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地球温暖化、温室効果ガス、カーボンニュートラルと共によく耳にするのが「脱炭素」だ。環境保全のための取り組みという漠然としたイメージは把握できるものの、具体的にどのような活動なのかいまいち実態をつかめていない人も多いのではないだろうか。
改めて脱炭素の意味や定義、混同しやすいカーボンニュートラルとの違い、脱炭素に向けた取り組みなどについて解説する。
脱炭素社会の実現の一手として注目される、次世代エネルギーをわかりやすく資料にまとめました!
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目次
脱炭素とは、温室効果ガス、主に二酸化炭素の排出量をゼロにする取り組みを指す。脱炭素が実現された状態を「脱炭素社会」という。温室効果ガスは、大気中に含まれるガスの総称で、代表的なものに二酸化炭素やメタン、一酸化二窒素などがある。
脱炭素とカーボンニュートラルを混同して用いられているケースが多々見受けられる。これら2つの概念は定義が確立されているわけではないが、それぞれ異なる意味合いをもつ。
脱炭素は温室効果ガス、主に二酸化炭素の排出量をゼロにする取り組みであるのに対し、カーボンニュートラルは、温室効果ガス、主に二酸化炭素の排出量を実質ゼロにすることを指す。実質ゼロとは、二酸化炭素の排出をゼロにするのではなく、排出量を森林などによる二酸化炭素の吸収による削減でプラスマイナスをゼロにすることをいう。
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環境問題に対する意識の高まりから、さまざまなトピックや概念が各記事や各ニュースで用いられるようになった。ここでは、脱炭素と合わせて使用される関連用語を解説する。
GXとは、グリーントランスフォーメーションの略で、化石燃料から脱却して太陽光発電や風力発電、地熱発電など、再生可能エネルギーへの転換を果たし、社会システムそのものを変革する取り組みのことを指す。
ゼロカーボンは、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量と吸収量をイコールにすること。カーボンニュートラルと同じ意味をもつ。カーボンゼロともいわれる。
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そもそも、脱炭素化はなぜ必要なのだろうか。改めて化石燃料から脱却する背景や、温室効果ガスを削減しなければいけない理由について解説しよう。
脱炭素化が必要な理由の1つが化石燃料の枯渇だ。石油、天然ガス、石炭、ウランの4つでそれぞれ現状をみていく。
2020年末時点で世界の石油埋蔵量は1兆7,324億バレルで、可採年数は53.5年と推定されている。近年は在来型石油だけではなく、アメリカのシェールオイル、ベネズエラやカナダではオリノコタール(超重質油)なども確認されており可採年数は伸長傾向だ。
なお、ベネズエラは2020年に石油大国であるサウジアラビアを抜いて埋蔵量で世界一になっている。オリノコタール(超重質油)は粘度が高いことから一般利用が難しいが、近年はプラント技術の向上によって、少しずつ利用可能な形へ転換されている動きがみられる。
2020年末時点で天然ガスの世界埋蔵量は約188.1兆m3で、可採年数は48.8年と推定されている。約40.3%と中東が大半を占めているが、近年はシェールガスや炭層メタンガスなどの開発が進み、石油と同じく可採年数は伸び続ける見込みだ。
特にシェールガスは確認されているだけで、北米だけでなくアルゼンチン、アルジェリア、中国などにも資源が存在するといわれている。
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2020年末時点で石炭の世界埋蔵量は10,741億トンで可採年数は139年と推定されている。石油や天然ガスと比較すると可採年数は長い。石炭はCO2を多く排出するため、より環境負荷が低いエネルギー資源や再生可能エネルギーへ代替されつつある。
しかしながら、近年は水分や不純物が多い「褐炭」と呼ばれる石炭から水素を製造する研究開発が進んでおり、これがうまくいけば次世代エネルギーとしての活路もみえてくるだろう。
ウランは、石炭や石油などと比べて発電時にCO2を排出しないため、環境負荷の観点から再生可能エネルギーに次いで優れた発電方法だ。そのため世界的にみても原子力発電設備の数は増加傾向にある。現状でウランの可採年数はおよそ70年と推定されている。原子力発電に関しても、ウランに変わる燃料として、トリウムや、ウランとプルトニウムの混合酸化物であるMOX(モックス)燃料などの実用化に向けた開発が進んでおり、他の化石燃料と同様に可採年数は伸びている傾向にある。
脱炭素化に舵を切るもう1つの理由が平均気温の上昇だ。2021年度のIPCC第6次評価報告書によれば、世界の平均気温は産業革命前後(1850〜1900年)と比べると、2011年から2020年のわずか10年間で1.09度も上昇している。
特に最近30年の各10年間の世界平均気温は、1850年以降のどの10年間よりも高温となっていると報告されている。また、温室効果ガスを削減しないと、2080年ごろには最大で5.7度上昇すると推測されている。
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現在の脱炭素の取り組みを解説する前に、これまでの世界の脱炭素実現に向けた動向について、その歴史を振り返ってみたい。
脱炭素などを含む地球環境に関する会議が初めて行われたのは、1972年に国際連合がストックホルムで開催した「国連人間環境会議」だ。この会議には、110ヵ国以上の国々が参加。
その後、1997年12月には地球温暖化への対策を含んだ世界初の国際条約「京都議定書」が採択された。同条約内では、2008年から2012年の間に先進国全体で温室効果ガスの排出量を1990年比で少なくとも5%減らすことを目標に掲げている。
京都議定書は、その後2013年から2020年までの「第2約束期間」を設ける形で延長し、途上国なども合流した。京都議定書を通して、世界全体で温室効果ガスの削減に取り組んだものの、あまり芳しい成果はでなかったとされている。そこで、京都議定書の後継として定められたのが「パリ協定」だ。
2015年の国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で採択された「パリ協定」は、2020年以降の気候変動に関する国際的な枠組みである。京都議定書と大きく異なる点は、発効条件に下記2点が加えられたことだ。
京都議定書は、先進国中心であったのに対し、パリ協定は協定に同意したすべての国が削減目標の対象となった。
京都議定書とパリ協定の明確な違いは、低炭素社会から脱炭素社会への移行だ。京都議定書が掲げていた目標は排出量の削減であったのに対し、パリ協定ではカーボンニュートラル実現に向けた長期目標を掲げている。
なお、2021年11月時点で日本を含む154ヵ国・1地域が2050年を目標にカーボンニュートラルの実現を表明している。
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ここからは、日本と主要国における脱炭素に向けて掲げる目標や動向を解説する。
2020年11月にパリ協定から一時離脱したが、バイデン大統領に政権が移ってから2021年2月正式に復帰。2035年までに発電部門における温室効果ガス排出をゼロに、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目指す。また、2030年までに洋上風力発電によるエネルギー供給を増やし、国土と海洋の30%ほどをカバーすることなどを目標に掲げている。
EUは2030年までに1990年比で少なくとも温室効果ガスを55%減、2050年にカーボンニュートラルを実現させる目標を掲げている。2021年7月には、欧州理事会が「欧州気候法案」を採択。この法案は、2030年と2050年の温室効果ガス削減目標に対して法的拘束力をもつものとなった。
2022年2月に勃発したウクライナ侵攻を契機に、EUは再生可能エネルギーへの転換、脱ロシアの動きを加速せざるを得ない状況となっている。というのも、EUは天然ガスなどのエネルギー供給を長年ロシアに依存してきたからだ。実際に侵攻前の2020年のデータでは、ロシアの天然ガスの輸出先の70%以上がEUであり、特にドイツは16%と依存度が高い。全て再生可能エネルギーへ転換するのは現実的に難しく、まずはアメリカからシェールガスを輸入し、段階的に再生可能エネルギーへ切り替えていくことが予想される。
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2017年時点でCO2の排出量は世界全体の28.2%を占め、世界最大のCO2排出国である。2020年9月に開かれた国連総会で2060年までにカーボンニュートラルを実現することを表明した。2021年10月には国務院が「2030年までのカーボンピークアウト行動計画」を公表。段階的に石炭の消費を減らし、風力発電所や太陽光発電所の建設を加速することを宣言している。
2020年10月、菅内閣総理大臣の所信表明演説で、2050年までにカーボンニュートラル、脱炭素社会を目指すことを宣言。また、2030年までに温室効果ガスの排出量を2013年度比で46%減にすることを目標に掲げている。具体的な政策としては、太陽光・地熱、アンモニアなど、成長が期待される重点分野のイノベーション創出・産業構造の転換を後押しする「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定。
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ここまで、脱炭素の概説、脱炭素化に至るまでの歴史、各国の動向について解説してきた。次章では、脱炭素に向けた具体的な取り組みを解説する。
脱炭素に向けた代表的な取り組みの1つが、再生可能エネルギーへの転換と普及だ。具体的には、太陽光発電、風力発電、地熱発電、バイオマス発電などが挙げられる。これらの最大のメリットは枯渇リスクがないこと、そして温室効果ガスの排出量が極めて少ないことだ。ただし、電力供給が不安定なことや、発電コストがかかるといったデメリットもあり、なかなか普及が進まないのが現状である。
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自動車は主に石油などの化石燃料が使用されている。電気自動車は動力源が電気であり、走行時に二酸化炭素を排出しないことから、世界的に製造・普及が進んでいる。しかし、製造や廃棄のプロセスでは二酸化炭素が排出されるため、現在、製造・生産から消費、廃棄、リサイクルといったライフサイクル全体で、二酸化炭素が排出されない電気自動車(EV)の開発が進行中だ。
どのような商品においても、製造過程だけでなく廃棄過程でもCO2が排出されてしまう。そこで注目されているのが資源の有効活用だ。例えば、廃食用油の燃料を石けん原料へ利活用する事例や、使用済みプラスチックをアパレルの生地として活用する事例などが挙げられる。技術が進歩すれば、なるべく資源を廃棄せずに有効活用する動きが社会全体で広がっていくだろう。
主に脱炭素の取り組みとしては、大きく排出量の削減と植林などによる吸収量の増加の2つの方法が知られているが、そのほかに回収・貯留という方法がある。「CCS/CCUS」と呼ばれており、温室効果ガスを削減する方法として注目されているのだ。発電所や工場から回収・貯留したCO2を、化学製品やコンクリートの製造や天然ガスの代替燃料となるメタンガスの生成など、さまざまな用途に役立てることが可能となる。
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しかしながら、脱炭素社会を実現するには、さまざまな課題や問題点をクリアしていかなければいけない。
太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーの開発や普及は進んでいるものの、2022年度における年間発電電力量を占める割合は24%程度と、化石燃料に頼らざるを得ないのが実情だ。
事実、日本では石油・石炭・天然ガスなど化石燃料に大きく依存している。東日本大震災以降、化石燃料への依存度はさらに高まっており、2021年度は83.2%となっている。
化石燃料は、CO2の排出量が少ない代替燃料への転換、採掘技術の向上によって可採年数は伸長しつつある。しかしながら2023年7月時点で世界人口は80億4500万人で、現状のペースでいけば2058年頃には100億人に達すると想定され、燃料資源の供給が追いつかなくなることが懸念されている。
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最もCO2排出量が多いのが産業部門と運輸部門だ。2021年度の調査によれば、産業部門が日本全体の排出量の35.1%(3億7,300万トン)を占め、運輸部門が17.4%(1億8,500万トン)を占めており、2つの部門だけで約半数の計算となる。なお、家庭部門は1億5,600万トンで14.7%だ。つまり、産業部門と運輸部門のCO2排出量の削減が急務なわけだが、製造から運輸、販売、廃棄までのバリューチェーン全体で実現させることが必要になるため、一筋縄ではいかない。
日本は2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言した。今後は、各業界、各企業に対して、さらに厳しい温室効果ガスの排出量削減における規制がかかることも予想される。今のうちから最新トレンドをキャッチし、原料調達から製造、廃棄といったバリューチェーン全体で、柔軟に脱炭素に向けて対応できるようにしておくことが肝要といえるだろう。
参考記事
・経済産業省 資源エネルギー庁「令和3年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2022)」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2022/
・経済産業省 資源エネルギー庁「利用されず眠る石炭が、次世代エネルギー・水素の材料に!」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/kattansuiso.html
・経済産業省 資源エネルギー庁「今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/ondankashoene/pariskyotei.html
・経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」
https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/ggs/index.html
・環境省「2021年度(令和3年度)温室効果ガス排出量(確報値)について」
https://www.env.go.jp/content/000150033.pdf