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【イベントレポート】元AGC神庭氏に聞く、生成AI時代の新規用途の創出プロセスとは?

【イベントレポート】元AGC神庭氏に聞く、生成AI時代の新規用途の創出プロセスとは?

生成AI時代において、製造業における新規用途の創出プロセスはどのように変わっていくのだろうか。どのように生成AIを活用していくのが良いのだろうか。そしてこれからも変わらないことは何であろうか。

今回のセミナーでは、MOTコンサルティング株式会社代表取締役の神庭氏をお招きし、同氏のご経験から生成AI時代の「新規用途の創出プロセス」についてお話を伺った。神庭氏はAGC株式会社で材料開発をはじめ、情報システムセンター長や知的財産部長を歴任。2023年に退職後、MOTコンサルティング株式会社を設立し、技術経営や技術を起点にした新規事業や新製品開発に向けたコンサルティングを通じて、多数の支援をされている。

※本記事は、ストックマーク株式会社が2024年4月25日に開催したオンラインセミナー、『元AGC 神庭氏に聞く 生成AI時代の用途開発とは?』の内容を中心にまとめたものです。


【登壇者】

神庭 基氏

MOTコンサルティング株式会社

代表取締役

1982年に旭硝子株式会社(現AGC株式会社)に入社し、中央研究所でフッ素化学を研究。その後、化学品カンパニーにて新規事業や研究開発の推進を行う。開発部の企画グループと新規事業推進部でリーダーとして業務を推進。2009年から情報システムセンターのセンター長を務め、「攻めのIT部門」の構築に尽力。2016年より知的財産部で部長を歴任し、「シェアードサービスから戦略部門」への変革を実現。2019年より技術本部企画部にて「データ駆動型研究開発」を推進され、現在はMOTコンサルティング株式会社を設立し、研究開発テーマの創発活動の支援等を行っている。


 新事業領域における用途の創出プロセスの基本的な考え方

 まずは「言語化」が重要

社内に可能性のある技術シーズがある。それをうまく活用して市場ニーズと掛け合わせ、新事業領域や新製品開発に乗り出そうとするとき、どのように進めていけば良いのだろうか。神庭氏は自社技術の特徴を「言語化」することが重要だと語る。具体的には自社技術が提供できる価値を「言語化」し、再認識することだ。

ここで重要なのは、アイデア出しや初期仮説の段階で「言語化」の対象とする技術は、自社の強みと”思われる”技術や製品からで良いということだ。市場を形成している、もしくは売上を上げている製品やサービスを自社の強みと考えれば良いし、あるいは自分が「やってみたい」と強く思えるところから始めれば良いのだ。初期の仮説としてはそれくらいの粒度で十分であるし、コア技術とは?を考えすぎてアイデアや仮説が出てこないことのほうが問題になるのだ。

また、このような「言語化」はチームメンバーと協働するうえでもやっておくほうが良い。互いに同じ認識を持っていると考えていても、言語化してみると少しずつ違っていたり、自分で気づいていなかったことを他のメンバーが考えていることも多いからだ。そもそも出発点である自社や自部門の方針ですら、言葉にしてみるとメンバー同士で解釈にズレがあったり、知っているようでよく知らなかったりすることがある。こういったことを避けるためにも、ぜひおすすめしたいと神庭氏は力説する。

 アイデアや初期仮説を生み出すための重要なステップ

アイデア出しや初期仮説を考えるうえでは、以下のようなフローに従って検討することで再現性を持たせることができる。

未来志向型新規開発テーマ創出プロセス

ここまで触れてきた「自社・自部門の方針、自身の想い」や「自社の得意な技術を機能で表現」、すなわち「提供できる価値」を言語化して再認識することがまず初めにやるべきことだ。次に言語化した「提供できる価値」から解決可能な課題を妄想し、解決したい課題を解決策に分解する、といった流れで進めることによって、技術シーズを市場ニーズと掛け合わせるアイデアが絞り出されてくるのだ。

解決策を分解することができれば、それを組み合わせて新しい技術や製品を考えることができる。これはヨーゼフ・シュンペーターのいう新結合であり、この作業を進めていく中で、自社や他社が持っている解決策、あるいはこれまで過去にやってきたことを調べていく必要がある。

これらの一連の流れの中で生成AIを活用できるポイントは多々あると神庭氏は考えているとのこと。たとえば、「自社技術が提供できる価値を再認識する」という点であれば、生成AIに問いかけることによって、あらゆる情報から提供価値を言語化するための助けとなる可能性がある。解決策を探すことも同様に、生成AIの活用で社内外の情報から過去の事例を自動的にまとめてくれるだろう。このような形でいくらでも活用の道筋はあるとのことだ。

一方で、人間が問いかけるということは変わらない。そのため、「言語化」をするということは常に人間側の役目でもある。解決したい課題があっても、まずは自分が理解をして「こんな感じですよね?」と問いかけられなければ、生成AIは「そうです」とも「それは違います」とも返せないのである。

 実行に移すために必要なこととは?情報分析によるアイデアのブラッシュアップ

ここまではアイデアや初期仮説を絞り出すフェーズであった。アイデアや初期仮説をある程度絞り出したら、今後は集めた情報を分析したうえで、ふくらませたアイデアを取捨選択し、筋の良いものに絞っていったり、再考したりする必要がある。

未来志向型新規開発テーマを実行に移せるプロセス

この際にもAIにはアシスタントとしての大きな働きを期待することができる。活用の例として神庭氏が挙げたのは「未来新聞」の作成である。自身がいま考えているテーマについて、もし「10年後にうまくいって新聞に発表するとしたらどのような記事になるかを考えてみる」というもので、ここでも生成AIが大活躍する。

生成AIに「インパクトがあるように書いて」、「一般消費者に広く受け入れられるように書いて」などの問いかけを行うと、自身に気づきをもたらすような内容が生成されるのだ。さらに、「インパクトのある新聞記事を書くときには何を聞けば良いか」など、“聞き方”もAIに尋ねることができる。生成AIが登場したころには「どのように伝えるのか」に多くの人が難しさを感じていたが、いまでは聞き方自体を生成AIに作ってもらうことが普通になっているのだ。また、自分が発想した製品のイメージ像を画像生成AIに作らせることも可能である。

こうしてAIが導き出した新聞やイメージが自分のイメージと違っていたら、そこからさらにアイデアや初期仮説のブラッシュアップへとつなげることができる。

 生成AIを”使いこなす”ためにどのように向き合うべきか

神庭氏のフローチャートを「業務課題の認知から解決」までの抽象的なプロセスとして見たとき、その過程にある情報収集・分析のいくつものプロセスは生成AIが自動的にほぼ実現できるようになってきている。

ここで人間に求められる非常に重要なことは、「良い問いを発想できるかどうか」と「生成AIが導き出したものをきちんと評価できるか」ということである。これらの過程で生成AIの活用を進めることで、業務の効率性を高めることができるだろう。一方で、「良い問い」と「返ってくる答え」に対する判断はまだ人間に委ねられる。

情報収集や情報分析の経験がないとどうしても上記のような観点は弱くなりがちだ。生成AIがなかった時代に情報収集や情報分析の経験を積み重ねてきた方が、改めて生成AIを活用することでこれまで以上の成果が出せるだろう。一方で、そういった経験に乏しい方が生成AIを活用する場合、経験が豊かな場合と比べ有効性に大きな差が出てくる懸念がある。

「生成AIと共創できるナレッジワーカーを会社の中で育成する必要性が高まっているし、生成AIに頼りすぎた結果としてうまく使いこなせなくなる、生成AIに使いこなされてしまうという危機感は大いにあるだろう」と神庭氏は語る。

 対話、そして認識合わせの重要性

 人間関係の調整はアイデア出し以上に重要で、そして難しい

実は「対話」や「認識合わせ」は新事業領域に乗り出す際の重要なポイントである。大手企業の場合、いかにして良いアイデアを出していくかということ以上に、いかにして社内の協力関係を作るかがネックとなることもある。

「アイデア出し」の段階では、チーム内で議論を深めて何かしらの答えを出そうというフェーズではない。一方で、この段階ではお互いが「こんなことを思いついた」、「こんな視点があるのではないか」といったことを気兼ねなく言い合える雰囲気を作り、”対話”をする中でより良い協力関係を築き、発想を広げることが重要だ。

そして、実際にアイデアを実現させていく中では、「それは新規事業なのか?」「われわれがやることなのか?」という点で認識が合っていないために、意気揚々と新規事業テーマを掲げても、話が進まないということが多くの企業で起こりがちだ。既存事業とのカニバリゼーションへの懸念、稟議を通すための社内説得など、すり合わせが必要と考えられる要因は他にも数多く存在する。業務プロセスは生成AIに支援を頼むことはできても、”対話”や”認識合わせ”は人間がやらなければならず、認識を合わせながら焦点を絞っていくことは新規用途創出の成功に向けては必要不可欠であると神庭氏は説明する。

 「トップは輪に入れ」

仮に、生成AIが良いアイデアを簡単に出してくれるようになり、あらゆる業務プロセスを支援してくれたとしても、メンバー同士の認識の違いによる衝突やすれ違いは必ず起こると神庭氏は述べる。この先、どのようなAIが登場しようとも、プロジェクトを成功させるために、組織の中で一緒に協働してくれる仲間づくりは重要なのだ。その中で、最も重要視されているのはトップマネジメントの関わり方だという。

「トップマネジメントに携わる人間は、こういった人と人とのつながり、人の輪に入っていくことが必要だと思います。15分のプレゼンテーションを聞いて、判断する人間がトップなのではなく、その過程に入って一緒に考えていくことができる人間が、新事業領域の中で新規事業や新製品開発を成功に導くことができるトップとして必要です。会社そのものの風土をそのように変えていくことが必要ですね」と神庭氏は語る。

用途開発、すなわち新事業領域での新規事業や新製品開発においては、なんでもない”くだらない話”から新しいアイデアが生まれることもある。新型コロナウイルス感染症の影響で働き方が変わり、リモートワークが前提となる中で、対面でのコミュニケーション機会は減っている。

そういった中で、オフィシャルな業務の場ではないメンバー同士の交流の機会をうまく作り、”対話”をするための余白が必要なのだ。そして、メンバーが創発的に対話ができる場を作るということは、トップとして重要な仕事のひとつであり、神庭氏も多くの企業を支援する中で、トップがメンバーの心理的安全性を示すことを促すことを大事にしているという。

 “対話”のできる風土づくりとは

神庭氏がAGC株式会社の研究員になったころは、既存製品の機能に改良を加えれば売れる時代だったという。だが現在は、既存事業に加えて新しい事業も立ち上げていく、いわゆる両利きの経営が求められている。円安が進み利幅も若干伸びている現在の状況をチャンスと見て、次の成長を促す事業をいまのうちに作っておくことも非常に重要だ。こういった現状から両利きの経営は、社の風土づくり、風土変革を促すうえでの“刺さる”キーワードになるかもしれない。

さらに、新事業創出のプロセス自体はこれまでと変わらなくても、一つひとつのフェーズに役立てられるAIがあるため、それらをフル活用していくことを提案していくのも良い。こういった実務的部分から始めていくことで、会社の風土も少しずつよくなっていくのではないか。

また、特にZ世代に対しては、先入観を持たずにオープンマインドでフラットに話を聞くスタンスが非常に大事だろう。自分の価値観で判断をせずに、彼らの感じていること、彼らが言語化していることをそのまま受け止め、純粋に楽しむことである。

 生成AI時代の新規用途の創出の未来 – 人間が考える部分の価値はますます高まる

生成AIは人間のインスピレーションを代替できるようになるのか。それとも少し違う形での思考の飛躍が期待できるのだろうか。この疑問に対して、神庭氏はこう答える。

「人間の発想もインプットの集積で、自身で得た情報や経験の積み重ねだと思います。さらに技術が発達して情報が増えていけば、生成AIはもっと良い回答をするかもしれません。でも、生成AIがすべての回答を決定してしまっては、人間の仕事が面白くなくなってしまうでしょう」。

情報収集や情報分析の過程をAIがカバーできるようになっているとはいえ、最後にそれらを評価し、意思決定をするときには、人間の意志を込められるかどうかがある。そこにはやはり、「自分で何かを考えたい」「新しい何かを生み出したい」という人の欲があるのではないだろうか。この先、生成AIを活用し新規用途の開発が目覚ましい進歩を遂げるだろうが、最後の「人間が決める」部分の比重はますます高まるかもしれない。

 まとめ

神庭氏が提唱する、新規用途の創出プロセスを進めるためのフローに見られるような新事業創出のプロセスは、生成AIが発達する以前にも多くの企業で同じようなものが活用されていたはずだ。このプロセス自体が生成AIの登場によって大きく変わることはないだろう。

むしろ、生成AIと共創することによって、これらのプロセスがスムーズに、そしてより深く進んでいくことが期待されているだろう。そのときに、”人との対話”や”生成AIとの対話”、対話を可能にするための「言語化」が重要になってくるというのが神庭氏の一貫した考え方であった。

生成AIは使えば使うほど、組織の中の関心事やあらゆる社内外の情報を蓄積することができ、導入するのであれば早いほうが良いだろう。生成AIを活用するためにも、早い段階でデータを蓄積し、学習を進めることで、そうではない会社や部門とは大きな差が生まれてくる。同じような新事業領域での新規事業や新製品開発に取り組んでも、出来上がったものは雲泥の差となる。先手を打って生成AIの活用に慣れておけば、他社に先んじて多くの施策を実行に移すことも期待できるのではないだろうか。

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