率が低いのも難点だ。試験管レベルで成功しても、量産体制のフェーズに突入した際には、求められている歩留まりや品質を維持させることが難しい。
もう1つの課題は安定的な原料供給ができないことだ。バイオものづくりでは、ごみなどの廃棄物を利用するため、国内で調達できる量には限りがある。安定的にかつ安価で原料を入手するには、まだまだ実現に及んでいないのが実情だ。
バイオものづくりの実用化・事業化に向けては、具体的な成功事例をみてイメージをつかむことが肝要だ。ここでは、バイオものづくりの実用化例をいくつか紹介したい。
植物油などを原料として微生物により生産されたポリマーだ。長年培ってきたカネカ独自の高分子技術とバイオ技術を結集・融合しながら試行錯誤を繰り返し、世界初、PHBHの工業化に成功。ストロー・レジ袋・カトラリー・食品容器包装材など、さまざまな分野で展開できるほか、海水中でも生分解される性質をもつため、海洋マイクロプラスチック問題を解決する技術としても期待が高まっている。
シンプロジェンは、2017年に設立された神戸大学発のバイオテクノロジー関連のスタートアップ企業だ。OGAB(Ordered Gene Assembly in Bacillus subtilis)法という長鎖DNAを高精度・低コスト・短期間で合成できる技術をもつ。すでに遺伝子治療薬の原料となるウイルスベクターの設計・開発・分析サービスを提供しており、CO2の排出量削減につながる化石燃料を由来としない燃料、タンパク質、化学品などの生産にも活用されている。
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産業革命以降、我々の文明や生活に多大なる影響を与えてきた化石燃料。しかしながら、資源枯渇までのカウントダウンは刻々と迫っている。
また、世界的な人口増加によって、世界のエネルギー需要量は2040年には2014年の約1.3倍になると推測されており、化石燃料の代わりとなるエネルギー開発が必至だ。
バイオものづくりは、まだ発展途上ではあるものの、これからの未来を明るくしてくれる技術・手法といっても過言ではないだろう。この技術トレンドに遅れを取らないためには、自社の製造プロセスや研究開発に活かせるよう、逐一、情報をキャッチアップすることが重要だ。将来の活用を見据えて、今からバイオものづくりに関連する情報収集を進めてみてはいかがだろうか。
参考記事
・経済産業省「バイオテクノロジーが拓く『第五次産業革命』」
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shomu_ryutsu/bio/pdf/20200202_2.pdf
※)統合イノベーション戦略推進会議決定「バイオ戦略 2020」
https://www8.cao.go.jp/cstp/tougosenryaku/bio2020_sijo.pdf