2024年以降の半導体市場の見通しは?需要や各国の動向について
製造業
日本の化学工業は、さまざまな機能を持つ素材の提供により多くの基幹産業のイノベーションを支えており、国内産業全体のグローバルにおける競争力を考える上で欠かせない、非常に重要な産業である。そして、サプライチェーンの上流に位置する化学産業にも、競争上の優位性を確立するためのDX(デジタルトランスフォーメーション)は避けて通れない課題となりつつある。
今回の記事では、日本の化学業界におけるDX推進の現状と課題の解説と、国内外の事例についてご紹介する。製造業のバリューチェーンにおいて、化学産業と最終製品の製造メーカーの関係性は深い結びつきにある。つまり、製造メーカーに属する方も、化学産業側がどのような状況でどのような変化が起きようとしているのかを知ることは、決して無駄ではない。
この記事をご覧いただき、化学業界への理解を深めるきっかけとしていただきたい。
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目次
今まで優位を保っていた日本の化学業界だが、安価なコスト面や向上した技術力により中国や東南アジア諸国に市場が奪われつつある。また、1990年代から欧米の化学企業がデジタル活用を進めているのに対し、日本は職人的な個々人の経験と知見を元にした研究開発によって成果を出してきたという性質上、テクノロジーを導入した研究開発を苦手としており、DXに遅れがでてしまっているというのが現状だ。
また、化学や素材企業のサプライチェーンにおける立ち位置として、製品のコスト削減や安定供給を重視することが一つの要因となり、DXの取り組みが、本来の目的である新価値創造やビジネスモデル変革ではなく、業務効率化を目的としたものにとどまっている場合も多い。他業界や最終製品の製造メーカーがディスラプターや新型コロナ感染症のパンデミックの脅威に晒される中、化学業界にもいよいよその波が到達すること、あるいは今後のグローバルな戦いを見越して危機感を抱く方も多くいるだろう。
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DXとは、経済産業省の定義によると「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」としている。つまり、データやツールなどのデジタル化の推進だけでなく、デジタル技術を活用し、顧客へ新たな価値や体験を創出することに真の意義がある。
化学業界におけるデジタル化と新価値創造とはどのようなことなのかをご説明する。
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化学業界におけるデジタル化は、事業プロセスを改善し機能面の向上を実現することにある。デジタル化を行うことで生産性を飛躍的に伸ばす可能性を有する分野として、「製造オペレーション」と「R&D」があげられる。
製造オペレーションは、改善できる規模が大きく着手しやすい分野である。また、化学工場は膨大なデータを保有しているが、うまく活用できている状況とは言えない。膨大なデータを収集・分析・活用することで、生産性の向上だけでなくエネルギー消費量の削減が可能となり、AIやロボットを連携させることで、安定性や安全性をより確保することができる。さらに、新型コロナ感染拡大の影響で、より一層先行きが不透明になったことから、デジタル化による効率化やリードタイムの短縮は、製造工程のみだけでなくサプライチェーン全体で対応が急務となった。
そして、もうひとつのR&Dのデジタル化について次にご説明する。
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化学業界の企業はR&Dを自社の中枢と位置付けることが多い。その中核であるR&Dの従来の熟練研究者による経験や知識、勘などの要因で得られていた競争優位性は、データ駆動型や機械学習を行うAIによる開発の高速化の潮流により変わりつつある。合成などの実験はロボットなどを取り入れて自動化が進み、リモートでの操作や24時間の稼働などが可能となる。何よりも蓄積してきた膨大な研究データをAIが解析することで、新たな組み合わせの発見や最適な配分など、より短期間で確実な成果を挙げることが期待されている。
このように効率的で最適、かつ迅速な研究によりグローバル競争力を高めるためには、データ駆動型へのシフトに向け、研究情報のデータベース化やAIやロボットなどの積極的な活用、オペレーションの整理やデータの標準化など、一つひとつの課題をクリアしていく必要がある。
従来から化学業界は需要の変化の影響を受けにくく、社会の変化に敏感であったとは言えない。しかし中国や中東地域の台頭により、独自の特性や機能を備えた物質を作り、新しい価値を創造していかなければ将来が見えないという局面に達している。社会情勢に目を向け変化を敏感に捉え、急速に変わる世の中の動向に合わせた製品作りに必要な材料の開発に注力していかなければならない。さらに、新型コロナの感染拡大で急な需要に対応する重要さが顕著に見え、今後もその傾向は強くなると予測される。
つまりデジタル化は、あくまでもこれからを生き抜くための土台づくりなのだ。そのデジタル技術を生かすことのできる基盤のもと、急な需要にも応えられるような、迅速かつ柔軟な先回りした開発が求められる時代となったのだ。
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デジタルによる改革の波は、製造プロセスやバリューチェーンだけでなく、最終市場を根本的に変え、その結果として需要のパターンが変化すると予測される。たとえば、デジタル技術がもたらす自動運転自動車と化学品メーカーを考えてみる。デジタル技術の発展により自動運転機能を搭載した自動車が普及すると、当然ながらヒューマンエラーによる交通事故は激減し、補修塗装をする必要がある車が減少することが予想される。補修塗装の需要が減少すれば、塗料メーカーやそれに関係した化学品企業の売上に影響が出るだろう。
このように化学業界の場合、デジタル技術の進歩によって起こる影響は意外な方向から現れることもある。つまり、変化のスピードがかつてないほど速まり、先行きが不透明な環境で勝ち残っていくためには、取り巻く環境や社会状況などさまざまな情報から、何がどのように自社にインパクトを与えうるかを踏まえて戦略を策定する必要があるのだ。
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ここからは化学業界のDXの取り組み事例をご紹介する。
国内の事例として紹介するのは「三菱ケミカルホールディングス」「旭化成」の2社だ。
三菱ケミカルホールディングス(株式会社三菱ケミカルホールディングス)では、グローバルの戦いで生き残るためという強い危機感からDXに着手した。DXの起爆剤にしようという考えから、社外からデジタル人材を取り込んで少数精鋭のDXグループを設立した。外部から来たメンバーで構成されたDXグループは、事業部門からの信頼を得ることが大事と考え、事業部や工場へ訪問し、現場の課題を聞いて回ったと言う。その過程で得られた各現場のデジタル技術によるビジネスモデルの変革事例をビジネスパターン集としたのが「デジタルプレイブック」であり、ベストプラクティスとして横串の展開を行う。商品特性や課題が異なる事業部に、画一的な提案ではなく、事業部ごとに合った解決策を導き出すために作られたものだ。
大きな変革と小さな改善を両輪でまわしていく「両利きのDX」がDX推進に必要不可欠だと考える同社にとって、既存事業で小さなDXを起こし続けていくことが欠かせない。そのためには、グループ会社で7万人を超える大所帯な企業で、現場の一人ひとりがDXを「自分ごと」として捉えてもらう必要がある。DXグループ設立当初から現場に寄り添い牽引し、現場とともに築き上げたいという思いが、「デジタルプレイブック」のような取り組みに形となって現れている。
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旭化成(旭化成株式会社)のDXは、400以上のデジタルプロジェクトが進められている。研究開発では、データとデジタルを活用するマテリアルズ・インフォマティクスの取り組みが進み、研究開発の高速化を目指している。製品設計においても、自動最適化ツールを活用し、熟練の設計者と比べても高い性能を発揮する設計を導き出したと言う。
同社は「すべての社員がデジタル技術を活用できる人材へ」という目標をもとに、「デジタル人材4万人プログラム」を打ち出し人材育成に注力している。全社でデジタル習熟度を一定水準まで高めることによって、部署を越えてより効率的にデータや技術の活用を行えることを目指す。これは多様性という強みを生かす旭化成ならではの取り組みと言えるだろう。
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海外では日本よりも先進的にDXを進めている企業が多い。海外企業の環境や常識は日本企業とは異なることもあることを念頭に置く必要があるが、参考となる事例は多数ある。
今回紹介する海外事例は「CEMEX」と「BASF」の2つである。
創業から110年もの歴史を重ねてきたセメントメーカーであるCEMEX(セメックス)は、セメント業界の価格競争が激化している問題に対応するために、「価格以外の競争優位性」を確保する必要があった。CEMEXが取り組んだのは、業界では当たり前のセメントのトン当たりでの売り切りから、「迅速に必要量を求められる場所へ届けること」へと変えたことだ。
また、セメントサービスビジネスへの変革のためにデジタルプラットフォーム「CEMEX Go」のサービスを開始。発注・出荷・配送の追跡・支払い・取引履歴といった取引データを一元管理できるようなデジタルプラットフォームで、それまで何時間もかかっていた発注から発送確認までのプロセスを数分で、かつ手軽に行えるようになった。デジタル技術の活用によって、業界で激化する価格競争を別の切り口で打破し、高いリピート率と顧客の囲い込みに成功した事例である。
BASFは合成染料業をもとに、世界最大級の総合化学メーカーに君臨する大企業である。さまざまな塗料分野において大きなシェアを持ち、自動車用塗料分野においても600色以上の塗料を生産している。
BASFは、自動車デザイナー向けに「AUROOM」という実在する色をデータベース化したデジタルプラットフォームを提供している。デザイナーはこのカラーデータベースを使用して、3DCAD上で写真のようなリアルなカラーを確認することが可能だ。物理的なサンプルを用意する必要がなく、カラー決定のプロセスを簡単に早くできる革新的なツールとなっている。
また、選択したカラーを自動車メーカーの塗装ラインで再現できるように、塗料生産や工程の品質管理などの業務最適化に必要なデータを共有するプラットフォームも整備し、「長期サービス契約」を導入している。塗料の製造や販売だけでなく、購入者の利用データを取得し活用し、効率化された塗装工程の導入までを提供する、バリューチェーンを進展するビジネスモデルを確立している。モノ売り型からコト売り型へビジネスモデルを変革できているDX成功事例であると言えるだろう。
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日本の化学業界は海外企業よりもデジタル化やDXにおいて遅れを取っているが、先人の事例を参考にできるメリットもある。先の見通しが立たない不透明な世の中となった今、さまざまな企業の事例収集だけでなく、市場や社会環境、他業界企業の動向などの幅広い情報に触れ、自社の進むべき道や取るべき方法の参考にできるようにすることが重要だ。