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製造業
バイオマスプラスチックは石油由来のプラスチックとは異なり、セルロースなどの生物由来の再生可能資源を原料に作られているプラスチックである。SDGsやカーボンニュートラルといった社会課題を背景に、化石燃料の使用を減らしながら持続可能な資源利用の促進や、炭素の総排出量の削減への期待から注目されている技術だが、従来のプラスチックと比較し価格が高くなることなど、普及への課題はまだ多い。
今回のセミナーでは、「バイオマスプラスチック」に関わる研究成果で数々の受賞歴を持ち、「混紡繊維を分別・リサイクルする新技術」や「デンプンから生分解性高吸水性ポリマー」などの研究成果を発表されている、大阪大学大学院の宇山教授をお招きし、バイオマスプラスチックに関する技術動向や課題について伺った。
※本記事は、ストックマーク株式会社が2024年11月14日に開催したオンラインセミナー、『大阪大学 宇山氏に学ぶ バイオマスプラスチックの現在地 – 最新技術と今後の課題』の内容を中心にまとめたものです。
宇山 浩 氏
大阪大学大学院 工学研究科
教授
京都大学大学院で助教授を務めた後に現職に至る。日本接着学会やセルロース学会、第44回合成樹脂工業協会などの学会で学会賞を受賞。バイオベースポリマー、高分子多孔質材料、高分子ゲルが専門分野。直近の研究成果としては、「混紡繊維を分別・リサイクルする新技術」や「デンプンから生分解性高吸水性ポリマー」を発表。
2024年5月、環境省は『第六次環境基本計画』を発表した。大方針として掲げられているのが、「ウェルビーイング/高い生活の質」である。これは環境政策の目指すべきものは単なる環境保全ではなく、人類の幸福でもあるという考え方を示しているのだ。また、第六次環境基本計画では「プラネタリーヘルス」の考え方に基づき、人と地球の健康の一体化が提唱されており、自然資本を維持・回復・充実させることによって、新たな成長が導かれるとされているのだ。
そういった背景の中で、宇山氏は地球全体を守る上では「ネイチャーポジティブ」が重要なキーワードだと考えている。ネイチャーポジティブは『生物多様性の損失を止め反転させる』ことであり、2021年6月に開催されたG7サミットでの「2030年自然協約」の4つの柱の中でも触れられており、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーに続く世界の潮流になるといわれている。
「バイオマスプラスチックをはじめとする、バイオプラスチックもネイチャーポジティブの中での位置付けを考えてほしいですね。ネイチャーポジティブの実現のためには、単に自然保護を考えるだけでは不十分で、サーキュラーエコノミーやゼロカーボンなどを総合的に考えなければ、地球全体がよくなっていきません。そしてこの考え方は非常に大きなビジネスチャンスにもつながっていきます」と宇山氏は語る。
プラスチックを『バイオマス原料か石油原料か』と『生分解性か非生分解性か』の2軸でとらえると、一般的に流通している身近なプラスチックは「石油が原料で非生分解性」のプラスチックである。これ以外の「バイオマスが原料で生分解性」、「石油が原料で生分解性」、「バイオマスが原料で非生分解性」のプラスチックをまとめてバイオプラスチックと呼ぶ。
実は、バイオマスプラスチックの生産量はごくわずかである。プラスチック製品は年間4億トン製造されているが、2023年のデータによると、この内のバイオマスプラスチックの製造量はたったの200万トンであり、0.5%ほどしか作られていない。そして、プラスチックの製造量は2050年には4倍に増えるともいわれているのだ。
「これまではリニアエコノミーといって、使ったら捨てていたけれども、今後はサーキュラーエコノミーの考え方で、プラスチックを地球環境全体の中で完全に循環させていくように見直さなければなりません。ショッキングな話ではありますが、現在は世界で900万トン以上のプラスチックゴミが海に流れているといわれています。そして、2050年にはこのゴミの量は魚と同じくらいになるともいわれています。そうならないための対策が非常に大きな課題となっていきます」と宇山氏は説明する。
プラスチック循環利用協会が2017年に発表した、プラスチックリサイクルの現状によれば、収集されたプラスチックゴミの903万トンのうち、58%はサーマルリサイクルに回されている。サーマルリサイクルとは、回収したプラスチックごみを燃やしてその熱を利用するというリサイクルである。宇山氏は「『廃棄材料から新しい材料へ』という本当の意味でのリサイクルではない」と話す。だが、プラスチックを化学的に分解し、もう一度使える形にしてリサイクルする「ケミカルリサイクル」は、現在のところ日本ではほんの数%しか実施されていないのが実情だ。
また、上記プラスチックゴミの15%は海外輸出されていた。主な輸出先は中国であったが、2017年末から中国はプラスチックゴミの輸入を禁止したため、行き場を失ったごみは社会問題化した。ごみが出た地域でリサイクルするシステムが今後必要になるのではないか、と宇山氏は訴える。
現在、国内外の化学メーカーは、バイオマスかつ生分解性のプラスチックの実用化を積極的に進めているが、普通のプラスチックよりもコストが高く、一方で性質は劣っているために活用が難しい。宇山氏は「MBBP開発プラットフォーム」を設立し、生分解性プラスチックの不足する生分解性をバイオポリマーで補うという方針で研究を推進している。
その取り組みの代表的なものが、素材の品質を高めるために研究を進めていく中で開発した、「デンプン」を使った海洋生分解性のバイオマスプラスチックだ。