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第五次産業革命を担うバイオエコノミーとは?AI技術×バイオによって生まれた新たな市場

第五次産業革命を担うバイオエコノミーとは?AI技術×バイオによって生まれた新たな市場

18世紀後半に始まった「第一次産業革命」から、近年のIoTやAI、ビッグデータを用いた技術革新「第四次産業革命」まで、技術と知恵をもとに次々と産業構造を進化させてきた。そして、今世界は「人間中心」や「持続可能性」などを主軸に据えた「第五次産業革命」に移ろうとしている。その中核の1つとされている産業がバイオエコノミーだ。本記事では、新産業であるバイオエコノミーの概略と市場動向などについて解説する。

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 バイオエコノミーとは?

バイオエコノミーとは、2009年に経済協力開発機構(OECD)が提唱した概念で、バイオマスやバイオテクノロジーを活用しながら、循環型経済の実現を目指す経済活動もしくは概念そのものを指す。

酒や味噌、パンなどを作る際に使われる「発酵」に代表されるように、バイオテクノロジーは真新しい技術ではないが、培養やゲノム編集といった合成生物学の普及とともに、応用範囲が広がっており、幅広い分野での活用が期待されている。

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 バイオエコノミーが、なぜ注目されているのか?

大きな背景は環境問題への対処、そして化石燃料からの脱却だ。化石燃料の活用の歴史は16世紀ごろまで遡る。16世紀ごろにエネルギー源として石炭が利用されるようになり、炭鉱での採取が拡大。19世紀に入ると石油が普及し、1859年にはアメリカのペンシルベニア州で採掘方法が開発され、大量供給が可能となった。その後、1920年代になって、中東で莫大な石油が眠っていることが明らかとなり、石油の世界的利用が進んだ。

化石燃料は、今日に至るまで我々の生活を支えてきた重要なエネルギー源である。しかしながら、化石燃料の使用で発生する温室効果ガスはさまざまな気候変動をもたらす。さらに、枯渇の危険性も危ぶまれている。例えば、石油は2019年時点で残り50年、天然ガスも50年、石炭は132年、ウランは115年といわれている。

その点、バイオエコノミーは微生物などのバイオマスを動力源とするため、風力や太陽光といった再生可能エネルギーと同じく、枯渇の心配もないうえに環境負荷も低く、次世代のエネルギー源として注目されている。

 サーキュラーエコノミーとバイオエコノミーの違い

サーキュラーエコノミーとは、廃棄物を極力減らして、資源を循環させて環境負荷を低減する経済のことを指す。循環経済、循環型経済とも。バイオエコノミーとサーキュラーエコノミーは近接する概念であるため、近年はこの2つを合わせて「サーキュラー・バイオエコノミー」とよぶこともある。

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 バイオテクノロジーの活用が期待される産業

幅広い分野でバイオテクノロジーを応用し、バイオエコノミー社会を実現する必要がある。ここでは、バイオテクノロジーの活用が期待される代表的な産業分野について紹介しよう。

 化学(素材・材料)産業

磁性材料や光触媒などの機能性材料はニッチな市場ではあるものの、光学弾性樹脂(SVR)などを提供する「デクセリアルズ」、ジルコニウム化合物を供給する「第一稀元素化学工業」など、日系企業が高いシェア率を確保。将来性の高い分野とされている。海外では、アメリカ発のスタートアップ、インベントウッドが開発した建築用鋼鉄の代替素材「メトルウッド」などが挙げられる。樹木をベースとした素材で、建築用鋼鉄の60%の強度を持ちながら、80%軽いとされている。

 健康・医療産業

バイオエコノミーは、医薬品開発はもちろん、遺伝子治療や再生医療分野にも活用が広がっている。2019年6月には、がんゲノム医療に欠かせない「がん遺伝子パネル検査」が保険適用となった。

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 環境・エネルギー産業

バイオエコノミーはバイオマスを原料とするため、環境負荷の低減に寄与できる。特に、現在問題となっている海洋プラスチックごみの対策として、プラスチックの代替素材としての実用化が検討されている。

プラスチックは分解されず、微小なマイクロプラスチックに砕けていくが、バイオプラスチックは分解されて二酸化炭素と水になるため、地球環境にもやさしい。

 農業・食品産業

大豆など植物由来素材を加工して、お肉のような食感や見た目を再現した「代替肉」や、動物細胞を食肉のレベルまで培養する「培養肉」の研究などが挙げられる。現在、日本企業を含む数社が培養細胞を用いた食肉生産を進めている。世界的な食糧危機にも有効であるとして、注目領域の1つとされているのだ。

 研究産業

近年、「クライオ電子顕微鏡法」が目覚ましい発展を遂げ、タンパク質の立体構造解析の基盤技術の1つとなっている。なお、タンパク質の立体構造解析を含むタンパク質工学の進展は、バイオエコノミーにおいて大きな貢献をもたらすとされており、目が離せない。

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 バイオエコノミーの起源や各国の動きについて

バイオエコノミーは、2005年に欧州で開催された「リスボン戦略の中間レビュー」で、スロヴェニアの政治家であり欧州環境委員でもあるヤネス・ポトチュニク氏が「科学知識に基づくバイオエコノミー」という概念を提唱したのが始まりとされている。

その後、2007年にはドイツが「科学知識に基づくバイオエコノミーへの道」という会議を主催。さらに2009年にOECD(経済協力開発機構)が発表したレポート「The Bioeconomy to 2030:designing a policy agenda」の中で、経済生産に大きく貢献できる市場として、バイオエコノミーを提唱した。

バイオエコノミーが広く浸透するきっかけとなったのは、2012年に欧州委員会が策定したバイオエコノミー戦略「Innovation for Sustainable Growth–A Bioeconomy for Europe」によるところが大きい。それ以降、EU諸国を中心にバイオエコノミーに関する国家戦略を発表する国が増加した。

経済産業省「バイオテクノロジーが拓く『第五次産業革命』」より
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shomu_ryutsu/bio/pdf/20200202_2.pdf

 日本やアジアにおけるバイオエコノミー戦略

中国は、包括的なバイオエコノミー戦略を持たないが、2006年に中国国務院が発表した「国家中長期科学技術発展計画綱要」や、2016年の「国家イノベーション駆動発展戦略綱要」の中でバイオテクノロジーやライフサイエンスを重点分野として挙げている。

一方の日本は、2019年6月に「バイオ戦略」を策定。バイオ戦略とは、持続可能性、循環型社会、健康をキーワードに、産学官連携でバイオ製造、第一次産業、健康・医療分野などにおける市場創造と拡大を目指す包括的な戦略だ。「2030年に世界最先端のバイオエコノミー社会を実現すること」を目標としている。

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 バイオエコノミーの市場規模について

2009年にOECD(経済協力開発機構)が発表した統計によれば、バイオエコノミーの世界全体の市場規模は、2030年には約1.6兆ドルまで成長すると試算している。

なお、SkyQuest社の統計によれば、2022年時点でバイオテクノロジーの世界全体の市場規模は、約1兆2,000億米ドルと一大産業となっている。また、2030年までには約3兆8,700億米ドルに達し、CAGRで13.9%の成長が予測されている。

2003年時点では、バイオエコノミー市場全体の87%を健康・医療分野が占めていたが、先に述べた合成生物学の劇的な進歩によって、今後は食品や農業、工業など、多種多様な領域にも広がると注目が集まっている。

アメリカでは、Google、マイクロソフト、ソフトバンクなどがバイオベンチャーへ積極投資を行っており、さらなる市場拡大が期待できそうだ。実際に、2019年には米国における医薬品やバイオベンチャーへの投資額は約167億ドルと、ソフトウェア関連のベンチャーに次いで多い。

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 日本におけるバイオエコノミーの市場規模は57兆円

2019年の調査によると、伝統的な発酵・醸造技術などを含めると、約57兆円の市場規模があるとされている。また、2018年時点では、遺伝子組み換え技術や生体分子解析技術などの先端技術を活用した製品・サービスに限った市場でも、約3.6兆円の市場規模がある。

 バイオエコノミーのベンチャー事例

最後に、国内外のバイオエコノミーのベンチャー事例についてご紹介する。

 ビヨンドミート

アメリカ発のビヨンドミート社が開発したのは、植物性代替肉「ビヨンドミート」。主にハムやソーセージなどの加工食品や、ファストフードやレストランの食材として活用されている。通常、牛や豚などの動物を飼育するとなると、大量の水が必要になるほか、飼料の栽培にも水や土地が不可欠だ。その点、ビヨンドミートは植物由来のタンパク質を原料としているため、多量の水資源や土地を使うこともなく、結果として環境負荷の低減につながる。

 Spiber

2007年9月に、山形県鶴岡市の地で創業したSpiberは「スパイダーシルク」と呼ばれる人工的に合成されたクモの糸の量産に世界で初めて成功。2020年には総額250億円の資金を調達した。現在は、「スパイダーシルク」の開発から派生して、微生物発酵によって製造される新しいタンパク質素材である「ブリュード・プロテイン」の実用化や量産に注力し、次なるイノベーションへ期待が高まりそうだ。

 株式会社キラックス

キラックスは、2000年初頭から15年以上にわたり、生分解性プラスチックの研究を進めてきたパイオニア。2005年に開催された日本国際博覧会「愛・地球博」では、実際に同社の生分解性ゴミ袋が採用された。2020年には三菱ケミカル株式会社と共同で日本初の海洋生分解性プラスチックのレジ袋の実用化を成し遂げ、2021年4月には、大分県中津市のスーパーで導入が決定。今後も日本各地に広がっていくことが期待される。

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 まとめ

バイオエコノミーは、「第五次産業革命」の中核に位置付けられる産業の1つとして注目されている。その理由としては、幅広い業界に活用できるだけでなく、我々が棲む地球の環境負荷の低減、持続可能な社会の実現に大きく貢献することに他ならない。

バイオエコノミーは、近い将来、巨大市場になると予測されており、今後の動向からは目が離せない。各国の動向や各社の取り組み、新しい技術の活用状況など広く情報を収集し、自社の発展に活かしてほしい。

参考記事
・OECD (2009) ,The Bioeconomy to 2030: designing a policy agenda.
https://www.oecd.org/futures/long-termtechnologicalsocietalchallenges/thebioeconomyto2030designingapolicyagenda.htm
・経済産業省「バイオテクノロジーが拓く『第五次産業革命』」
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shomu_ryutsu/bio/pdf/20200202_2.pdf