2024年以降の半導体市場の見通しは?需要や各国の動向について
製造業
バリューチェーンとは、どの事業プロセスが価値を創出しているかを把握するためのフレームワークのことだ。この記事では、バリューチェーンの概念と分析方法、その分析結果をもとに、どのように戦略を立案するのか、一連の流れについて詳しく解説する。製造業におけるバリューチェーンの有効性や、顧客ニーズを起点とした製品開発に必要なこととは何かについて考えていく。
付加価値を高めるための重要な視点である「顧客価値」とは?
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目次
バリューチェーンとは「価値連鎖」のことで、製品やサービスが顧客に提供されるまでの一連の事業活動を価値のつながり(連鎖)であると捉えたものだ。バリューチェーンのそれぞれのプロセスを業務ごとに分類して客観的に分析を行うことによって、「顧客価値の創出に大きく貢献しているのがどこなのか」や「自社における競争優位性がどこにあるのか」を明確にできる。
バリューチェーンは、アメリカの経営学者でハーバード大学経営大学院教授でもあるマイケル・E・ポーター氏が、1985年に出版した書籍「競争優位の戦略(Competitive Advantage)」で用いた概念だ。ポーター氏は、バリューチェーンを分析することで、より正確な競争優位を明らかにできるとしており、一連の事業活動を「主活動」と「支援活動(副次的活動)」、「利益(マージン)」で区分けすることを提唱している。
ポーター氏が紹介するバリューチェーンのフレームワークは、以下の図のように「5つの主活動」「4つの支援活動」「利益」で分類される。
主活動とは、生産から消費に直接的に関わる「購買」「製造」「出荷・物流」「販売・マーケティング」「サービス」などのプロセスのことだ。一方、支援活動は「全般管理(インフラストラクチャー)」「人事・労務管理」「技術開発」「調達活動」など、間接的に生産・消費に関わるプロセスを指す。主活動と支援活動に優劣差はなく、あくまで分類上の話である。相互は密接に関わり、それぞれがなくてはならない要素として存在している。
ビジネスの主要活動を具体的に整理すると3つのチェーンが内包されていることが見えてくる。
主要活動は「商品を企画する→企画した商品を製品化する→市場や顧客などのターゲットに営業する→商品を供給する」のようなプロセスに分類できる。これら一連の流れを活動ごとに分類したものが、「デマンドチェーン」、「エンジニアリングチェーン」、「サプライチェーン」である。
デマンドチェーンでは、需要をもとに市場や顧客へアプローチを行い、得られた需要情報を商品開発や生産などへ展開する。市場調査やアンケート調査、口コミや購買情報の収集などのマーケティング活動、さらに営業活動による需要・顧客拡大の活動などが含まれる。供給を担うサプライチェーンと対となる関係にあり、需要を正確に捉えることで「顧客提供価値を最適化」することがデマンドチェーンの目的だ。
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材料の供給から顧客への製品提供などの生産と供給を担う。バリューチェーンと非常に類似しているが、バリューチェーンが自社ビジネスのプロセスを整理し「価値の連鎖」を明らかにすることに対して、サプライチェーンは「供給連鎖」であり、自社のみならず協力会社を含めた原料や部品などのモノの流れに注目する。
企画構想、製品設計、工程・設備設計、生産準備、保守保全までの製造プロセスの一連の流れを指す。「Engineering Chain Management」の頭文字を略して「ECM」と呼ばれることもある。製造プロセスの構築次第で、事業活動の価値が大きく改善されるため、特に製造業においては重要なプロセスである。
製造業は規模が大きくなるほど、購買、製造、出荷・物流、販売といった一連の流れが複雑化し、社員であっても事業活動全体を理解することは困難になる。バリューチェーン分析は、価値という切り口から自社の事業構造を明らかにする点が特徴のため、事業の機能を分類し、機能ごとにおける価値創出の役割と、問題点を把握できる。
バリューチェーン分析を通して、付加価値を出しているプロセスが明確になることで、自社の強みを把握できるようになる。自社の得意分野にヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源を集中させ再分配することで、製品やサービスの付加価値を高め、コストも削減することが可能となる。また、弱点となっている部分も見直しを図ることで新たな価値を生み出すチャンスとなる。
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競合他社のバリューチェーンも分析範囲とすることで、競合の強みや弱み、抱えている課題を把握でき、今後の動向を予測しやすくなる。また、自社分析のみだと、自社に都合の良い近視眼的な分析に偏りがちだが、競合他社と比較することで客観的な分析、かつ新たな示唆を得るきっかけとなる可能性がある。
バリューチェーン分析は、「現状把握」「コスト分析」「強み・弱みの把握・分析」「経営資源の評価」という4つのステップで行う。
まずは、バリューチェーンの構造を明確にするために事業にかかわる活動をすべて洗い出す。抜き出した活動を機能別にリストアップし、バリューチェーンを構成する主活動と支援活動に分類する。自社の事業に近しい事業の一般的なバリューチェーンを参考にすると分類しやすくなるだろう。
次に、細分化したプロセスごとに紐づく収益性とコストを評価していく。また、リストアップする際には、コストだけでなく担当した部署もあわせて明記し視覚的にわかりやすくまとめることで、より正確な分析ができる。複数部署が関与している場合は、活動比率も忘れずに記載する。できればコストが発生する要因やコスト間の関連性までを明確にできることが望ましい。
競合他社よりも優位性が高い点、反対に不利な点を把握・分析する。より細かく分析をしたければ、各プロセスごとにSWOT分析で洗い出してみても良いだろう。先述したとおり、他社と比較することで自社を客観的に把握することがポイントだ。
最後に経営資源の評価を行う。ここではVRIO分析という評価方法を紹介する。VRIO分析はValue(価値)、Rareness(希少性) 、Imitability(模倣可能性)、Organization(組織)の略で、経営資源がもつ独自の強みや弱みを分析するフレームワークだ。
経営資源を洗い出した後、価値、希少性 、模倣可能性、組織の順に、該当するものにYESかNOで評価を行う。YESが多いほど、競争優位性が高いと判断できる。またNOの評価となった活動は、不足を補う対策や施策を取り入れ底上げしていくことが重要だ。
バリューチェーン分析で自社の経営資源や強みの把握ができたら、それを戦略に落とし込んでいく。バリューチェーン分析が生かせる戦略には「集中戦略」「差別化戦略」などがある。
集中戦略とは、企業が持つ経営資源を特定の製品やターゲット、エリアに集中的に投入し、競争優位性を高める戦略のことだ。いわゆる「選択と集中」である。この戦略を効果的に行うためには、自社の強みを正しく把握している必要がある。
以下のコアコンピタンスについての記事も参照していただきたい。
差別化戦略は、市場において競合他社の製品やサービスと比較して差異となるものを作り出す戦略のことである。製品ライフサイクルが短命化する昨今においては、コモディティ化することを避けるために、競合が模倣ができないような突出したオリジナリティを構築する必要がある。
差別化・差異化については以下の記事もおすすめだ。
先に述べたとおり、製造業においてエンジニアリングチェーンが重要なカギであり、競争力の源泉となる。商品企画や設計・開発などのプロセスの上流を担うことから、製品品質やコストの決定に大きく関わる。また、開発では膨大な時間とリソースが必要になることから、企画、設計、開発段階をいかに短縮できるかどうかで商品のリードタイムが変わる。
とはいえ、いくら早く製品を世の中に出したとしても、市場ニーズとの不一致、設計ミスによりリコールの発生などがあっては利益を出すことが難しくなるだろう。つまり、事業環境が急速に変化する中で、市場ニーズを的確に捉え、迅速に競合他社よりも良質な製品を顧客に提供するためには、エンジニアリングチェーンの強化が必要不可欠なのだ。
以下の図は、経済産業省が「製造業 DX レポート ~エンジニアリングのニュー・ノーマル~」にて掲載している、日本における製造業のエンジニアリングチェーンの課題を示している。エンジニアリングチェーンの強化として、「デジタル技術の活用による部門間の連携促進」の重要性について述べている。
所有価値から体験価値、いわゆる「モノ消費」から「コト消費」へと価値基準が転換し、高い技術力だけでは売れない時代へと突入している。技術や製品のみを軸に検討するのではなく、顧客ニーズを含めビジネス視点を持って考えなければいけない。
また、直面している顕在顧客の声だけでなく、まだ目の前に現れていない潜在顧客や市場全体の課題への理解も必要となる。そのためには、情報感度を高め、集積したデータや情報の共有を促進し、部門や上下関係を越えた連携を行うなど、バリューチェーン全体の最適化を図る体制の再構築が急務である。
まずは、自社のバリューチェーンを改めて確認する、競合のバリューチェーンを見てみる、他社の取り組みを調べてみる、市場全体の動向を調べできることがないか探してみるなど、できそうなことから試してみてはいかがだろうか。
技術シーズと顧客価値について、詳しくはこちらの記事にて。
多様化するニーズへ適応するために「顧客起点」となるバリューチェーンの最適化が必要だ。市場のニーズを把握し、部門間、工場間、企業間をつなぐ仕組み作りがカギとなる。
また、激化する競争のなかで、差別化・差異化要素を見つけ、高付加価値を生み出すためには、ターゲットとなる市場への理解を深め、競合や自社を客観的に分析することが肝となる。そのためには、幅広い情報に目を向け、偏らないビジネス視点を養っていくことが必要になるだろう。
超情報化社会である現代において、膨大な情報の中から有益となる情報を集め分析を行うにはすでに人力での限界が見えている。近年はAIが高度な進歩を遂げ、自然言語処理技術により競合他社、トレンド、市場の動向などの情報を効率的に収集し構造化を瞬時に行えるようになっている。