2024年以降の半導体市場の見通しは?需要や各国の動向について
製造業
世界情勢の大きな変動が続く中、半導体業界もその影響を受けているひとつだ。半導体業界は、デジタル社会の発展に伴いその需要を大きく伸ばした産業であり、もはや現代社会で欠かせないものとなっている。今回は半導体業界について、業界の概要や構造、今後どのような変化をしていくのかについて解説する。
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目次
半導体とは、金属のように電気を通す「導体」と、ガラスやゴムといった電気を通さない「絶縁体」の中間の電気伝導率を持つ物質をいう。物質や材料を「半導体」というが、慣用的に半導体を用いた集積回路なども半導体と呼ばれる。半導体にはシリコン(ケイ素)が最もよく用いられる。シリコンは、地球上で酸素の次に多い元素であり、さまざまな自然物の中に含まれている。半導体に一定の別の元素などを含ませることで、電気を通すことができ、この性質を利用することで電子制御に役立てられているのだ。
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半導体と一般的に呼ばれる集積回路などの電子部品は、製造にさまざまな技術が必要となり、合計1,000以上の工程が必要とされる。半導体の業界では、「半導体材料メーカー」「半導体製造メーカー」「半導体製造装置メーカー」「半導体商社」の4つの企業群が存在する。そして、これらの企業群はそれぞれがそれぞれに対し、密接に関連し合っているのが半導体業界の特徴だ。
半導体材料メーカーは、半導体の材料となるウェーハや原板、組立時のチップを固定するための材料など、半導体の製造工程で必要になる材料を提供する企業だ。半導体の高性能化のためには高性能な半導体材料が欠かせないため、半導体製造サプライチェーンにおいて重要な役割を持つといえる。半導体材料メーカーは、それぞれの半導体材料に特化した高い専門性を持つ企業が多く存在する。高度で繊細な技術力が求められる中、日本企業が強みを見せており、たとえばシリコンウェーハでは、2021年度世界シェアにおいて、日本国内企業の信越科学、SUMCOが1位、2位となっている。また、主要半導体部素材においても日本企業が世界シェアの半数を占めており、圧倒的なシェアを有している。
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半導体製造メーカーは、半導体そのものを製造する企業のことをいい、半導体材料メーカーからシリコンウェーハを買って製造を行う。半導体業界において、半導体製造メーカーは半導体製造のメイン部分といえるだろう。半導体製造メーカーは、大別して4種類あり、それぞれ「IDM」「ファブレス」「ファウンドリ」「OSAT」となる。自社で企画から設計、実際の製造、販売までを一貫して行うのか、水平分業型のビジネスモデルなのかどうかで分類される。近年は一貫して企画から販売を行うIDMメーカーが減り、水平分業型のモデルが主流となっている。
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半導体製造装置メーカーは、半導体を製造するために必要な装置を製造する企業のこと。半導体は製造工程が多く、マイクロメートルやナノメートルという非常に小さい範囲での作業となるため、各半導体製造工程で専門的な装置が必要となり、その装置の製造においても特別な技術を持った企業が多い。例として、シリコンウェーハの洗浄、そのほか、転写されたパターンに合わせて薄膜を削るエッチングという工程に長けた企業などだ。一方で、特定の工程の段階を全般的に対応できる企業もある。
半導体部材料の製造と同じく、装置の製造には極めて高いクリーン度と、高度かつ繊細な技術が求められる。日本企業は、トップの米国に次いで多くのシェアを獲得しており、その割合は約3割に上る。
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半導体商社は、半導体を製造するメーカーと電子機器や産業機械といった半導体を必要とするメーカーをつなぐ企業だ。半導体商社は、半導体を製造メーカーから仕入れ、単純に販売、納品するだけではなく、半導体の開発サポートを行なったり、独自で企画して製品開発を行ったりする企業もある。また、取引先のメーカー同士の交渉を円滑にして、流通をスムーズにする役割も担う。
さまざまな業界知識やノウハウをもとにして、カスタマイズの要望などを取りまとめる。半導体商社は、エレクトロニクス専門商社と呼ばれることがある。
半導体はデジタル化の進む現代において欠かせないものとなっており、その需要は日々高まっている。ここでは特にニーズの高まっている分野についてご紹介する。
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産業用ロボットは、自動車製造の産業において広く発展してきた。現在、産業用ロボットは、溶接や組み立て、塗装といった自動車製造だけでなく、半導体の製造や電気、電子デバイス産業でも活用されている。
産業用ロボットは、半導体を搭載することによって、より高性能な動きをすることができる。たとえば、状況に合わせて適切な動作を迅速に行うことや、正確で効率よく製造を行うことなどだ。人の手がいらないため、人件費を削減できることに加え、安全を確保できる点も、産業用ロボットが製造業界で重宝される理由である。さらに、産業用ロボットに通信機能が搭載されネットワーク化することで、業務効率化が促進される。
車載半導体は、自動車の動きを制御するために搭載されている半導体のことだ。その種類には、マイコンやパワー半導体、プロセッサーやセンサーなどがある。自動車には、車種などにより異なるが、10から100程度の車載半導体が必要とされており、技術の進化に伴いその必要数は増加傾向にある。特に自動運転機能付きの自動車は、電力の制御や変換を行うパワー半導体が中核的な存在となっており、車載半導体が必要不可欠な要素となっている。
近い将来、半導体技術の発展で完全な運転自動化が可能になると予測されており、自動車産業はこれまで以上に半導体に頼ることになり、さらなる革新が期待されている。
半導体は医療現場においても活用されている。微量のサンプルを計測するときなどに、MEMS(メムス)などの高機能な半導体技術が活用されており、カプセル型の内視鏡などの医療用電子機器にも半導体が搭載されている。さらに、遠隔医療においても半導体が搭載された電子機器が利用されている。例えば、遠隔で手術を行うロボットや集中治療室の遠隔管理などが挙げられる。
遠隔医療は、米国や中国などで特に発展しており、地域間の医療サービス格差の解消や予防医療の具体策として期待されている。日本も、遠隔医療の発展が望まれており、その進展に伴って半導体の需要は拡大することが予想できる。半導体技術の進歩は、医療現場においても新たな可能性を切り拓くとともに、より効率的な医療サービスの提供に寄与している。
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人工知能であるAIは、近年、限定領域に特化して学習を深める「特化型AI」、いわゆるディープラーニングの研究が盛んに行われている。ディープラーニングは深層学習とも呼ばれ、より複雑な思考や判断が可能になりつつある。AIの技術の進展により、より人に近い知覚活動を再現することができるようになっており、コンピューターサイエンスの分野だけでなく、医学や製造、産業など、幅広い業界や分野で活用されている。
半導体はデータセンターなどでAIを動かす際に必要とされる重要な要素であり、生成AIのブームに伴い、大幅に需要が拡大している状況だ。生成AIの例としては、ChatGPTや画像生成AIが挙げられる。
5Gは次世代の無線技術として知られており、データ転送速度の高速化、データ送受信の時間短縮、超低遅延、多数同時接続など、これまでの無線技術をさらに向上させた技術である。5Gの普及によって、日常生活での通信がさらに便利になり、さまざまなメリットが享受できるだろう。たとえば、通信量が膨大なIoTデバイスと電子機器間の連携が、5Gの利用によってシームレスに行えるようになる。
5Gを利用して通信を行うには、信号の変換のためのモデム、各種プログラム実行を担うプロセッサ、そしてデータを記憶するメモリが必要だ。そのいずれにも半導体が欠かせない役割を担っている。半導体技術の進歩が5Gの普及と発展に重要な要因となっており、無線通信の未来をさらに進化させることが期待されている。
半導体はデジタル化の進展に伴い市場が拡大した。特に、2015年以降の半導体需要の増加は世界的にも顕著であった。現在の半導体業界では、上記で取り上げた「産業用ロボット」や「車載半導体」、「遠隔医療」、「AI(ディープラーニング)」「5G」のほか、「仮想空間技術」なども、半導体業界に大きな影響を与える新技術として期待されている。つまり、半導体の開発で技術革新が起これば、それぞれの期待されている分野の発展に大きな影響を与えることになる。
半導体業界の市場予測としては、米国の市場調査会社Gartnerによると、2023年の世界の半導体売上高自体は前年比3.6%減だと予測されている。これには世界経済そのものの悪化と、ウクライナ危機などの社会情勢の影響が大きい。しかし、依然として旺盛な半導体の需要があることには変わりはなく、特にエンタープライズ向けの市場においては自動車分野などでの需要が継続している。今後も半導体業界は長期的に見て伸びると予測できる。
半導体業界は成長と拡大を続け流通量も増え、2021年には世界の半導体出荷額は約9兆5,000億円規模となっている。しかし、半導体業界には以下のような課題を抱えている。
半導体不足の傾向は2020年の秋ごろから続いているが、背景に新型コロナ感染症の流行がある。2021年は感染拡大に伴い、テレワークの浸透などの影響でノートパソコンといった一般消費者向けの需要が大幅に伸長し、これらの需要に追いつく形で半導体の需要が急増し、特需が発生した。しかし、半導体の製造には時間がかかるため、需要が拡大しても即座に供給を増やすことが難しく、供給不足が発生した。
また、米中の対立によってアメリカ政府が中国企業に経済制裁を科し、半導体の調達先に制限がかかったことも半導体不足の原因として挙げられる。
半導体の需要は、2019年と比べて2021年は20%増加しているが、供給能力は8%の増加にとどまっており、需要に追いついていない状況だ。ファウンドリの稼働率も95%を維持しており、すでに生産能力の限界に達しているといえる。今後の喫緊の課題としては、ファウンドリを中心に生産能力を増強していくことが必要とされている。
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次に、半導体に関わる人材の不足も、半導体業界の大きな課題のひとつとして挙げられる。半導体業界は長年にわたり慢性的な人手不足に悩まされており、特に技術者が足りないとされている。常に人材のニーズがある状態ではあるが、人が集まりにくく定着もしづらいという課題がある。
工業統計調査によると、1999年に約23万人いた半導体の人材が、2020年には約17万人となっており、5万人も減少している。しかし、拡大の一途を辿る半導体業界では、主要8社のみであっても、今後10年間で少なくとも4万人程度の人材が必要になるとの試算があり、人手不足が加速する見込みだ。もはや、日本国内の技術者だけでは対応が難しく、海外人材の呼び込みが今後必要不可欠な状態となっている。半導体産業の発展において、人材確保が重要な課題となっており、適切な対策が求められている。
日本の半導体業界の国際的な市場における競争力の低下は大きな課題として挙げられる。かつて1980年代には日本が半導体世界シェアの50%を占めており、国際的な競争力が強かった時期もあった。しかし、1990年以降、日本のシェアは低下し続け、2019年時点ではついに10%まで落ち込んでいる。
国際競争力低下の背景には、日米貿易の摩擦や、韓国、台湾といった他国の価格攻勢などの外的要因がある。一方で、日本国内の問題として、バブル崩壊やデジタル産業化の遅れ、研究開発体制の不備などが挙げられ、競争力低下には多様な要因が重なっているといえる。特に、日本企業の分散型資金投入や技術実用化への対応の遅れ、技術シーズを付加価値へ結びつけることの難しさなど、日本企業の姿勢や見通しの甘さが技術発展の遅れにつながったと考えられる。これからの企業のあり方や方針が今後の競争力に大きな影響を及ぼすことは確かである。日本の半導体業界が再び国際的な競争力を取り戻すためには、さまざまな改革や投資が必要とされるだろう。
半導体業界では、今後技術発展を進めると同時に、国際的な競争力を向上させる必要がある。そのためには、世界的な環境の変化を再評価し、世界を視野に入れた経営転換が求められる。また、研究開発への注力を行い、次世代の半導体や材料、製造技術の実用化のための技術開発を進める必要がある。
技術開発にはスピードと新規性が重要であり、これらが競争力を高める要素となる。効率的な研究開発を進めるために、自社の強みを最大限に活かしつつ、利益率の向上を実現していく必要がある。
半導体業界は国際化とデジタル化により変化するスピードが加速しており、従来の技術探究のスタンスだけでは対応が難しくなっている。高い競争力を得て維持するためには、広範囲で多角的な情報収集を継続し、さまざまな情報をもとに事業化や製造化を視野に入れ、日々の研究に落とし込んでいくことが重要だ。柔軟な姿勢で変化に対応し、持続的な技術革新を進めることが、半導体業界の競争力向上につながるだろう。
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トランジスタの発明から始まった半導体業界は、高性能化が進むごとに人々の生活にとって不可欠な存在となった。今後も半導体の進化は継続し、ますます活躍する場面が増えることだろう。この半導体産業の拡大は、元来ものづくり産業に強みを持つ日本にとって好機といえる。
現在、競争が激化しつつある半導体業界では、落ち込みつつある産業の巻き返しを図るためにも、より一層利益率と競争力を向上させる必要がある。そのためには研究開発への注力と効率化が重要課題となる。迅速な技術革新と新規性の確保、自社の強みを最大限に活かすことが、競争激化の中で成功する鍵となるだろう。
日本の半導体産業がこれからも成長し続けるためには、積極的な研究開発への取り組みと効率化、そしてグローバルな視野での展望が不可欠だ。半導体産業がより一層の発展を遂げることで、日本の産業全体に活気を与え、競争力を高めていくことが期待される。
参考資料
・経済産業省「半導体・デジタル産業戦略(改定案)」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/joho/conference/semicon_digital/0009/4hontai.pdf