2024年以降の半導体市場の見通しは?需要や各国の動向について
製造業
AIや電気自動車などの普及によって、電力需給がひっ迫するだろうと予想されている。そこで注目されているのがパワー半導体、なかでも炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などを代表とする次世代パワー半導体だ。近年はさらに新素材の開発が行われており、人工ダイヤモンドを使った「ダイヤモンド半導体」の実用化も進んでいる。本記事ではダイヤモンド半導体の概略や特徴、動向などについて解説したい。
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目次
ダイヤモンド半導体とは、炭素を含むメタンガスと水素ガスを原料として生成する「合成ダイヤモンド」を用いて作られる半導体のことだ。現在、パワー半導体で主流の素材であるシリコン(Si)と比較しても、高温下・高電圧下でも稼働ができる。
電子機器の小型化・高性能化に伴い、パワー半導体そのものの効率化や小型化が求められているが、シリコン製のパワー半導体だと、大幅な性能改善は難しいとされている。さらに今後、電気自動車や発電施設、宇宙産業など、年々電力需要は増えることが予想され、大きな電力を安定的に供給できる半導体の需要が高まっている。
従来のシリコン製の半導体を1として比較すると、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)は何百倍、何千倍というほど、性能と電力効率が桁違いに向上するといわれている。
さらに、ダイヤモンド半導体は炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)をも凌駕する省エネ性や耐久性をもっており、本格的に実用化すれば宇宙分野、量子コンピュータ、電気自動車など、さまざまな分野で普及することは間違いないだろう。
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ダイヤモンド半導体の歴史は比較的浅く、日本では1980〜2000年代にかけて国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)や産業技術総合研究所(産総研)が研究開発を進めてきた。あくまで要素技術の研究であり、実用化に至る開発ではなかった。2023年に、佐賀大学の嘉数(かすう)誠教授らグループが、世界で初めてダイヤモンド半導体デバイスでパワー回路開発に成功した。
実用化・量産化まで至っていないことから、ダイヤモンド半導体に限定すると市場規模はそれほど大きくはない。しかしながら、ダイヤモンドを含む炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などワイドバンドギャップ半導体でみると一大市場といえる。矢野経済研究所の2023年8月発表の調査によれば、2023年での世界のワイドバンドギャップ半導体の市場規模は268億8500万円になるとの予測を出している。2022年の182億7100万円から47.1%も増える予測である。
今後、パワー半導体のニーズ増加によって、2030年にはワイドバンドギャップ半導体市場は3176億1200万円にまで到達する見込みとしている。
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主流の素材であるシリコン、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)と比べ、耐圧や熱伝導性などの点で、大きく優れているとされている。
また、高温環境下や放射線量の多い場所でも作動するため、廃炉作業での活用も考えられている。移動度が高く消費電力が削減されるため、実用化できれば高出力かつ省エネ性に優れた半導体として各分野での活躍が期待できる。
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ダイヤモンド半導体は電力効率や耐久性に優れることから、幅広い用途での活用が考えられる。
現在、電気自動車は航続距離の延長、車体の軽量化、充電時間の短縮などが課題となっているが、ダイヤモンド半導体が実用化すれば、この課題をクリアできる可能性が高い。アメリカ最大の自動車市場であるカリフォルニア州では、2035年までにガソリン新車の販売を全面禁止とし、2035年までには電気自動車を含むゼロエミッション車の販売割合を100%に目指す予定であることから、ダイヤモンド半導体の需要は高まるだろう。
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ダイヤモンド半導体は、放射線量が高い場所でも稼働する特性をもつ。このことから、廃炉や新しい原子炉内など過酷環境下での活用も検討されている。具体的には、放射線を検知するセンサーや、そのセンサーを動かすトランジスタなどが挙げられている。
宇宙空間は地上に比べて100倍以上の放射線が存在する。高い放射線を浴び続けることによって、ロケットや衛星で使用する半導体が劣化したり誤作動を起こしたりする事象が発生している。先に述べたように、ダイヤモンド半導体は耐放射線性に優れているため、期待が寄せられている。
2023年には、佐賀大学やJAXA、呉工業高等専門学校が通信衛星向けの電波送信器の共同研究を開始したことを発表。実用化へと着実に近づきつつある。
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耐圧や熱伝導性などの面で、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などの素材を凌駕しているものの、実用に至るまでにはさまざまな課題がある。まず、ダイヤモンドは非常に硬い材料だ。電子デバイスに仕上げるうえでの精密な研磨や加工は極めて難しい。大型の基板となるとさらに難度は高くなる。
しかしながら、先に書いた佐賀大学の功績が示すように技術的ブレイクスルーも起こっており、いずれ課題は解消されるものと想定される。
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ダイヤモンド半導体の本格的な実用化はこれからで、各社が急ピッチで開発を進めているような状況だ。最後に、ダイヤモンド半導体の研究・開発を行っている日本企業・ベンチャーを紹介したい。
東京電力福島第1原発の廃炉事業を目的としたダイヤモンド半導体の研究開発のために、北海道大学や産業技術総合研究所(産総研)などが2022年3月に共同で創業。2023年5月にはCoral Capitalやグロービス・キャピタル・パートナーズなど、東京の大手VCからシードラウンドで総額1.4億円を調達しており、今勢いのあるスタートアップだ。2025年を目処にダイヤモンド半導体のサンプルデバイスを製作し、出荷すると発表している。
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ダイヤモンド半導体デバイスの開発を行う同社は早稲田大学発ベンチャーで、2022年8月に創業した。九州工業大学の次世代パワーエレクトロニクス研究センターとパワー半導体の共同研究を開始すべく、北九州学術研究都市に研究開発拠点を新設。さらに2023年3月には西日本フィナンシャルホールディングス傘下のNCBベンチャーキャピタルや早稲田大学が運営するベンチャーキャピタルから3億円の資金を調達している。
ミライズテクノロジーズは、トヨタ自動車とデンソーが共同出資で2020年4月に立ち上げた車載半導体を開発するスタートアップだ。2023年にはOrbray(オーブレー)と、縦型ダイヤモンドパワー半導体の自動車への適用に向けた共同研究を開始。2033年の実用化を目指している。
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2050年カーボンニュートラルの実現といった目標もあり、ダイヤモンド半導体を含む次世代パワー半導体の需要は年々増えるだろう。日本は世界で初めてダイヤモンド半導体のパワー回路の開発に成功した国であり、商機は十分といえる。現時点でダイヤモンド半導体の市場規模はそれほど大きくないが、今後10年単位で大小問わずさまざまな会社が新規参入してくることが予想される。
最新の半導体市場はもちろん、半導体に関連する電気自動車や宇宙産業、AIなど関連業種への情報収集をこまめに行い、業界の動向や自社の事業戦略を見定めていくことが重要だ。